表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
4章 模擬戦(対現代兵器戦)
27/386

27)過去

 「……ハッキング中に、テロ組織の一員と思われてレンジャー隊だった伊藤さんに捕まった!?」

 「……そーだよ! このダルマが全部悪いんだよ!」

 「「違うでしょ!!」」

 「……眼鏡喪女が……」

 「……」

 「今何つったー!! ダルマ!」


 余りに収拾がつかないので玲人が仕切り直した。


 「……つまりSEとして会社務めされていた時期に元より自衛軍に深い興味があった垣内隊員は、常日頃の趣味で軍機密情報をクラッキング中、自衛軍別動部隊の調査で反政府組織に繋がりがあると疑われてレンジャー部隊として突入した伊藤曹長に拿捕された、と」


 「……おお、すげーよエスパー玲。まとめが上手だよ」

 「有難うございます」

 「開き直ってる……」

 「有難うじゃないでしょ」

 「……優秀だ」

 

 「……その後私は、反省してるって言ったにも関わらず逮捕されて、SEも大手だったのにあっさり懲戒解雇され、拘置所に居た所をあの腹黒大佐に拾われた、と」


 「……腹黒は認めますが、客観的に見ても垣内隊員に非がありますよ」

 「……あのなエスパー玲ちゃん」

 「なんでしょう、垣内隊員」

 「私の事は志穂って呼んでいいよ、いいかよく聞け玲ちゃん、人間はな、歩く道に壁があったとするとな」


 「はい、志穂隊員」

 「壁を乗り越えて、また歩いて行くモンなんだよ! いいか、大事な話だぞ。テスト出るぞ、此処。知りたいと願う私の前に壁があったんだよ! それを私は乗り越えた!」


 「……よく分かりました、志穂隊員。確かに共感できる点もあります……ですが法律は守るべきです」

 「……そだな」

 「「中二に論破された……」」

 「……流石だ」


 前原と泉は意見が又もかぶり、伊藤は玲人をひたすら称賛していた。 

 

 志穂隊員の言い訳は続く。


 「……と言う訳で腹黒大佐に拾われた私は、アイツに悪魔の取引を求められたんだ……ムショに入って莫大な損害賠償を払うか、軍の犬になってキリキリ働くかと。正直軍の犬は嫌だったけど、何よりお金が無くて仕方なくな……そっからはずーっと軍の狛犬としてキリキリ働かされてんだ……すべては其処のダルマのせいだよ」


 「だから違うでしょ」

 「なんで伊藤さんのせいに……」

 「……眼鏡喪女が……」

 「……何故、狛犬?」

 「てめぇ! ダルマ! 後で覚えとけ! ……まぁいいや、いいか玲ちゃん。狛犬はな」

 「はい、志穂隊員」


 「実はあれは守護神なんだよ。私はな、ただの犬になる気はないよ。やるからにゃ、使われるだけの犬じゃ無くベストを尽くす!これが私の生き様よ。だから犬じゃ無く、よりハイスペックな狛犬って訳だ。今回の件もいきなり腹黒大佐に召集されたけど、狛犬としてアンタらを守ってやるよ! ……ダルマ以外……」


 「何か違う……」

 「だよな」

 「……チワワだろう?」

 「……狛犬……勉強になりました」


 前原と泉が同じように意見がかぶり、伊藤が白い目で見て、玲人がズレて感心している所に、乱入者が来た。


 「良く言った!!」


 4人が振り返ると、軍服姿で腰に手を当てて仁王立ちする、坂井梨沙少尉だった。


 「良く言った、志穂隊員。お前の過去は知っている。しかしその過去に囚われず、真摯に向き合い皆を守ろうとするお前の心根。あたしは深く感じ入った」


 「……えーとどちら様?」


 突然声を掛けられた志穂は尋ねるが、階級章を見た他の3人は上官だと分って姿勢を正し敬礼した。


 「「「失礼しました!」」」


 梨沙は軍の固い応対が苦手だったので苦笑いして制した。


 「いいよ、楽にして。あたしは坂井少尉。この特殊技能分隊の分隊長を務めている。もっともこの、分隊の主戦力としては玲人だけで、後方支援や輸送なんかは別の小隊が行っているけどね」


 「……質問を宜しいですか? 少尉殿」

 「言ってみな、前原兵長」

 「はい。この特殊技能分隊は、どうして大御門准尉お一人なのですか。小隊でも5~6人は最低必要だと思うのですが」

 「いい質問だ、前原兵長。実は初めは全く逆らしくてね」

 「どういう事です」


 「聞いたかも知らんが、玲人は正規に軍に徴用されたのが6歳からだった。6歳ってのも異常すぎる状態なんだけど。それだけ玲人の能力が凄いんだ……話を戻すよ。6歳で徴用された玲人だったけど、当然その幼さから部隊には組み込めない。だから訓練の一環って事で初めの頃は予備隊員として部隊後方の指揮通信車に乗ってたんだよ。あたしはその時、別の駐屯基地に配属されてたんだけど、当時の事を知ってる奴は口を揃えて言ってたよ。可愛くて可愛くて和んだと」


