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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
2章 彼氏の日常
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11)怪物

 ……気が付くと、今日はいきなり仁那の前に居た。


 「久しぶりだね、仁那」

 「ごめんね、小春。最近調子が悪くて……中々繋げなかった……でも、やっと会えて嬉しい……」

 「わたしも嬉しい! 何故だろう? 仁那に会うととても安心する……」

 「不思議ね、私も同じ。そしてずっと、ずっと会いたかった気がする……」

 「……わたしも、何かそんな気がする」

 

 ひとしきり話し終えて、小春は思わず口にする。


 「本当に綺麗なトコだね。ここが心の世界だなんて信じられないよ」

 「この世界が綺麗という事は、小春あなたの心がとても美しいという事よ。そして心の世界と外の世界は合わせ鏡の様なモノ。だから外の世界でも小春はとっても綺麗なのね」

 「そそそんな事無いよ。外の世界ではわたしは平凡そのものだし、綺麗な人なんてもっと一杯いるよ」

 「そういう表面的な事を言ってるのでは無いわ。心から投影される言動が、所作が小春はきっとこの世界の様に綺麗なのだわ」

 「表面も頑張ってるから誉めてよー」


 小春は悪戯っぽく笑って見せた。


 「もちろん小春は外の世界でも素敵よ。とっても可愛いし。私と大違い」

 「でも仁那も物凄く綺麗だよ」

 「ありがとう。でも此処は心の世界だから、現実の私はとても醜いの。小春、あなたとはまるで違うわ」

 「そうなの? でも、あれ? 何か分かるよ、あなたの顔は同じでしょ? だったら全然綺麗じゃない! ……そうか体が花じゃ無いのね?」

 「……驚いた。私の心は見せて無いのに、そんな事まで分るんだ」

 「何かずるいよ? わたしの心は見てるのに」


 そう言って小春は頬を膨らまして見せた。


 「……御免なさい…… 事情があって私達の事はあまり言えないの」


 そう言って仁那は伏し目がちに呟いた。心底申し訳なさそうだ。


 だが小春にはどうしても聞きたいことがあった。


 「……玲人君はどこに行ったの?」

 「……ごめん、小春それは秘密なの。どうか分かって……あなたを守る為でもある……」


 そういった仁那に対し、小春は恐怖の感覚を感じ取った。仁那は何かに恐怖している。そして小春は思い出した初めて会話した、あの日玲人は、姉の為に休んでいる、と言っていた事を。


 「……もしかして玲人君はあなたの為に?」

 「……うん。そう、だと思う。私は動けないし、そして、誰も……傷付けたくない……玲人は私の為に、望んでしてくれてる……」


 そう言った仁那からは、強い後悔と自分を責め立てる感情が入り混じり感じ取れた。


 「……ごめんなさい、小春。私にはあなたに謝らなければならない事があると思う……だけど、私達の事は話す事が出来ない……」


 仁那はそう言って涙を零した。とても悲しそうに、そして美しく。小春は胸を締め付けられる思いがした。そして何故だか分らないが、こう思った。


 (この子を悲しませる事だけはしちゃいけない)


 「い、いいよ。誰だって人に言いにくい所あるもの」

 「こんな私の事、嫌がったりしない?」

 「だいじょうぶ。この世界が綺麗という事はあなたの心はとても綺麗、って事だよね? だからきっと仁那には何も謝る事なんかないよ」


 仁那は小春の言葉を聞いて、目を潤ませ言った。


 「もし、もし小春、あなたさえ良かったら外の世界でも、小春と会いたいわ」

 「わたし達、もう友達だよ。わたしも仁那と会いたいよ」

 「小春、もし、会う事が出来たなら……私を怖がって拒絶しないで! お願い!」


 仁那は縋る様な自信なさげな目で小春に訴えた。


 「うん! 約束する!」

 「小春……小春……会う事を、とても……楽しみに……」

 

 小春はそのまま、意識を失い深い眠りについた。

 

 ――同時刻。20畳位の広くて薄暗い空間に仁那は居た。そして仁那の横には薫子が居る。仁那の様子はかなり辛そうだ。小春の精神に入り込むのは仁那にとって消耗が激しいようだ。


 そんな仁那の姿だが、顔は小春に夢で見せた様に栗色のルーズウェーブの髪を持った美しい顔をしている。そして瞳の色は金色だった。


 しかし首から下は人に有る筈の体や四肢が無かった。代わりに首から動物の足状のモノや触手状のモノが何本も生え、蠢いていた。


 そしてそれらを包み込むように分厚い膜状のスカートの様な皮膚というか、カタツムリの外套膜の様な組織が生えていた。


 外套膜はスカートの様に広く円形状に広がり、その中心に仁那の顔があった。丁度テルテル坊主の頭を上にして床に座らした形だった。


 仁那が“座っている”所は、直径1.5m位の皿状のトレイであり、高さ1m位の台の上に置かれていた。トレイの中には薄水色の保護液が満たされており、仁那は丁度保護液に浸かっている様子だ。


