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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
7章 過去編
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67)過去編-13(老害の後悔と決意)

 仁那の“目”による情報取集能力に関して、結果的に仁那もこの“目”の能力は自分も必要だった為、これだけは訓練をする事になった。


 訓練の結果、仁那が生み出した“目”は付着させる対象が生物であれば、死滅する事がなく機能し続ける事が分った。また、“目”は仁那が望むだけ生み出す事が出来る。そして仁那が見たいタイミングで視点を切り替えたり、全部を見る事が出来た。


 更に最近の訓練の結果で、仁那は自分の言いたい事が言葉でなく、端末装置に文字で表現できるようになった。その事により仁那が見る“目”の情報は、断片的ではあるが、第三者に伝える事が出来る様になった。


 この段階で仁那の新能力は自衛軍にとって計り知れない魅力となったが、またも薫子が自衛軍との関わりを拒んだので諦めざるを得なかった。


 自分の執務室でその様な、子供達の安中からのメール文書による定期連絡を受けた、自衛軍の奥田少将は、薫子の拒絶の連絡を受け苦笑しながらブラックコーヒーを味わっていた。


 もっとも奥田少将としても、新名のクーデター未遂事件以降、子供達を本気で戦場に出す気は毛頭なかった。定期報告で聞く子供達の様子は、徐々に人間性を取り戻しているみたいで、微笑ましく思っていた。


 最近では情報端末で意思の疎通が出来るからだろうか、仁那が良く笑うようになったとの定時報告が来ていた。玲人の無表情は相変わらずの様だが。


 奥田にも仁那と同じ位の年齢の孫娘が居る。無邪気に笑うその姿を、奥田は仁那とよく重ね合わせた。もし自分の孫娘が、戦争の道具として利用する様、命令されたら、迷う事無く、命令した人間をぶん殴って軍を辞めるだろう。


 同時に恐ろしくなる。自分は、新名が行っていた子供達の扱いを知っていた筈なのに、どうして止めようとしなかったのか、と。


 あの時の自分は、定期的に連絡が来る秘匿情報を、ただの数値としてしか見ていなかったのだ。

 

 新見の尻尾を掴む為、敢えて新見の自由にさせていた訳だが、奥田が子供達を戦争の道具として敵の侵略部隊を壊滅させていた事を情報として知っていた。


 知っていたが止めさせなかった。いや、止める事など出来なかった。


 あの時の子供達の働きのお蔭で、自衛軍は大した損害を受けずに度重なった侵略行為を阻止する事が出来た。もし子供達が居なかったら、大戦の影響で大きく消耗した自衛軍では、大した防衛力もなく確実に内地まで侵略を許し、想像も付かない被害を出していただろう。


 それがよく分かっていたからこそ、奥田は新見の子供達への扱いを止められなかった。子供達の能力が非常に有効だったからだ。


 子供達の事を、あの時、其処にはただの数字として扱う自分が居た。ただ冷徹に機械的に。もし、あの時の自分ならその数値の中に自分の孫娘が居ても気付きもしないだろう。



 ……もし、仮にだ。自分の孫娘にそんな力が偶然与えられ、今まさに敵の侵略を受けたら、自分はどんな指示を出すだろうか?


 

 出すべき指示は分かっていたが、其処に自分の孫娘が絡むとしたら、全く逆の事を考える自分がいる。


 孫娘が軍の道具にされるなら、命令する中将閣下に右ストレートを噛まし、辞表を叩きつけて、孫娘の手を引いて家に連れて帰るだろう。


 それは自分の脳内では、迷う事無く決定事項だった。


 では、何故あの時子供達の報告を受けていても何も感じもせず、何故子供達がされるが儘を見ていたのだろうか。



 自分の孫じゃないから如何なろうとも良かったのか。

 自分の孫じゃないから、自分の家族でないから、自分の国でないから、如何なろうとも良かったのか。

 此れではこの国を侵略しようとする連中と何も変わらない。

 此れではこの国に落ちた大量破壊兵器の発射ボタンを押した連中と何も変わらない。



 「誰かをぶん殴る前に、まず自分をぶん殴って先に辞めるべきかも知れんな……」

 

