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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
2章 彼氏の日常
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18)大御門家

 色んな事があったが、小春の勉強会は終了し玲人を小春の母、恵理子が車で送る事になった。

 “送って頂かなくていい”と玲人は断ったが、恵理子は頑として引かず、何故か石川家総員で行くことになった。車を発進させた恵理子は玲人に送り先を訪ねる。


 「……玲人君、どっち方面に送ればいいのかしら」

 「大御門総合病院前でお願いします」

 「でも、その辺りって住宅も何も無い丘の上よ。家まで送るから遠慮しないで」

 「いいえ、自分は其処に住んでますので」

 「えっ 誰か入院してるの?」

 「いえ、病院敷地内に離れ家があり、其処に姉と叔母と住んでいます」


 恵理子は車を脇道に止めて、玲人の方を振り向いて聞き直した。


 「……もしかして、玲人君って大御門家財閥の御曹司!?」

 「いえ、現当主は叔父の弘樹です。自分と姉は亡くなった前当主大御門剛三の孫に当たりますので直系尊属とかいう部類です」

 「思いっきり超セレブじゃないですか!」


 突然、後ろに乗っていた陽菜が騒ぎ出す。そして、


 “残念男子どころか、コレとんでもないオプション付いてるよ……姉よ、でかした!”


 等と呟いている。母恵理子も急に動揺しだした。


 「おおおお坊ちゃま、とお呼びしたほうがいい?」

 「ママ、ふざけてないで運転して!」


 小春が遂にキレて母に突っ込んだ。


 「でも、凄いなー。この辺りに大御門の人は多かったから、本家の遠い親戚位かと思ってたけど、まさか大御門本家直系の人とは思わなかったわ」


 割に影響されやすい恵理子が興奮冷めやらず、話を続ける。


 「それで、玲人君も将来は叔父さんのお手伝いとかするの?」

 「いいえ、今自分には行うべき事があり、そちらを最優先にしたいと考えています。叔父も叔母もその事は理解しており、基本的に自由にしています。それに叔父の弘樹には最近男子が生れましたので、いずれ甥っ子の大樹が大御門家を継ぐでしょう」

 「へーそうなの。でも色々考えて凄いわね……小春も見習わないとだね」


 恵理子がそう締め(くく)る頃には車は大御門総合病院に近づいた。大御門総合病院は丘陵地帯に設けられていた。病院には駅までの巡回バスや車での来院が多い病院だ。


 病院前で女性が立っている。叔母の薫子だった。玲人からの連絡を受けて彼を門まで迎えに来た様だ。小春の母は先生でもある薫子に丁寧に挨拶し、薫子もそれに答えて挨拶した。そして玲人は薫子と一緒に病院内に入って行った。


 その様子を石川家総員で見送った恵理子は、玲人達の姿が見えなくなってから、小春に近づき、満面の笑顔で言った。


 「小春! 早く玲人君と婚約しなさい!」


 母の俗物っぷりに呆れた小春が母の額にチョップをかました。


 帰りの車の中、今だ興奮冷めやらない、俗物母恵理子と俗物妹陽菜が玲人の事を話している。


 「この辺りでは大御門って人多いけど、まさかの! 大御門地方財閥御曹司とは! ハハハ流石わが娘! 最高!」

 「流石わが姉最高! そして玲人君、ゴメンなさい、脳内で残念とかアホとか罵って! ……どうか打ち首にしないで下さい」

 「ちょっと陽菜、玲人君の事そんな風に思ってたの? 明日玲人君に言ってやろ!」

 「ああやめて! 小春お姉さま! 打ち首にされる!」

 「小春! 陽菜を許してあげて。小春があんまりお子様だから、陽菜が心配して警戒しただけ……アイタッ」


 恵理子の悪ふざけに小春のチョップが恵理子の後頭部に炸裂した。そんな楽しげな石川家の車内の様子を小春が持ってきた一つ目ちゃんはずっと見ていた……


 石川家に帰ってきた後、小春はお風呂上って自室に戻ろうとした時、リビングに1人座っていた母の恵理子に呼び止められた。妹の陽菜はもう就寝中だ。


 「どうしたの、ママ」

 「……小春には話しした方がいいかなって思ってね」

 「何を?」

 「玲人君の事」

 「……どういう事?」

 「ねぇ小春。小春は玲人君の事、本気なの?」

 「えええ……な、なに聞いてくるの……」

    

