表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
6章 始まりの時
49/386

49)夢と救い

 そして夢の中で小春は仁那に会う事が出来た。目の前の仁那は何故か(うつむ)いて申し訳なさそうな顔をしている。


 「仁那、どうしたの? そんな顔して」

 「……ゴメンなさい……小春……私が今日の事件気付けなくて……私が事前に“遠見”出来ればこんな事にはなっていなかった……」

 「ええ? そんな事、何も謝って貰う事なんか無いよ? 悪いのはあんな事した人達の方だよ!」

 「……そうだとしても私はそう思えないわ……最近、上手に力を使えなくなってる。その所為で小春が危ない目に遭ったなんて……本当にゴメンね……」


 「だから仁那は全然悪くなんてないよ。それよりお礼言わせて! 仁那、玲人君の事を色々応援してくれて……本当に有難う」

 「良かったね、小春。あの綺麗なペンダント、玲人に貰ったんでしょう? 玲人は小春に寿司ばっかり連れて行こうとするから止めさせたわ」

 「あはは、お寿司も嬉しいけど……でも今日のは本当に嬉しかったよ……だから仁那には本当にお礼が言いたかったの」


 「姉として当然です。あの子危なっかしくて……このままだとずっと一人になるかな、って思ってね」

 「仁那が居るじゃない……」

 「小春。私はもう……永くない」


 「馬鹿な事を言わないで、仁那。そんな事絶対にわたしが許さないし認めない。わたしが仁那を助けて見せる。薫子先生が言ってたの。わたしだけが仁那を助けられるって。だから何の心配いらないわ」


 小春はこの意識の空間で話す自分の言葉がとても強い言葉になっていた事が自分でも驚いたが仁那を助けたい気持ちは、どうしても抑えられなかった。


 「……小春の強い気持ち……私に伝わる。何故? 何故、貴方は私に其処までこんなにも強い想いを抱いてるの? 分らない……私達もしかして会うのは初めてでは、ないの?」


 「どっちだっていいよ、そんな事。理由は知らないけど、わたしは仁那を絶対助けて見せる。そして玲人君と仁那とわたしで3人でずっと一緒に暮らすわ。

 考えてみて、仁那はわたしの家で一緒に暮らすの。ママや陽菜やお婆ちゃんと。それとも真紀さんや弘樹さんや大樹君と暮らしたい?

 そして玲人君や晴菜ちゃん、東条君達とカラオケ行ったり遊びに行ったりするの……楽しそうでしょう?」


 「小春の想像したイメージが私の中に入ってくる……ああ、なんて素敵な夢を私に見せるの……」

 「出来るよ、わたしと仁那なら!」

 「……期待して、生きていいのかな……」


 「うん! 一緒に行こう」

 「……ええ、小春……私はその夢を信じるわ……」


 そう仁那は呟いた後、この空間が揺らぎだして小春はそのまま眠りに落ちたのだった。


 次の日から、小春は薫子に言われるがまま大御門総合病院で様々な検査をさせられた。何故か学校でやる健康診断から始まって、心電図や頭部のMRI検査や体全体のCT検査、各部の超音波検査等々だ。


 流石に小春もこの大量の検査は今回の事件との関連は無い、と気付いた。小春は昨日からの入院自体も恐らくこの検査の為だろう、と考えていた。そしてその目的は“仁那に関わりがある”と確信した小春は全ての検査が終了した時点で薫子に問い掛けた。


 「仁那の治療はいつ始めるんですか?」

 「……小春ちゃんの今日の検査結果が問題なかったら準備に入ろうと思ってたの。検査結果は数日中に出るから、準備して7日以内には治療を始められるわ」


 「薫子先生。わたし昨日夢で仁那と話しました……仁那は……諦め掛けていました。あの子には生きて欲しい。だから、わたしは大丈夫ですので早く……お願いします」


 そう言って小春は俯く。いくら薫子が“安全だから大丈夫”と繰り返し言っても、何をされるか分っていない小春は怖いのだ。


 ……どんな事をして仁那を助けるのか? 

 ……それにどう小春は関わるのか? 

 ……何故小春しかダメなのか?

 ……本当に仁那を助けられるのか?

 ……自分は本当に大丈夫なのか?


