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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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諸説桃太郎

作者: まさかす

 皆さんも桃太郎はご存じの事だろう。だが諸説があるのはご存じだろうか? 私はその諸説について調べている。調べていく中で、いくつか諸説が出てきたので、まずは御紹介しよう。



 ◆ 第1説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


 川で洗濯に夢中だったお婆さんは全く気付きません。


 桃は下流へと流れていきました。


 桃が流れる川はどんどんと川幅が広くなっていきました。


 そしてとうとう、桃は海まで辿り着きました。


 灼熱の太陽降り注ぐ中、桃は大海原に漂っていました。


 次第に桃が変色していき、とうとう腐敗が進んで割れてしまいました。


 その中には半分ミイラ化した幼児の遺体がありました。


 その夜、海は荒れに荒れ、幼児の遺体と共に桃は海の底に沈んでいったとさ。



 ◆ 第2説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


 お婆さんは桃に気付きました。


「うわ……なんじゃありゃ……桃に見えるが……気色悪いわあ……」


 お婆さんは奇異の目で桃を見つめます。


 とりあえずという気持ちで、お婆さんは川に流れる桃を岸に引き揚げました。


「ったく、なんて重いんじゃあ」


 お婆さんは「ふうっ」と一息付いて改めて桃を観察すると、桃に切れ目がある事に気づきました。 


 お婆さんがその切れ目に目を凝らすと、中からじっとこちらを見つめる子供の目がある事に気付きました。


「ギャア――――っ!」


 お婆さんの叫び声が山に響き渡りました。


 お婆さんは火事場のなんとやらの力で、思いっきり桃を川に蹴り飛ばしました。


 勢いよく川へ蹴飛ばされた桃は下流へと流れていきました。


 桃が流れる川はどんどんと川幅が広くなっていきました。


 そしてとうとう、桃は海まで辿り着きました。


 灼熱の太陽降り注ぐ中、桃は大海原に漂っていました。


 次第に桃が変色していき、とうとう腐敗が進んで割れてしまいました。


 その中には半分ミイラ化した幼児の遺体がありました。


 その夜、海は荒れに荒れ、幼児の遺体と共に桃は海の底に沈んでいったとさ。



 ◆ 第3説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


 川で洗濯に夢中だったお婆さんは全く気付きません。


 桃は下流へと流れていきました。


 桃が流れる川はどんどんと川幅が広くなっていきました。


 そしてとうとう、桃は海まで辿り着きました。


 灼熱の太陽降り注ぐ中、桃は大海原に漂っていました。


 そこへ一艘の舟が、ゆらりゆらりとやってまいりました。


 その船には1人の漁師が乗っていました。


 漁師は桃に気づくと船に桃をのせ、早速桃を割りました。


 すると桃の中からは、やせ細り、虫の息といった赤ん坊が現われました。


 漁師はその赤ん坊を桃から取り出すとそのまま海に投げ捨てました。


 漁師は遭難していて既に3日経ち、生きるか死ぬかの瀬戸際にいました。


 漁師は既に腐敗が始まっている大きな桃を、腐敗を気にせず一心不乱に食べ続けました。


 体力が回復した漁師は目いっぱい櫂を漕ぎ、ようやく陸地に辿り着いたとさ。



 ◆ 第4説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「なんじゃろ……桃に見えるけんど……気色悪るう……」


 お婆さんは奇異の目で桃を見つめます。


 とりあえずという気持ちで、お婆さんは川に流れる桃を岸に引き揚げました。


「ったく、なんて重さじゃあ」


 お婆さんは「ふうっ」と一息付くと、あまりの重さの桃を家に持って帰らず、独りで食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾って来ると、桃を一刀両断しました。


