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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
5章 それぞれの想い
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47)戦う理由

 今度こそ完全に終わった様だ。安堵から座り込んだり泣き出す大勢の客達に黒いフェイスマスクを着けたままの玲人が大声で叫ぶ。


 「私は自衛軍に属する者です! 皆さん、危機は去りました! 安心して下さい! 此処に自衛軍と救急車を呼びますので、皆さんくれぐれも冷静に、落ち着いて行動して下さい!」


 そう言って叫んで皆を安心させ、玲人は端末で自衛軍の安中大佐に緊急コールするのであった。

 

 玲人がSUV車に、はねられ……けがをした客の応急処置を終えた頃に(ようや)く自衛軍と救急車が到着した。


 運ばれて行く怪我人の様子を見た玲人は小春の元に駆け寄った。小春は今だ恐怖で腰が抜けており、体も震えて動けない。


 “無理もない”と思った玲人は、小春の背中を撫でて安心さすのであった。


 喫茶店で座り込む小春と、それを看病する玲人の前に軍服の男女が立った。それは安中大佐と坂井梨沙少尉だった。


 「大御門准尉、ご苦労だった」

 「いえ、安中大佐殿もご苦労様です。この子の体調が優れない為、座ったままで失礼します」


 「問題ない。丁度君が居てくれた時で良かった。そうでなければ死者は数十人以上だっただろう。ところで大御門准尉、本件の状況説明をお願いしたいのだが?」

 「はい、分りました安中大佐。但し彼女を病院に搬送して頂いてからで宜しいですか」


 「分った。その子は君の知り合いか?」

 「はい、彼女は自分と仁那技官の共通の友人で石川小春さんと言います」

 「彼女がそうか……挨拶が遅れて済まない。私はここに居る大御門特技准尉の上官で中部第3駐屯地に所属する安中大佐だ。そして横の彼女は大御門准尉が所属する特殊技能分隊長の坂井少尉だ」


 「……ははい、わたしは……その……」


 いきなり現れた軍服の男に話しかけられた小春は先程の恐怖もあってうまく言葉が繋げない。その様子を見た梨沙は安中の肩を叩いて小春に話しかける。


 「拓馬いいよ、替わる。さっき紹介された坂井梨沙少尉よ。玲人とも付き合い長いんだ。君の事は薫子から聞いて知ってるわ。仁那の親友で玲人の彼女だろ?」

 「い、いえ、そその彼女という訳では」

 「どっからどう見ても彼女だろう?……今日は怖かったでしょう、大変だったね」

 「……は、はい……ぐすっ、うぐ、うぅ」


 そう言って小春は返事した後、梨沙に優しく諭された事で急に現実に戻って泣き出してしまった。


 「拓馬、アタシはこの子を大御門総合病院に連れてこうと思うけどいい? ショックが大きくPTSDになる可能性がある、この子には早期の治療が必要だ。……何よりこの子は玲人の事を良く知っている上で玲人の能力の発動を見た。薫子から注意されている様だけど、送って行く際に再度、注意事項を伝えるけどいいかな」


 「すまない、梨沙。現場の事は玲人とここに居る部隊でやっておくから、石川君の事は宜しく頼む。私の方から薫子さんに連絡しておくから、玲人は石川さんの親御さんに連絡を頼む、途中で私が代わる」


