寿限無寿限無うんこ投げ機一昨日の新ちゃんのパンツ新八の人生バルムンクフェザリオンアイザックシュナイダー三分の一の純情な感情の残った三分の二は坂向けが気になる感情
何を書いたらいいのかね
魂とはどのようなものなのだろうか?諸君らは考えたことがあるだろうか。私はある。
魂とは自我であり、意志であり、考え方によってはヒトという生命体そのものともいえよう。
まぁともかく、そんな人類がいまだに答えの出せていない疑問に対する自分の回答はこうだ。魂とは環境が形成する。ヒトがオリジナルである。自己を自己と認識するための突っかかりに過ぎない、と。
おっと、話が長くなってしまったようだ。では、軽く自己紹介と行こう。私は佐藤。佐藤博士だ。この博士というのは名前だ。両親が大学の教授であった私は学者としての成功を願った両親によりこの名を与えられた。
そのため、私は幼少期より英才教育を施され、中学でアメリカに留学。現地の大学を首席で卒業すると、日本へ帰国し、25歳の時に、東京のOX大学の教授の座に就いた。
専攻は心理学。そう、先ほど話した魂や、自我を中心に研究をしている。まぁ自分語りはこのくらいにしておこう。
話を戻そう、諸君。魂とは何であるか。だ。
これまでこの質問を何度か生徒にしてきたが、満足のいく回答には出会えていない。というのも、魂とは心である。という問いそのものを間違えたような的外れな回答をはじめ、情熱、根気というような暑苦しいものばかりなのである。
最近の若者というのは何だ?全員もれなく少年漫画脳なのか?ふざけるのもたいがいにしてもらいたい。
教壇に立ち、今日も魂について生徒に論説する。
目が死んでいる生徒が2割。携帯をいじっている生徒が2割。残りの6割はそもそも講義に来てすらいない。春先からこんな感じがずっと続いている。
私は自分の研究に費やす時間が増えるのでむしろこの状態は歓迎だ。しかし、その研究も、国から出される金をもとにしているわけであり、このままの様子が続くようならば、削減される。なので、解決すべき問題の一つではある
「ー。以上の事から、魂とは諸君らの考えているようなものではない。ということをしっかりと覚えておくように。今回の講義は以上だ。質問があれば前にきたまえ」
今日の講義が終わる。時間は5時を少し回ったところだ。普段ならば真っすぐに変えるところだが、今日はまだやるべきことがある。
講義室を出て、広い廊下を左に曲がる。そこから渡り廊下を通って、B棟の2階、私の研究室に入る。
壁は一面本棚で、ぎっしりと本が詰まっている。そして、机の上にはタワーパソコンが一台。そこからコンセントが伸びていて様々な装置に取り付けられている。
これは昨日のうちに作り上げたもので、ある実験を行うためのものだ。
私の持論を裏付けるための実験。そう、これはヒトの一生をシミュレートするためのものだ。
「あ、佐藤さん。お疲れ様です。準備の方、できていますよ」
そう言ってくるのは同僚の鈴木だ。彼は人望があり、機械にも強い。自分のような成功が移動まっしぐらな人間ではないが、優秀な人間だ。
「ありがとうございます。それでは稼働してみます」
パソコンの下部に位置する電源ボタンを押し込む。ウィンドウにOSの名前が浮かび上がり、やがて自動的にあるソフトが立ち上がる。
(HLS)
名前はそのまま。Human Life Simulatorからとっている。
このソフトは細かなパラメーターを調整することで、ある人間を仮想の世界に生み出し、現実と全く同じ環境の中で生活させることができる。
そこで、私は自分、そして世界そのものを完全にコピーしたものをこの世界に生み出し、まったく自分と同じ思考を持つ人間を作ろうと考えた。
もし、まったく同じ人間を生み出すことができれば、魂とは、唯一のものなどではなく、環境作用によって誤認識されるものにすぎないということがはっきりする。
つまり、魂など所詮絵空事にすぎないと、そう断じることができるのである。
「日時設定か……何倍速までかけられるのやら」
このパソコンがどこまで負荷に耐えられるのかにかかっているが、どうやら一万倍まで行けそうなので、そう設定する。これで一日でおよそ三十年ほどシミュレートできる計算だ。
「スタート、と」
目まぐるしく世界が回りだす。
観測開始一時間