「ギャア――――っ!」


 割れた桃の中からはそんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中は鮮血で染まっています。


 お婆さんは頭をフル回転します。


 お婆さんは赤ん坊と桃、そして凶器となった木を川に投げ捨てました。


「ふぅ。これで大丈夫じゃろ」


 お婆さんは何事も無かったかのように家に戻って行きました。


 川へと流された桃と赤ん坊は下流へと流れていきました。


 やがて桃は腐り始め、いつの間にか赤ん坊と共に川の底へと沈んでいきましたとさ。



 ◆ 第5説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「なんなん?……桃か?……桃に見えるのう……気色悪いわあ……」


 お婆さんは奇異の目で桃を見つめます。


 とりあえずという気持ちで、お婆さんは川に流れる桃を岸に引き揚げました。


「ったく、なんて重さなんじゃ」


 お婆さんは「ふうっ」と一息付くと、あまりの重さの桃を家に持って帰らず、独りで食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾って来ると、桃を一刀両断しました。


「ギャア――――っ!」


 割れた桃の中から、そんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中では赤ん坊が虫の息です。


 赤ん坊の状態を見ると片眼が潰れていました。どうやらお婆さんが振り下ろした木の切っ先が目を直撃したようでした。でも致命傷には見えませんでした。


 お婆さんは顔面血だらけの赤ん坊を家に連れて帰りました。


「お爺さんや、お爺さんや、これを見てくれ」


「これはどうしたんだね、婆さんや」


「川で洗濯していたら林の中で赤ん坊の泣き声がしてのう。それで見に行ったらこのあり様じゃよ」


「おおお、血だらけじゃないか。誰かにやられたんかのう? 酷いする事をする人間もおったもんじゃのう」


 お爺さんとお婆さんは治療薬がある訳でもなく、包帯代わりの布切れを頭に巻いて養生させました。


 そして月日は流れ、赤ん坊は18歳となりました。


 筋骨隆々と言えるほど立派に育ったその子は桃太郎と呼ばれていました。


 命名したのはお婆さんで、理由を訪ねると「何となくつけた」との事でした。


 村ではそんな桃太郎を、片眼が潰れていた為に「独眼の桃太郎」と呼んでいました。


 桃太郎は自分の片眼を潰したのがお婆さんだと知っていました。


 桃から出てきた時の記憶が今でも鮮明に残っていました。


 桃太郎は積年の恨みを晴らす事を決意します。


 かつて自分の片眼を奪ったのと同じような木刀と見紛う立派な木で、お婆さんを撲殺したのです。


 そして、同罪だと言わんばかりにお爺さんも撲殺してしまいました。


 18年過ごした家の中は鮮血飛び散る惨劇の様相を呈していました。


 2人を殺めた桃太郎は長年住んだ家に火を放ち、「あばよ」と一言だけ残して去っていきました。


 以降、桃太郎を見かけた物はいなかったそうな。



 ◆ 第6説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「なんじゃ?……桃か?……桃に見えるけど……気色悪いわあ……」


 お婆さんは奇異の目で桃を見つめます。


 とりあえずという気持ちで、お婆さんは川に流れる桃を岸に引き揚げました。


「ったく、なんて重いんじゃ」


 お婆さんは「ふうっ」と一息付くと、あまりの重さの桃を家に持って帰らず、独りで食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾って来ると、桃を一刀両断しました。


「おギャア、おギャア」


 割れた桃からは、そんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中では赤ん坊が元気に泣いています。


「ありゃりゃ! ほんまかいな! 桃の中に赤ん坊がいるっ!」


 驚きながらも赤ん坊を殺めないで良かったと胸を撫で下ろします。


 お婆さんは赤ん坊を家に連れて帰りました。


「お爺さんや、お爺さんや、これを見てくれ」


「これはどうしたんだね、婆さんや」


「川で洗濯していたら桃が流れて来たんで拾って割ってみたら、中に赤ん坊が入っていたんじゃよ」


 お爺さんはお婆さんを馬鹿にするかのような表情を見せました。


「おいおい婆さんや。ボケるには、ちーっと早いんじゃないのか? カッカッカッ」


 その言葉を切っ掛けに、お爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので直ぐに止めました。


「まあ、経緯はどうあれ、わしらで育てていくかの? ……確認するが婆さんや。まさかどこかの家の赤ん坊を盗んできた訳じゃないじゃろな?」


 その言葉を切っ掛けに、再びお爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので、これまたすぐに止めました。


