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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
1章 少年と少女
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8)試合

 不思議な夢を見た朝、迎えに来た玲人に小晴は夢の事を話してみた。


 「……ってこんな夢を見たんだ」


 玲人は黙って真剣に聞き、一言呟いた。


 「姉が君に迷惑を掛けた様だ」

 「え」


 何故、この話の流れで玲人の姉が出てくるのか小春は謎だったが、昨日も炸裂した晴菜が言う“玲人の残念思考からの暴走発言“かと思い、取敢えず聞いてみた。


 「大御門君、夢の話だから本気にしないで」

 「石川さん、姉は他人の精神に入り込む事が出来る」

 「大御門君、毎朝脅かしたらダメだよ。さすがに慣れて来たよ」


 小春は玲人の分かりにくいブラックジョークとして受け取った。


 「君の“世界”は青空だったのか?」

 「……え」

 「俺のは白と黒らしいから、一度俺も君の世界を見てみたいな」


 そう言って玲人は小春に向かって微笑んだ小晴はその笑顔に、ドギマギして激しく狼狽した。


 「だ、だだから夢の、中の話しだって」

 「姉曰く、人間の精神はとても深く色々なものが内包されている。俺達が日常で見せている姿など、姉に言わせれば氷山の一角らしい」


 小春は玲人の話を聞いて昨日の夢を思い出していた。


 (きれいな世界だったな、そしてとても居心地が良かった。ずっと居たい位)


 考え込む小春を見て玲人が続ける。


 「君はどうやら姉に好かれた様だ。極度の人見知りの姉に友人が出来て嬉しいよ」

 「お、大御門君! だから夢の話なんだってば」

 「君も昨日言ったろう? 俺の姉は世間的に言うエスパーだって」

 「あれは本気じゃないよ……」

 「俺は何時でも本気だが」

 「うーん」


 至って真剣に答える玲人に、小春は左手をこめかみに寄せて頭を抱えた。


 (ナルホド。松江さんが言ってた通り中々手強い。でもわたしは気にしない!)


 小春は頑張る女の子だったので、玲人が放つ暴走発言をとことん受け流してやろう、と決意した。


 「大御門君、冗談ばっかり言ってたら、また松江さんに怒られるよ」

 「冗談では無いが、彼女には何度か激高されたな。そういえば最近は君の家で、君からの好意について説明した時は……」

 「わー!! な! 何言い出すの突然! もう! この事はいいから! 学校行こう!」

 「ついに君からも激高される様になったな。好意について語るのは危険だ……」

 「こ、こらー!!」


 「……という事がありました」


 小春は、今日までの顛末をやや疲れ気味で放課後に松江晴菜に報告した。晴菜は玲人の残念言動を心配し、小春の為、色々相談に乗ってくれていた。晴菜の横には東条カナメがいる。東条は玲人の残念言動について第一人者であり解説役だった。


 「はぁー 相変わらずハラハラする事しでかすね。心配すぎるわ」

 「さっすがカドちゃん。相変わらず面白いなー」

 「東条、あんた、ただ面白がってるだけじゃないの?」

 「そんな訳ないよー」


 晴菜と東条のやり取りが続く。何となく晴菜は嬉しそうだった。東条は続ける。


 「石川さん、元気になったから本当の事バラしちゃおうかな?」

 「何よ、それ?」


 東条の言葉に晴菜が首を傾げる。


 「いやー、あの日ね。石川さんがカドちゃんのせいで早退しちゃったよね。その事を、真島先生がカウンセラーの薫子先生に相談したみたいでね。それで薫子先生から僕にカドちゃんと石川さんの事を頼まれたんだ」


 “ゴメンね 黙ってて”と東条は謝罪するが、基本人のいい小春は正直嬉しかった。

 自分の知らない所で、担任の真島やスクールカウンセラーで保険医の薫子が気に掛けてくれた事に。


 そして東条や晴菜が玲人との仲を取り持ってくれた事もただ嬉しかった。


 「みんな……ありがとう」


 小春は涙目で礼を言った。


 「ちょ、ちょっと! 何も泣く事ないじゃない! あたしは好きでやってるし、東条だって大御門君の事を思ってやった訳だし。石川さんが気にする必要ないよ!」


 「そうそう。僕なんてカドちゃんの事半分くらい面白がってたからね! 気にされたら返って悪いよ」

 「何よ、東条! やっぱりアンタ面白がってただけじゃないの!」


 “いやー だから半分くらいだよ”と東条と晴菜のやり取りは続く。そこへ神崎がやってきた。なんだか少し申し訳なさそうだ。


 「……石川。この前はなんか悪かった。伊原が謝るか分らんから取敢えず代わりに謝っとくわ。勘違いにしても、やった事陰険やし、俺も微妙に関係あるしな」

 「べ、別に神崎君が悪い訳じゃなかったのに謝る必要ないよ!」


神崎の謝罪に小晴は慌てて返答した。


「いや、石川に謝れって玲人、言うてたからな。玲人には色々借りあるし。伊原には俺から言うとくわ。もしあいつらから何かやられたら俺に言うて……お前らもフォローありがとうな」


