早速ヴァンパイアの存在が親友にバレた件
間抜けな自分のミスによってサフィアを受け入れることになってしまった。
きっと早朝の短時間のうちに突飛なことが起きすぎて気づかないうちに疲れていたんだろう。そのせいであんなミスをおかしてしまったと信じたい。
まぁサフィアの存在が親にバレた時点で俺にとって悪い未来しかなかっただろうし、しかたがなかったといえばしかたがないだろう。
で、サフィアは今俺の横で家族と一緒に朝食を食っている。
母さんもそうだが親父の方も脳内にお花畑が咲いているようで自然に受け入れてしまっている。
『まさかうちの親戚に外国の人がいるなんてしらなかったなぁ。どっちの家なんだ?』
母さんから説明されて最初に放った言葉がこれだ。全くないかと言われたら完全に否定はできないがそれでも外国に親戚がいるなんてレアなケースだろう。しかもそれが突然うちで暮らすとか言ってるのになんの疑いもなく受け入れてしまうこの家は大丈夫なのだろうか?
当然だがヴァンパイアだのなんだのと言われると話がややこしくなるのは容易に想像できるからサフィアは黙らせている。このまま親戚だということで押し通すつもりだ。
あの二人にバレたところで勝手に盛り上がるのがせいぜいだろうがそれが周りにもバレると面倒なことになるとかそういうレベルの話ではなくなるだろうしこれが最善だろう。
ちなみにサフィアがいつ出ていくのかは知らん。サフィアのお兄様とやらに見つからないようにほとぼりが冷めるまで匿っていればいいのだろう。結構真面目だしよく言い聞かせとけば大人しくしてくれるだろうしさほど問題ではないだろう。
「ごちそうさまです」
色々考えている間に食い終わったようだな。
「どうだい?えーと、サフィアちゃん。母さんの作る飯は最高だろ?」
「はい、とても美味しいです!」
「あら〜嬉しいわね」
「そろそろ僕たちも自己紹介しておこうかな。ね、母さん」
「そうね、あなた。よろしくね」
「じゃあ、まずは僕から。僕は春楽の父親の相模冬馬。母さんは相模秋楓!よろしく」
「冬馬さんに秋楓さんですか。秋楓さんは一体お幾つでしょか?すごく若々しくて綺麗です。あっ、では、サフィアも改めて自己紹介をしますね。サフィアはサフィア・エイル・クロスロードと言います!よろしくお願いします!」
「いゃ〜サフィアちゃん一目で母さんの良さが分かるなんていい眼をしてるよ。それに、すごく高貴な家柄そうだけどそれはきっと母さんの方の家系だね!どことなくなく気品が溢れ出ているところが母さんそっくりだ!」
「まぁ!感性があなたにそっくり!それに凛としているのを感じさせられるのもあなたに似ているわ!きっとあなたの家系よ!」
「またまた〜母さん!そんなことを言われると嬉しくなっちゃうじゃないか」
「ふふ、私もよ」
「……母さん!」
「……あなた!」
……茶番だな。毎朝毎朝イチャイチャと鬱陶しい。親とはいえキレそうになるぞ。
「サフィア、これは気にしないでくれいつものことなんだ。あと朝だけじゃなくて四六時中こんな感じだから大変だと思うが耐えてくれ」
「いえ、とても仲睦まじい夫婦のようで見ていて微笑ましいですよ?」
まぁ、うちの親はいいだろう。さて、問題はここからだな。
サフィアを住まわせるに従って重要なことがある。サフィアの部屋と家具をどうするか、だ。
まさか俺の部屋に住まわせるわけにはいかないだろう。それだと絵面がやばいことになる。いくら中身は530歳のBBAとはいえ外見は中学生。事案物だな。
だが、考えてみると両方問題ない。空き部屋はないが実質空き部屋同然の姉ちゃんの部屋を使うとしよう。それなら家具も必要最低限……いや、必要以上にある。姉ちゃんが帰ってくるのは今まで通りなら年に一度正月くらいだ。GWや夏にも帰ってくるかもしれないが最近は忙しいようでここニ年は正月だけ。まぁ帰ってきたとしても親の様子に呆れて特に何も言わないだろう。
考えてみると問題らしい問題はないみたいだな。家族以外にサフィアの存在を知られなければ何も起こりはしないだろう。
あの親だからよく言って口止めはしっかりとしておく必要はあるだろう。
「サフィア、これからサフィアの生活する部屋に案内する。今までサフィアが暮らしていた部屋に比べればかなり劣るだろうがそこしか無いから我慢してくれ。つーか無理やり居候してきた身で文句言うようなら即行追い出すからな?」
「安心して下さい。サフィアはサフィアの立場は分かっているつもりなので文句を言うことなどありえませんよ?」