 そして月日は流れ、赤ん坊は18歳となりました。


 筋骨隆々と言えるほど立派に育ったその子は桃太郎と呼ばれていました。


 命名したのはお婆さんで、理由を訪ねると「だーかーらっ! 桃から生まれたんじゃよっ!」との事でした。


 お爺さんとお婆さんにはある目論見がありました。


 村の中の立て看板にあるお達しが書いてありました。


『山陽地方にある鬼が島。そこにいる鬼を制圧したらいい暮らしを約束しよう』


 何十年も前から出ているお達しで、未だに制圧出来ていないとの事でした。


 そうです。桃太郎に鬼が島の制圧をさせよう。そして今の暮らしから抜け出そうと目論んでいたのです。


 お爺さんとお婆さんは夜毎、桃太郎に言い聞かせました。


「鬼は悪だ、この世にいてはならぬ。退治せよ。憂慮するな、遠慮もするな。殺めてしまえ。全てを葬り去ってしまえ」


 そんな毎日を過ごした桃太郎はいよいよ鬼が島制圧のために、長年住んだ家から出立しました。


 そんな桃太郎と一緒に鬼が島制圧に向かう仲間がいました。


 同じ村に住む犬助、キジ朗、猿太の3人です。

 

 4人は鬼が島に到着しました。


 ついて早々、桃太郎は鬼の形相で鬼たちを切って捨てるを開始しました。


 犬助達は後にその様子を語っています。


「問答無用で切り捨てていった。まさに鬼が乗り移ったかの様子だった。声をかける事も出来なかった。鬼の所業と呼ぶにふさわしい」


 全身に返り血を浴びた姿の桃太郎を見て犬助がいいました。


「鮮血の桃太郎」


 桃太郎達は鬼が島を完全に制圧しました。


 その頃、お爺さんとお婆さんはずっと桃太郎達の帰りを待っていましたが、桃太郎達が闘っている最中に老衰で亡くなってしまいました。


 制圧したのち、桃太郎達は領主から鬼が島と多大な褒美を貰い優雅に過ごしましたとさ。



 ◆ 第7説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


 川で洗濯に夢中だったお婆さんは全く気付きません。


 桃は下流へと流れていきました。


 桃が流れる川はどんどんと川幅が広くなっていきました。


 そしてとうとう、桃は海まで辿り着きました。


 灼熱の太陽降り注ぐ中、桃は大海原に漂っていました。


 そこへ大型の舟がやってまいりました。


 その船は後に黒船と呼ばれるアメリカの船でした。


 海原を監視していた1人の船員が叫びます。


「マイガッ! ビッグなピーチが浮いてるぜっ!」


 船長が桃を拾えと命じると船が減速し、船員数名で桃を黒船に乗せました。


 そして甲板上に持ってこられた桃を早速割りました。


 すると中からはやせ細り、虫の息といった赤ん坊が現われました。


 赤ん坊は直ぐに船医の元に運ばれ治療を受ける事になりました。


 船医の適切な治療のお陰で、赤ん坊は元気になって行きました。


 船員の間ではピーチボーイと呼ばれ、みんなに可愛がられました。


 その赤ん坊はアメリカへ連れて行かれました。


 アメリカに連れて行かれたピーチボーイはとある家庭の養子となり、すくすくと育っていきました。


 そしてピーチボーイが20歳の時、養子にしてくれた夫婦に言いました。


「パパ、ママ。僕を育ててくれてありがとう。でも僕は帰らねばならないんだ。そう、ジャパンにね。そこでジャパンのデーモンとネゴシエーションしないといけないんだ」


 夫婦はピーチボーイが突然何を言い出したのかとても不安になりましたが、ピーチボーイの意見を尊重しました。

 

