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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
7章 過去編
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57)過去編-3(降臨)

残酷な描写が有りますので、注意して下さい。

 古来より神に捧げる生贄は人間を持ちうる方法が最上級と言われている。


 その中で一度に二人を捧げ、しかも妊婦を使った人身御供など、滅多に行えるものでなく、剛三としては現時点で早苗と修一は最高の供物であった。


 彼らが受ける生贄の儀式は、大御門家が抱える祈祷者が祈りの中で得た神託で得られた方法の内、祭壇にて刃にて心臓を突き命を石に捧げるという方法だったがそれ以外に生贄の方法は幾つもあった。


 具体的には早苗の子を出産させてからその子と一緒に生贄にするべきという別な祈祷師の意見もあったが、剛三の中では戦時中であり時間を掛けれないという事と、見せしめとして行うという考えより、結果的に早苗の子を身ごもった状態のまま修一と一緒に生贄にする方法を取った。


 早苗と修一は白い襦袢に着替えさせられ、石の前の祭壇に二人して寝かされた。二人は逃げられない様に鎖で手足を縛られた。


 修一はいよいよ覚悟し、泣き続ける早苗に語りかけた。


 「早苗姉さん、ごめんね。二人を守れなかったね……」

 「私こそ。ごめん!! 修君は何も悪くない。私なんかと関わったせいで!!」

 「それは違うよ、早苗姉さん。早苗姉さんが八角に来てくれてほんとに嬉しかった。ほんとに良かったよ……」

 「私も修君と八角で暮らせて、私は初めて喜びを知ったわ。八角に来れたから私は自分の人生を取り戻せたの」


 「早苗姉さん、約束するよ。次の人生は早苗姉さんと赤ちゃんを絶対守ってみせるよ。誰より何より強く、絶対 絶対に二人を守るよ。だから何があっても一緒に来て」

 「うん、うん、一緒に、一緒に修君と生きるわ!! 絶対に」


 二人は見つめ合って互いに涙を流しながら頷きあった。


 そんな二人の前に終わりが来たようだ。


 二人は荒縄で口を縛られ、声を封じられた。そして白装束、白面布の姿の男が白い紙に包んだ刃を持って二人の前に立った。



 遂にに終わりの時が来た……



 修一はもう一度早苗の方を向き、腫れあがた顔で笑顔を作って目を瞑った。そして心の中で初めて祈った。


 「神様、初めて祈るけど、僕に早苗姉さんと赤ちゃんを守らせて。絶対、絶対守りたいんだ。お願いします……」


 しかし修一の祈りも空しく、次の瞬間白装束の男は迷いなく、修一の心臓に刃を突き刺した。修一は大きく体を数回くねらせて、そして遂に動かなくなった……


 早苗はその様子を見て初めて怒りの感情を爆発させた。声に出せない為大きな唸り声をあげ、体を大きく何度もよじった。


 手足を固定する鎖は容赦なく早苗の肌を傷つけ、血がしたり落ちた。目はこれ以上無いくらいに見開かれ、涙は滂沱として流れ落ちた。こんな時に彼女を抱きとめる彼はいない、理不尽に奪われたのだ。


 その事が彼女の心を大きく狂わせてしまった。もの静かで理知的だった彼女の魂は灰色に染まってしまった。


 慟哭し、鎖に縛られたまま跳ね上がるように身をよじる姿に祈祷師の男は恐怖し、早苗の心臓を突き刺した。


 しかし早苗は益々唸り声をあげ激しく暴れた。早苗は初めて憎しみに狂ったのだ。 祈祷師の男は更に恐怖に駆られ、早苗の胸部を滅多刺しにした。


早苗は血の涙を流し、荒縄を噛む口からも激しく出血し目を見開いたまま恐ろしい形相のまま息絶えた。



 ――その時である。



 石は突然白く光り 次に明滅を繰り返した。


其れに答えるかの様に、急に早苗の体が大きく痙攣を繰り返した。激しい電気ショックを何度も受けている様だった。


 修一と早苗を刺殺した祈祷師の男は恐怖でへたり込み失禁しながら、その様子から目が離せなかった。石の周りでは祈祷師やら研究員達も慌ただしく動き回っている。


 突然早苗の痙攣が止まり、今度はその腹部が異常に動き回っていた。そう、腹の中から誰かが突き破ろうとしているかの様だった。


 早苗の腹部は異常に動き回りながら大きくなっていった。石はさらに激しく明滅を繰り返し、そうして、ビカッ!! と稲妻のように周囲を真っ白にするほど光った。



 ……その光に地下実験場にいた全ての者が目を眩ませ座り込んだ。



 そうして突然静寂に包まれた。

 

