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ヴァンパイアの従者が現れた件

 サフィアがうちに来て二日目の朝だ。

 サフィアについて分かったことが一つ増えた。どうやら彼女の朝は早いらしい。

 今日も朝5時に起こされた。なんだこれデジャブか?昨日初めてあった時もこんな感じだったぞ。時間もだいたい同じ。

 それよりも今日は日曜日だというのに寝坊のなぜこんなに早くに起きなければならないのだろうか?


「おはようございます!春楽」


「……何時だと思ってるんだ?」


「5時ですね」


「……5時ですね。じゃねぇよ。なんでこんなに早く起きなきゃいけないんだ?」


「ヴァンパイアの朝は早いのです」


「それと俺が早く起きることにどう関係があるんだ?」


「実はサフィアは30分ほど前に起きていまして、髪をといて身だしなみも整えましたので紅茶を飲むことにしたのです。そこでぜひ、春楽にも紅茶を飲んでもらおうかと思ったのですが……。迷惑でしたか?」


 アーリーモーニングティーというやつか?紅茶なんて飲んだことないな。こんなに朝早くになんだとは思ったがサフィアには悪気がないどころかむしろ善意で起こしに来たようだ。それを断ることは出来ないな。


「なら、せっかくだしいただこうかな」


「はい、任せてください!では早速……」


「どうした?」


「……茶葉がないのです。それどころかサフィアの紅茶セットもないのです」


「先に言っておくがうちには紅茶なんてないからな?」


「……そんな」


 ……やることがなくなったな。さて、寝るか。

 床に座り込んで『……紅茶』と呟いているサフィアを横目に再び布団に入る。

 そんなに紅茶が好きなのか?


「……仕方ねぇな。紅茶ならコンビニで買ってきてやるからそんなに落ち込むなよ、な?」


「いいのですか?」


「これ以上俺の部屋で泣かれてると寝れないからな」


「なっ、泣いてなんかいません!」


 そんなサフィアの言葉を適当に流し寝巻きから着替えて準備を整え家を出た。

 コンビニは家から徒歩5,6分の所にある。

 日曜日の早朝というのもあって昨日よりもさらに人は少ない。

 日曜日のこんな時間にこの辺りを歩くことはないから新鮮な気分になった。いつも歩いている道でも時間や状況が変われば違って見えるのかと普段と少し違う近所の風景を見ながら歩いているとコンビニについた。


 外には商品の宣伝用ののぼりが立っている。

 軽快な入店を告げる音楽とともに自動ドアをくぐる。

 店内には二つレジがあるが今は一つしか機能していないようだ。店員も一人しかいない。


 この時間だとコンビニの中もいつもとは違った印象を与えられる。いつもならコンビニには常に2,3人ほど人がいる気がするが今は一人しかいないため妙にガランとした感じがする。深夜なら無人といってもいいかもしれない。


 店内を奥へ行きおにぎりや弁当などが陳列されているフロアまで進む店内奥の中程か。付近にはパンや酒類、即席麺隣にはアイスがある。

 そしてその中に紅茶を見つけた。


 と、言ってもその棚のほとんどはインスタントコーヒーで下の方に少しあった。


 ……そういえば種類とかよくわかんねぇな。

 まぁなんでもいいか。


 ふと思ったが特に気にすることなく目に付いたものを手に取りレジを済ませ帰路に着いた。

 518円(税込)かまぁまぁするな。


「買ってきてやったぞ」


「本当ですか!?ありがとうございます!!」


「ああ、種類とかよくわからなかったから適当に目に付いたものにしたけど問題ないよな?」


 わざわざ買ってきてやったのだこれで文句を言うようならキレてもいいよな?


