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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
9章 至福の出会い
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82)修一

 「……ハッ!?」


 玲人は意識を取り戻し、目を覚ました。そして周囲を見渡した。今まで駐屯地内のクラブハウスに居た筈なのに、今いる此処は……



 丸太で作られた大きなログハウスの部屋の中だった。



 そのログハウスは塗装も何もされていない、太い丸太で壁も作られている。今、玲人が居るのはリビングだろうか、20畳程の広さの部屋だ。


 黒い鉄製の暖炉が端に設置されており、部屋の真ん中に同じく丸太を半分に切って作られた武骨なテーブルと2人掛けの椅子が左右に置いてある。


 ログハウスの外は夜の時間の為か真っ黒だが、ハウスの中はランプの明かりで優しげな雰囲気を醸し出している。


 キッチンからシャンシャンと音がする。お湯が沸いている音だ。誰かがキッチンに居る様で、そちらに行こうとすると向こうから声を掛けられた。



 「……コーヒーがいい? それとも紅茶にしようか?」



 玲人は声がしたキッチンに目を遣ると、其処には学生服を着た玲人が居た。いや背は低く、学生服も玲人の学校の物とは違う。


 頭のいい玲人は相手が誰か分かった。だから玲人は緊張を解き、静かに答えた。



 「コーヒーでお願いするよ、父さん」



 丸太のテーブルセットに玲人と玲人の父、修一が向かい合って座った。玲人はコーヒーを飲み、修一はレモンティーを飲んでいた。


 「「…………」」


 静かで柔らかな時間が過ぎる。玲人はこの時間が気にいったが、自分の状況を確認しなければと思い口を開いた。


 「……父さん……初めまして。会えて嬉しいよ……だけど、これは夢では無いのか?」


 話し掛けられた修一は、微笑んで答えた。


 「玲人、僕もこうして会えて嬉しい。でも僕の方は君が産れた時から君の中に居たから初めて会う訳じゃ無いんだ……不思議に思うだろうけど、僕は夢でも幻想でも無く、君の中で生きている」


 「……どういう事なんだ?」


 玲人は修一の返答に疑問が有り過ぎてどう聞き返していいか分らなかった。対して修一は落ち着いて答える。


 「……玲人、14年前に僕は確かに死んだ。早苗姉さん、つまり君のお母さんと一緒にね。だけど、どういう訳か僕は“魂の状態”って言った方が適切だろうけど、その状態のまま君の中にずっと居た。そしてそれは早苗姉さんも同じで、きっと仁那ちゃんの中に今も居るんだと思う……」


 「……母さんも……何故そう思う?」


 「君と仁那ちゃんは普段から言葉で無く心でやり取りしているだろう?……その時に早苗姉さんの意識を確かに感じるんだ。玲人、君が僕にそっくりで、仁那ちゃんが早苗姉さんと瓜二つなのは単に親子と言う事だけじゃないと僕は考えている」

 

 玲人は修一の話を聞いて素直に自分の気持ちを伝えた。


 「……どんな形でも会えて嬉しいよ。父さん……それに母さんも生きてるのか……良かった」

 「ああ、僕もそう思うよ。玲人」


 そう言って修一は手を差し出し、玲人はその手をしっかり握り返した。

 

 「ところで、父さん。此処は何だ?」

 「玲人、君は仁那ちゃんの心の世界に行った事が有る筈だ」

 「ああ、俺が仁那の心の世界を訪ねた時は白い空間に床が黒い、白と黒の世界だった……成程、此処は俺と父さんの世界か?」


 「そうだよ、玲人。此処は生前僕が幼い頃、訪れた事があるログハウスを君の意識の中で再現している。此処から君を通じて外の世界を見聞きしていた」

 「このログハウスの外はどうなってるんだ」


 玲人はこの暖かなログハウスの外が真黒な闇である事が気になった。


 「……僕は君の中にずっと居たけど、こうして君と会う事は出来なかった。それが、君と会う事が出来る様になった時から、このログハウス以外は突然に真黒い暗闇になってしまった。

 此処から外はさっき迄、僕の想い描いた通りの世界が再現出来たんだ……湖や青い空とかね。ところが……丁度、暗闇になったと同時に再現出来なくなったんだ……まるで、何かから侵食される様にね」



 “一緒に外を見てみよう”



 修一にそう促されて玲人はログハウスの外に出てみた。



 「……何だ……此処は……」



 玲人は外の世界を見て驚いた。其処は見渡す限り一面真黒な闇の世界で、風も雲も無くただ広大で真黒な世界だった。


 それに修一と一緒に居たログハウスは、恐ろしく高い真黒な山の頂上に有った。地面も滑らかで黒い黒曜石の様な巨大な丸い岩で出来ていた。


 そして、“ゴゴゴゴ”と地響きと共に山が揺れる。定期的に起こる地震の様だが、不思議な事にログハウスに居る時は全く感じなかった。


 「信じられない事に、ついさっきこの世界が作られたんだ。このログハウスだけは僕の意志で消えないみたいだけど……とにかく、この暗闇の世界は何かの切っ掛けで生まれたんだと思う」