 そしてピーチボーイは日本に帰りました。


 日本について早々、ピーチボーイは偶然見かけた猿に声をかけました。


「ヘイ、モンキー! ミーとデーモンアイランドに行かないか? 勿論、ホテルのステイ費用やディナーやランチ代も僕が払うよ」


 猿はピーチボーイから差し出された契約書にサインしました。


 道中、雉や犬と遭遇し、猿と同様の条件で契約しました。


 ピーチーボーイと猿達はピーチボーイズと呼ばれ、鬼が島に行きました。


 鬼が島についたピーチボーイは責任者と話がしたいと門番の鬼に言いました。


 そして責任者として出てきた鬼とピーチボーイは交渉のテーブルに着きました。


「君たちのアクションはジャパンのピープルにとってベリー迷惑なんだ。ぜひストップして欲しい。君たちもトゥギャザーでワークしよう。僕達も協力は惜しまないつもりだよ?」


 数時間に及ぶ交渉の末、鬼は納得しました。


「ピーチボーイ殿、今後ともよろしく」


「ミスターデーモン。こちらこそよろしく」


 ふたりは固い握手を交わしました。


 以降、鬼が島は有名な遊興地となり、地域経済に貢献しました。


 ピーチボーイズは鬼が島で取締役として一生懸命に働き、幸せな一生を過ごしましたとさ。



 ◆ 第8説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「なんじゃ?……桃?……桃じゃね?……気色悪いわあ……」


 お婆さんは呆然としながら奇異の目で桃を見つめます。


 ゆったりと桃は下流へ流れていきます。


 お婆さんは何か思いついたようにダッシュで桃を取りに行きました。


「ふう。危うく下流に流されるところだったわい」


 お婆さんは空腹でした。とりあえず食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾って来ると、桃を一刀両断しました。


「おギャア、おギャア、ギャワワワワ――――っ!」


 割れた桃からそんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中では赤ん坊が元気に泣いています。


「あの泣き声はなんやねん……しかし、桃の中に赤ん坊って……もう食欲無くすわあ」


 落胆したお婆さんは赤ん坊を捨てる訳にもいかないなと思い、家に連れて帰りました。


「お爺さんや、お爺さんや、これを見てくれ」


「これはどうしたんだね、婆さんや」


「川で洗濯していたら桃が流れて来たんで拾って割ってみたら、中に赤ん坊が入っていたんじゃよ。笑えるじゃろ。カッカッカッ」


 お爺さんはお婆さんを馬鹿にするかのような表情を見せました。


「おいおい婆さんや。そんなボケ、なんもおもろないわ。もう少しオモロイ話、作れんかの? カッカッカッ」


 その言葉を切っ掛けに、お爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので直ぐに止めました。


「まあ、経緯はどうあれ、どないすんねん? 育てるんか? まあ毎日、暇やし、構わんが。……確認するが婆さんや。まさかどこかの家の赤ん坊を盗んできた訳じゃないじゃろな?」


 その言葉を切っ掛けに、再びお爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので、これまた直ぐに止めました。


 そして月日は流れ、赤ん坊は18歳となりました。


 筋骨隆々と言えるほど立派に育ったその子は桃太郎と呼ばれていました。


 命名したのはお婆さんで、理由を訪ねると「だーかーらっ! 桃から生まれたんじゃよっ! 何べん言わすねんっ!」との事でした。


 お爺さんとお婆さんには、ある目論見がありました。


 村の中の立て看板にあるお達しが書いてありました。


『急募! 山陽地方にある鬼が島。そこにいる鬼を制圧したらいい暮らしを約束しよう』


 何十年も前から出ているお達しで、未だに制圧出来ていないとの事でした。


 そうです。桃太郎に鬼が島の制圧をさせよう。そして今の暮らしから抜け出そうと目論んでいたのです。


 お爺さんとお婆さんは夜毎、桃太郎に言い聞かせました。


「桃太郎や。よくは知らぬが鬼はいるだけで悪なんじゃよ。よくは知らぬが鬼がいる事で困っている人達がいるらしい。お前が立派に育ったら、よくは分からんが人助けと思って退治にいってくれんかのう。遠慮はいらん。最後の一匹まで殺めてしまえ。全てを葬り去って構わん」