自分を観察する、というのは奇妙なものだ。幼いころ、両親によく見せられていた写真のワンシーンワンシーンを、三人称視点で実際に見ているので、これが本当に自分なのかが分からなくなってくる。
とはいえ、ここまでは想定の範囲内。私の考えでは中学になるまで、用は思春期に入るまでは私と全く同じ人生を送るものだと考えている。
幼いころに両親を亡くしたわけでもないので、外部の環境はさして大きな変化も見られないためだ。「私」は、記憶通りの穏やかな幼少期を過ごしていた。
私は先ほど自販機で購入したブラックコーヒーを片手に、ただひたすらに「私」を観測し続けた。日はもう沈み、やがて終電時間が訪れる。
ここらが限界だと判断し、装置を稼働させたまま、帰路に就く。
明日になれば、三十年分のシミュレートが完了する。そこまでいけば問題ない。だが、そこからがこの実験の本題だ。明日を待ちきれない、子供のころに感じたような好奇心のようなものを私は確かに感じていた。
翌日、私は講義を済ませ、また研究室にこもり始めた。
同僚とのたわいない会話、態度の変わることのない生徒たち、いつもと何ら変わることのない日常。だが、そこには今まで私が積み上げてきた三十年分の思考パターンがあり、行動のパターンがある。そこに魂など入り込む余地などはなく、すべてはやがて、計算で導き出せる単純なものにまで落とし込まれる。
「さて、「私」……いや、あえて一号、と名付けておこう。調子はどうだね?」
「「一号、か……なるほど。私の考えていることはそちらの私もどうやら同じのようだ。いつか来るとは思っていたよ。で、何だったかな、調子だったかな?すこぶる良いとも」」
最初のコミュニケーション。感触としては、成功した、という高揚感をただ感じていた。
「有無。その反応が聞けてほっとしたよ。やはり私の仮説は正しいようだ。全く同じ環境下に置いた同一の人物であるならば全く同じ思考パターンを持つ人間が生まれる。ふふ、やはり最初から魂など存在しなかったのだ」
「「全くだ。そんなもの、自分の存在を不安に思っている人間が作り出した空想にすぎんのだよ。私がそれを証明して見せた、だろう?」」
あぁ、その通りだ。その後、私は一号に対していくつかの質問を浴びせたが、帰ってくる答えは私と全く同じ答え、何なら一字一句違うことがないというおまけ付きであった。
「ご苦労であった、一号。君はしばらく眠っていてもらう。必要があればまた呼び出す。では」
「「了解したよ」」
一号の個体だけを世界から隔離し、世界を一度リセット。もう一度実験を行う。繰り返し行い裏付けを十分に行ったうえで学会には提出する。
「さて、二号はどうなるかね」
再び世界を回し始める。
翌日、二号は予想通り、一合と何ら変わらない個体であった。結果もまるで同じ。デジャブ、というものをここまで明確に感じ取ったのは初めての事であった。
いつものように終電に乗り込み、自宅へ帰る。
「ただいま」
「あら、あなた。おかえりなさい。悟は、9時ころ寝かしつけましたよ」
妻とがいつものように出迎えてくれる。そういえば、一号も二号も、まったく同じであった。この女を妻として迎え、悟を子供として授かっていた。
やはり思考パターンが同じ であれば、行動のパターンも同じであり、そこで出会う人間もまた、同じである、ということなのであろう。
「運命、というのもどうやらまやかしのようだな、今度はそれでも調査してみようかね」
いつもと何ら変わらない日々。結果の変わることのない実験。
だが、そんな変わらない日々に、狂いが生まれたのは、十五回目の実験を行った時であった。
「なんだ、これは?」
いつものようにモニターで観測していたら、十五号が、十三歳の時にあり得ない行動をとったのだ。
「どういうことだ……?」
十五号は、本来いるはずのアメリカに行っておらず、いまだに日本にとどまってたのである。
その後も観測を続けたが、結局十五号はアメリカにわたることは無く、また大学の教授にもならずに、銀行員として働いていた。
翌日、十五号を取り出し、会話を行った。
「やぁ、十五号。君の事はそう呼ばせてもらうよ。突然ですまないが、君は魂というものをどうとらえている?」
「「は?何を言っているんだ?というか、ここはどこだ?さっさと戻してくれないか?」」
絶句する。こんなものは私ではない。誰だ、お前は?
