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隻眼殲滅兵器の婚約者  作者: 美里野 稲穂
2章 彼氏の日常
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10)薫子先生

 少し時が経ち、あれからずっと小春と玲人は一緒に登下校を続けた。特段大きな進展があった訳でもなかったが、小春としてはぎこちなさが消えて自然に接する事が出来る様になった気がした。


 仁那とはあれきり会えてない。何時でも夢の世界に行ける訳では無いようだ。だから小春は“一つ目ちゃん”に話し掛けたりして、仁那と繋がりを持とうとした。


 小春自身も理由は分らないが、何となく貰った“目”が仁那と小春、そして玲人を繋ぐ様に感じていたからだ。変わった事と言えば伊原恵美がクラスに戻ってきたが、小春には謝罪もせず堂々としていた為、晴菜がキレて大げんかになった。結局、間に神崎が入って取敢えずその場は収まった様な状態だった。


 そんなある日の午後だった。


 昼食後の国語の授業、多くのクラスメイトが眠たそうにしている。小春もその一人だ。玲人は眠気など全く感じてない様子で授業を受けている。そんな時だった。


 “チーチチチーチ・チチチーチ”


 小春は何か聞こえた様に感じた。はっと目を覚まして周りを見渡すと誰も気が付いていない様だ。ただ一人を除いて……玲人だ。今の音の様な、いや信号だろうか、それを聞き取った様だった。玲人の顔は今まで見た事が無いくらい、冷静で感情を消した様な表情だった。


 「先生、家の用事がありますので失礼します」


 突然、玲人が立ち上がり荷物を(まと)めだした。そして小春の方を見て、軽く一礼してそのまま出て行ってしまった。


 「またかよ、せんせーいいんですか? 大御門の奴」


 男子生徒の一人が抗議する。


 「後で保護者から連絡が来る。事情があるんだろう。居なくなった奴の事気にすんな」


 初老の国語教師は当たり前のように答え、授業は再開された。小春は玲人が余りに身近な存在になって忘れていたが、以前もこんな事が度々あった。


 (今まで、今まで気にならなかったけど、玲人君、いつも何の用事で居なくなるんだろう。そういえば学校の先生も止めた事無かったな、どういう、事なんだろう)


 小春は気になって授業どころでは無くなった。玲人の事を考えていると、あっという間に放課後になった。


 「どうしたのよ、アイツ」


 晴菜が横に居る東条に聞いた。


 「詳しくは知らないけど、小学校の頃からカドちゃん用事で抜け出してたなー。多分、学校も事情は知ってるから何も注意しないと思うよ」

 「ふーん、相変わらず謎の男ね」

 

 ここで晴菜と東条は部活があるから、と別行動になった。今日は仕方がないので小春は一人で帰る事にした。1か月ぶりだろうか、久しぶりの一人での下校。こんなに寂しいものだっただろうか。


 トボトボと歩いていると後ろからクラクションが“プッ プッ”と鳴らされた。振り返ると、可愛らしい形の小さな外国車に乗った女性が小さく手を振っている。


(誰だろう? どこかで見た気が……)


 女性が気さくに話しかけてくる。ボブカットでネガネを掛けた可愛らしい女性だ。よく見れば左手の薬指に婚約指輪を付けている。


「こんにちはー。今、下校中ね。私も今日は帰るから良かったら送って行くわ」

「えーっと、その え、遠慮します」


 女性はハッと気が付いて慌てて言い直した。


「あぁ! ごめんね。いきなり過ぎて覚えてないわね。見た事無い? 保険医でカウンセラーの大御門薫子よ」


  小晴は、アッと声を出した。そう言えば学校で見た事がある先生だ。そして確か、東条に小晴のフォローを頼んだ先生だった事も思い出した。


「あっ その、薫子先生 その」


 小晴は色んな情報を思い出して少しフリーズした。確かこの先生は気さくで優しく面倒見がいい事で、皆から“薫子先生”と呼ばれていた。


「今日は、玲君の代わりにあなたを送るわ。さぁ、乗って乗って!」


 笑顔で半ば無理やり車に乗せられた小春はそういえば、薫子先生が気になる事を言ったのを思い出した。


(玲君……玲君ってやっぱり玲人君の事? それに確か大御門、薫子って……)


 「ごめんね。詳しい事はあんまり周りに言ってないんだけど、私は玲君の叔母にあたるのよ」

 「えっ! そそうなんですか」

 「そーよ。だからあなたの事も、玲君から聞いてよーく知ってるわよ」

 「うぅ」


 思わず小春は赤面し、固まってしまった。


 他愛もない会話を続けて、小春の家の前で車は止まった。


 「それじゃ石川さん、さようなら」

 「あの 先生、どうも有難うございました」


 「いいの、いいの玲君だけじゃなく仁那ちゃんにも良くしてもらってるし。あなたがくれたお人形、仁那ちゃんとっても喜んでるわ」

 「いえ、そそんな」

 「そうそう、仁那ちゃんから伝言。“池の上で待ってるからまた会いに来て”だって。何の事かしら?」


 薫子は何も知らない風で可愛らしく首を傾げた。そして“また学校で会いましょうね”と言って、クラクションを鳴らして去って行った。

 

 家の中に入った小春はリビングのソファーに沈み込む様に寝ころんだ。頭の整理が付かない。


 (玲人君は何処に行ったの? 薫子先生が玲人君の叔母さん? 偶然……同じ学校……なの?)


 ソファーに寝転がっていると、陽菜がリビングに入ってきた。


 「あれ、どうしたのお姉ちゃん? まさか振られちゃったの!?」

 「ち、ちがうよ!」

 「そう、ならいいんだけど」


 そう言えば、いつも家に居るはずの祖母、絹江の姿がない。


 「あれ? おばあちゃんは?」

 「あれだよ、腰が痛いから病院に行ったよ」

 「へー、どこの病院」

 「なんかおっきい所行くって言ってたよ。確かね、大御門総合病院だよ」

 「え」

 「うん? お姉ちゃんどうしたの?」


 小春は又も混乱した。今まで余り気にした事無かったけど、この町は“大御門”の名前を聞く事が多かった。


 (ただの、偶然よね……)


 玲人の叔母が大御門薫子先生だった為、その名前に神経質になっているだけだろう、と小晴は考える事にした。


 (玲人君の事は明日、来た時に聞こう……うん。そうしよう)


 そしてその日は就寝した。いつもの様に夢の中で仁那に会えることを願いながら。



句読点や?の空白ミスの手直しをしました。

いつもありがとうございます。


PS:ご指摘により誤字を見直しました。

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