「はい、これといって苦手なものもないので問題ありません。では、早速……」


「どうした?」


「……あの、春楽。買ってきてもらったところ言いにくいのですがこれ、紅茶ではありませんよ?」


「え?」


 確かにあの棚には他にもコーヒーとかあったけど紅茶とコーヒーを間違うはずがないし緑茶とかもあったか?それにしても間違うわけがない。


「春楽が買ってきたのは『カモミール』ですね。これは紅茶ではなくハーブティーですよ」


「ハーブティー?なんだそれ?紅茶とは違うのか?」


「違いますよ?紅茶は茶の木の葉……これを茶葉と言いますが、茶葉を使用していてそれを発酵させて作っているのです。一方のハーブティーは茶葉を使用していません。色々な植物の葉や茎などを使用しています」


「要するに紅茶は茶葉を使っていてハーブティーは茶葉を使ってないんだな?」


「一般的にはそうですね」


「……それは分かったんだが、このハーブティーどうするんだ?サフィアは飲んだりするのか?」


「ハーブティーは飲んだことないです。……ですが、物は試しです!サフィアが淹れますから飲んで見ましょう!」


 癖が強そうであまり気がすすまないな。

 コーヒーとかは飲めるんだが、未知の物には若干抵抗がある。


 サフィアにはわからないだろうからお湯を沸かしたりカップを用意したりは俺がやった。あとはハーブティーの方を準備するだけで電気ポットのお湯を注ぐだけなのだが一応サフィアには電気ポットの使い方を教えておいた。

 そこからはサフィアの出番だ。俺は先にテーブルについて出来上がるのを待つ。


 しばらくするとハーブティーが運ばれてきた。

 甘い香りが広がってきている。


「出来ましたよ。飲みましょう」


 湯気の立つティーカップを手に取り口に運ぶ。

 一口目は少し啜っただけだが熱いと思い味の方を確かめることが出来なかった。

 舌が少しヒリヒリするが次はゆっくりと注意して口に運ぶ。


 口に含んだ瞬間、運ばれてきたときに感じたのと同じ甘い香りが口内に広がっていった。熟れたリンゴのような甘さだ。

 これといった癖もなく飲みやすい。強いて言うならばこの甘さだろうか。甘い物が苦手だと言う人には少々キツイかもしれないが一般的には非常に飲みやすいだろう。


「あの、味はどうですか?」


 初めて飲むハーブティーの余韻に浸っているとサフィアが尋ねてきた。


「ああ、甘くて美味しい。すごく飲みやすい」


「良かったです。上手く淹れられたみたいですね」


 ……まさか、自分も初めて飲むからって人を実験体にしたのか?いや、違うか、自分が淹れたからその味の感想を聞きたかっただけだろう。

 それを聞いたサフィアもハーブティーを口に運ぶ。

 俺と違って軽く下を火傷しなかったようだ。普通に味わっている。


「本当ですね。特にこれといった癖もなく甘くて美味しいです。たまにはハーブティーもいいですね」


「……」


「あの、どうかしましたか?」


「単純な疑問なんだが、サフィアってヴァンパイアだよな?」


「はい、昨日それは認めてくれたはずですがまだ疑うのですか?」


「いや、まぁ、そうなんだが。なんというかその、血飲まなくて大丈夫なのか?さっきも紅茶が好きとか言ってたけど」


「そんなことでしたか。それなら心配には及びません!春楽達人間がサフィア達ヴァンパイアにどのようなイメージを持っているかは知りませんがさっきの発言から血を飲む=生命維持ということをイメージの一つとして持っているのですね。ですが、ヴァンパイアにとって生命維持は普通の食事です。血を飲むというのは人間でいうところのワインを嗜むというのと同じことです」


