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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
7章 過去編
63/386

63)過去編-9(クーデター)

 「マルフタが作戦実行を拒否する?」


 新見は部下である女性研究員の報告を受けて聞き返した。


 「はい。新見大佐殿。どうやらマルフタには自我が芽生え始め作戦実行に抵抗を示しています。今の所実証試験では極端な影響は生じていませんが、いずれは支障が出る可能性があります」

 「相棒であるマルヒトは如何している?」


 「マルヒトの方は現状、特に問題はありません。実証試験でも実践同様の“念動力”と思しき現象を発揮しています。ですがマルヒトは基本的にはマルフタの意志を尊重しますのでマルフタに支障が出ればマルヒトも同様に影響が生じると考えられます」


 「……拙いな。こいつ等にはまだ働いてもらう必要があるのに。薬か電気ショックで無理やり使える様に出来ないか」

 「まず、薬はダメです。彼らは強力な再生能力があり、耐薬品・耐細菌性能がありますので殆ど効かないでしょう。また、電気ショックは逆効果です。我々を敵視し暴発する可能性が高いです」


 「……暴発させれば使えるか? 取敢えず爆弾として使えれば、最低限の役目を果たせるか。こいつ等に遠隔通電装置を取り付けろ。遠隔操作で暴発させ爆弾として使用する」


 新見としては、近々子供達に如何してもやってもらう必要があった。暫定政権の物理的な打倒だ。


 暫定政権は元々、足の引っ張り合いばかりの烏合の衆だった野党が、第三次大戦後に妥協で結束した連立政権だった為、本当に酷い有様だった。


 彼らは何の根拠もなく、批判だけは得意だった。判断力と決定力に欠け、大戦の混乱をただ増大させるだけの存在に新見は見えた。


 実際にそうだったのであろう。大御門剛三が裏から回してきた“オカルトネタ“さえ本気で戦略として取り入れる位だから。

 

 まともな判断が付かない人間が思いつきで指示を出すのだ。新見にとっては何度煮え湯を飲まされたか分からない程だった。


 新見は常々思っていた。


 “こいつ等には国を任せれない”


 新見にとって我慢の限界だった。新見は、例の“オカルトネタ“について上層部にまともな報告はしなかった。そして、裏で大御門家より提供された資金を元手にして内密に、暫定政権の物理的な殲滅計画を準備していた。


 筋書きはこうだ。


 暫定政権が集まる臨時国会議事堂に、子供達を配置し、物理的に抹消する。その後用意していた兵力で、反対勢力を段階的に抑え政権を奪取する心算だった。



 ……つまりはクーデターだ。



 戦力差は新見の方が圧倒的に不利だったが新見は心配していなかった。


 新見には子供達がいたからだ。何せ艦隊すら圧倒する戦力だ。新見にとって、この作戦の失敗は有り得なかった。むしろ懸念される点は女性研究員から挙げられた、マルフタの不調の事だった。

 

 (事を急がなければならない)

 

 新見は決意を新たにして、クーデターの準備に取り掛かった。新見は愚かにも気付いてなかった。自分が見下した大御門剛三と全く同じ思考の元で行動している事に。


 従って、結果は明確だった……


 この日、臨時国会議事堂に審議の為、暫定政権の内閣府議員達が集まっていた。今日は新見にとって絶好のチャンスだった。


 本日、新見は非番だったが、クーデター作戦実行の為、とある大きな廃工場の中にいた。其処には20台ほどの様々な車両が集められ百名ほどの者達が作業していた。


 車両は大型トラックや軍用トラックもあり、何処から集めたのか装甲車両も用意されていた。そして其処には、マルヒト、マルフタが作戦で使用する専用の3m角の箱もあった。


 マルヒト、マルフタは本日、いつもの様に演習場にて訓練を行っていたが、その帰りに、通常のルートとは違うこの場所に連れてこられた。


 「トレーラーにマルヒト、マルフタのコンテナを乗せろ」


 偽装されたコンテナにマルヒト、マルフタが乗せられる。彼らの首には電極らしきモノが巻かれている。トレーラーは民間車両を改造したもので、一見すると軍事作戦に用いるように見えない様になっている。


 そして今回のクーデター作戦に参加するのは新見が集め育てた百名ほどの有志達で、現役の軍人も多かったがそうでない者もいた。


 いずれも現政権に不満を持つ者ばかりだった。此処には新見の右腕の安中が居なかったが、彼は作戦決行場所にて待機していた。


 新見は彼らを一堂に集め鼓舞した。


 「皆、聞いてくれ! 皆の尽力のお蔭で、俺達は漸く暫定政権を消滅させる“カード”を手にする事が出来た!

 愚劣な暫定政権に従えば、待っているのはこの国の死だ! 奴らを根絶し列強の国々に対等に渡り合える強国を建国する! 

 思い出せ! この国が何度焼かれたのかを! 無能かつ無力な暫定政権にこの国を任せれば同じ事が、何度も起こるだろう! 

 今こそ奴らに鉄槌を与え、この国を我々で救うのだ! かつての強国を我々の手で取り戻すのだ! 今日! この日を持って我々は真なる国を建国する!! よって我々は自らを“真国同盟”と名乗る者とする!!」


 「「「「オオオオオッ!!!」」」」


 彼らは意気揚々として車両に乗り込んでいく。作戦は臨時国会議事堂の付近にトレーラーでマルヒト、マルフタのコンテナを配置しコンテナ前方を臨時国会議事堂側に向けその方向にて広範囲に壊滅させるつもりだった。


 マルヒト、マルフタの二人が入っているコンテナは特殊構造で極めて高い防御性能を持っている。また、彼らは自らの危険が迫ったときは己の意志とは無関係に白い光の結界を張れる為、作戦決行により彼ら自身に被害が出るとは新見は考えていなかった。


 今回問題は作戦決行後、如何に決行現場から離脱するかが重要だった。その為、コンテナを分解構造として現場近くの貸倉庫にて分解し別な車で分散して移動し、足掛かりを消す考えであった。


 壊滅出来る有効範囲はコンテナの前方、扇状に約1キロ範囲が有効射程だった為、警戒されている臨時国会議事堂に間近に接近する必要もなく、新見としては成功率は極めて高いと考えていた。


 コンテナを配置するのは、臨時国会議事堂より直線で数百m付近の公園だった。この公園から臨時国会議事堂の間は、畑や駐車場等があり一様にマンションやビルが無い条件であり、丁度臨時国会議事堂が良く見える位置関係だった。

 

 此処には安中が事前に現地入りしており、作戦決行に最適な場所を確保している筈だった。


 「トレーラーを作戦決行場所に停車しろ。公園周囲をA班、B班は車両で見張れ。事前工作でこの辺りの警戒は弱めてあるが、気を抜くな。D班は退路を確保しろ」


 新名は素早く指示を飛ばして、トレーラーを作戦決行場所(公園横幹線道路上)に停車させた。

 


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