 そんな毎日を過ごした桃太郎はいよいよ鬼が島制圧のために、長年住んだ家から出立しました。


 そんな桃太郎と一緒に鬼が島制圧に向かう仲間がいました。


 同じ村に住む犬助、キジ朗、猿太の3人です。

 

 そして鬼が島に到着した4人は鬼が島制圧の作戦を開始しました。


 桃太郎は目にも止まらぬ速さで刀を振り続けました。


 そして激闘の末、鬼の頭領をようやく斬り伏せました。


 地面には虫の息の鬼の頭領が突っ伏しています。


 鬼の頭領は最後の力を振り絞り、桃太郎に問いました。


「……貴様は誰だ」


「冥土の土産に教えてやろう。俺の名は桃太郎」


「……桃太郎……何故だ……何故なんだ……何故に貴様は我々を襲うのだ」


「さあな。俺は貴様らを退治するよう依頼を受けただけだ。貴様らに恨みがある訳でもないしな」


「……俺達はここで暮らしているだけだ。何も悪い事などしていない」


「そんな事は俺の知った事ではない。依頼を受けただけだと言っているであろう。そして貴様らを滅ぼす事で報奨金が出る。ただそれだけの事だ」


「……桃太郎……くっそ……末代まで祟ってやるぞ……地獄へ落ちろ桃太郎っ!」


 そんな鬼の頭領に対して、桃太郎はとどめを刺しました。


 桃太郎達は鬼が島を完全に制圧しました。


 島は鬼の血で真っ赤に染まったといいます。


 領主から報奨金を貰った桃太郎一行は故郷への帰路につきました。


 そこへ、野盗と思しき数人の男たちが桃太郎達の行く手を遮りました。

 

「おい、持っている物を全て置いていけば命だけは助けてやるぞ」


 野盗の一人が桃太郎達に言いました。


「ああ? 貴様らこそ持っている物をおいていけ。そうすれば見逃してやる」


 犬助が言いました。


「そうか。交渉決裂だな。よーしっ! 野郎どもっ! かかれーっ!」


 その野盗の掛け声とともに、周囲から何十人という野盗の集団が突如現れ、桃太郎達に襲いかかってきました。


 多勢に無勢。桃太郎達は呆気なく殺害されてしまいました。


 息絶えた桃太郎一行を見ながら1人の野盗が呟きました。


「鬼のダンナ。仇は取ったぜ。安心して成仏してくれよ」


 その野盗は以前に行き倒れている所を鬼に助けられ以来、鬼と親交がありました。


 そして「桃太郎」を名乗る輩に報奨金目当てに一族全てが滅ぼされたと聞き及び、桃太郎が来るのを待ち伏せしていました。


 野盗は桃太郎達が持っていた報奨金の全てを鬼が島に持ち込み、誰にも見つからぬように隠しました。


 以降、野盗の子孫によって鬼が島は守り続けられているとさ。



 ◆ 第9説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「うぎゃ――――っ!」


 お婆さんは突然川から流れてきた大きな桃にびっくり仰天し、心臓発作を起こしました。そして意識を失ったお婆さんは川へと転落しました。


 お婆さんと桃はそのまま川を流れていきました。


 お婆さんは川底へ沈み、桃は海へ流れていきましたとさ。



 ◆ 第10説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「桃?……桃じゃね?……ってか、でかすぎやろ……」


 お婆さんは呆然としながら奇異の目で桃を見つめます。


 ゆったりと桃は下流へ流れていきます。


 お婆さんは何か思いついたようにダッシュで桃を取りに行きました。


「ふむ。食べ応えがありそうじゃわい。うへへへ」


 お婆さんは空腹でした。とりあえず食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾ってくると、桃を一刀両断しました。