「ってことは趣味の領域かよ。堪ったもんじゃねぇな趣味で血飲まれるとか。サフィアも飲んだことあるのか?」


「はい、何度か。といっても血を飲むのはサフィアの趣味ではありませんしパーティなどで出されたときに飲む程度です」


「……それでも飲むのかよ」


 ティータイムは朝7時頃まで続いた。ちょうど母さんが起きてくるころだ。

 紅茶は飲めなかったがカモミールティーはありかもしれないな。


 俺とサフィアが朝食を食べ始めたころ親父も起きてきて一緒に朝食を食べる。


「そういえば気になることがあるんだけど、明日から平日だよね。サフィアちゃんは突然うちに来たけど学校とかはどうするんだい?」


 さすがにつっこまれるか。そこは全く考えてなかったんだよなぁ。

 こればかりは一でもどうにもならないだろうな。


「えーとサフィアちゃんは中学生かな?大丈夫なのかい?」


「……学校ですか」


「そうそう、故郷でも通ってたでしょ?こっちではどこに通うことになってるの?この辺りだと大宝中かな?」


「……実はその辺りの準備ができていないのです」


「ええ!?どうするんだい!?」


「一にでも相談すればなんとかなるだろ?」


 多分無理だろうがこのままだと面倒なことになるので適当なことを言って誤魔化しておく。

 こんなの誤魔化方でも通ってしまうのがうちの親だ。


「そうだね!一君ならなんとかしてくれるね。安心安心!」


 一時的に誤魔化したに過ぎないがとりあえず話はまとまった。

 さて、朝食も食べたしこの場から去るか。

 そろそろ両親がイチャつき始める頃だろう。頃合いだ。


 部屋に戻り早速準備をしようとしたときにふいに思い出した。

 昨日から続くドタバタで課題をやっていなかったのだ。なぜ今まで気がつかなかったのか机の上にはやりかけの課題が広げてある。やりかけといってもほとんど手がついていない。

 というわけで課題に追われ午前中は一の元へ行けなかった。




「じゃあ、行ってくる」


 なんとか課題にケリをつけ昼食を取り一の元へ向かおうとしたときだった。


「暇なのでサフィアも連れて行って下さい」


「……暇だからってもなぁ」


「まぁまぁいいではありませんか!さぁ、行きましょう!」


 まぁ、近いし少しくらいなら問題ないか。



 家を出て少ししたときだった。

 なんだかサフィアの雰囲気が変わった。


「……まったく、昨日の今日で懲りませんね」


 ちょうどゴブリン達が出てきた。昨日の奴らか。数は倍になってるが昨日瞬殺されてたし数を増やしたところで今日も結果は同じだな。


「うるせぇ、昨日は不意打ち喰らったから仕方ねぇだろ!昨日の様にはいかなぇからな!!やっちまべへぇっ」


 全部を喋り終わる前にサフィアがゴブリンの背後に回り手刀でゴブリンの首を打った。

 すげぇなマンガでよくあるトンッてやったら気絶するやつだ。実際にこの目で見れるなんてな。


「このっ、よくもやりやがったな!囲め囲め!!」


「……先にちょっかいをかけてきたのはそちらなのですけど」


 ゴブリン達は数が多いだけあってあっという間に俺たちを取り囲んだ。


「サフィア、この状況はどうなんだ?」


「まったく問題ないです」


「調子に乗りやがって、ぶっ飛ばしてやる!!」


 その瞬間ゴブリン達は一斉に咲き飛んだ。凄い爆風と煙だ。

 サフィアは動いていない。そんなこともできるのか。

 チートだな。


「ゴブリン風情が、お前らこそ調子に乗りおって。……だからぶっ飛ばしてやったぞ」


 煙の中からよく通る声が聞こえてきた。

 やがて煙が晴れるとそこには束ねられるほどではあるが短い赤髪の女性が立っていた。どうやらゴブリン達を吹き飛ばしたのは彼女らしい。

 サフィアが可愛い系の顔立ちなら目の前に立っている女性は美人系の顔立ちだろうか。背丈は俺とだいたい同じくらいだ。女性にしては高い。見た感じ高校生くらいだがゴブリン達を吹き飛ばしたあたり人間ではないだろう。サフィア関連……要するに魔界の住人だ。


「……それはさておき。やっと見つけましたよ!サフィア様!!」


「ユリアなのですか?」


「ええそうです、サフィア様の従者を務めて530年のユリアです!」


「……こんな早々に見つかってしまうとは」


「サフィア様、忘れられたのですか?人でも物でも探すことは私達ガーゴイルの専売特許ですよ!サフィア様が湯あみに行くと言ってその後いなくなってからずっと探しておりました。魔界で1日、人間界で1日と長かったですよ。さあ、私と共に帰りましょう!」


「サフィアはお兄様の元へは帰るつもりはありませんよ!?」


「そうですか。私はサフィア様の意見を尊重しますのでそれでも構いませんよ。サフィア様が帰る気になればそのときに言っていただければ結構です」


 サフィアの従者らしいが連れ戻しに来たわけではないみたいだ。じゃあ何しに来たんだ?

