363)シェアハウスにて
その日の夜……。陽菜の誤解が解けなかった小春は……。
自身の意識内にあるシェアハウスで盛大に吠えていた。
「あー!! 早苗さんの所為で! 陽菜に対する私の評価が!! 何て事してくれたんですか!?」
「……まぁ、小春ちゃん、落ち着きなさい。元より地に落ちてたから……気にする必要は……」
シェアハウスでコタツに入りながら小春は早苗に文句を言いまくるが、早苗は例によって気にせず適当に返す。
「地に落ちてません! 天にも昇る勢いでした! アゲアゲでした! それをあんな事で台無しに……」
「あんな事ってお風呂の話ー? でも小春、牢屋の中で嬉しそうに玲人の事、見てたでしょ!」
盛大に早苗に対し文句を言う小春に対し、仁那が突っ込む。シェアハウスでは小さな子供の姿である仁那は生前の様な弱弱しさは見られず、いつも明るく元気いっぱいだ。
彼女の無邪気で鋭い突っ込みに小春は慌てる。
「ちち違うよ! な、何言ってんのかな、仁那は!?」
「あれぇ? 何だかんだ言ったって、小春ちゃん……玲君の裸、気になって仕方無かったんでしょ? だから一緒にお風呂入っちゃえば良かったのにー!」
「う、うるさいです! 早苗さんの馬鹿!」
突っ込まれた小春は盛大に慌てながら否定する。そんな小春を早苗はからかい、横に居た仁那は面白くて横で笑っていた。
そんな賑やかな雰囲気で3人はシェアハウスで過ごす。
このシェアハウスは意識の奥に作られた彼女達の共有空間であり、小春達は何か有れば此処に集ってワイワイと話し合う。
シェアハウスは彼女達が認識して作り出した空間だが、現実世界に有る小春の実家を模しており、家具や部屋の作りまで現実のものと酷似していた。
そして彼女達は小春の体を共有しているが、元は別個の人間であり人格は明確に分かれている。
今日も寝る前に3人はシェアハウスで集まって取り留めの無い話し合いを続けていた。
「……あー今日も早苗さんに振り回された! 大迷惑だよ!」
「そんな事言って小春は何時も楽しそうだよ?」
「な、何言ってるのよ、仁那!?」
「相変わらず二人は仲が良いわね。だけど……これ以上夜更かしは良くないわ。小春ちゃん、仁那ちゃん、もう皆眠りましょう?」
プリプリ怒る小春に仁那がからかって、二人は仲良く言い合う。そんな様子に早苗は珍しく便乗せず、彼女達に眠る様に優しく声を掛けた。
早苗の言葉により小春と仁那は素直に従って3人は眠りに着く。肉体を共有している3人が眠りに着けば、小春自身の体は深い眠りに落ちる。
やがて暫く時が立ち、小春と仁那は完全に眠りに落ちた。ちなみに小春はシェアハウスの自室に、仁那と早苗は隣の部屋にて一緒に寝ている。
三人は寝静まっている様に見えたが……早苗が急に目を見開き、横で眠る仁那を起こさない様に静かに立ち上がった。
早苗は一人リビングルームに入ると、両手の平を向い合せて、目を瞑り……小さく呟いた。
「……さぁ、今夜も修君の所へ……」
そう呟くと向い合せた両手の平に光が生じ早苗をすっぽりと包むと、一瞬輝き……彼女は忽然と消え去ったのだった。
◇ ◇ ◇
小春の体から飛んだ早苗は修一が住まうログハウスへやって来た。早苗は以前の仁那同様、他人の意識の中に移動する事が出来る。
ちなみにログハウスは修一が玲人の意識内に作った場所だ。
早苗は小春や仁那を寝かした後、毎日の様に、修一の元へ行っていたのだ。
「……よく来てくれたね、早苗姉さん」
「修君……早く此処に来たかったわ……」
ログハウスで再開した二人は抱き合って熱いキスを交わす。
二人は14年前に肉体を失った後、早苗は仁那の魂にマセスと共に“同居”していたが、小春によって仁那が救われた際、彼女と同居する様になった。
夫の修一も玲人の魂にマニオスと共に“同居”している。そんな二人は毎夜、互いの“家”を行き来して逢瀬を重ねていた。
早苗も修一も小春が仁那を救うまでは、意識の深奥から出て来れなかったが、小春と同化してからは自在に“表”に出て来れる様になったのだ。
これはマセスの魂がマニオスと一部同化している事に関連が有るのだろう。
早苗が訪れたログハウスは修一が、自身の思い出を元に玲人の意識の中で再現して作り出した場所だった。
長いキスを堪能した二人はそっと離れて微笑み合う。
「……修君、玲君はどうしてる?」
「ああ、彼なら良く眠っているよ。仁那や小春ちゃんは?」
「“うち”も一緒……。二人共良く寝ているわ……」
「そう、御苦労様」
早苗と修一は、互いの“同居先”である子供達について話し合う。
「……やっと二人きりになれたね……。早く会いたかったわ……」
早苗は妖艶な笑みを見せて囁き、夫である修一の首に両手に手を廻して抱き寄せ、彼の唇を奪う。
早苗と修一は義理とはいえ姉弟でありながら愛し合った。その事より怒り狂った早苗の実父剛三に二人は生贄とされ殺されてしまった。
殺される時でさえ二人は愛を誓い合い、互いを想いあった。
そんな二人だからこそ、肉体を失い子供達の体に同居すると言う不自由な環境でも、その愛は冷める事は無かった。
寧ろ生前より燃え上がり、夜毎こうして愛を確かめ合うのであった。
「……早苗姉さん、今は少し待って……。今日も先にアレをしないと」
「ちぇー、修君ったら相変わらず真面目だわ」
早苗にされるがままキスされていた修一だったが、そっと彼女から離れて話す。対して早苗は拗ねた顔で悪戯っぽく答えた。
「大事な事だよ? だって子供達の未来に関わる事だ」
「……分ってるって! 幾ら私でも可愛い玲君や仁那ちゃんの事なら何だってするわ。ついでに小春ちゃんもね」
真面目な顔で答える修一に対し、早苗は笑顔で言い切った。
「……それじゃ行こうか……マニオスとの対峙に」
「ええ」
力強く静かに呟いた修一に、早苗は信頼と愛情を込めて答えた。
……そして二人は玲人の心の奥に眠る破壊神マニオスの元に向かうのだった。