「おギャア、おギャア、ギャババババ――――っ!」


 割れた桃からそんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中では赤ん坊が元気に泣いています。


「なんやねん……せっかく食べよう思うとったのに……桃の中に赤ん坊って……もう食欲無くすわあ……まあええか」


 お婆さんは桃の中から赤ん坊を取りだし、早速、桃を食べ始めました。


 すると、何という事でしょう。お婆さんは見る見るうちに若返り、赤ん坊と見紛う姿にまで若返ってしまいました。


「うおおおおおっ! 何ちゅうこっちゃ!」


 赤ん坊の姿になったお婆さんは、赤ん坊を背負い家に帰りました。


「お爺さんや、お爺さんや、ちょいと見てくれ」


「なんじゃ? 赤ん坊が赤ん坊を背負いながら、わしに話しかけとる。これは夢かのう?」


「なにを寝ぼけ取るんじゃ。わしじゃよ、わし、ばばあじゃよ」


「なんとっ! お婆さんかえ? どうみても赤ん坊やないか」


「聞いとくれよ、お爺さんや。わしが川で洗濯していたら、桃が流れて来たんで拾って割ってみたら、中に赤ん坊が入っていたんじゃよ。その桃を食うたら、このあり様じゃよ。笑えるじゃろ。カッカッカッ」


「そりゃ、めでたいのか、めでたくないのか、よう分からんこった」


 お爺さんもお婆さんも現実を受け止めました。


 桃から出てきた赤ん坊は桃太郎と名づけられ、お爺さんと赤ん坊の姿のお婆さんに育てられることになりました。


 月日は流れ、お爺さんは老衰でなくなりました。


「のう、桃太郎や。お前もええ年になった。わしと夫婦になろうや」


 お婆さんは見た目18歳の実年齢70歳。イケメンとなっていた桃太郎に結婚を迫りました。桃太郎は逆らう事が出来ず、お婆さんと夫婦になりました。


 月日は更に流れ、お婆さんは実年齢160歳で見た目70歳となっていました。


 お爺さんこと桃太郎は山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると上流から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「あっ! 桃っ!」


 お婆さんは直ぐに70年前を思い出すや否や、ダッシュで桃を取りに行きました。


「おおお。まさしくあの時と同じ桃。まさか再び出会えるとはのう。うへへへ」


 お婆さんは再び若返る事を期待して、かぶりつきました。


 すると、お婆さんの目論見通り、お婆さんは見る見るうちに若返り、赤ん坊と見紛う姿に若返りました。


「うおおおおおっ! これやこれや、きたできたでっ!」


 赤ん坊の姿となったお婆さんは全身で喜びを表すかのように、その場で踊り狂いました。


「あっ」


 お婆さんは足を滑らせました。そして川へ落ちてしまいました。


「あっぷっ! がっぷっ! だべばだずげでぐで――――っ!」


 赤ん坊となったお婆さんは自力で川から上がる事が出来ず、必死に助けを求めて叫び続けました。


 しかし、その声は誰にも届きません。


 どんぶらこ、どんぶらこ。赤ん坊のお婆さんは川下へと流れていきます。


 力尽きたお婆さんは、川底へと沈んでいったとさ。



 ◆ 第11説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると上流から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


 しかし、お婆さんは桃に一切気づきません。微動だにしません。


 お婆さんは既に亡くなっていました。お爺さんとの穏やかな日々がとても幸せだったとでもいいたげに、穏やかな顔で息を引き取っていました。


 桃はお婆さんに「さようなら」とでも言っているかのように、まるで手を振っているのかのように、ゆらりゆらりと揺れながら、川を流れていきましたとさ。



 ◆ 第12説


 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 お爺さんは山に柴刈りに。お婆さんは川へ洗濯に行きました。


 お婆さんが川で洗濯をしていると上流から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「ありゃなんじゃ?……桃ぽくね?……気色悪うう……」