 周囲に他の隊員が居ない為、恋人同士である安中と梨沙は苗字で無く名前で呼び合い、取敢えずの対応を決めていく。 


 そして梨沙は小春を連れて病院に向かおうとしたが、玲人に呼び止められた。


 「……小春、今日はすまなかった。本当なら俺が病院に連れて行くべきなんだろうが、後処理があり動けない。申し訳ない……」

 「玲人君は何も悪くない……それどころか助けてくれた……有難う……」

 「事後処理が終わったら病院に行こう。それと君のお母さんには連絡しておく。カナメを通じて松江さんにも連絡入れて貰おう」

 「うん……お願いね……」


 軍用車に乗った小春は坂井梨沙少尉の運転で大御門総合病院に向かった。道中、梨沙が小春に話しかける。


 「……驚いただろう……玲人のアレ」

 「はい……薫子さんから、その……玲人君に不思議な力が有る事は聞いていたけど……想像より本当に凄かった……」

 「此処で君にお願いがある。玲人のアレ、内緒にしてて欲しいんだ」


 「大丈夫です。薫子さんから色々聞いています。地下の家の事も、玲人君が戦う理由も。その上で、絶対内緒にする様薫子さんに言われています……そのわたし達が危険だとか」


 「其処まで聞いてるなら話が早いな、その通りさ。玲人と仁那の力を利用しようとしているクソ野郎……あ、ゴメン……悪い奴が居て、君が今日みたいに巻き込まれかねない。だからくれぐれも内緒にして欲しい。アタシら自衛軍も絶対に君らの事、守るからさ」


 「はい、有難うございます。それで……玲人君の事なんですが……玲人君、中学生なのに……その……」


 「……君の疑問も最もだ。差し支えない範囲で答えるよ。本来中学生の労働は禁止されていた。ただ戦時中この法律はあやふやになった。それは戦時中の兵力不足回避の為だ。アタシも拓馬もそして死んじまった同期の奴らも君らの年齢位の時に軍に入隊した。他に居場所もする事も無くなったからね。

 初めは予備隊って名前だったけど、いざ戦闘になったら関係無かった……それで皆死んじまって……何時の間にか生き残ったのは拓馬とアタシだけだったんだ……」

 「…………」


 「話が逸れたね、同じ理由で玲人の意志確認と特別な審査が通れば軍に入隊できる。戦時中に出来た都合のいい解釈だけど……自衛軍としても玲人の特殊能力は戦力として絶対に必要な物だから、玲人が望めば断る筈もない……

 とにかく玲人の奴は、姉ちゃんの仁那を守るって一心により玲人自身の意志で軍務に就いている。当然、この件について周りは玲人が軍務に就く事に反対した。でも玲人の意志が固くて結局折れた形になった。

 玲人の中では姉ちゃんの仁那の件が片付くまでは決して戦いを止めないだろう。アイツは周囲が何と言おうが関係ない。自分で決めて行動出来る奴だから……」

 「……そう……なんですか……」

 

 小春は玲人が軍の人間に無理やり働かされているのではと心配して、敢えて梨沙に玲人の事を聞いてみた。結果は、以前タテアナ基地で薫子と聞いた話と同じで、玲人が仁那の為に自分の意志で戦っている、という事が小春の中で再認識された。


 小春は分っていた筈なのに、そして色んな人から励まされているのにも関わらず、少し落ち込んだ。


 玲人の仁那への強い思い、それは弟として姉へ思う気持ちなのだろうが、その気持ちは強すぎて小春の入り込む余地なんて無いのでは……


 そんな弱い気持ちが出て来て軽く落ち込んでいると、その様子に気付いた梨沙が慰めてきた。

 

 「大丈夫だよ! 小春ちゃん、ってアタシも呼んでいいかな。小春ちゃんは可愛いし、何より健気だ。それに玲人の奴も満更じゃないだろう」

 「そんな……事、無いと思います……」

 「いや、さっき玲人の奴が君を看病している姿を見たけど……何て優しい顔が出来るんだろうってアタシは嬉しくなったよ……あの玲人がね……オネエさん泣きそうになったよ」


 小春は先程自分が玲人にして貰った事を思い返した。怖くて泣き(すが)るしか出来なかった小春に、玲人は確か……頭を撫でてくれて、抱き寄せて安全な所に運んでくれたり、後は背中をさすってくれた……


 小春は色々思い出して、真っ赤になって俯いた。そして今日、玲人から貰ったガーネットのネックレスにそっと手を添えるのだった。


 「それ、玲人から貰ったの?」

 「……はい」

 「うっわ、アイツあんな無愛想で無関心貫いてるくせに、意外に行動力が……これは分隊の連中に報告するしかないな」

 「報告、って何の事ですか?」

 「いやいやいや、何も無いよ?」


言葉が続いて見にくい所を修正しました

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