「落ち着いてくれ、これからいくつか質問を行う。それが終われば解放してやる」
十五号は、しばらく黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。
「「……わかった。ただ、早くしてくれ、それとこちらからもいくつか質問をさせてもらう。いいな?」」
「もちろんいいとも。まずは質問を受けようか。なんだね?」
「「ここはどこだ、そしてお前は誰だ?」」
やはりそう来るか。これはもしかしたら細かい違いしかないのかもしれない。
「では答えよう。まずお前がいるのは、私が作ったシミュレーターの中だ。そして私は、お前だ。佐藤博士。三十歳。既婚者で五歳児の子供がいる」
「「シミュレーター?どういうことだ、私は、お前……?何一つお前が言っていることが分からない……なんなんだ?なんなんだよ!お前は!?出せ!ここから!今すぐにだ!」」
「落ち着け、といっているだろう。受け入れがたいのかもしれんが真実だ。それと質問には答えてくれ」
「「知るか!早く!ここから出せ!」」
話にならない。ここまでひどくなるとは。もはやこれは私ではない。
何が原因でこうなったのだろうか?十五号を開放してやり、ログからさかのぼり、原因を探し出す。
そうすると、やはり十三歳のころが原因でそこから私とは違う人生を歩んでいた。
そのころ、私はひそかに思いを寄せていた少女がいたのだが、私は、結局最後まで告白できずにアメリカに逃げるようにして行ってしまっていたのだが、十五号は、なんと告白し、その上結婚までしていた。アメリカに行かなかったのはこれが原因だったようだ。
原因はわかった。だが、なぜ?という疑問が残った。ログを見るからに、両親、友人、教師、そして少女のパラメーターでさえも何も変化がなかった。
「まさか……これが、これが魂だというのか……?」
結果として残っているのは、十五号は、確かに私ではない別人に生まれ変わったということ。そして周りの人間。環境は何ら変化がなかったということである。
そうなれば、これがいったい何が原因なのか、そういわれれば、これはもう単なるバグか、あるいは魂の存在がなすものなのか、どちらかである。
「取り敢えず、続けてみよう……」
結果として言えることは、バグではないようであることである。
あの後、数十回にわたり実験を行った結果、まったく同じ人間が生まれる確率は下がっていき、やがて、十五号のようなイレギュラーの数が、同じ個体の数を上回りだした。
驚くべきことに、そのイレギュラーも、十五号のようなパターンだけではなく、多様な違いがみられた。ひどいものなんか、十五歳の時に自殺をしてしまっていたものもいた。
認めざるを得ないだろう。私の理論は間違っていた。この結果が何よりの証拠だ。実験はすでに百回を超え、イレギュラーの数はどんどん増えてゆく。
魂は、存在するのである。
「ふふふ……これは、すごいぞ。人類で初めて魂を観測したのだ。私は、私なのだ。オリジナルの魂を待つ個体なのだな」
とはいえ、不快な感じは一切ない。むしろ、多くのイレギュラーに出会うたびに、新たな発見に喜びを感じ、自我を感じ、生を感じた。
生きている、と生まれてから一番感じていたのだ。
自分など、複製の利く一個体でしかないという、あきらめが、こんなにも重くなっていたとは考えたことがなかった。
魂は存在する。
自分とは唯一無二の存在である。
私はこれらの結果を論文にしたため、学会で発表した。
私の論文は多くの人からの支持を得て、魂とは何たるかという問題に対する答えとして、周知されるにまで至った。
実験はまだ続けている。今日で個体は九百十二個目だ。
イレギュラーと、クローン体の比率が9対1くらいにまで開いた。オリジナルのイレギュラーと対話を重ねるうちに、彼らの魂を私は感じ取れるようになっていた。個性が、自我が、私に直接語り掛けてくるかのように。