「そうか?なら、早速だが案内するからついてきてくれ。二階だ。」
「はい!」
部屋に連れて行く途中階段でサフィアが「サフィアの新しい生活場所は一体どのような感じのなのでしよか、楽しみです!」とか期待はしてくれているみたいだが姉ちゃんの部屋ではその期待を大きく裏切ることになるだろう。あの部屋に入ったのはもう随分前のことだがあの時は酷かった。
あの時俺は中学生だったか。姉ちゃんにちょっとした用があって部屋に入った。その時は自分の目を疑った。そこはとんでもない量のゴミで埋め尽くされた部屋だったからだ。一応ベットや机、クローゼットなどを使える程度にはなってはいたが他の場所は脱ぎ散らかした服や食べたお菓子やカップラーンのゴミ、空のペットボトルなどで埋まっていた。部屋の中を移動するのもゴミの中にとても細い獣道のようなものができていてそこを歩くしかないようだった。
小学生の時にも入ったことがあるはずだがここまで酷くはなかったが数年の間になぜああなってしまったのか不思議でならない。
いくらサフィアが訳のわからん勝手な都合で突然押しかけてきたきたとはいえあのは部屋を使わせるのは良心が痛むな。……今更ではあるが。
そんなことを思っているうちにサフィアが部屋のドアを開けた。すまんなサフィア。心の中で謝罪しながら3年ぶりにあの部屋を見る。
「色々なものがたくさんありますね。これはサフィアが使わせていただいてもよろしいのですか?」
部屋の中が3年前の違っていてサフィアの言葉など半分耳に入っていなかった。
かつてあれほどあったゴミなどは無くなっていた。
代わりにダンボールの山というほどではないがたくさんのダンボールが積み上げられていた。それを除けば部屋は片付いていると言えるだろう。
考えられるとすれば母さんが姉ちゃんが出ていったあとに見兼ねて片付けたんだろう。考えてみればいくら脳内にお花畑が咲いていてバカップルだろうが一応やることはちゃんとやっている主婦だ。とはいえこの部屋を掃除するのは普通の主婦だと根を上げるレベルだろう。いや、恐らく殆どの人間が根を上げるだろう。少しは母さんに対する評価を改めねばならないな。……今の俺、親に対して上からだな。
「聞こえていますか?この部屋にあるものはサフィアが使ってもよろしいのでしょうかとサフィアは何度も聞いているのですが」
「あー、すまん。使っても特に問題はないぞ。ダンボールの中から漁るとこから始めないといけないがな」
それから俺はサフィアが使うものをダンボールの中から探すのを手伝ったり取り出したたものの配置をしていた。
ダンボールからものを取り出す際に気がついたのだがダンボールの外には中にどういったものが入っているかなどちゃんと書いていた。
これは非常に助かる。しかもだいたい同じような系統でグループにして収めている。これもありがたい。
軽くどういったものかを説明してサフィアが必要だといえば取り出して部屋に置く。
それを繰り返し気づけば昼になっていたので作業を一旦やめ昼ご飯を食べたあと少し休憩してから作業に戻った。
出会ってから僅か数時間でここまでヴァンパイアというオカルトを受け入れてしまっていた。とはいえ俺は今まで普通の生活をしてきた一般人だ。まだまだサフィアという非日常的な存在とそれによって引き起こされるであろうアクシデントなどには驚き続けなければならないだろう。
そんなことを考えてながら俺はサフィアの部屋の整理を手伝っていた。隣ではサフィアが初めて触れるものにはしゃいだり、首をかしげたり、しかし痛い目にあったりなどを繰り広げている。
魔界とやらにはない珍しいものがあるのだ。興味を惹かれテンションが上がってしまうのもわかる。だから午後からはほとんど俺一人で作業をしていることには目をつぶろうと言い聞かせている。
時計の針は3時を刺そうとしていた。
「……だいたいこんなもんか。俺は少し休憩するからサフィアも休みたければ休んでていいぞ」
そう言って自分の部屋に戻ったところで電話がかかってきた。
かけてきたのは幼馴染であり親友の舞鶴一。携帯を取り、スピーカーモードにして応じる。
「おう、一か。何の用だ?」
「いやさ、明日はヴァンパイア探しに行くじゃん?その件でどうするかって話をしようと思ってな」
「明日ヴァンパイア探しに行くじゃんってあれ本気だったのかよ!?」
「今更何を言うか!俺はいつだって本気だぜ?」
