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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
5章 それぞれの想い
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38)弘樹

  学校が終わり、小春と玲人は一緒に校門を出ると、黒塗りの高級車が止まっている。


 その車を見た玲人は、誰か知っている様子でその車に近づくと、後部座席のドアが開き一人の男が出てきて手を振った。


 それは30代位のまだ若い、端正な顔つきだが優男風の男だった。


 「玲人! 久しぶりだ!」

 「弘樹叔父さん、ご無沙汰しています」

 「中々会いに行けず悪いね、玲人」

 「いえ、弘樹叔父さんも忙しい中、わざわざ有難うございます」

 「玲人も忙しいのは同じだろう。ところで横に居る君は石川小春さんだね。妹の薫子より聞いているよ。僕は大御門弘樹、そこの玲人の叔父だ」

 「は、はじめまして! 石川小春です」

 「今日は(ようや)く時間が取れて、良かったら家で夕食でもどうかと思ってね。玲人が来てくれれば大樹も喜ぶ。急で申し訳ないが都合はどうだろうか?」

 「……俺は構いませんが……小春はどうだ?」


 そう言って玲人はチラリと小春を見遣る。


 「わたしは……連絡すれば、大丈夫だけど……急にいいのかな……」

 「ぜひ来てくれ、石川小春君。実は君の事は妹の薫子と、姪の仁那からよく聞いている。玲人の彼女で、仁那の親友なんだろう。半分以上は君に会いに来たんだ」

 「かっかか彼女なんて、そんなおお、げさなもんでは、その」

 「違うのかい?」

 「……違わないと、いいなと、思って……ます」


 小春は叔父の弘樹の問い掛けに声が小さくなって(うつむ)く。その様子を見た弘樹も小声で小春に返す。


 「そうか、大丈夫。君の事は薫子も仁那も応援している。もちろん僕も応援してるよ。だから頑張って」

 「はははい……」

 「さぁ、玲人、石川さん。車に乗ってくれ」


 そう言って叔父の弘樹は助手席に移り、玲人と小春は後部座席に乗った。その際白い手袋をしたお抱えの運転手がドアを開けてくれたのだった。

 

 黒塗りの高級車に乗った小春は極度に緊張している。後部座席重視で作られているこの車は、後部座席に大型のリアアームレストがあり、其処には見た事が無いスイッチ類が沢山あった。


 また、運転席と助手席の間には大型の液晶モニターがあり後部座席から映像が見れるようになっていた。そしてシートは本革で、座った瞬間包み込まれるような心地よさがあった。


 (どう見ても偉い政府の人が乗るアレの車だよ……生まれて初めて乗った……)


 不安げな小春は挙動不審でキョロキョロしながら横に座る玲人を見ると、玲人は慣れているのか全く動じておらず、落ち着き払っている。どんな時でも動じない玲人を見て小春は頼もしいと思った。カナメに煽られておかしな言動をするとき以外は……


 車を走らす事数十分、郊外の高級住宅の中で、一際大きい白い豪邸の前に車は止まった。その家は、周囲を白い壁に囲まれていた。ざっと300㎡はあろうか真白い近代的な洋風の住宅であった。

 

 高級車は全員を下ろすと、そのまま車庫に戻って行った。


 「さぁ着いたよ。本当なら外に食べに行っても良かったんだけど仕事の都合でね。家で我慢してくれるかな」


 そう言って弘樹は二人を自宅に案内した。


 「……」


 小春は、今まで乗った事が無い高級車の後に、続けて弘樹の豪邸を見た瞬間から言葉を失い緊張しまくりで壊れたロボットの様にフラフラと弘樹の後について行った。


 「……小春どうした?」

 「……」

 「小春?」

 「……ハッ? れれ玲人君? どどどうしたの?」

 「……いや、小春の様子が変だったから」

 「……この家、豪華すぎるよ……」


 「この家は皆で住む為に叔父さんが頑張ったんだ。この家で、叔父さんと奥さんの真紀さん、長男の大樹。そして俺や仁那、薫子さんと皆で住むつもりで。だからこの家には俺や仁那、薫子さんの部屋が有るから大きいだけだ。しかし、仁那の事情もあって結局あの“タテアナ”から動けず、俺も薫子さんも仁那の傍から離れる訳にはいかない。それで、結局この家は弘樹叔父さんの家族だけが今は住んでるんだ」

