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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
2章 彼氏の日常
12/386

12)隻眼

改訂を行なっている次第です。一部小さい所ですが見直しています。

 一方、玲人はとある廃工場に居た。その姿は真黒いスーツに真黒い流線型形状のヘルメット姿という出で立ちだ。ヘルメットの眉間部分に生々しい隻眼の目が輝いている、という異様な姿だった。


 隻眼の目は仁那からの“目”であり、それがヘルメットの眉間部分にはめ込む様に取り付けられていた。“目”通じて仁那と玲人の感覚を共有する為だ。


 よく見れば少し分厚い手甲の様なリストバンドが両手首に装備されていた。そして、腰には小さな円筒状の部品が数十個取り付けられたスカートの様にブラケットが左右につけられ、そして両肩には真黒い鉈の様なモノが装備されていた。異形の姿の玲人の眼下には蠢く者がいた。


……数多の人間だ。数十人は居るだろうか? 皆、両手首、両足に長い針の様なモノが刺さり痛みに悶えていた。


 転がっている彼らの傍には銃器やナイフといった物騒なものが転がっている。善良な人間達とは思えない状況だ。玲人は何も感じていない様で、静かに暗闇に佇む。周囲は呻き声しか聞こえない。

 静寂の中、通信が入る。


 『こちら作戦本部、“隻眼”現状況の報告を求む』


 玲人は答える。


 「こちら“隻眼”。敵性部隊の無力化を完了。回収部隊の派遣を求む」

 『了解、“隻眼”。回収部隊の到着まで待機せよ』

 「了解」


 半時間程すると回収部隊の軍用輸送車が現場に到着する。


 「ご、ご苦労様です。准尉」


 若い兵士が玲人に敬礼する。回収部隊の隊長だという彼はどことなく緊張している。


 玲人の方がこの兵士よりずっと年下だが、兵役期間と実戦経験の長さがまるで違う事と、玲人が持つ特殊能力により圧倒的な作戦遂行率を収めている事より、玲人は特技技官准尉という立場になっている為だろう。


 この若い隊長の場合はそう言った玲人の立場より、異様な容姿に圧倒されていた様だ。圧倒されている隊長に玲人が答える。


 「ご苦労様です。無力化した敵勢力の回収をお願いします」

 「了解しました! 只今より回収作業に移行します」


 玲人が無力化したのはテロを計画する反政府団体だった。第三次大戦終了後、様々な理由でテロ犯罪は増加した。大戦の影響によりテロ行為は銃器や爆発物を使用される事が、主になり警察力では対応が出来なかった。


 大戦後、この国の首都に受けた核攻撃の為瓦解した前政権の後に生じた暫定政権が発足させた“自衛軍”がテロ行為の対応に当たる事になったが、対応当初は後手に回り、尽力空しく大きな被害を出していた。


 そこで登場したのが“彼ら”だった。


 ――大御門玲人特技准尉とその補佐の大御門仁那技官だった。彼らは特異な生まれにより持っている特殊能力で、圧倒的な成果を上げていた。


 その特殊能力とは――

 

 回収部隊は玲人により無力化された敵勢力(テロ組織構成員)を担架にて運搬していたそんな中、大きな怒号が聞こえる。


 「動くな!!」


 皆が声がした方に振り返ると、担架で運ばれていた筈の構成員の男がアーミーナイフを回収部隊の首筋に当てて羽交い絞めにしている。両手首と両足には針が刺さったままだが痛みに耐えながらの暴挙だ。


 「銃を、銃をこっちに寄越せ!」


 構成員は回収部隊の自動小銃を奪うと、両手足の針を抜き、その場に居た構成員を自由にするよう促す。


 そんな最悪の状況の中、玲人は何も感じて無いかの様に、立っている。構成員達は、そんな玲人に当然の様に目を付けた。構成員達に針を突き刺したのは玲人だったからだ。


 「黒スーツのお前! お前だけは殺す!」


 自由になった構成員達は奪った自動小銃を玲人に向かって一斉に発砲し、数十発の銃弾が玲人を襲う。本来ならこの時点で玲人の人生は潰えた筈だ。しかし、そうはならなかった。


 玲人を貫く筈の数十発の弾丸は、気だるげに立つ玲人の眼前で停止していた。


  ……空中で。


 「馬鹿な!!」


 発砲した構成員の男が叫ぶ。他の男たちは声も出ない。回収部隊の隊員も同じだ。


 「返すぞ」


 沈黙を破り、玲人が呟き指先をつい、と動かす。すると止まっていた弾丸がとてつもないスピードで動き発砲した男たちに一斉に襲い掛かる。


 「ぐあ!!」「ギャア!!」「あぐぅ!」


 自ら発砲した弾丸に貫かれた構成員の男たちは大声で叫び地面をのた打ち回った。貫いた弾丸は何れも男たちの急所を外し、玲人が先刻放った針同様、手足をぶち抜いていた。玲人が狙った結果だった。