 お婆さんは呆然としながら、奇異の目で桃を見つめます。


 ゆったりと桃は下流へ流れていきます。


 お婆さんは何か思いついたようにダッシュで桃を取りに行きました。


「あぶなーっ。危うく下流に流されるところだったわい。カッカッカッ」


 お婆さんは空腹でした。とりあえず食べてしまおうと思いました。


 お婆さんは近くの林に落ちていた木刀に見紛う立派な木を拾って来ると、桃を一刀両断しました。


「おギャア、おギャア、ギャギャギャ――――っ!」


 割れた桃からそんな叫び声がしました。

 

 お婆さんはびっくり仰天。まさか桃の中に赤ん坊がいるなどとは夢にも思いません。桃の中では赤ん坊が元気に泣いています。


「さっきのキモい泣き声は何やねん……しかし、桃の中に赤ん坊って……もう食う気無いわあ」


 落胆したお婆さんは赤ん坊を捨てる訳にもいかないなと思い、家に連れて帰りました。


「お爺さんや、お爺さんや、どや? これ?」


「これはどうしたんだね、婆さんや」


「川で洗濯していたら桃が流れて来たんで拾って割ってみたら、中に赤ん坊が入っていたんじゃよ。どや? 笑えるじゃろ。カッカッカッ」


 お爺さんはお婆さんを馬鹿にするかのような表情を見せました。


「はぁ……なあ婆さんや。そんなボケ、なんもおもろないわ。もう少しオモロイ話、作れんかの? カッカッカッ」


 その言葉を切っ掛けに、お爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので直ぐに止めました。


「しかし、どないすんねん? わしらで育てるんか? まあ、構わんが。……確認するが婆さんや。まさかどこかの家の赤ん坊を盗んできた訳じゃないじゃろな?」


 その言葉を切っ掛けに、再びお爺さんとお婆さんの取っ組み合いの喧嘩が始まりましたが、両者ともに高齢でもあったので、これまた直ぐに止めました。


 そして月日は流れ、赤ん坊は18歳となりました。


 筋骨隆々と言えるほど立派に育ったその子は桃太郎と呼ばれていました。


 命名したのはお婆さんで、理由を訪ねると「何べん言わすねんっ! 桃から生まれた言うとるやろがっ!」との事でした。


 お爺さんとお婆さんにはある目論見がありました。


 村の中の立て看板にあるお達しが書いてありました。


『緊急募集! 山陽地方にある鬼が島。そこにいる鬼を制圧したらいい暮らしを約束しよう』


 何十年も前から出ているお達しで、未だに制圧出来ていないとの事でした。


 そうです。桃太郎に鬼が島の制圧をさせよう。そして今の暮らしから抜け出そうと目論んでいたのです。


 お爺さんとお婆さんは夜毎、桃太郎に言い聞かせました。


「桃太郎、良くお聞き。よくは知らぬが鬼はいるだけで悪なんじゃよ。よくは知らぬが鬼がいる事で困っている人達がいるらしい。お前が大きくなったら、よくは分からんが人助けと思って退治にいってくれ。遠慮はするな。最後の一匹まで殺めてしまえ。全てを葬り去って構わん。暴れ回って来い」


 そんな毎日を過ごした桃太郎はいよいよ鬼が島制圧のために、長年住んだ家から出立しました。


 そんな桃太郎と一緒に鬼が島制圧に向かう仲間がいました。


 同じ村に住む犬助、キジ朗、猿太の3人です。

 

