13)上官
玲人の持つ異能の力は意志の力により所謂“念動力”とでも言うような能力だ。その力により、物体を動かしたり、投付ける事が可能だ。同じ能力で自分自身を浮かして高速で飛行する事が出来る。また、この力を自らに付加して身体機能を大幅に増加する事が出来た。
対する仁那は対象のエネルギーを奪ったり増幅したりする事が出来た。人体に必要な内臓器官を持たない仁那が今まで生きてこれたのは他の生き物の生命エネルギーを直接吸収する事が出来るからだ。また、仁那は検知能力も優れていた。
その為、仁那は全てでは無いが大きな悪意や意志を感じ取れるのか、テロが発生しそうな場所やテロ組織が潜伏する場所等を検知できた。
仁那は “目”を通して、玲人と繋がっており、仁那が検知したものを玲人に伝えたり、玲人の力を増幅する事が可能だった。もっとも仁那は有る理由により軍務を嫌がり、代わりに積極的に軍務に就く玲人のフォローを担当していた。
それでも玲人単体での異能の力は非常に強力で且つ、玲人の性格によるものかその能力も戦闘に合致していた。玲人と仁那の二人の異能の力は、テロ組織殲滅に非常に貢献していたのであった。
玲人は時速数百キロもの高速で闇夜を飛行して移動している。身体強化と障壁展開により空気摩擦の影響を軽減している為、何時間でも移動は可能だった。
通常は作戦域の近傍までVTOL機等の移動手段を用いるが、今回の作戦域は本部から比較的に近かった為、こうして自らが飛行して移動していた。
飛行を始めて20分程度で作戦本部のある自衛軍駐屯基地に着いた。そしてそのまま、作戦司令室まで向かう。そこで玲人を出迎えたのはまだ若い一人の男だ。
男は安中拓馬大佐。玲人と仁那とは生まれた時から付き合いのある男だ。安中大佐が玲人に声を掛ける。
「大御門准尉、敵勢力の制圧任務ご苦労だった。報告を聞こうか」
「はい、大佐殿。仁那技官の“検知”通り隣県の廃工場となっている鉄工所が、今回の対象勢力が潜伏する拠点でした。対象勢力は32名。ほぼ全員がアサルトライフルや小銃を保持し、グレネードや手榴弾も保持している者もいました。今回は制圧が目的でしたので断定は出来ませんが背後には支援勢力として“真国同盟”が居るものと考えられます」
「そう思う理由を聞こう」
「ハッ 今回の対象勢力が保持していた銃火器が真国同盟が好んで用いる兵装です。また拠点には真国同盟が掲げるシンボルも見受けられました。無力化した敵勢力の錬度も低くありません。幾度かの介入があったものと自分は思いました」
「確かに良くある状況だ。後は別部隊の方で調査させよう。他には何かあるか?」
「いえ、特には」
「仁那君の検知後、別動部隊に裏を取らせて、君に急襲してもらった訳だが……単独で突入後数分でアサルトを持った数十人の兵士を無力化とは……相変わらず凄まじい」
「恐縮です」
「ご苦労だった。今日の所は送らせるから“タテアナ基地”に戻りなさい」
「大佐殿、自分を送って頂く必要はありません」
「そういう訳にはいかない。唯でさえ君達姉弟には我々自衛軍は負担を掛けている。君達はまだ、未成年だ。本来なら君達にこんな任務を与えるべきでは無いが……」
「安中大佐殿、以前から何度も言っている通り、この件は自分が望んでいる事です。それにお言葉ですが、大佐殿も志願兵として自分と同じ年位から戦場に立っていたと聞きましたが」
「私の事はいい。あの時は大戦勃発後で家族も友人も失って戦場しか私の居場所が無かったからだ。若くして既に准尉である君とは違う」
「大佐殿も功績を上げられ、尚且つ難関な幹部候補課程に合格し、若くして少尉のお立場であったと認識していますが」
「年齢が違うだろ」
「大差ないです」
「何でもいいから送らせろ。私が奥田中将閣下に叱られてしまう」
「自分で飛んで帰った方が早くタテアナ基地に着きます」
