ただの会話がフラグだった件
二作目です。前作よりは成長した気がします。今作もよろしくお願いします。
今思えばこのときの会話が切っ掛けだったのかもしれない。平凡な男子高校生であるこの俺、相模春楽の日常が非日常に変わることになったのは。
あの時幼馴染の舞鶴一と一緒に談笑しながら帰っていた。その時の会話の内容がフラグめいていたのかもしれない。
「なぁ、春よ。昨日さ、テレビでオカルト系の番組やってて見てたんだけどその中にヴァンパイア伝説ってのがあってな。信じるか?」
「……唐突だな。……俺は信じないな。一はどうなんだ?」
「もちろん信じてみるぜ。だってそっちの方がおもしろいだろ?」
「おもしろいか?」
「そういうのってマンガやゲームの世界の中だけだろ?だから現実にもいたらいいなーっていう願望だよ」
「一応言っておくが化物の類だぞ?」
「もし、マンガやゲームに出てくるような美少女や美人さんだったら?」
「……それなら会ってみたい気もするな」
「だろ?春なら分かってくれると思ってたぜ!」
「まぁ、実際に存在したところでなんだって話だよな。まさか自分の家に住みついたりするわけでもないし」
「そこまでは考えてなかったな。なるほど、存在を確認した後の話ねぇ」
「いや、冗談だよ。間に受け止めるなよ」
「だが、その冗談が俺に火をつけてしまったようだ。明後日にでも探しに行くぞ!じゃあなっ!」
……なんであれで火が着くんだ?一の見た番組を俺は見ていないから詳しい内容は知らないが、ヴァンパイアって西洋の化物じゃなかったか?まぁ、明日になったらその火も消えているだろう。
走り去って行った親友が見えなくなり自分も家へと歩き出した。
「…………」
……なにか視線を感じた気もするが気のせいか。上から見下ろす感じの。
一応辺りを見回してみるが周囲の家の二階からは誰も見ていないようだ。やはり気のせいか。
やや足早に帰宅した後、いつも通りに夕食を食べ、いつも通りに風呂に入り、いつも通りに布団に入り眠った。
「起きてください!」
「んあ?」
誰だ?この素晴らしい土曜日の朝を邪魔するのは?いつもなら親は起こしにこない。しかし親を除けば起こしにくるような人間は家にはいないはずだ。姉ちゃんが帰ってきたとかでもなければだが帰ってくるとはきいていない。それに姉ちゃんなら「起きてください」なんて起こし方は絶対にしない。
仕方ない、面倒だがいったん起きて確認するか。
まだ眠い目をこすりながらそっとめを開く。
……目に映ったのはせいぜい中学生くらいの少女。白い長髪に加え白をベースにしたドレスを着ているからか、その姿は全体的に白っぽい印象を与えている。
……なんだ、夢か。なら夢の中だけど眠いし寝よう。時間も5時前という夢にしては妙に現実的な時間だったな。まぁ、いいや寝よう。
「起こしているのに二度寝なんてありえません!!」
「うっ!?」
なんだ!?突然鳩尾に拳が入ったような……。
当然跳ね起きる。
「やっと起きてくれましたね!」
「ゲホッ、ゲホッ……。なにしやがる!痛ぇじゃねぇか!?」
なんなんだこの夢?てか、痛い?そんなわけが……。
自分の頬を抓ってみる。やっぱり痛みを感じるってことは……。
「これ、夢じゃないのか!?」
「……なにを言っているんですか?当たり前ですよ?」
「え?夢じゃないとしたら本当になんなんだこれ?ドッキリ!?」
「すみません、サフィアとしたことが自己紹介がまだでしたね。サフィアの名前はサフィア・エイル・クロスロードといいます!今日からこの家に住まわせていただこうと思っています。サフィアのことは気軽にサフィアとお呼びください!」
……うん、話が噛み合ってないな。それとすでにサフィアって言っちゃってるからね?いや、つっこむところはそこじゃなくて、今なんて言ったこいつ?