 外套膜は大きく広がりを見せ表面には、あの“目”が沢山ついていた。この姿の仁那を誰が見ても思うだろう。



 “怪物”だと



 しかし横にいた薫子は、本当に愛おしそうに仁那の頬を撫でる。


 「ぐぅいぃぃうぉ」


 仁那が何かを喋るが言葉では無く音の様な唸り声を出す。同時に仁那の前方に据え付けられたディスプレイに文字が表示された。


 “くすぐったいよ、薫子”


 仁那は言葉らしい声は出せないが、表示端末によって自分の意志を表示出来る様だ。薫子が声を出して仁那に語りかける。


 「どうだった? 小春ちゃんは?」


 仁那は表示端末を通じて返答する。


 “薫子、私、小春が大好き、小春がいい、小春しかだめ“


 顔いっぱいに笑顔を浮かべ、興奮が収まらない様子で足や触手を蠢かす。ただ仁那の興奮と相反する様に外套膜の一部がずぶずぶと崩れ落ちるが、すぐに再生が始まる。


 「あらあら、ダメよ仁那ちゃん。興奮するとまた崩壊が早まるわ」


 はぁ、はぁと荒い息をして辛そうな顔をする仁那。具合が悪そうだ。そんな様子の仁那の顔を大切そうに抱きしめる薫子。


 「仁那ちゃん。あなたは何も心配しなくていいの。小春ちゃんはあなたの為に“用意された子”なのだから、きっとうまく行くわ」


 そういって薫子は傍らのデスクを眺める。其処には被害者家族への支援団体の“憩いの会”の援助対象者リストと、私立上賀茂学園の石川小春の個人データがあった。


 「何年も掛けて(ようや)くここまで来たの。大丈夫、絶対成功するわ」


 薫子は自分に言い聞かせるように呟き、仁那の顔をまた、撫でる。


 “薫子、小春にひどい事したらダメよ”


 仁那が心配そうな顔つきで薫子を見上げる。


 「大丈夫よ! 仁那ちゃんにとって大切な大切な小春ちゃんに、ひどい事する訳ないわよ。仁那ちゃんは何も心配しなくていいんだから」


 そういって仁那の顔を抱き締めた。薫子にとって仁那は何よりも大切な存在だった。


 (そう、小春ちゃんは大事……そう、大事な贄。何年も掛けて取り寄せた適合者の最後の一人。今までの子は、肉体的な適合を示しても精神的に仁那ちゃんを受け付けなかった。こんな深い所まで同調出来る子は恐らく居ない。そして仁那ちゃんの組織崩壊は早まっている……タイミング的に小春ちゃんに賭けるしかない)


 薫子の顔は次第に難しい顔になってきた。薫子は学生時代大学は文系だったが、仁那が生れてから仁那の為、医学科に専攻を変えた。


 医学博士号を取得した後、別な大学院にてバイオテクノロジーの博士号を取得した。薫子を衝き動かすのは、全て仁那の為だった。仁那を守ることだけが薫子の存在意義だった。


 そう、他の全てを切り捨てても仁那さえ居れば良かったのだった。薫子が難しい顔をしているのを気付いた、仁那が心配そうに声を掛ける。


 「うぅるぅおぅ」

 “薫子、大丈夫?”


 「ありがとう仁那ちゃん、何も心配いらないわ」


 薫子は仁那の頭を撫で仁那に答えた。


 「ところで仁那ちゃん。玲君の方はどんな感じか分かる?」

 “玲人なら少し前に終わった、って連絡あったわ。今回も外れだって”


 「そう、まだ新見元大佐は捕まらなかったのね……」


 薫子がそう呟いて横の仁那を見ると、仁那は震えて俯いていた。恐怖によるものだった


 「仁那ちゃん、怖がらなくてもいいわよ。此処はとっても頑丈だし、沢山の兵隊さんが守ってくれているし心配しなくていいわ。何より玲人君が頑張ってるでしょう?」


 そう言って薫子は仁那の顔をもう一度抱き締めた。

 “……分ってる、薫子。もう大丈夫……”

 「そうそう、何も怖くないからね。仁那ちゃんは体調を万全にしないと小春ちゃんには会えないわよ。ちょっと遅いけど食事にしましょう」


 “私も……小春に、早く会いたいわ”

 「その意気よ。それじゃ食事の準備をするわね」


 そう言って薫子は、奥の部屋から何かを連れて来た。生きた子羊だ。


 「今日の夜食は子羊のメリーちゃん12番よ。存分に召し上がれ」


 “……ごめんね……”


 仁那が子羊に謝りながら、触手の一本を伸ばす。触手が触れた瞬間、子羊はパタリと倒れそのまま動かなくなった。


 「あらあら。一匹じゃ足りないかしら」

 “今日はだいぶ消耗したから……早く小春に会いたい……会って“

 「会ってどうしたいの?」

 “……私は、小春になりたいの”

 「そうよ。とってもいい子ね」


 そう言って薫子は仁那の頬を撫でる。こうして夜は更ける。二人の少女の運命を乗せて。


改めてチェックすると文章がおかしいので見直しました。


PS:ご指摘により見直しました。

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