 剛三は、健吾と雅彦を連れて祭壇に近づいた。石の玉は光を失い、真っ二つに割れていた。そして祭壇の上には、何故か安らかな顔をした早苗と修一の亡骸が横たわっていた。


 早苗が激しく暴れたせいだろうか、鎖が緩み早苗の片方の手が修一の手の上に重なっていた。そして 早苗の足もとには……


 一歳くらいの全裸の赤子が立っていた。


 ……男の子だ。血に塗れまだ、へその緒が赤子の臍に付いている。生まれたばかりの赤子は立てず泣くばかりの筈だがその男の子は立っていた。


 その顔は、端正で、可愛らしくそしてどうみても修一の顔を幼くした顔だちだった。男の子は何かを抱えている、お人形の様に。


 しかし其れは人形では無く目を瞑った赤子だった。其れは美しい顔をした女の子だ。その顔にも見覚えがある。丁度幼くした早苗の顔だった。


 髪の毛は早苗と同じ自然にルーズウエーブがかった栗色だった……しかし顔だけなら美しいが、違和感しかない。何故ならその赤子は首だけの姿だった。


 いや、正確には首の下に人間の者とは思えない蹄の付いた手足の様なものが何本も生え、有る筈の胴体はなかった。


 普通なら生きれる筈が無いがそのおぞましい手足は蠢き、首だけの女の子は如何やら静かに眠っている様だ。その寝顔だけは非常に愛らしい。


 男の子は首だけの女の子を両手で大切そうに抱えていた。


 その様子を見た健吾と雅彦は現実を受け止められないとばかりに、悲鳴を上げて首を振り思わずその場に腰を抜かした。しかし剛三は違った。


 「でかした!! 早苗!!」


 実験の成功を確信した剛三は大声を上げた。

 

 その大声を聞いて首だけの女の子は眠そうに眼を開けた。その眼の色はとても美しいが人間にはありえない金色の瞳だった。


 そして口を開いて……



 「グゥゥギギィイイイオゴォォォ!」



 人間では理解出来ない何かを叫んだ。


 ……瞬間。


 地下実験場にいた全ての人間が昏倒した。


 いや、正確には半径数キロ範囲内の人間に影響が生じ、数百人が即死していたのだった。


 剛三は激しい吐き気と眩暈によりうつぶせに倒れた。横を見ると健吾と雅彦が白目をむいて口から泡を吹いていた。


 どうみても手遅れだった。大勢の祈祷師や科学者も同じ様な状況だが幾人かは剛三と同じく即死ではない様だ。


 そのうちの誰かだろう、緊急処理システムを作動させた。それは地下実験場内に不測の事態が生じた場合、生存者の有無に関係なく対象物を自動にて火炎放射器で焼却するというものだった。


 緊急処理システムの作動を示すアラームが発報され、地下実験場からの退避指示の合成音が鳴り響く。


 剛三は声を出してシステムの停止を指示させようとしたが、立ち上がる事も出来ず呻きき声しか出せない。遂に対象である幼子に対し、火炎放射器の豪炎が放射され、彼らは火に包まれた。


 しかし、様子がおかしい。放射された豪炎は何かに遮られ彼らを焼き尽くす事は無かった。


 剛三が首だけ動かして伺うと、男の子の右手が前に差し出され、その掌の前に全ての炎は球状に収束されている様だった。


 「す、すばらしい」


 剛三は感極まって呟いた。大御門家が還俗する以前から数百年以上に渡り集めた秘術の中でこんな強大な力は見た事がなかった。


 男の子に片手で抱えられていた首だけの女の子は、剛三の歓喜の姿をじっと見て、疎ましそうに眼を細めた。


 そして首の下から生えている動物の様な手足の一本を動かして、そっと男の子の右手の甲に重ねて、一言呟いた。



 「ゴゥゥィエァ……」



 ――瞬間、男の子の右手の前の収束された炎の玉が真っ白に輝き巨大化した。そして男の子を中心に真っ白な光は広がり、突然すさまじい衝撃が生じ、凄まじい大轟音と共に全ては吹き飛ばされた。 



  “ドドドォオオン!!!”



 この大爆発により大御門本家の広大な屋敷は吹き飛び、地下実験場も瓦解した。


 大御門本家での大爆発の後、すぐに大規模な火災が現場で生じた。また爆発の結果、飛散した建築物等の残骸による二次被害で近隣一帯は地獄絵図の様相であった。


 地下実験場は祭壇を中心にすり鉢状のクレータが形成され、天井部が吹き飛んで青空が見えていた。この場には無事な者など誰も居ない様に見えた。



誤字修正しました。宜しくお願いします。

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