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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
2章 彼氏の日常
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16)勉強会

 「小春、君には世話になってばかりだ。何か礼をしなければならない。もし良かったら寿司でも奢るが」


 (うわっどどどうしよう。またお礼イベントだよ、これ。寿司って回転寿司だろうけど奢って貰うなんてダメだな……)


 「れ、玲人君。もももし良かったら、勉強教えて貰えないかな。もうすぐ中間テストでしょ? 苦手な科目を中心に、あの、その家で教えてくれると……」

 「了解した。今日でも良ければ放課後させて貰うが」

 「そそそれじゃ、今日おお願いします……」

 

 小春は真っ赤になって俯くのが精一杯だった。玲人からすれば軍人脳の為、男女間の機微など分る筈も無く、勉強会は玲人にとっては悲しいかな唯の作業だった。


 寿司については特技准尉として功績を挙げている玲人は40代の大人並みの年収を手にしている為、叔父の弘樹と良く行く高級寿司店に連れて行く心算だったが、次回の機会にしようと玲人は思っていたのだった。


 「べ、勉強会で部屋に呼ぶ!? どどどうしたの! 小春!」


 小春が発生したお礼イベントを鮮やかにこなす姿に晴菜は驚愕した。オロオロした態度だった初めの姿からすると、とんでもない前進だ。


 「そ、そんな大した事じゃ無いよ。勉強を教えて貰うだけだよ」

 「へー大した事じゃないのかー。そしたらあたしも大御門君に一緒に勉強教えて貰おうかなー」

 「えっ だだだめだよ。今日はわたしが約束したんだから」


 悪ふざけをする晴菜に対し慌てて止めに入る小春だったが、そこに助け舟が入った。


 「松江さん。良かったら僕が教えるよ」

 「カ、カナメ! 本当にいいの!」


 横に居た東条カナメが見かねて晴菜に声を掛けた。


 「いいよ、何だったらカドちゃんと一緒に皆でやろうか?」

 「「…別にいいよ」」


 見事にハモった小春と晴菜だった。


 結局、晴菜と東条は一緒に図書館で勉強するらしく、晴菜はウキウキして東条と一緒に帰って行った。小春は家で玲人が来るのを待っていた。玲人曰く、寄る所が有るらしく後でいくとの事だったのでソワソワしながら家で待っていた


 同時に、部屋の中の見られたくない危険物(大好きな恋愛ゲームや子供っぽいアニメのグッズ等々)をクローゼットの中や引き出しに隠したりした。


 今日は幸いに母は仕事で居ない。母が居ると玲人に絶対絡んでくるから今日は居ない方が小春にとっては都合が良かった。祖母は、近所の友人と温泉旅行に行っている。居るのは陽菜だけだった。

 