 なんにせよ大事になることがなさそうなのでそのあたりは無視しておいても問題は無さそうだな。


「ところでサフィア様は家を出て行かれてから私が来るまでどうしていたのですか?まさかそこにいる人間の……」


「そこにいる春楽という人間のもとに世話になっていたのです」


 話している途中でサフィアが告げた。


「……で、ではサフィア様はそこの人間と一つ屋根の下で生活しているということですか?」


 声が若干震えている。これは嫌な予感がする。

 その次の瞬間


「人間ごときがサフィア様と共に生活するなどおこがましい!身の程をわきまえんか!!」


 すげぇ見幕だな。俺どちらかというと被害者なんだけど。


「サフィアから無理やり住まわせろって来たんだけどな。一応俺は最初に拒否したぞ?」


「なんだと!?サフィア様のお願いを断ったというのかお前は!?それにサフィアと呼び捨てだと?様をつけんか様を!」


 一緒に生活するなと言ったり住まわせてくれという願いを受け入れろと言ったり無茶苦茶だな。

 サフィアの時もこんな感じだったか。


「まぁそんなことはもういい。ねぜなら私が来たからな!サフィア様に手出しはさせん!」


 ……元から手出しする気は全くないけど。


「ユリアはこれからどうするつもりなのですか?もし行く当てがないならサフィアと一緒に春楽のところでお世話になりませんか?」


「い、いいのですか!?いやっ、しかし従者の私がサフィア様と同じ場所というのは……」


「では、こうしましょう!サフィア・エイル・クロスロードが命じます、サフィアの従者であるユリア・フィリアーネはサフィアとともに暮らしてもらいます!」


「命令とあればこのユリア従わせていただくまでです!」


 彼女は命令と言われた瞬間に膝をついて軽く頭を下げた。騎士みたいだな。


「おい!ちょっと待て、なんか勝手に話進めてるけど俺の家にそいつ住まわせる場所なんてねぇからな?」


「ならサフィアと同じ部屋で暮らせばいいのです!」


「しかし、先程も言いましたが私はサフィア様の従者の身で……」


「サフィア・エイル・クロスロードが命じます、サフィアの従者であるユリア・フィリアーネはサフィアと同じ部屋で暮らしてもらいます!」


「命令とあれば謹んでお受けします!」


 さっきと全く同じことが行われた。そしてそれを満足げに確認したサフィアはくるりとこちらに振り返って


「これで問題ありませんね?」


 と笑顔で言った。


「いや、問題しかねぇよ」


「な、何が問題なのですか!?確かにさっきはユリアと少し衝突していましたけどユリアはとてもいい子なので大丈夫ですよ?」


「それもあるがこれ以上うちに人数が増えるのはまずい。急に人が増えたら近所の人も不振がるだろ?」


「それも問題ありません!ユリアにかかれば都合の悪いことが起きても周りの人間にはなんの違和感も抱かせなくすることができますので」


「そいつはまた随分と都合のいい能力だな」


「人間界限定ですが」


 しかしそうなってくるとこれといって断る理由が見つからないな。別にそうなった以上受け入れても特に問題はないのだが。あの親なら受け入れること自体は問題にもならない。どうしたものか。

 考えているとサフィアの従者が話しかけてきた。


「迷惑になるなら無理にとは言わない。サフィア様の命令は破ることになってしまうが仕方のないことだ。サフィア様だけならまだしも私まで迷惑をかけるのは申し訳ない」


「……ユリア」


「……問題ねぇよ。少し考えてたのは別のことだ」


「では、春楽はユリアも受け入れてくれるというのですね?」


「……本当にいいのか?お前がよくてもご両親などはどうなのだろうか」


「言っただろ?問題ねぇって。うちの親は二人とも脳内にお花畑が咲いていて大抵のことなら能天気に受け入れてしまう。今回なら普通にサフィアの従者だとそのまま伝えれば難なく受け入れてもらえるだろ」


