86)薫子の悪意
早苗は明確な殺意を持って、薫子に能力を発動させている。見るからにケーブルは強力に薫子を締め付けており、極めて危険な状況だ。
「止めてくれ! 母さん!」
「玲君は気にしなくていいのよー 私はこのゴミ姉にお仕置きしてるだけだからーこいつ等の所為で、私達家族は殺されちゃったんだから、私が軽く八つ裂きにしても問題無いよねー アハハハハ!!」
「ダメだ!! 母さん!」
止めなければ、と思った玲人は早苗に叫びながら自分の能力を発動させ、ケーブルを締め付けを阻害した。
“バツン!”
ケーブルはそんな切断音を立ててバラバラになり飛び散り、薫子は玲人の能力で床に降ろされた。そして両手を床につき荒い息をしている。
そんな薫子の様子を見た早苗は気だるげに全裸のまま腰に手を充てジト目で玲人を睨み呟いた。
「やっぱり、玲君は修君と性格までそっくりねー そんなクソ女、放って置けば良いのに……あら? 今の騒ぎで仁那ちゃんの目が覚めた様ね……え? 替わってって? ちょっと仁那ちゃん、私のターン早過ぎない? 何々? 薫子を虐めた罰? まぁ良いわ…… 御免ね、玲君。仁那ちゃんが小春ちゃんの体貸して、っていうから一旦替わるわ。また、後でね……」
「母さん、一体それは……」
「ま、待って、ハァ、ハァ、うぐ、貴方は……小春ちゃんじゃなく……早苗なの!?」
玲人が早苗に問い掛ける前に、自由になった薫子が割り込んで早苗に質問した。
「フフフ……会いたかったわ薫子姉様。貴方と弘樹兄様には、私達家族を見殺しにしてくれた礼をしなくちゃね? ……? 分った、分ったわよ! 仁那ちゃん、もう替わるわ!
ふぅ……仁那ちゃんや玲君が貴方を庇うなんてね……私の子供達に上手く取り入るなんて、ククク、要領のいい貴方らしいわ…… まぁ一応、貴方と弘樹兄様は私の子供達の為、今迄尽力してたみたいだからね……生涯、これからも私達に尽くす事で取敢えず今の所は許してあげるわ……どうせ私以外の皆が反対するでしょうし。
だけど……もし、調子に乗ったら……次は確実に殺すからね、薫子姉様」
そう言って早苗は目を瞑る。そしてゆっくりと目を開いて、大声で叫んだ。
「薫子!! 大丈夫だった!?」
そんな声と共に薫子に駆け寄る早苗? はさっきまでの様子と大きく態度を変え、薫子の手を取り、心配そうに顔を見つめる。対する薫子はその瞳を見つめて呟く。
「ええ、もう、大丈夫……今度の貴方は仁那ちゃんなのね、不思議な事だけど何となく……伝わるわ」
そう言った薫子は全裸の仁那? に横に落ちていたシーツを掛けてあげた。
「うん! そうだよ! 今の私は仁那よ……薫子、さっきはお母さんがゴメンね。お母さん、時々怖い人になっちゃうから……でも、私と小春で薫子を守ってあげるわ」
薫子と仁那? の会話を聞いていた玲人はその中に割って入る。
「仁那……なのか? それにさっきは母さんまで……小春の体に居るのか? 小春は一体どうなった!? 何がどうなっているのか説明してくれ!」
「玲人!……玲人だ!!……」
大きな声を上げる玲人に対して、突然抱き着いた仁那だった。そして喜びの声を上げる。
「凄い! こうしてちゃんと抱き締める事が出来る!! こうして動かせる体が有るって本当に、素晴らしい事だわ!!」
ほぼ裸同然の仁那(体は小春だが)に抱き着かれた玲人は驚きながら質問する。
「……! 今のお前は仁那、でいいのか? 小春はどうしている!?」
「そう、私は仁那よ! 私は小春とお母さんと一つの存在になったわ。だから3人共、こうして小春の体に一緒に居るの。小春ならまだ、眠っている。だけど大丈夫よ!」
「本当に……仁那なのか……簡単には信じられん状況だが、俺の中にも父さんが居るしな……信じるしか、無い様だ……仁那はもう、本当に……大丈夫なのか? それに仁那の元の体はどこに有る?」
「体? あれ? ……そう言えば、私の元の体どうなったのかな、薫子分る?」
仁那は最初に小春と横になっていた台座を見たが、今は何も乗せられていない。問われた薫子は微笑みながら仁那に答えた。
「仁那ちゃんの体は小春ちゃんとの融合の際に光の粒子になって小春ちゃんに吸い込まれたわ……本当に不思議な事だけど」
「へー そうなんだー」
薫子の説明に仁那は、他人事みたいに返答している。横に居た玲人は心配になって仁那に聞いてみた。
「仁那……本当に大丈夫なのか?」
「うん! 私は小春とお母さんと一緒になって凄く元気よ! 今まで玲人には散々心配掛けたけど、もう何も心配いらない。今迄本当に、有難う……此れも全部小春と、薫子のお蔭だわ!」
仁那は満面の笑顔で玲人に抱き着きながら答える。しかし対する玲人としては薫子に対し腸が煮えくり返る思いを抱いた。
「……薫子さん、貴方は小春を使って一体何をしたんだ? 返答次第では、俺も黙ってはいない……」
玲人は声を低くして薫子に詰め寄った。そんな玲人に対し仁那は慌てて制止する。
「待って! 玲人! 薫子は私の為に……」
「薫子さん、貴方は、仁那の為に……小春を犠牲にしたな!?」
怒りを抑えられない様子の玲人に対し薫子は目をしっかり見据え真摯に答えた。
「その通りよ、玲君。私は仁那ちゃんを助ける為に小春ちゃんを犠牲にした。貴方や仁那ちゃんを思う小春ちゃんの気持ちを利用する形でね……否定も言い訳もしない。その為に弘樹兄様さえも利用した。いえ、貴方や、軍の人達、学校の皆や病院の人達……
全てを利用して仁那ちゃんを助ける事に全力を注いだわ。そして、小春ちゃんのお蔭で……仁那ちゃんは助かる事が出来た。しかも妹の早苗、つまり貴方のお母さんも助けられた様ね……
でもどんな理由で有っても、貴方が私の事を許せないと言うのはよく分かる。だからさっきは早苗に裁かれる心算だったけど、貴方が私を裁くと言うなら私は受け入れるわ」
「……そうか、よく分かった……」
そうして玲人は一層声を低くし、右手を高く上げた。薫子の頬を思いっ切り平手打ちする心算だったが……
「玲人君! ダメ!!」
そんな叫び声を上げて、仁那? が両手を前に出して障壁の様な薄く光る壁を展開し立ち塞がった。
接続後が続けてあったミスが有ったので修正しました。宜しくお願いします。