 玲人は修一の話を聞いてのんびりしている場合では無いと思い返した。


 「父さん……ゆっくりしたいが、気になる事が有る」


 「ああ、小春ちゃんの事だろう? 今、君の考えてる通り仁那ちゃんとの間に何かが起こったと思う。きっとこの暗闇の世界も無関係じゃない……それに……分るだろう? 君の“力”の質が変わった事に」

 

 そう言われた玲人は自らの変化に気付いた自分の中の何かが厚みを増したというか、とても重く、そして強くなった気がした。


 「……本当だ……どうして、父さんがこの事を?」


 「分るよ、僕は君の中に住んでいて、君の一部でもあるんだ。だから君の中の“力の変化”はすぐに分かった。君も分るだろう? この“力”の質に仁那ちゃんの力が入り込んだ事を。今まで受け取るだけだった、仁那ちゃんの力が目覚めたんだと思う」


 「……一体何が……小春、君がきっかけなのか……」


 玲人は小春を案じ考えている所に修一が続ける。


 「……君の考える通り、小春ちゃんと仁那ちゃんの間で何かが起こり、その影響は僕と君にも生じたんだと思う。このタイミングで君と僕とが出会う事が出来た事も偶然じゃない。

 そしてこの暗闇……分るんだ……止まっていた時間が、動きだし……重なり出した……君と仁那ちゃん、僕と早苗姉さん。そして全ての鍵はきっと小春ちゃんだ……」


 修一の言葉に聞き入っていた玲人は、修一を真っ直ぐ見据え話す。


 「父さん、俺はもう行くよ。仁那と……小春が心配だ」


 玲人の心配そうな顔を見た修一は玲人の肩に手を置き話し掛ける。


 「玲人。僕は君の目を通じて、小春ちゃんって子を見てきた。だから分るんだ、あの子は君を何より大切に思っている。そして仁那ちゃんの事も。

 その為に君達二人を守る為小春ちゃんは、あの志穂って人が言った通り、自分を犠牲にしようと考えてる筈だ。……玲人、小春ちゃんを守るんだ。それは君にしか出来ない」


 「分ったよ、父さん」



 玲人は修一に言われた通り肯定した。今までの玲人なら、小春の事より仁那を優先する筈だった。玲人も理由は分らなかったが、不思議と仁那を引き合いに出そうとは思わなかった。小春の純真で真っ直ぐな思いが、いつしか玲人の心を動かしたのだった。



 「この心の世界から出るには、仁那の時と同じなのか? 父さん」

 「そうだ、君が強く外の世界の事を思えば出られる」


 玲人は周囲を見渡し、心配そうに修一に言う。


 「……父さんも此処を出られればいいんだが……」


 「あははは、有難う心配してくれて。でも大丈夫だよ。さっきも言った通り僕は君と一つの存在になんだ。だから、君が元気なら僕も問題ない。むしろこの暗闇の世界が出来た時から、力強くなった気がする位だ。君も同じだろう?」


 「……確かに……本当に俺の事を良く分ってるんだな……」


 「まぁね。14年ずっと君の中に居ていつも君と仁那ちゃんの事を見て来たからね。それに僕と、君は同じ存在だから、僕は君と共に考え、願い、戦って来た。君の事は君以上に分っている自信があるよ」


 「そうか……いつも見守ってくれて、有難う……父さん」

 「礼を言う必要は無いよ。僕は望んでしたい事をしてるだけだから」



 別れの時が来た様だ。修一は玲人に声を掛ける。



「僕はこの暗闇の世界について少し調べてみるよ。勘だけど何か……良くない感じがする……何が出来るか分らないけど放置する訳にいかないと思うんだ……僕達家族の為に」



 そう言った修一の体が一瞬真っ白く光り、制服姿から探検家が着るサファリジャケットとサファリハットの姿になった。


 そして、手を輝かすとその先に見覚えのあるモノが出てきた。それは模擬戦で玲人が破壊したダクテッドファンを搭載した無人機だった。


 もっとも模擬戦の時は50cmにも満たない小型機であったが、修一が呼び出したそれは2m位有った。上部に手綱と椅子が付いており、さながら馬の様だった。修一は、無人機の馬に跨り空に浮かび上がった。


 「玲人! 何か分ったら伝えに行くよ! 僕達は二人で一人だ、僕が必要な時は何時でも呼んで欲しい。だけど今は早苗姉さんと仁那ちゃん、そして小春ちゃんの事を頼んだよ!」 


 「分ったよ、父さん!」


 そう言った玲人の体は白く光りはじめ、心の世界から立ち去ろうとしている為か輪郭がぼやけ出した。


 「ああ! 玲人! 次は皆で会おう!」

 「ああ、その事を楽しみにしている! それじゃ……行くよ。父さん!」



 次の瞬間、玲人は光に包まれ、その場所から消え去ったのだった。

 


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