「……大丈夫なのかそれは?この場合都合的な意味でなく社会的な意味で」


「大丈夫ではないが今更どうにもできんなあれは。まぁそこは気になるかもしれんが気にするな」


「そうか、感謝する。これから世話になる」


「さっきとは随分と態度が違うもんだな?」


「なっ!?あ、あれは少し感情が高ぶっていたときにサフィア様と同じ場所で暮らしていると言われたからそのことが羨ま……従者として釘を打っておくのは当然のことだ!別に人間という種族を低く見ているわけではないしこれから世話になるならば感謝しかない!ただ、お前のことを完全に認めたわけではないからな!?勘違いするな!サフィア様は渡さん!!」


 なんだ、こいつもサフィアのお兄様と同じようなかんじなのか?サフィアのお兄様よりかは格段にマシだが。


「敵視されてるわけじゃないならいいよ別に。あと俺はサフィアにそういう念を抱いてないからな?」


 とりあえずそのことに関してはあまり触れたくなかったので適当に返事をして流しておく。

「サフィア様に魅力がないとでもいうのか!?」

 とか言ってたがどっちなんだよ?


「それと親にはサフィアがヴァンパイアだってことは隠してあるから頼むぞ」


「了解した。その方がいいだろう」


 気絶して倒れているゴブリンたちをサフィアが魔界に強制送還して帰路に着いた。



 新しくサフィアの従者であるユリアを家に迎え入れることなった。


「ただいま」


「ただいまなのです」


「お邪魔します」


「おかえりなさい。あら?その子は?」


「私はユリア・フィリアーネと申します」


「なんでもサフィアの従者だとよ。サフィアを追っかけてきたらしい。というわけでうちに住むことなった」


「あら、サフィアちゃんの従者さん?それは大変ね。部屋が足りないわ」


「それなら問題ありません!ユリアはサフィアと同じ部屋で暮らしますから」


「いいの?それで?」


「構いません。住まわせていただくだけでもご迷惑をおかけするというのにこれ以上贅沢をいうわけにも行きませんので。それに住まわせていただく代わりと言ってはなんですが私はサフィア様の従者であるとともにクロスロード家の使用人でもあります。ですので家事なども手伝わせていただきます」