「こら、ダメだ。迷彩機能のあるスーツを脱いで帰るのに第三者に飛行している所を見られたらどうする? 以前から言っているだろう、任務以外では能力の発動は禁止だと」
「……面倒だな」
「なにか、言ったか」
「いえ。何も」
安中と玲人は付き合いは玲人が生れた時からあり、互いの気心も良く知れている。冗談めいたやり取りの中、結局玲人が車で家まで送られる事になった。
私服に着替えた玲人が正門前に出ると、大きなSUVタイプの車が停車していた。
「おーい、玲人!」
元気な声がして手を振っている女性がいる。安中の部下である坂井梨沙少尉だ。梨沙はクールショートの髪型で整った顔立ちの美人であるが、軍隊生活が長い為か言動が男勝りで、男性より女性から興味を持たれる様な人柄だった。
「玲人、乗りな! 姉ちゃんとこまで送ってやる」
「坂井少尉、有難うございます」
梨沙は玲人を助手席に乗せると車を走らせ玲人の住処であるタテアナに向かった。タテアナは通称であり正式名は“大御門総合病院敷地内地下特別隔離施設分隊駐屯基地”というが、正式名が長すぎるので通称タテアナと呼ばれている。
タテアナ基地はある理由により地下シェルターとしての構造が必要なため細長い形状をしている。その最深部で玲人と、姉である仁那は住んでいた。
車内で梨沙が玲人に話し掛ける。
「玲人、今日も大活躍だったらしいな。拓馬に聞いたぞ」
拓馬というのは安中大佐の事だ。梨沙は安中大佐とは軍に入隊してからの同期だ。
入隊後華々しい戦果を収め、尚且つ幹部候補課程を経たエリートの安中と、通常の軍隊生活をしていた梨沙とは性別が違うという事もあり本来接点も無い筈だったが、安中と梨沙は昔から浅からぬ縁が有った様だ。
そして梨沙が8年ほど前にこの駐屯地に戻ってから、色々有って安中と梨沙は友人から……恋仲になり、今に至っていた。
そんな梨沙は玲人の話を続ける。
「お前の、あの針! すげーよな、また今度あたしにも見せてくれよ」
「坂井少尉、自分のは芸ではありませんよ」
「いいじゃねぇかよ。減らねぇんだろ、お前のあの芸」
「減りませんがあの芸は」
「何だよ、芸って認めてんじゃん」
そうこうしている内に梨沙が運転するSUV車は大御門病院に到着した。
「ありがとうございました、坂井少尉」
礼を言う玲人に対し、梨沙は神妙な顔をしている。
「……なぁ、玲人。仁那ちゃん、具合良くねぇのか」
「……確かに最近は進行が進んでいます。ですが薫子さんが頑張ってるので大丈夫です」
「そうか……何か有ったら、あたしに言えよ! 何が出来るかわかんねぇけど」
「ええ。坂井少尉なら、安中大佐より頼りになります」
「アハハ! アイツに言っといてやるぞ」
「自分が言った通りに伝えて下さい」
「じゃーな! 玲人。仁那ちゃんと薫子に宜しくな。お疲れ!」
そう大きな声で言って、梨沙は自慢のSUV車で去って行った。
梨沙は昔から、玲人と仁那を可愛がっており、仁那自身も梨沙に懐いていた。忌憚なく玲人と仁那と付き合う梨沙に年齢が近い薫子も親友になるのに時間は掛からなかった。
玲人は梨沙の元気良さが嫌いでは無い。いや、今の自衛軍自体の居心地の良さが好きだった。
恐らく今の玲人の過酷な軍務状況と過去の極悪な環境を自衛軍内で改革した結果、今の居心地の良さを提供してくれているのだろうが、それでも玲人は感謝していた。
もう余り覚えていないが、新見が居た頃は玲人と仁那は、新見が使う武器としての部品扱いだった。名前で無く番号で呼ばれ、新見が命令した通り、対象戦力を殲滅させられていた。
姉の仁那はその過去に怯え自責の念を抱いている。そしてそれを行わせた新見に対し、仁那は激しい恐怖と嫌悪感を抱いている。
「早く、奴を殺さねば」
唯でさえ、崩壊が進んでいる姉の仁那にこれ以上負担を掛けられない。そう思っていた玲人は、決意を新たに強く抱いていた。
見苦しい点を随時直しております。文才が無く申し訳ありません。
PS:ご指摘により見直しました。また、改めて一部修正しました。