 「……6歳ですもんね、小1の子が此処に居たら……確かに悶え死ねますね」

 「エスパー玲ちゃんなら、私は今でも悶え死ねるが」

 「……変態喪女が……」

 「何か話の趣旨が変わってませんか」


 口々にその場に居た4人は思った事を言っていたが、渦中のちなみに玲人は相変わらずボーっとしていた。


 「……とにかくだ。部隊後方の指揮通信車に乗っていた玲人だけど、玲人が居た部隊がテロ組織の大規模な奇襲に遭ってな。前線に居た連中は総崩れになって、玲人が乗ってた通信車も襲撃を受けた」


 「「「「…………」」」」

 「……普通なら此処でこの話はおしまいだ。本来なら6歳児が殺されたって痛ましい話として伝わっただろう。でもな……此処から玲人の伝説は始まったんだよ」

 「……どう、なったんですか」


 泉上等兵が固唾を飲んで続きを聞きたがった。


 「指揮通信車がいきなり対戦車ロケットで攻撃されたんだ。指揮通信車は軽装甲車だから、対戦車ロケットで本来は大破する筈だった。しかし搭乗していた8人は全員無事だったんだ」


 「その話はおかしい。対戦車ロケットは厚み300ミリ位の装甲貫通力を持っている筈だ。機関銃の銃撃に漸く耐えれるレベルの軽装甲車では対戦車ロケットにより大破し、乗員全員が死亡した筈だ」


 伊藤曹長が梨沙の話を否定した。しかし梨沙は説明を続ける。


 「……お前の言う通りだ、伊藤曹長。でもそうはならなかった……理由は簡単さ、指揮通信車には玲人が乗っていたから。玲人は砲撃を受けた瞬間、壁みたいなのを張って搭乗者を守った。その後、指揮通信車を出て襲撃者を木の枝や小石を動かしてそいつらの手足に貫通させ無力化した。そして前線に躍り出て奇襲攻撃を受けていた部隊を支援し、攻撃してきたテロ組織を同じように無力化したんだ」


 「……信じられん話だ……」

 「お前が言うのもよく分かるさ、伊藤。でもな、こんな事此処では日常茶飯事だ。昨日も、横でボーっとされておられる大御門玲人准尉殿はお一人で20名のテロ組織を無力化した。ちなみに作戦実行時間は玲人が突入して無力化完了まで約5分だった」


 「「「…………」」」

 「超絶スゲーよ玲ちゃん……」

 「さて質問の続きだったな前原。どうして玲人が単独で任務に就いているか、複数の小隊としないのか、という事だが」

 「……はい」


 「必要ないし、全く効果的じゃない。もっとも玲人は一言もそんな事は絶対言わないが、周りの連中、つまりあたしや安中大佐はそう判断している。実際あたしも玲人と一緒に出撃を何度もしているけど、自分で分るわ。こいつの前では完全足手まといなんだよ」


 此処で今まで黙っていた玲人が梨沙にフォローする。


 「坂井少尉。自分は少尉や他の兵士の事を足手まとい等とは思っていません」


 「分ってるさ、玲人。お前はそういう奴だ。だが、効果的でないのは事実。何でも適材適所って奴があるだろ、ソレだよソレ。玲人。お前は単独で突っ走るのが効果的だし、他の小隊はその能力を生かせる所で任務に就けばいいと上は考えている。だけど、いつまでもお前一人に押し付ける訳に行かない。もうだいぶ遅いと思うけど、大佐はアレでもお前の事を考えて準備してくれた。……それが彼らだ」


 その様に言いながら梨沙は玲人以外の4人を順にみる。


 「大佐は平均的な能力を持つ隊員を沢山集めても効果的でないと思ったんだ。だから、特別に“出来る奴”を集めた方がお前の足を乱さず、それぞれの能力が十分生かせると考えたんだと思う。彼らの能力は非常に突出したレベルにある。頼りになる連中だよ」


 坂井は、横に居た前原の肩をバンバン叩いて4人を称えた。称賛された4人も満更ではない様子だった。


 「とにかく明日は模擬戦だ。皆今の内に休息を取って明日に備えてくれ」


 そう言って梨沙は食堂を後にした。残された5人は食事をしながら、銘々意見を言い合う。伊藤と志穂は互いに罵り合っていたが。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