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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
4章 模擬戦(対現代兵器戦)
24/386

24)職場にて

 ここで時を一日ほど遡る。玲人は、自分が籍を置く自衛軍駐屯基地の一室に居た。小春との下校中、安中が指揮する支援部隊に連れられてこの駐屯基地に来た後は、別動部隊の現地確認の後にVTOL機で任務の為現場に急行した。


 以前よりマークしていた反政府組織が、テロ実行に出る可能性が高まった為、玲人はいつもの様に単独で壊滅作戦を実行したのであった。その後、回収作業に時間が掛かり結局玲人が所属する駐屯基地に戻ってきたのは夜が明けた後であった。


 戻ってきた玲人は作戦司令室で報告を終えた後、何故か今日はいつもの様に自宅へは帰らせて貰えず、駐屯地内の寮で仮眠休憩の後に作戦準備室で待機を命ぜられた。


 玲人は仁那が心配だったが薫子に連絡した所、仁那の体調は安定しているとの事だったので、取敢えず安心して命令の通り寮で仮眠を取った。


  十分な仮眠を取った玲人は、少し早いが作戦準備室にて待機する事にした。向こうで学校の課題等を済ます心算だったからだ。


  玲人は寝巻のジャージから学生服に着替えた後、作戦準備室に向かったが、その道中で声を掛けられた。


 「玲人君! 久しぶり!」


 明るく声を掛けたのは、事務服を着た桜葉葵だった。


 桜葉はとても可愛らしい雰囲気を持ったセミロングのうら若い女性で、民間から採用されこの駐屯地に事務官として勤務していた。


 任務に就いている玲人と何度か顔を合わす内に、明るくて積極的な桜葉により無愛想だが誠実で素直な玲人は弟ポジションで可愛がられる様になった。


 声を掛けられた玲人は桜葉と挨拶を交わす。


「桜葉さん、どうもこんにちは」

 「ええ、こんにちはー。玲人君は今から任務なの?」

 「いえ、そういう訳でなく任務の途中って感じです」


 そう言って玲人は守秘義務に抵触しない範囲で桜葉に自分の状況を話す。


 「……へぇーそう、待機させれてるんだ。早く帰りたいよね……。皆、玲人君が中学生って事忘れてるじゃない? 絶対おかしいよ。私から梨沙さんに言ってあげようか?」


 桜葉は、女性ながら男気が有り話しやすい坂井梨沙少尉と、とても仲が良かった。


 「有難う御座います、桜葉さん。でも大丈夫です。自分で望んで任務に就かせて貰っていますし、何か有れば自分から上申しますから」


 「そうかー。何か有れば何時でも桜葉お姉さんに頼ってね。文句位なら安中さんに言ってあげるから!」

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 「いつも気遣って頂き有難うございます」

 「返しが固いよ! 私と玲人君の仲でしょう。また、今度ランチ食べようね」

 「はい、是非お願いします。村井さんにも宜しくお伝え下さい」


 玲人が言った、村井は桜葉の先輩に当たる女性事務官で、名前を村井京香と言う。玲人が幼い時から桜葉同様、何かと目を掛けてくれる優しく面倒見のいい女性だった。


 「うん、言っとくよ。京香さんも一緒にランチ誘うね!」


 そう言って桜葉は手を振りながら去って行った。


 桜葉と別れた玲人は、指定された作戦準備室に到着した。指示された時間よりまだ早い為、玲人は学校の課題を此処で済まそうと考えていた。


 学生尚で且つ未成年である玲人を任務に就かせる事自体とんでもない話だが、これには事情が有った。


 第三次大戦時に先制核攻撃を受けたこの国は圧倒的に防衛戦力が不足する事態になった。他の友好国も同じ状況で、先制攻撃を受けた友好国は自国の安全を最優先し、他国の安全保障にかまける余裕等無かった。


 友好国からの防衛が期待出来なかった状況の中、大戦の影響で分裂した近隣国がこの国に軍事的侵攻を行い始めた。その為、そう言った脅威に自国で対処する為、当時の暫定政府が自衛軍を組織した。


 その際に自国の戦力不足を回避する為、志願者を中心に健康で基準を満たす者を、自衛軍に積極的に徴用する制度が採用された。


 同じく未成年も予備隊として徴用する制度を設けたのだった。そんな大戦中の影響で、家族を亡くした多くの未成年達が、様々な理由で予備隊に徴用された。


 予備隊に入隊した少年少女達は、後方部隊に配置されたが奇襲や爆撃を受けたりして、結果的に戦火に巻き込まれ、志半ばに多くの者達が死んでいった。


 やがて大戦が終わり、安中や坂井達等、帰る場所の無い多くの予備隊員がそのまま正規軍として残る事になったのであった。


 大戦後のこの時代でも、テロなどの脅威は国内に残り、自衛軍の戦力不足は慢性的だった。その為、未成年の予備隊制度は廃止されなかった。


 圧倒的な戦闘能力を持つ玲人はそうした悪しき制度により、幼少期より自衛軍の任務に就いていたのだった。


 玲人は作戦準備室で、持参してきた学校の課題を終わらせ予習も行った。叔父の弘樹に借りた小説を読み終わり、少し暇を持て余したので携帯端末で、この前見つけたお気に入りの詩吟を聞く。時間にして夕方位だった。


 其処に見慣れない軍服の男女がこの部屋にやってきた。どちらも20代前半位だろうか、男の方はツーブロックショートヘアの髪型をしており爽やかそうな青年だ。女性の方はシンプルなショートヘアのさっぱりした感じの美人だった。


 男の方が玲人に声を掛ける。


 「あれ? 君は学生か?」

 「……ええ」


 玲人は詩吟を聞きながら答える。


 「こんな時間にここに居るという事は、誰かのお子さんかな? 学生服を着ているけど、誰かと一緒の帰るのを待ってるとか」


 今度は女性の方が男の方に疑問を投げかける。


 「多分そうだろう……。君も待たされて災難だな?」

 「……いえ、良くある事なので」

 「……そうか。所で此処は作戦準備室だ。別室の食堂に案内しようか? と言っても俺達も此処に配属されたばかりだから勝手がわからんが」

 「……問題ありません。自分は此処で待機するよう言われたので」

 「そうか」

 「ところで君、何を端末で聞いてるの?」


 女性が気を使って玲人に聞いてきた。


 「親しい友人に勧められたサイトで自分なに合う曲を探して聞いています」

 「そうかー、ちょっと聞かせてくれない」

 「どうぞ」


 イヤホンから“……夜にー”と詩吟のフレーズが流れている。


 「……これ! 演歌じゃん!」

 「いえ、詩吟と言うらしいです」

 「あんまり変わらんだろ」


 男女が互いに玲人に突っ込みを入れる。


 「仕方ない。俺のお勧めを聞かせてやるよ」


 そう言って男の方が玲人の携帯端末を操作してお気に入りのロックバンドのプロモーションビデオを玲人に見せた。


 「演歌より断然こっちの方がいいぞ!」

 「……この男達はどうして楽器を持って首を振り、飛んだり跳ねたりしてるんですか? この行動に何の意味が……」

 「いやいやいや、これは曲の一体感を出すっていうかギターの感情表現っていうか……何言わすんだよ」


 男は自分で説明してて何だか恥ずかしそうにしている。


 「……でも君の聞いてる詩吟? は余りに動きが無いよ。抑揚が無いというか」

 「落ち着くでしょう」

 「うーん、そうかなー」



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