 「……そそれにしても大きい……」

 「……そうか?」


 小春と玲人が弘樹に連れられて広い庭から玄関に入り30畳位ある大きなリビングルームに案内された。其処は白い床、家具等も白いもので統一させた空間でありながら、リビングルーム内に小さな庭があり緑が溢れていた。


 真白い空間に鮮やかにライトアップされた緑が映える様に演出されており、ダイニングテーブルは10人くらいが対面して座れる様な大きな物であった。


 (な、何! この眩しすぎる空間は! こんなの見た事無いよ……玲人君の家ってホントにお金持ちなんだ……)


 小春が真っ白すぎる空間に圧倒されていると奥からおっとりとした女性の声が聞こえてきた。


 「あらあら、あなたが噂の小春ちゃんねー。会いたかったわー」


 小春が声がした方を見ると、声の感じの通り美人だが垂れ目のおっとりした女性がお皿を持って出てきた。髪型はふんわりとしたナチュラルヘアで、如何にも癒し系代表の様な女性だった。


 「私は、大御門真紀って言います。宜しくね、小春ちゃん」

 「はははい、よろしくお願いします」

 「こんばんは真紀さん」

 「よく来てくれたわねー。玲人君。とても会いたかったわ」


 よく見ると真紀と名乗った女性の後ろに、何やら隠れている男の子が居る。


 「……」


 その子は、良く見ると弘樹を幼くした感じであるがとても愛らしい顔をしていた。男の子は緊張している為か、真紀の後ろから出て来ず、小春をチラチラと伺い見ていた。


 (かわいい! 何? この生き物は!?)


 小春は今すぐ抱き締めたい誘惑に駆られたが弘樹や真紀の手前、我慢した。真紀が足元の男の子に声を掛けて促す。


 「ほらー大樹? あいさつしましょう?」

 「……」


 大樹と言われた男の子は一瞬、小春の顔を見たが、すぐに真紀の陰に隠れてしまった。


 「ほらほらー 大樹の大好きな玲人お兄ちゃんも来てるよー」

 「……!? れい!」


 男の子、大樹は小春に気を取られて玲人の存在に気が付かなかった様だ。真紀に言われて大樹は、小春の事も忘れて玲人に抱き着いた。


 「……大樹、久しぶりだ。大きくなったな」

 「れい、しさぶりだ、おきくなた」


 大樹は意味も分からず玲人の言葉をおうむ返しで返す。小春は大樹の舌っ足らずの返答に悶絶しそうになったが何とか耐えた。そしてこの様子を遠くの仁那に見せるべく、一つ目ちゃんを出して握りしめた。すると大樹が一つ目ちゃんに気が付いて叫んだ。


 「あー!! はしもん、だー!!」

 「え? はし、もん?」


 小春は一つ目ちゃんを指さし目をキラキラしている大樹が叫んだ“はしもん”の意味が分らなかった。するとニコニコしながらやり取りを聞いていた真紀が答えた。


 「あーゴメンね、小春ちゃん。“はしもん”って言うのはね、小っちゃい子が大好きなテレビアニメのね、“走れ! モンスター”の事よ。小春ちゃんが持っているのもそのアニメで出て来るモンスターのお人形でしょう?」


 小春は真紀に言われて思い出した。確か“走れ!モンスター”って言うのは日曜日の朝からやっている子供向け大人気アニメの事だと。


 小春はアニメも大好きだったので、たまに見た事があったが、そのアニメは様々な特技を持ったモンスターを牧場で育てて子分にする、という内容だったと思いだした。



句読点等を見直しました。

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