「本気なのは構わんがヴァンパイアってそもそも西洋の化物だぞ?日本にいると思うか?」
家にいるんだけどな。いくら一とはいえ本当にヴァンパイアがいたら驚くだろう。多分ヴァンパイア探しに行くこと自体が本気でまさか本当にいるとは思っていないはずだ。一は多分探しているという状況を楽しみたいだけ。普段ならそれに付き合うことに問題はないが今はサフィアのことがある。俺がいない間に何か起こされては面倒どころではない。
悪いがその話は断らせてもらおう。
「いやいや〜、いるって。多分。国際化のこの時代だぞ?外来生物が入ってくるみたいな感覚で西洋の化物も入ってきてるって」
「そんな感覚で入ってこられたら困るな。てか、化物の類すら存在を信じてないんだよ俺は」
まぁ、家にいますけどね。ゴブリンとかも朝見ましたけどね。
「なら、信じてなくてもいいけどさ、明日はそれを白黒はっきりさせるために行かないか?」
「悪いが今回は行けない。学校帰りとかに行くからさ。それでいいか?」
「あっ、ひょっとして用事とかあったりした感じか?」
「そんな感じだ」
「それならもっと早く言ってくれよ。今回は諦めるとして今度は絶対来てもらうからな!」
「はは、楽しみにしとく」
なんとかなったな。一には悪いが今回はどうしてもはずせない。サフィアがどれほどの期間居座るつもりかは知らないがそれによってこういうことが増えるかもしれない。
「春楽?さっきから一人で何を話しているのですか?」
「通話だよ、通話。……って、サフィア!?」
「サフィアはサフィアですがどうしたのですか?それより通話とは一体……」
「今は向こうに行っててくれ!」
サフィアの声を途中で遮りサフィアを遠ざける。多分アウトだろうが今のを一に聞かれていたら必ず興味を持つ。
「おい、春よ。今の声は誰だ?家族の声とは思えなかったぞ。説明してもらおうかなぁ」
やはり聞かれてしまっていたか。説明してもらおうかなぁの部分の声がやけに気分が上がってる感じだったぞ。きっと向こうではニヤニヤとしているのだろう。面白そうなこと見っけ、みたいな感じで。
「さぁ、吐け春よ!あの声の主は誰なのか!?少女の声だったぞ!?返答によっては……分かるな?」
……こいつの人生楽しそうだな。
「残念だったな。親戚だよ」
「……へぇ、それ嘘だろ?」
「ッ!?……突然何を言ってんだ?」
「……その反応本当みたいだな」
「本当みたいだなって確信はなかったのかよ?」
「まあ、ね。でも安心しろよ。別に怒ってないからさ。ただ明らかに日本人の名前じゃないサフィアってのが出てきてそれを親戚って言ったのが少し不自然だなぁと思っただけだからさ。で、そのサフィアって子は何なの?」
「……悪い。今は教えられない。今度の帰りになら話せるかもしれんが」
「えー、そんなのやだ!気になる!」
「……そんな、聞き分けの悪い子供みたいに言われてもな」
「水臭えこと言うなよ。あっ、そうだ!今からお前ん家行くわ。んじゃ、そういうことだからよろ!」
「あっ、おい!待て!」
ブツッ!
「……あの野郎」
一の家と俺の家は近所だ。2分もあれば来てしまうだろう。その短い間にサフィアを何とかできるかどうかで言えばできないことはないだろう。しかしこの短い間にサフィアがいなくなってしまったらわざわざ一に誤解を生ませるようなことになる。別に一にバレてはいけないわけではない。一は表面上ヘラヘラとしてはいるがいい奴だし秘密なんかは守る。ただ、タイミングが悪いというか何というか、今このことが知られるのは困る。まだひと段落がついたとは言えない状況で知る人が増えるのはあまりいいことではない。一は色々と機転が利くというか臨機応変だから一がいれば助かる場面は多いだろうからいずれは話すつもりではあった。
そして鳴り響くインターホンの音。
その後にドアが開く音。多分母さんが出たな。
「あら、一君久しぶり」
「ども、一でっす!久しぶりですね。春楽いますか?」
「……マジで来やがるとはな」
「言っただろ?俺はいつでも本気だよ。それよりあの子はどこにいるんだ?」
「……まぁ、一なら大丈夫か」
俺の部屋に一を通してサフィアを呼ぶ。
「何ですか?えーと、そちらの方は……?」
「ども、春……春楽の幼馴染で親友の舞鶴一でっす!えーと、サフィアちゃんだっけ?うぉーすげーな!綺麗な白髪の美人さんだ。将来が楽しみだな!で、君は春とどういう関係なの?」
「えーと……」
「ありゃりゃ、黙っちゃったね。ひょっとして触れたらいけなかった?」