 母は真剣な顔つきで、先ほどの車内で見せた様なふざけた態度は取っていない。怖いくらい真顔で話している。


 「どんな答えでも私は小春の意見を尊重するわ」

 「……ママ。うん、分った。うまく、言えないけど、多分、その本気……」


 そう俯きながら答える小春の手には一つ目ちゃんが握られていた。


 「……そう。小春ね、ママちょっと嫌なこと言うから怒るだろうけど聞いて」

 「……何?」


 「玲人君はとってもいい子よ。誠実で優しくて、本当にいい子だと思うわ。あの子ならパパも絶対喜んでくれる。……でもね、あの大御門の本家は昔から良くない噂があるの」

 「えっ」

 「小春が大きくなって玲人君と付き合いを続けて取り返しがつかない段階になった時、悲しい気持ちにならない様あえてお母さんとしてママは今、言うわ……玲人君と本気で付き合うなら覚悟が必要よ」


 「……ママ」

 「地方財閥だから、何てつまらない事じゃ無い。ママね、小春も知ってると思うけどお婆ちゃんと大人になるまでこの辺りに住んでたから、あの家の噂は昔から色々聞いてるの。そして最後は14年前。あの時、私はこの辺のアパートでパパと暮らしてたの……だからあの時の事ははっきり覚えてる。あの時、理由は分らないけど大きなニュースにもなってない大変な事が起こってね。多分蒸し返さない様に、政府の偉い人が決めてるんでしょうけど」


 「え、どういう事……」

 「14年前、大御門の本家お屋敷で大爆発があってね。物凄く沢山の人が死んじゃったのよ。その時の事故で、大御門の当主さんや偉い人たちは皆死んじゃって、生き残った人達はほんの僅かだったって話。それが玲人君達だと思うわ」


 「……まさか、そんな」

 「その爆発の原因は、その時のニュースではね、テロだって言ってたわ」

 「そ、それじゃ、玲人君のお父さんやお母さんが死んじゃったのって、わたし達と同じなの?」

 「そういう事、なのでしょうね。14年前は政府も無茶苦茶だったから碌に調べもしなかったけど」

 「そう、だったんだ……」

 「14年前の事件の後、大御門の悪い噂は聞かなくなったわ。玲人君の叔父さんはとってもいい人なんだと思う。だけど」

 「まだ、何かあるの……」

 「うん……今の大御門は本当良くなったって皆、昔を知る人は良く言ってるわ。だけど代わりに自衛軍との繋がりが、とても強くなったって話を聞くわ」


 小春は今までの話で感じ入るモノがあった。それは東条がからかう玲人の軍人脳の話だ。確か、東条は言っていた筈だ。玲人の“おじいちゃん代わりの人が軍人さんらしい”と。 


 「…………」


 小春は考え込んで声が出せない様子だったが……そんな様子を見た、恵理子は微笑を浮かべて娘に話しかける。


 「ごめんね。脅かす様な事ばっかり言ってさっきも言ったけど14年前の事件以来、大御門家の色んな噂は無くなって、今は良くなったって昔ながらの人は言うから大丈夫だと思うわ。だけど古い大きな家、って言うのは伝統とか仕来りとか、何か色々あってね。小春がこれから大きくなって行く時に、そんな事に戸惑わない様にママは敢えてこんな事を言ったの。本当にゴメンね」


 恵理子は真摯に小春に謝罪した。小春は自分の事を思う恵理子の気持ちが正直、嬉しかった。


 「……ううん。ママ本当に有難う。玲人君自分の事余り話さないから、玲人君の事が少しだけ分った様な気がする。ママの言う通り、玲人君の事ちゃんと分ってから付き合っていければ、て思う」


 「そう! だったらママも応援しなくちゃね。うちのお嬢さまが、打ち首にされない様しっかり教育するわね」

 「……ほんと、冗談ばっか言って」


 母と娘は笑いあった。この時の話は、自室からこっそり階下に来ていた陽菜もしっかり聞いており、彼女自身も目を赤くしながら小春にエールを送るのだった。



いつも読んで頂き有難う御座います! ご指摘により誤字を見直しました。

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