 夕暮れ時、自分の執務室に届いた、安中のメールの中に添付されていた仁那の笑顔の写真と、机の上の孫娘の写真とを見比べて、奥田は一人、呟いた。

 

 そしてデスクの引き出しから一枚の資料を取り出し眺める。


 その資料は子供達の父親である八角修一の物だった。修一の話は、弘樹から安中を通じて聞いていた。


 弘樹から聞いた話では、八角修一は妾の子という事で誰にも必要とされなかった大御門早苗の唯一の“味方”だった。


 出会った最初から、そして死が二人を分かつ時まで、本当に最後の最後まで早苗を守ろうとした。

 

 弘樹は“本来、実の妹を守るのは兄である僕の務めだったのに“と今更ではあるが、涙ながらに悔いている、と聞いた。


 そして自分が怖くて出来なかった事を、八角修一という男は恐れず最後まで一歩も引かずやり切った。守ろうとした。


 だからこそ“小さな英雄である”と弘樹は周囲に語っているとの事だった。


 奥田も大御門家の最後の映像記録や、早苗と修一の遺体を見た。修一は殺される最後まで、早苗を気遣っている姿が残されていた。そして印象的だったのは早苗と修一の遺体の表情だった。


 あの大御門家の爆発事件が生じた後、大規模な生存者捜索作業が行われたが、結果は徒労に終わった。


 何の為に作られたかは分らないが、大御門の本屋敷地下に設けられた地下設備は、内部からの大爆発により外部へ向け飛散し、屋敷諸共崩壊した。


 あの爆発事件で原型を留めた遺体は、3体のみであり、他の者の遺体は、圧潰された為、原型を留めていない遺体や、バラバラになった姿の者や、焼死体で見つかった者等々、悲惨な状態だった。


 その原型を留めた3体の遺体とは早苗と修一、そして大御門家当主の剛三の3名だった。


 だからこそ、早苗と修一、そして剛三の死に様は奥田の脳裏に深く印象付けられた。


 早苗と修一の遺体は、安らかで今にも微笑み出しそうな表情だった。対照的なのは、早苗の実の父親の剛三だった。何に取りつかれて死んだのかその死に顔は、凄まじい苦悶の死に顔だった。

 

 権力の権化の様な剛三に、実の娘でありながら冷遇され最後は無残に殺された早苗。そんな早苗を何とか守ろうと奮闘し続けた修一。

 

 「……君は、最後まで戦い抜いたのか」

 

 修一の写真を見ながら奥田はひとり呟く。奥田は分かっていた。自衛軍の幹部として、大御門家に関与した事実を。修一と早苗を死に追いやった事。そしてあの爆発事件。何一つ無関係では無い事実を。

 

 「老害は死すべきだな……」


 再度呟いて、今度は最近の資料に目を向ける。それは成長する外套膜のせいで重く大きくなった仁那を、無表情で何とか抱えている玲人の写真だ。


 その写真の玲人と仁那の顔は、修一と早苗に瓜二つだった。


 玲人の情報も安中から聞いている。無表情で何を考えているのか分りにくいが、能力の訓練に自ら積極的で、最近は格闘術も習いだしたという。


 「君は、まだ、守り、続けるのだな……」


 奥田は、思わず胸が熱くなり、涙を零した。孫娘が生まれた頃から、奥田の涙腺はおかしくなっていた。

 

 「小さな英雄君、君がまだやるなら、この老害も不抜けている訳にいかんな」


 そう言って、一人力強く頷いた奥田はある決意を抱き立ち上がった。部下達に指示をする為だ。

 

 奥田の決意は、もう子供達に戦わせない事だった。その為に不抜けた現状に活を入れるべきとも考え、邁進しようと決意した。


 子供達は、自分の孫娘と同じく人らしく楽しく生きて欲しい。戦場とは一ミリ単位も関係ない世界で生きて欲しい、と強く考えていた。

 

 「悪いが小さな英雄君、君の出番はもう無いよ。戦場で矢面に立つのは我々の仕事だ」

 

 誰に言うまでもなく呟く奥田。その瞳には、先程までの後悔に暮れた影はもう無かった。



 しかし、奥田の決意も空しく、それを許さない者達がいた……


接続語の抜け、句読点の見直しを行いました。

宜しくお願いします

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