 そう言って神崎は小春の横に居た東条や晴菜に手を挙げてその場を離れた。神崎は部活に行くとの事だった。(ちなみに東条と晴菜も今日の曜日は部活が休みの日だった)


 「神崎君、いいとこあるね」

 「東条、あんた何言ってんのよ。神崎ハーレムのせいで石川さん大迷惑したのよ。ほんっと人騒がせな連中だわ! 石川さん文句言ってやれば良かったのに」


 「いいよ。神崎君そもそも関係ないし。伊原さん……の件も勘違いだった訳だし」

 「あんなことやられて黙ってたらダメよ! いいよ、今度あたしが伊原の奴に文句言ってやるから!」

 「松江さん……ありがとうね」

 「晴菜でいいわ。その代りあたしも小春って言っていい?」

 「わかった、晴菜ちゃん」

 「僕の事はカナメでいいよ」

 「わかったわ! あんたの事はカナメって呼ぶわ」


 晴菜はかなり嬉しそうだった。小晴は、いきなり男子の下の名前を呼ぶには抵抗があった。何より東条より先に、玲人の下の名前を呼びたかった。


 「わ、わたしはいきなりは抵抗有るから、今まで通り東条君、かな」

 「石川さんは先にカドちゃんを攻略してからだね!」


 東条がまるで小春の心を見透かしたような事を言った為、小春は顔を赤くして俯いた。晴菜はそんな小春の状態に気付かず、この場に居ない渦中の人について尋ねた。


 「そういえば小晴、大御門君は?」

 「今日は学校で用事があるから、先に帰っていいって言われたんだけど、わたし、ここで待つって返事したんだ」

 「あのヤロー、いきなりすっぽかしたのか! カナメ、あんた何か知ってる?」

 「ああ、カドちゃんなら小体育館だよ」

 「何してんの?」

 

 “それじゃあ皆で迎えに行こうか?”という東条の提案に賛同した小春と晴菜は、東条と共に小体育館に向かった。


 そこに居たのは空手の胴着を着た玲人だった。面が透明な防具を顔に付けている。玲人の帯はなんと黒帯だった。


 小体育館では空手部が試合形式で練習しており、3人が小体育館についた時ちょうど玲人が相手選手に回し蹴りを決めて一本を取った所だった。


 次の選手が玲人の前に立つ。玲人は構えを取って相手の運びを待ち、相手選手が中段前蹴りを出した際に、構えた腕で受け素早く踏み込んで上段への一本を決めた。


 「……ねぇカナメ、大御門君って空手部?」

 「違うよ、松江さん。カドちゃんは何処にも部活は所属してないよ。だけどカドちゃんは小さい頃から格闘技とかずっとやってるから空手部の練習相手に呼ばれるんだ」

 「へー 意外な一面ね」

 「カドちゃんは有名な空手の先生の指導を受けてるとかで、それを知った顧問の先生が呼ぶ様になったとか聞いたね」

 「上手いなら空手部入ればいいのに……あれ、どうしたの小春?」


 小春は玲人の様子を食い入る様に見ている。小春は空手の事は全く分らないが、ただ洗練された様に見える玲人の所作が、とても綺麗に見えた。


 そして真剣な様子ではあるが、同時に何故か玲人が寂しそうに見えた。それに何ていうか、心此処に非ずという感じだった。


 「小春、小春ってば!」

 「えっ ど、どうしたの?」

 「どうしたのじゃ無いでしょ? 幾ら彼氏が頑張ってるからって、ガン見しすぎよ」

 「そそそんなんじゃないよ!」


 そんな話を3人が小体育館の脇でしていると、一際大きな選手が玲人の前に立った。


 「あっ アレ、吉岡先輩だよ! 松江さん」

 「あたしも、あの先輩知ってる。確か地域大会で優勝までした人でしょ。 そんな強い人が大御門君の相手じゃ流石に負けね」


 カナメと晴菜の会話を聞いた、小春は玲人に相対する吉岡を見る。玲人も背が高い方だが、対する吉岡は身長が180センチ程あり、肩幅も玲人より広い。どう見ても玲人が不利な体格だ。


 「大御門君……大丈夫かな……」


 小春は吉岡を目にして急に不安になった。



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