「うちに住むってどういうことだお前!?え?何?親戚とかなの?仮にそうだとしても聞いてないしやっぱりお前みたいな日本人要素の入ってない人は家の一族にはいないはずなんだけど!?」
「お前じゃなくてサフィアです!それにサフィアはヴァンパイアですから正真正銘人間であるあなたとはまったくの無関係です」
どうしよう、この子頭がおかしいのかもしれない。ヴァンパイア?何言ってんだマジで。
「……ヴァンパイアって今時そんな嘘子供でも信じねぇぞ?てか、警察呼んだほうがいいのか。不法侵入だよなこれ?」
「あなた、サフィアの言うことが信じられないのですか?サフィアの髪を見てください。ヴァンパイアであるクロスロード家に見られる由緒正しい白髪ですよ?」
「いや、知らねぇよそんなこと」
「で、では、この牙なんてどうですか?いかにもヴァンパイアらしくないですか?」
そういってサフィアは自分の自称牙を見せるが……。
「どう見ても八重歯だろそれ。牙ってもっと猛々しいイメージがあるんだが」
「……どうしても信じてくれないんですね」
「なんだ?じゃあ次は定番の『血を吸います』っとか言うのか?やめとけやめとけ」
「そうすれば信じてくれるのですか?残念ながらサフィアは美味しい血しか飲まないのです。あなたの血は少し……」
「そもそも血って飲むものじゃないからな?美味しいも不味いもないだろ」
「いえ、ちゃんとありますよ?美味しい血は鉄分が多くてしっかりとした味わいなんです。夜明け前のドロっとしたのがベストですね。逆に不味い血は鉄分が少なくサラッとしていて味が薄いものですね」
「もういいって。今なら見逃してやるから。とりあえず早く出て行ってくれ」
「……仕方ありませんね」
わかってくれたみたいだな。これでいつもの休日をむかえられる。
「ヴァンパイアは人間のおよそ10倍の身体能力を持つといわれているんです!その力を見せればいい加減分かってくれますよね?」
……やっぱり全然分かってないな。そっちこそいい加減受け入れられないって分れや。それにまた変な方向に話がぶれた。
しかも身体能力が人間の10倍ねぇ……。もし仮に、そう仮にだ。新しく宇宙が誕生するくらいの確立でサフィアの言っていることが全部本当でこれからその力を今からここで見せられるのは非常に不味い。そもそも新しく宇宙が誕生する確立なんてほぼほぼ無いに等しいのだがそれを口実に外に出してあとはトンズラ。これで無事俺はサフィアから解放されるって算段だ。
「そうだな。そこまで言うなら見てみたいものだな。それが本当ならだけどな。もし、本当だった場合はそんな力にここで使われたら俺が困る。外で見せてくれないか?」
「構いません。では、行きましょう」
よし、あとは適度に離れた場所まで行って隙をついて逃げる。完璧だ。
「この辺りでいいだろ。辞めるなら今だぞ?」
家から徒歩で来るには面倒くさい距離にある公園までやってきた。ここなら振り切ればもう会うことはないだろう。しかもここに来る途中はわざと遠回りして複雑な道を選んだ。この時間なら人もいないし変な騒ぎにもならない。さっさとサフィアから解放されていつもの休日に戻りたいところだ。
「それで、サフィアはここでどんなことをして力を見せればいいのですか?ていうか、なんでそんなに離れているのですか?」
「別にいいだろ?強いて言えば万が一にも巻き添えを喰らわないためだよ」
サフィアは公園の中央あたりにいるが俺は入り口のところでいつでも逃げられるよう構えているからな。多少怪しまれても仕方ない。
「サフィアをヴァンパイアだとは信じないとか言っている割にはさっきから随分と警戒するのですね?」
「……一応な。てか、なんだあれ?」
「話を逸らそうとしても無駄ですよ?その手にはかかりません!」