まぁサフィアには口止めしてあるし黙ってしまうのは仕方ないことか。それとも一のさっきの言動に引いているのか?さっきからサフィアが俺をチラチラと見て話してもいいのか確認している。
「これから話すことは少々突飛なことだが信じて受け入れられるか?」
「!?……春がそんな顔するのは珍しいな。それほどのことっていうことかな。いいぜ可能な限り信じる」
「そうか、なら話す。そこにいるサフィアは実はヴァンパイアなんだよ。ある事情で俺の家に住むことになった」
「へぇ、ヴァンパイアねぇ。って、はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「やっぱり一でも驚くよな?」
「そりゃ驚くだろ?ヴァンパイアって本当にいたのか?」
「サフィアがヴァンパイアだってことは一切疑わないんだな?」
「俺を騙すためだけにわざわざ他の人まで巻き込無用なことをする奴じゃないからな春は」
「そりゃどうも」
「んで、サフィアちゃんのある事情ってなんなの?話せるような事情なら興味あるから聞いてみたいな」
「構いませんよ。では、その前に少し自己紹介をさせてもらいます。サフィアはサフィア・エイル・クロスロードといいます!先に言われてしまいましたがヴァンパイアのクロスロード家は貴族なんです」
「なるほどね、そこに事情があるわけか」」
「事情は少しあれだけどな。聞いても笑うなよ?」
「え?そんな可笑しな事情なの?」
「可笑しな、とは失礼ですね。サフィアはただお兄様から逃げて来ただけです!」
「……なぁ、春。全然可笑しな事情じゃないんだけど」
「サフィアの言葉が少し足りなかったな。サフィアは超シスコンのお兄様に耐えられずに逃げて来たんだよ」
「へ?」
それを聞いた一は一瞬、呆けた顔になった。その後一から説明した。予想と反して一はすんなりと受け入れた。
「……確かにそれは大変だね。ま、それは春も同じか」
「ヘラヘラ笑ってるけどこの話をお前にした理由が分からないわけじゃないだろ?」
「えー、どうしよっかなぁ」
「嫌なら無理にとは言わねぇよ。ただ、このことは黙っててもらうけどな」
「冗談だよ、そんな面白そうなこと俺が乗らない訳がねぇだろ。勿論協力するぜ。というわけでよろしくね~、サフィアちゃん」
「……サフィア、なんだかこの人苦手です」
「えー酷いなぁ。俺まだ何もしてないのに」
「……まだ、ってことは後で何かするつもりなのかよ」
「言葉のあやだって。でも、サフィアちゃんってすっごい美少女だからなぁ」
「お前初対面でもそんなこと言ってるから苦手意識持たれるんじゃねぇの?」
多分初対面の相手でも気を使わせないようにしているんだろうけどな。実際初対面の相手にいきなり苦手とか言う奴はそうそういないだろう。
「それよりも春よ、事情があって仕方なくっていうことも知っていてあえて言わせてもらう。……白髪美少女ヴァンパイアとこれから一つ屋根の下で生活ってケンカ売ってんのかぁ!?」
「……はたから見りゃ美少女だが実年齢530歳だぞ?あと人間じゃない」
「馬鹿めぇ!!!可愛いは正義という言葉を知らんのか貴様はぁ!!たとえ中身が530歳のバb……」
それ以上の言葉を発する前に一は床に倒れていた。サフィアが顔を赤くして一を殴っていた。
殴られた一が原型をとどめているので手加減はしていたようだ。まぁ、これは誰が見ても一が悪いな。
「サフィア、やっぱりこの人は苦手です!!」
「……その気持ちは分かるが悪い奴じゃないんだ、許してやってくれ」
この様子ならうまくやっていけそうだな。最初に一がやらかしたが一は昔から人と馴れ合うのが得意な奴だこの先、何とかなるだろう。この先どんなことが起こるかは分からないが少なくとも自分の近しいところでの対人についてはどうにかなりそうだ。
一が意識を取り戻してついでにサフィアの部屋づくりを手伝ってもらい、すべてが終わったのは夕方だった。
「結構大変だったな」
「可愛い子のためならいくらでも頑張れるけどな」
「手伝っていただいたことは感謝します。ですが、あなたが苦手なことに変わりはありません!早く帰ってください」
「……ははっ、すごい言われよう。んじゃ、帰りますか」
一が帰ったあとはサフィアが増えただけのいつも通りでその後特に何も起きることなく一日を終えた。
そして夜明け。魔界から新たな客がやってきたのだった。
「……サフィアお嬢様。必ず私が見つけます、待っていてください」