 4人が鬼が島を目指し歩いていると、後ろから声がしました。


「よう兄さんら、ちょっと聞きたいんだけど」


 その言葉に桃太郎一行は足を留め振り返りました。振り返るとそこには4人の若者がおりました。


「なんじゃ、おぬしらは」


 桃太郎は警戒しながらも声を掛けてきた体の大きい若者に問いました。


「おりゃ、東にある足柄山って山を根城にしている金太郎っていうんだが、聞いた事無いかい?」


 桃太郎は『金太郎』という名に聞き覚えがありました。東の方にめっぽう力の強い男がいると風の噂で聞いていました。


「そんな名は知らんな」


「そうかい。俺の名前を知らないのかい。ちったあ、名前が売れてるって思ってたんだがな。まあ、いいや」


「それで、金太郎とやら。俺達に何か用か? 俺達は急いでいるだが」


「おっといけね。本題を言い忘れてたな。ひょっとして、あんたの名は桃太郎って言うんじゃねえのかい?」


「……ああ、そうだ。俺は桃太郎だ。早く要件を言え」


「まあそうだな。時間がもったいねえやな。じゃあ単刀直入に言うぜ。俺達と手合わせしてくんねえかな? え? 桃太郎さんよ」


「ああ? 俺達は鬼を退治しようって所なんだぜ? 邪魔するんじゃねえよ」


 犬助が叫びました。


「おいおい、これから鬼を退治しようってのに、俺みたいな人間も倒せねえようじゃ、とても鬼退治なんて出来そうにねえなあ。なあ野郎ども。カッカッカッ」


 金太郎の仲間のクマ吉、イノ助、サル造が金太郎と一緒に桃太郎達を嘲笑しました。


「仕方ない。金太郎とやら、少しだけ貴様の戯言に付きあってやろう。私の刀の錆にしてくれようぞ。努々恨むなよ」


 桃太郎は刀を抜きました。


「へへっ、そうこうなくっちゃな」


 金太郎は不敵な笑みを浮かべながら、肩にかついだ立派な斧をかまえます。


 桃太郎チームの犬助、キジ朗、猿太の3人と、金太郎チームのクマ吉、イノ助、サル造も対峙します。


 ここに、鬼が島制圧作戦の前哨戦とも言える、桃太郎チーム対金太郎チームの血で血を洗う、不毛な戦いの幕が切って落とされました。


 そして一刻程が経った頃、戦いが終わりました。


 立っているのは桃太郎1人だけ。


「……さすが桃太郎……鬼を退治しようってんだから、さぞ強いとは思ったが……まさか、この俺が負けるとはな……」


 地面に突っ伏している金太郎が息も絶え絶えに、そう言い残し息を引き取りました。


「……金太郎か。強い男だった」


 しかし桃太郎も無事では済みませんでした。立っているのがやっとでした。


「……なあ、桃太郎のダンナ」


 横から声がしました。桃太郎が声のする方に目をやると、犬助が地面に座り込んでいました。犬助はまだ生きていました。しかし見るからに重いケガをおっていました。


「おう、犬助。生きていたか。キジ朗、猿太は……もう死んでおるか」


「なあ、桃太郎のダンナ……このありさまじゃ、もう鬼退治どころじゃねえな……村に帰ろうぜ」


「……いや、帰らぬ。このまま予定通り、鬼が島へ向かうぞ」


「ちょっと待ってくれよダンナ。俺もこの通り結構やられちまった。とても戦える状況じゃねえだろう」


「帰りたくば1人で帰ればよかろう。引き止めはせぬぞ」


「……ちっ、しょうがねえなあ。勝てる見込みは薄いぜ?」


 犬助の言葉に、桃太郎は軽い笑みを浮かべました。


「ああ、かもしれんな」


 犬助が立ち上がろうとすると、桃太郎は犬助に手を差しのべました。


「いこうぜ、犬助」


「おうよ! いっちょ派手に暴れようぜ! 桃太郎のダンナ!」


 こうして満身創痍の桃太郎と犬助は鬼が島へと向かいました。


 それ以降、桃太郎と犬助を見た者は誰もいなかったとさ。


 おしまい、おしまい。



 ◇


 いかがだっただろうか。私が調査した結果はこんな感じだ。他にも探せば所説は色々と出てくるかも知れない。

 

 ひとまず今夜はこの辺りで失礼する事にしよう。では、いずれまた。

2019年 11月06日 2版 句読点多過ぎて読みづらかったの修正

2019年 03月03日 初版

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