今日の個体もイレギュラーであった。その個体は、なんとケーキ屋を開いていた。世界一のパティシエになるのが夢なのだそうだ。幼少期に母親の作ってくれたケーキの味が忘れられなかったそうだ。
「ふふ、そうか。ではこれからもがんばれよ。ん?あぁ、そうだ。シミュレーションはお前が死ぬまでは続ける」
廊下の方で話声が聞こえてくる。
「なーんか、最近元気だな、あいつ。よく一人でモニターに向かってぶつぶつつぶやいてるし」
「楽しそうだからいいんじゃないですか?」
「鈴木。あいつって前からあんなんじゃなかったよな?」
「えぇ、ただ、魂を見つけた!って、はしゃぎ始めたころからずっとあんな感じですよ」
「はへー」
自分のことを話しているようだ。そういえば最近はここにこもりっぱなしだったな。たまには外の空気でも吸おうか。
外に出ると、夕日が辺りを一面オレンジ色に染めていた。明日は晴れだな。そんな暢気に考えていた時であった。
時間が止まった。
空を飛んでいた鳥ははばたくのをやめ、空にくぎでも打ちつけられたかのように微動だにしなくなる。大通りを走っていた車は、動かなくなり、噴水の水は空中で固まる。
「な、何なんだ?これは……?」
世界が、止まっている。自分を除いて。
突然、視界が暗転し、気づくと、一面真っ暗闇の空間に私は立っていた。
「どこだ……??ここは?」
目の前が突然明るくなったかと思うと、大きなモニターが、私の前に現れていた。そこに移っていたのは……
「私……?か?」
「「あぁ、そうだ。千四百五十二号、イレギュラーの私よ」」
そう、のたまって見せた。
「イレギュラー……?この私がか?どういうことだ?」
「「言葉通りだとも。君も実験していただろう、魂の実験を。そこまでは順調だったのだがね……」」
言っていることが分からない。誰だ。こいつは。私は私だ。オリジナルの私だ。自分の、自分だけの魂を抱えて生きている、佐藤博士だ。目の前のこいつは別人だ。生きてきたラインは私が基準なのだ。イレギュラーという表現は私には不適切だ。
「何を言っているのかは知らんが、私は私だ。固有の魂を、自我を持つ一人の人間だ。シミュレーターをしているのかもしれないが、イレギュラーは私ではない。ほかの個体だろう?」
「「いいや、お前だよ。生き方からしてもうずれている。そもそも私はたましいなど否定している。それは他の千四百五十一もの個体が証拠だ。誰一人個性など表さなかった。お前だけだよ、イレギュラー。魂を信じるなどと抜かしていたのは。バグでしかない」」
どういうことだ……?俺だけ?イレギュラーが?なぜだ、あっちの俺は、そんな結果になったのか?
「いや、違う。私は確かに魂を見た。環境が作り出すのではない。魂が作り出した人生の差異を」
「「はぁ、言い聞かせるのが面倒だな、ほかのお前たちに会わせてやるか」」
「は?」
あたりが突然まばゆく光り輝き始める。
やんだかと思うと、そこに居たのは、私とは少し違う、モニター越しの私と全く同じ髪形をした、大勢の私がいた。
「魂など存在しない」「環境が形成したまやかし」「お前はバグだ」「そんなもの信じるやつがいるか」「お前は私ではない」「誰だ」「誰だ」「誰だ」「誰だ」「誰だ」
「「誰だ?お前は」」
自分という存在が根底から崩れていくような感覚に襲われた。
「「知っているか?イレギュラー。観測結果で明らかな異常値というのは往々にして切り捨てられることが多い。私は実験を千四百五十一回しかしていないし、貴様など知らない」」
イレギュラー。バグ。自分はそんな些末な誤差にすぎない、と。つまりそういうことか。
自分とは、いったい、なんだったのだろう……?
「ふぅ。なんだったのだろうか?今回の個体は。よもや魂を信じる個体がいるとは。お笑いものだな」
実験結果はまとまった。すべての個体は個性など発現しなかった。結論。魂など存在しない。
「ふぁーあ。疲れた。帰って寝るか」
次の瞬間、視界が暗転した。
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