 分らない事だらけだったが、聞いてしまうと怖くて何も出来ない気がして小春は聞けなかった。


 “仁那の為に出来る事は何でもする”


 そう決めていた小春は決心がぶれそうで、敢えて何も薫子に聞かなかった。


 薫子はそんな小春を見て、本心で感嘆し“初めて”小春の事を愛おしく思えた。薫子が小春の事を本心で認めたのは、小春は薫子や玲人と同じく仁那の救う為何でもする覚悟が伝わったからだ。


 だからこそ、薫子は小春の手を取り真剣に答えた。


 「小春ちゃん……本当に有難う。でもそんなに心配しないで、きっと全てうまく行く。そして約束するわ。小春ちゃんが仁那ちゃんを助けてくれたら、玲君も大御門家も全てが貴方の物になる」


 小春は薫子の突然の大げさな約束に笑ってしまい、くだけて返答した。


 「あはは、先生……それ、まるで世界征服するみたいな言い方よ。わたしは仁那と玲人君と一緒に暮らせればそれでいいの」

 「欲が無い子ね、其れでこそ小春ちゃんらしいわ」


 病院での入院生活は数日で終了し、検査漬けだった小春は結局、玲人と仁那の家には行けず仕舞いだった。検査は小春の体は健康そのもので薫子も安堵し心から喜んでくれた。退院後は薫子から学校に行ってもいいと許可が出るまで暫く家で休養していた。

 

 学校に行った小春は晴菜やカナメ達から心配されて出迎えられた。


 「小春! アンタもう退院して大丈夫だったの!? 体は何ともないの?」

 「大丈夫だよ、晴菜ちゃん。薫子先生に見て頂いたから。もう学校行っていいって言われたよ」

 「石川さん、心配したよ。僕らと別れた後すぐにニュースになっていたから、もしかしたらって思ってたんだけどまさか巻き込まれてたとは……本当に無事で良かったよ」

 「東条君も有難う。心配かけてゴメンね」


 3人で喋っていると、其処に神崎がやって来た。


 「……なぁ、石川。お前、あのショッピングモールでテロに巻き込まれたんやろ? そこに黒いマスク付けた奴っておらんかったか?」


 神崎が聞いているのは恐らく玲人の事だろう、と勘付いた小春は誤魔化さないと拙いと思い、適当に流した。


 「……わたしは現場から少し離れた所に居たから分んないな……」

 「そうかー、俺の先輩の兄貴があのモールにおったらしいけど、黒いマスク付けた奴が一人で犯人やっつけたらしい。超強かったらしいわ」

 「へ、へぇースゴイナー」


 小春は嘘が着けない性質なので、誤魔化すのは苦手だ。早くこの話が終わってくれないか、と祈る思いだった。ちらっと1人座る当事者の玲人を見ると相変わらずボーっとしている。そこへカナメが助け船を出した。


 「僕もちょっとその話聞いたよ? 確か軍人だったらしいね。多分テロを予想して待機してたんじゃない?」

 「そうかー 俺もその強い奴を見たかったな! お前もそう思うだろう、玲人?」


 神崎はそう言って玲人の席に向かい、話を振っている。玲人は黒いマスクが自分自身の事のはずなのに、神崎の話を真剣に聞いて、“それは凄いな、一度俺も是非手合せしたいな”等と相槌を打って神崎と盛り上がっていた。晴菜は別な友達に話し掛けられ、その子の席に移っていた。


 小春は相変わらずの天然な玲人を見て小さくため息をついた。その様子を見たカナメが小春に小声でフォローする。


 「……石川さん、ご苦労様。カドちゃんのアレ見たんでしょ? ビックリしたよね?」

 「……東条君も玲人君の秘密知ってたんだね」

 「まぁね……真紀さんから聞いたと思うけど僕の家はカドちゃんの家と付き合いが深くてね。昔からカドちゃんとお姉さんの事は聞いていたんだ。特に、カドちゃんがずっと軍で戦ってるのは僕も知ってる」

 「…………」


 「……だから、僕の中ではカドちゃんはヒーローだよ! テレビのフィクションなんかじゃない。本物のスーパーヒーローなんだ!今回の事件も本当の事はうちの人間から少し聞いてる。黒マスクの正体はカドちゃんだろう?」

 「……うん」

 「くー!! かっこいい! 流石カドちゃん! ……石川さん。僕はカドちゃんの相方でずっと居たいって言ってるけど、アレは冗談じゃないよ……実はカドちゃんみたいに針、飛ばせる様毎日練習してるんだ。そして、いつかカドちゃんと一緒に肩を並べて戦って、悪い奴をバシバシやっつけたいんだ!」


 そう言って、グッと拳を握って空を見るカナメに、なんて声を掛けようか悩んだ小春だったが、夢見る少年の邪魔をするのは良くない、と自分に言い聞かせ、苦笑いしながら温かく見守る事にした。



タイトルの数字が間違っていましたので修正します。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