「話を逸らすためじゃなくて本当にいるんだよ。ちょうどサフィアの後ろに。空飛んでんだけど遠くてよく見えないな。でもどう見ても鳥じゃないしなんだろうな?」
「本当ですか?そういうことでしたらサフィアの出番ですね!ヴァンパイアは視力も人間より格上ですから!後ろですね?」
そう言って振り向いた隙に俺は全力で走ってとにかくこの場から離れた。
「特に何もいませんが……。本当にいたのですか?それよりもこれだと例え見えていなくても見えたといえば終わりですよね?いいんですか?いえ、もちろんそこに何かあれば見えますよ?……返事がないですけど聞いてます?……あれ?」
まさかあんな単純な手にかかるなんてな。正直期待はしてなかったし。何個か考えていたがこれでかたがつくならそれでもいいだろう。少し悪い気もするにはするがこれ以上訳のわからんやつに関わるのはごめんだ。俺はこのままいつもの休日に戻らせてもらおう。
そろそろ走るのをやめて歩き始めても大丈夫かなっと思ったその時だった。聞こえてくるはずのない声が聞こえたのは。一瞬耳を疑ったが、どうも気のせいとかではないようだ。
「追いつきました!」
「は!?」
なんで俺の場所がわかるんだ?逃げるタイミングは完璧だったはずだ。サフィアが完全に正反対の方向に向いているときに逃げ出した。
視力も人間より格上ってそういうことなのか?どっかの一族みたいな目を持っているってことなのか?
「なんでだ?どうして俺のいる場所が分かったんだ?タイミングは完璧だったぞ!?」
「ふふっ、驚いていますね。答えは音です!人が少ないようで助かりました。休日のこんな時間から全力で走る人なんていませんよね?あなたが消えていたってことはそういうことなんですぐにわかりましたよ。あとはその音のする方向へ行くだけ。人がほとんどいないので雑音もほとんどなかったですし楽でした。身体能力だけでなく五感も人間のそれを凌駕します。そして今言ったことは全て実践しました。そして全てを可能にしました。それこそがサフィアがヴァンパイアであることを証明しているのです!」
確かに人間じゃそんなことは絶対にできない。サフィアがどれくらいで気づいたかは知らないがそれでも俺は全力で走って200mくらいは離れた。その距離を全力で走った俺は当然息切れを起こしているがサフィアは顔色一つ変えることなく平然としている。どのくらいサフィアが早かったのかは俺の100mのタイムがだいたい13秒弱だから仮にずっと同じペースでここまで走ってきたとしても単純計算で約26秒程度。実際には30秒くらいはかかっているはずだが見えない状況からスタートして追いついてきたサフィアはおそらく俺の半分の時間でここまで走ってきたことになる。そうなると200mを13秒、100mなら6.5秒で走ったわけだ。認めようサフィアは絶対に人間ではない。おおよその人がイメージするヴァンパイアの特徴は確認できてないけどヴァンパイアでいいだろう。だってどっちせよ化物だし。
「まさか逃げられるとは思っていませんでした。すぐに気づいたのですがこの辺りは角が多くてすぐに見えなくなっていましたしね」
今説明してくれたように、逃げるためにわざわざこの場所を選んだ。作戦は途中までは完璧だったようだがサフィアが人間じゃないというイレギュラーにより失敗。今に至るというわけだ。
……さて、どうしたものか。このまま外にいてサフィアと一緒にいるところを知り合いに見られて変な誤解をされるのは嫌だな。……本末転倒になるが家に戻るか。
「とりあえず、さっきのでサフィアが人間じゃないってのは分かった。色々つっこみたいことはあるがそこは百歩譲って置いておくとしよう。で、話は最初に戻るがなんでサフィアはうちに住もうとしてんだ?」
考えてみれば由緒正しい家柄のヴァンパイアの少女がわざわざ人間のところに来るなんておかしい。ゲームとかマンガの話ならあるかもしれないがここは現実だ。普通ならありえない。驚くタイミングは完全に見失ったがそもそもヴァンパイアっていたのかとか頭の整理がいまいちついていない。