 「ば、化け物め!」


 騒ぎに紛れ、拘束を免れた別な構成員の男たちが玲人の異能を見て思わず叫び、回収隊員から奪った自動小銃を構え様とする。しかし構える前に、玲人が左手の親指と人差し指をそっと優しく挟むような仕草をした。


 すると、“メキャ!!”と破砕音がして、構成員達が持つ奪われた銃は巨大なプレス機に挟まれたかの様に、一瞬で圧潰した。


 余りの状況に、自由になった構成達も、劣勢になったはずの回収隊員も声を失った。そんな中、玲人は無言で右手を上げる。するとリストバンドからキラキラしたモノが独りでに大量に浮かび、玲人の周りに円状に配置され静止する。


 ……それは全長5センチ程度の銀色の針だった。


 「俺にとっては投付けるものは別に車だろうが電信柱だろうが大差ない。敢えてそうしないのはお前達を殺さない為だ。その為にこの針は殺傷能力を押さえる様、小さくしている。最低限の痛みで無力化する為に両手足のみを狙ったが、お前達には手緩(てぬる)かった様だ」


 そう言って、右手の人差し指をくい、と動かすと、静止していた大量の針は構成員の男達、全員の両手足の腕や肩、太ももやすねに容赦なく突き刺さった……構成員達は両手両足の到る所に玲人が放った大量が突き刺さり、苦悶の声を上げて転がっていた。


 今度は一切の反抗は出来ない状況だ。彼らには痛みでのた打ち回るしか無かったのだから。


 「これが、これが“隻眼”か……!」


 古株の回収班隊員が思わず唸る。先ほど玲人が異能の力で展開した、無数の針と、眼下に転がる構成員達に大量に突き刺さった針。


 異能にて圧倒的な戦闘力でテロ組織を殲滅させてきた玲人は、彼が纏う隻眼のスーツから、“隻眼”と言われる事となり、暗号名にも定着した。玲人本人は何と呼ばれ様がお構いなしなので、自然と決定事項になってしまったのだった。


 回収隊員が再度、回収作業に入る。全員が声も出さず青い顔で作業している。皆、恐ろしいモノを見た、という気持ちの様だ。


 玲人はそんな回収班の様子を眺めながら周囲の警戒を行うのであった。そんな玲人が一言呟く。


 「……新見、お前はどこに居る?」


 玲人は今回のテロを計画したテロ組織構成員など歯牙にも掛けなかった。玲人が倒したい人間はただ一人だった。その男の名前は元自衛軍の新見宗助という。


 彼は自衛軍の中で大佐という上級幹部の立場を利用し、大御門家の実験で生まれた玲人と仁那を、生まれた瞬間から兵器として利用した。彼らを使って多くの殲滅作戦を実行し、最後にはこの国の転覆を謀ろうとした男だ。


 彼を倒さなければ、仁那とこの国に平安は訪れない。玲人はその為に軍に所属し戦っていた。もっとも彼にとって、国の事より、姉の仁那の安全の為が唯一の動機で、玲人のとっては今回の様な作戦は新見が軍を離れてから作った最大のテロ組織“真国同盟”の痕跡を追う為の目的が主だった。


 “真国同盟”はかつてこの国を侵略しようとした他国からの援助を受け、潤沢な活動資金と戦力を有しながら、自らは表に出ず下部組織等に今回の様なテロ行為を行わせる組織だ。小春の父親が巻き込まれた事件も真国同盟が関与する事件だった。


 真国同盟は軍も、警察も、最大限の警戒に当たる極めて危険度の高いテロ組織だった。


 回収班が輸送車に構成員達を運び終える。今度は何事も無さそうだ。玲人は本部に連絡を取る。


 「こちら“隻眼”、回収作業の完了を確認。本部に帰投する」

 『了解、“隻眼”本部に帰投せよ』


 帰投命令を受けた玲人は、回収部隊隊長にその旨を伝えた。


 「自分は今から本部に帰投します。護送任務宜しくお願いします」

 「じゅ、准尉殿、本部まではどの様にお戻りですか? もし宜しければ、拘置所に護送後本部までお送りしますが」

 「ありがとう。ですが自分で戻れますので問題ありません」


 そう言って玲人は、一瞬体を白く発行させた。すると玲人の体は浮き上がった。


 「それでは失礼します」


 一声掛けた玲人は凄まじい速度で空の彼方に飛んで行った。残された回収部隊員達は、全員驚愕し言葉を失ったのであった。



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