「あら、本当!?それは助かるわ!よろしくねユリアちゃん」



 夕食の席で再び自己紹介をすることになった。

 そういえばユリアには俺の名前教えていなかったな。

 サフィアが何度か言っていたが頑なにお前呼びだったし、伝わっていないか名前で呼ぶ気がないかのどちらかだな。それもこの後で判明するか。


「えーと、また増えたね」


「すいません」


「いやいや、賑やかなのはいいことだし気にすることはないよ。それに母さんがいいと言ったんだ全く問題ないよ!なぜなら母さんの人を見る目は確かだからね」


「嬉しいっ!そうよ、だからあなたを見つけることができたの!」


「こんな感じでしょっちゅうイチャついてるが気にしないでくれ。難しかもしれんが多分そのうち慣れる。」


「あ、ああそうだな。幸せそうで何よりだ」


「おっと、いけないいけない。話が逸れてしまったね。僕は相模冬馬、母さんが相模秋楓よろしくね」


「冬馬様に秋楓様ですね。これからお世話になります。私はユリア・フィリアーネと申します。サフィア様の従者です」


「そんな、様だなんて」


「いえ、住まわせていただくのですから当然です。お二人はこちらでの私の御主人様といっても過言ではありません」


 ユリアは淡々と告げる。

 それに対してうちの親は満更でもないような感じで盛り上がっている。


 ほとんど食べ終わった頃母さんが思い出したように言った。


「そういえば学校の件どうなったの?一君ならどうにかしてくれるとは思ってるけど」


 ゴブリンだけならまだしもユリアの登場で完全に忘れていた。

 当初の目的を忘れ一の家にすら行っていなかった。

 だが、今更忘れていたなど言えるわけがないな。

 今は適当に誤魔化して後で一にダメ元で連絡してなんとかしてもらおう。


「流石だよ、(あいつ)はなんとかなってしまったのが不思議だ」


「すごいな彼は、一体どこでどうやってそういうコネというか人脈を作っているのか気になるよ」



 食事が終わった後すぐに一に電話をかける。


「どうした春よ?こんな時間に」


「悪いんだけど明日からサフィアが学校に通えるように手配とかできない?」


「……流石に無理だなぁそりゃ。うちの高校に連れてくれば俺がなんとかできないこともないだろうけど確実じゃないしなぁ」


「突然悪かったな。あとはこっちでなんとかする」


 軽くあいさつをすまして通話を切ったが完全に詰んでいる。

 そこへユリアが入ってきた。


「お前は何を一人で喋っているのだ?廊下を歩いていたら聞こえてきたぞ」


 どうやらサフィアとは一緒に部屋に戻らなかったようだな。ああ、夕食の片付けを手伝っていたのか。


「なんだユリアか。突然入ってくるなよ」


「なんだとは失礼だな。まぁいい、それでなぜ一人で喋っていたのだ?」


「通話だよ」


「噂には聞いていたがこれが携帯という物か」


「知ってんのか?」


「噂で聞いた程度と言っただろう?詳しくは知らん」


「つーか、未だに名前で呼んでもらってねぇんだけどひょっとして知らないのか?俺の名前」


「さっき冬馬様と秋楓様が自己紹介をしていたときに言わないからだ!」


「悪かったなそれは。なら今言っとく、相模春楽だ」


「春楽というのか。そういえばサフィア様も何度かその名を口にしていたな」


 一通り話したがユリアは出て行くタイミングというか歯切れが悪いと言葉を失ったのか出ていく様子がない。こっちは明日のことで悩んでいるから今は早く出て行ってもらいたい。

 いや、この際ユリアにも相談して見るか。


「なぁ、ユリア。明日から学校ってとこに行かなきゃいけないんだがそこにサフィアも行かないと流石にうちの親でも怪しまれる。だからどうにかしてサフィアを学校に入れたいんだがどうにかできたりするか?あっ、もちろんユリアも行かなきゃいけないぞ?」


「学校か私はおろかサフィア様には今更必要はないが行かなければならないか。なら任せろ!私にかかれば違和感なく編入させることができるぞ?」


「おお!本当か!ダメ元でも行って見るもんだな」


「どこの学校に編入させるのだ?」


「俺と同じどこの方が色々と都合がいいだろ」


「任せておけ!今夜中になんとかしておいてやる!」


「助かるよ、これで安心して寝られる。じゃあおやすみ」


「あ、ああ!失礼する」


 なんか若干ユリアの返事にタイムラグがあったがなんだったんだ?まぁいいか。



 春楽の部屋を後にしてユリアはサフィアと自分の部屋へと戻る。


「ただいま戻りました」


「お疲れ様です。夕食の片付けを手伝っていたのですよね?」


「あの、サフィア様。私はサフィア様の従者ですので私に敬語など使わなくてもいいのですよ?」


 そう言いつつユリアは外出の準備を始める。


「どこかへ行くのですか?」


 ユリアに注意されてもサフィアの口調は変わることはない。


「はい少し。明日からサフィア様には春楽と同じ学校へ通っていただくので備品などの用意を」


「学校ですか。楽しみです!」


「そう言っていただくと私も準備のしがいがあります。では!」


 ユリアは窓を開けそこから飛び降りやがて暗がりに消えていった。




 日をまたいでしまったな。

 学校へは朝早くに行かなければならないようだし私も早く寝なければ。


 時計の針は1時を刺そうとしていた。

 彼女は隣で寝ている少女を起こさないよう手に入れてきた備品を二人分に分けて明日の準備を完璧に整えた後眠りについた。





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