とか色々考えていると黙っていたサフィアが少し躊躇うように口を開いた。
ヴァンパイアという存在がもう既に普通ではないから現実ではなくゲームやマンガのパターンに当てはめて考えるとこの感じは身内とかのゴタゴタで匿って欲しいだのなんだのというやつだ。背後には面倒ごとしかないやつだ。
ただしここで思想は現実に戻る。あのまま現実に戻らずに行くと自分の理解が追いつかないまま追手とかが来て戦闘に突入。で、なぜか突然力に目覚めて首を突っ込んで行くことになる。
が、俺はなんの変哲も無いごく普通の男子高校生だ。なぜか突然力に目覚めるなんてことはない。追手とかが来る流れならその前にどこかへ行って欲しい。
「……兄様から、離れたかったのです」
なるほど兄弟間でのいざこざがやっぱり面倒ごとの匂いしかしない。そんなものに巻き込まれたら一般人である俺はひとたまりもない。早くどこかに行ってもらおう。
「悪いな、そういうことなら他を当たってくれ。あとな、聞きたかったのはそういう理由じゃないんだ。なんで星の数ほどいる人間の中からよりにもよって俺のところなんだよってことを聞きたかったんだ。もうどうでもいいけど」
「……そんな。どれだけサフィアが兄様に困らされているか知らないからそんなことが言えるのです!ことあるごとに頭を撫でて来ますし、『サフィアは可愛いな、さすがは私の妹だ。目に入れても痛くない!』、『なぁサフィアこの私と結婚しないか?いや、しよう!』、と言った言葉は日常茶飯事で最近ではそれもエスカレートして湯浴み中にまで入って来ようとして来るのですよ!?」
……また若干話が噛み合ってないような気がする。
ていうか、は?なんだけど。兄弟間でのいざこざってそういうことなのか。勝手に勘違いしたのは俺だが、サフィアのお兄様とやらが超シスコンでそれに困っているから人間のことらに来たってことか。それはそれでめんどくさいから関わりたくないな。仮に匿ったとしてそれを超シスコンヴァンパイアに見つかったら多分俺の命ないと思うし。サフィアには気の毒だが他を当たってもらうか耐えてもらおう。
ていうかこれ単なるサフィアの家出じゃないのか?そんな兄がいたらその家に居たくなくなるのはわかるけど。
「そんなわけでお世話になりたいのです。そしてこれを機にサフィアは自立するのです!」
「だからなんでそれが俺なんだよ?それに自立っていってもサフィアはせいぜい中学生くらいだろ?そんな子供がなに言ってんだ」
「む!?中学生というのはよくわかりませんがサフィアのことを年下だと思っているならサフィアは心外です!ヴァンパイアであるサフィアを人間の尺度で考えられては困ります。これでもサフィアは530年ほど生きているのですよ?」
530年?マジかよサフィアBBAじゃん。しかし、530年でこれか……。ヴァンパイアってのは人間より歳をとるペースがかなり遅いのか、一定のところから歳をとらなくなるのか分からんが俺からすると実年齢が530歳でも中身はまだ子供。中身だけじゃなくて見た目もだが。
「まぁ、それはいいとしましょう。それよりもサフィアをこの家に受け入れるにあたってとても大切なことが一つあります」
「おい!人が少し思考にふけってる間に勝手に都合のいいように話を進めんな!」
「こうみえてサフィアの家……クロスロード家はヴァンパイアの貴族の中でも名門なのです。そのクロスロード家の娘であるサフィアが一人になったと知られればちょっかいを出しにくる者も必ず現れるはずです。居座らせていただくというのに少し厄介ごとに巻き込ませることに申し訳なく思います」
……はぁ!?居候させる上に厄介ごとに巻き込ませることになるだと?ふざけてんのかこいつ?元から居候させる気なんてさらさらなかったが化物どもの抗争に巻き込まれることになるなら尚更ごめんだ。