 そうしている内に呼び鈴が鳴った。慌てて玄関に向かうと、先に陽菜が対応していた。


 「こんにちは」


 玲人が陽菜に挨拶をする。


 「こんにちは、いつもお姉ちゃんがお世話になっています」

 「こちらこそ小春にはお世話になっています」

 「小春?」

 「はい、小春です」


 陽菜の目が怪しく光った気がした。陽菜と玲人のやり取りの最中に玄関に辿り着いた小春は出遅れた事を心底後悔した。


 「これ、つまらない物ですが皆さんで食べて下さい」


 そう言って玲人は高級菓子折りを陽菜に出す。陽菜の目が一瞬動揺したが、すぐに冷静な対応を行う。


 「これは結構なものを有難う御座います。後で持って行かせて頂きます」

 「いえ、お気遣いなく」

 「ひ、陽菜。いいよ、ここはわたしがやっとくから。ああありがとう」

 「別にいいよ。私慣れてるし」

 「い、いや大丈夫だから。玲人君、早く中に入って」

 「玲人君?」

 「いいいや、ああの」


 またも陽菜の目が怪しさを増した。陽菜にお互いが下の名前で呼び合っている事を知られた小春は激しく狼狽したが、玲人は全く気にしていない。


 「お邪魔致します」

 「え、玲人君ちょっと、ま待って」


 小春は陽菜の好奇に満ちた視線の中、大いに慌てながら玲人を自室に連れ込む。


 「失礼する」

 「どどうぞ、そこに座って」

 「ああそうさせて貰う」

 「君の妹さんは確か小学校5年生だと言うが、しっかりしたお子さんだな」

 「それ言う玲人君自身も相当なモノだよ」


 若干疲れ気味で小春は答える。妹の陽菜は姉の自分よりしっかりしすぎて逆に怒られる位だが、目の前の玲人も心身共に同い年と思えない位落ち着いて立派だ。


 もっとも玲人の場合、中学生なのに大人に交じって任務に就いている為に同年代の子供達よりしっかりしているのは当然だった。

 

そんな玲人が机の上に教科書を並べ出して小春に問いかける。


 「今日は小春は何を教えて欲しい?」

 「うーん、いっぱいあるけど数学の一次関数の所を教えてくれる? 関数って聞くだけで頭が拒否するよ」

 「わかった。俺で良ければ教えよう」


 そうして玲人の授業が始まった。実は玲人は所謂、一般人に比べ知能指数が高い。もっとも高いのは知能だけでなく、体力、反応性や判断能力等も高かった。


 その為、同い年の子供達より全体的に抜きん出た能力を持っていた。但し、学校生活では玲人自身を目立たなくする必要がある為、そう言った能力を敢えて押さえて活動する様命令されていた。


 従って玲人は勉強でもスポーツでも本気を出す事が許されず、学校生活では達成感など感じられなかった。学校の成績も調整して上位程度で収めていた。


「……関数は関係性を表したもので、エックスとワイの関係がaとbにどう繋がるか考えて組み立てればいい。実際に書いてやってみよう」


そう言って玲人は例題を小春にゆっくりとやって見せる。


 「……式を求められるときは、与えられた値を代入した式を作って、aの値をまず求めて……」


 玲人は細かく丁寧に小春に教えていくのであった。小春は不謹慎であったが、玲人のこうした誠実な態度が大人びて、見惚れてしまっていた。


 「小春? 大丈夫か? 難しかったか?」


 急に玲人に正面から至近距離で心配そうに声を掛けられた。


 「はっ! だだだ大丈夫、大丈夫」

 「そうか? その割には課題のミスが多いな。少し詰め込み過ぎたか? ここで休憩にしようか」

 「ご、ごめんね。玲人君の教え方は全然良いんだけど、その、わたしが何か、色々いっぱいになってしまって……。ちょっと待ってて、キッチンで何か飲み……」


 小春が言い終わる前に小春のドアが“コンコン”とノックされた。


 「……失礼します」


 陽菜が絶妙なタイミングで飲み物と、さっき玲人が持ってきた菓子を出してきた。


 (陽菜め……、タイミング良すぎでしょ! もしかして横で聞いてた!?)


 小春が頬を膨らまして陽菜を睨むが、陽菜はどこ吹く風でスルーしていた。


 「……ありがとう。陽菜ちゃん、だったか?君も良かったら一緒にどうか?」


 玲人は気を使って陽菜を誘う。


 「……私の事は陽菜、で良いです」

 「え! ちょ、ちょっと陽菜あんた何……」

 「陽菜と呼んで下さい……」

 「ああ、陽菜。これでいいか」

 「はい、それで良いです」


 しっかり玲人の横に座った陽菜は、小春に睨まれながらも玲人の菓子を堪能した。その後引き続き勉強を続け、夕暮れ時になった。


 「すっかり遅くなった。小春、今日の所は終わりにしようか」

 「うん。今日は本当に有難う」



いつも読んで頂き有難う御座います。ご指摘により誤字を見直しました。

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