「でも安心して下さい!大抵の者ならサフィアで対処できますので危害を加えられることはないと思いますよ?厄介ごとに巻き込むかましなれないというのは少々お騒がせするかもしれないということですから」
考えてみたら人間のおよそ10倍の身体能力を持つヴァンパイアの貴族の少女が少しちょっかいをかけて来るくらいの奴に負けるわけがないか。むしろ瞬殺だろ。
人間がどういう扱いなのかは知らんが10倍ってのは相当だ。
てか、いくら1人になっているとはいえヴァンパイアの貴族に手を出すか?普通。そのサフィアも相当強いぞ多分。それにそのことがサフィアのお兄様である超シスコンヴァンパイアに知られたら命はないだろうに。
「クロスロード家の娘は何処に行った?」
「途中で見失ってしまったがこの辺りにいるはずだ。探せ!」
とか言ってたらいきなり外でそれっぽい会話が聞こえて来んですけど!?サフィアの言ってた通りちょっかいかけに来てんじゃん!
「……あれはゴブリンですね。少し待っていて下さい。あの程度なら一瞬で終わりますので」
そう言うとサフィアは窓を開けて飛び降りた。そしてその直後悲鳴が上がり『こいつ何処から?』『てか、こいつがクロスロード家の娘じゃねえか』とか聞こえてきたがそれもすぐに悲鳴が聞こえて静かになる。俺の方もゴブリンが来ていようと驚かなくなってきたな。その辺の感覚が麻痺してきている。
サフィアが戻ってきた。
「終わりました。早速きてしまいましたね。でも気にしないで下さい。このようにサフィアが迅速に処理しますので」
ゴブリンってそんなに強いイメージないがそれでもただの人間よりかは強いだろう。それを瞬殺したフィアちょっと怖いんだけど。
恐る恐る窓から下を見てみると凄惨な殺人現場になっているのかと思っていたらゴブリンたちが倒れているだけだった。ちょっと動いてるし見た感じこれといった外傷もない。殺してはいないようだ。家の前で化物の自体が転がってるとか一生トラウマものだからやめて欲しかったがその心配はなさそうだ。
てか、あの転がってるゴブリン達はどうするんだ?まさかこのまま放って置くわけにもいかないだろう。放って置けば大騒ぎになるだろう。
「なぁサフィア、迅速に処理したのはいいんだがあの転がってるゴブリン達はどうするんだ?」
「確かにあのままにして置くわけにもいきませんね。サフィアに任せて下さい!」
そう言うとサフィアは再び窓から下に飛び降りた。そして少しすると戻ってきた。
「どうしたんだ?あのゴブリン達」
「強制的に魔界に帰しました。意識があると無理ですが意識がなければ容易いものです」
「魔界に帰すってどう言うことだ?」
「サフィア達は基本的に魔界に住んでいます。人間界に用があれば行き来は自由にできますので案外人間界にいる魔界の住人は多いですが。あ、サフィア達魔界に住む者は種族を問わずに魔族ということになっています。……話しが少し逸れましたね。ヴァンパイアだけではありませんが貴族ともなれば人間界にいる魔族を魔界に強制送還させることが出来ます。何故かと言われるとよくわかりませんので都合のいい能力とでも思って下さい。それよりサフィアをこの家に住まわせてくれるのですか?」
「なんでいきなりそういう話になるんだよ!何回も言ってるだろ?お兄様の件については気の毒だが諦めてくれ」
「そこをなんとかお願い出来ませんか?さっきもゴブリンを追い払いましたし」
「さっきのゴブリンはサフィアが持ち込んだことだろーが!ダメだ!そもそもなんで家なんだ?」
「えーと、確かあなたが昨日の夜に『それなら会ってみたい気もするな』とか『家に住みつく』と言っていたのであなたなら問題ないかと思ったのですが昨日のあの言葉は嘘だったのですね」
一とのあの会話かぁぁぁぁぁぉ!!!
しかもなんか都合のいいように受け取られてる。というか昨日感じたあの謎の視線はサフィアだったのか。
「いや、いるなら会ってみたかったって言葉は本心だったけど家に住みつくのはサフィアの受け取り方がサフィアにとって都合がいい受け取り方をしていただけで住みついて欲しいとかそういうのは全然なかった」
「ですがここは流れ的に受け入れるべきですよ!」
「だぁぁ!しつこい!とにかくダメなもんはダメだ!」
「春くん?朝からどうしたの?」
この声は母さん!?しまった、起きていたのか。この状況を見られるのはまずいな。うちの親だと受け入れてしまうかもしれない。
「今の声はだれですか?」
「俺の母親だよ、見られる前にどっか隠れろ。」
「なるほど、あなたのお母様ですかお世話になるのに挨拶をしておかなければなりませんね!」
「バカ、何言ってやがる、まだ諦めてなかったのかよ」
「入るわよ〜?」
ガチャリとドアが開き一瞬その場が固まった。
「お母様ですか?これからこの家にお世話になります。サフィアはサフィア・エイル・クロスロードと言います。よろしくお願いします!」
「……春くんが部屋に女の子?サフィアちゃんというの?」
これはやばい!なんとかしないと。このままサフィアに話を持って行かれると確実にサフィアを受け入れることになってしまう!
あとになって思えばこの時の俺は冷静さを失っていたのだろう。このあとの言葉を自分で言っていてその言葉が結果的に自分を追い込むことになってしまうことに気付けなかったのだから。
「違うんだ母さん、サフィアも言葉が足りないだろ?」
「どういうこと?」
「実はサフィアはうちの遠い親戚らしいんだよ。で、詳しいことは言えないけどうちにくるとこになって今朝早くに到着したみたいでたまたま早く起きてたから家に上げたんだよ」
「あら〜そうなの?まさかこんなに可愛い外国の子がうちの親戚にいたなんて驚きだわ。よろしくねサフィアちゃん!」
なんか知らんが上機嫌になって去っていった。
「なんとか誤魔化せたな。」
「あの、サフィアはヴァンパイアですので人間であるあなたとは全くの無関係ですよ?」
「それはもう聞いたよ。誤魔化したんだよ、うちの親は両方とも脳内お花畑なところがあるからなあんなのでも信じるんだよ。あのままだとめんどくさいことになってたからな」
「でもさっきのだとサフィアはこの家に住んでもいいということになりますよね?」
「いや、あれは誤魔化しただけだから」
「言質はとりました!誤魔化したことで自分の首を締めることになるなんて失礼ですが頭が……」
「だぁー!うるせぇ!」
よく考えたらあの誤魔化し方は問題だった。いや、問題しかなかった。特にあんなので納得してしまううちの親にはだ。
「春くん、サフィアちゃん、朝ご飯出来たわよ〜!」
なんて愚かなことをしてしまったのだろうか。自分から既成事実?を作ってしまうなんて。ここまできたら不本意ながらサフィアを受け入れるしかないだろう。
「これからよろしくお願いしますね!えっと……」
「……もうどうにもなりそうにないし諦めるか。相模春楽だよ。」
「はい、春楽ですね!」
こうして俺の日常は非日常になっていくのだった
ヴァンパイアというのは地域によって死者が蘇ったものや血だけでなく精気を吸ったりするなど違いがありますがその辺りの細かい部分は無視しております。血を吸って老いることのない個体として扱っていますのでどちらかといえば吸血鬼なのですがヴァンパイアで通させてもらいます。