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甘え上手な彼女  作者: Joker
文化祭と気持ち
35/44

♯35



「おい……おい!」


「え……あぁ、優一か……どうした?」


「どうしたじゃねぇ!! 指から血があふれてんぞ!!」


「え……あぁ、なんか指が暖かいと思った……」


「馬鹿野郎! 早く押さえろ!! おい! 誰かハンカチとか持ってねーか!」


 高志は屋上から戻り、作業をしていた。

 しかし、ぼーっとしていたせいか、指を切ってしまった。

 本人は血が垂れているなんて気がつかず、横を通り掛かった優一が異変に気がつき、高志の指を押さえたのだ。


「何やってんだよ、危ねーだろ?!」


「あぁ……わりい……」


「どうかしたか? なんかぼーっとしてるみてーだけど……」


「……いや……なんでもねーよ」


 高志は優一に笑顔で答える。

 そんな高志の笑顔に、優一は違和感を覚える。


「疲れてるのか? それとも、何か嫌な事でもあったか?」


「大丈夫だって。ほら、早く進めないと、準備終わらないぜ?」


「……まぁ、お前が大丈夫なら良いけどよ…」


 優一はそう言って、高志に絆創膏を渡して自分の作業に戻っていった。

 高志は指に出来た切り傷を見ながら思う。 

 あの屋上での出来事は、現実だったのだろうか?

 紗弥は、自分に嘘をついていたのだろうか?

 ようやく自分の気持ちがわかっただけに、高志はあの光景を思い出す度に、胸がちくりと痛んだ。


「おーい、男子! そっちはどんな感じ?」


「なんだ、御門か」


「なんだとは何よ! 女子の方は大体終わったわ、何か手伝うことはある?」


「いや、こっちも皆頑張ってくれてるからな、別に何もないな」


「そう。じゃあ、私たちは……って八重君!? 何してるの!」


「ん? お、おい高志!! 今度は腕から血が垂れてんぞ!!」


「え? あぁ……ホントだ」


 高志はまたしてもぼーっとして、切り傷を作ってしまった。

 話しをしていた優一と由美華は驚き、高志の元に近づいて、傷口を押さえる。


「おい、本当にどうした? お前らしくないぞ?」


「いや、ちょっと手を滑らせただけだ……」


「手を滑らせて、こんなに深く傷が付く?! しかも気がつかなかったって、八重君何かあったの?」


 由美華に言われ、高志はまたしても思い出してしまった。

 あの嫌な光景を……。


「高志? どうしたの、その怪我?! 血まみれじゃない!!」


「!! ……紗弥」


 由美華の声を聞いてやってきたのだろう、紗弥はやってくるなり、血まみれの高志に視線を向け、心配そうな表情で近づいてきた。

 いつもの高志なら、紗弥に笑顔で「大丈夫だよ」と言って、安心させるところなのだが、あの光景を思い出し、高志は紗弥から離れるように立ち上がり、傷口を押さえながら逃げるように教室を後にする。


「保健室に行ってくる……」


「あ、あぁ……行ってこいよ。今日の作業は終わりだからよ」


「あ、じゃあ紗弥、付いて行ってあげたら? どうせ心配でしょ?」


 由美華の提案に、高志は三人に背を向けて答える。


「いや、大丈夫……三人とも先に帰ってくれ……」


 高志はそれだけ言い残すと、保健室に一人で歩いて行った。


「高志! 本当に大丈夫?!」


 後ろから、紗弥の不安そうな声が聞こえてきた。

 高志はその言葉に立ち止まり、無理矢理に笑顔をを作り、彼女に言う。


「大丈夫」


 高志はその一言だけを言い残し、保健室に向かった。

 紗弥はその笑顔を見ても、安心することが出来なかった。

 逆に、紗弥はなんだか嫌な予感がした。

 どんどん離れて行く高志を見て、なんだかすごく不安になった。

 このまま高志が、自分の元から離れて行ってしまうような気がした。


(追いかけなくちゃ!)


 紗弥はそう思って、高志の後を追った。


「あ、宮岡さん」


「せ、先生。何か用ですか?」


「えぇ、ちょっとお願いがあるんだけど、今良いかしら?」


 紗弥は世界史の先生に捕まってしまった。

 先生の話しを聞いている間も、高志はどんどん離れて行く。


「すいません、急いでいるので」


「あら、ごめんなさい、じゃあ他の人にお願いするわ」


「失礼します」


 紗弥はそう言って先生に頭を下げ、高志を追う。

 しかし、高志の姿は既に何処にも無かった。

 目的地はわかっているので、紗弥は保険室に急いだ。

 追いかけなければ、何かとんでも無いことになる予感がした。


「失礼します!」


「おや? どうかしたのかい?」


「先生、さっき男子生徒が来ませんでしたか?!」


「あぁ、来たよ。でも絆創膏をあげたらすぐに帰っちゃったよ」


「そう……ですか……」


 保険室の男性教師は、紗弥に笑顔で答える。

 紗弥は先生の話を聞きくと、保健室を後にした。


「……これでいいの?」


「はい、ありがとうございます」


 紗弥が保険室を後にした後、高志はベッドのカーテンから姿を現した。

 高志は先生にお礼を言うと、近くの椅子に座って傷を先生に見せる。


「急に来て、隠れさせてくれ、なんていうから、何事かと思ったよ……彼女と喧嘩でもしたのかい?」


「いえ……ただ、今は会いたく無くて…」


「それを喧嘩って言うんじゃないのかな?」


 先生は高志の腕の傷を見ながら答える。


「随分ざっくりいったんだねぇ、痛くなかったのかい?」


「……それ以上に、なんか色々気になっちゃって…」


「なるほど、深い傷を負ったのは心の方だったって事か……」


 先生は高志に笑みを浮かべながら話す。

 そんな先生に、高志はおもわず尋ねる。


「先生は……浮気とかされたことありますか?」


「君は彼女に浮気されたのかい?」


「………確定ではありませんが……」


「ハハハ、そうかい、そりゃあ災難だったね」


「笑い事じゃ無いですよ……」


「ごめんごめん、浮気か~……僕はそう言う経験は無いよ」


「そうですか……」


「でも、一つ言えるとしたら……ちゃんと話しをしないと、わからないよね」


「………そうですよね」


「現実から目を背けたい気持ちもわかるけど、彼女とちゃんと話しをしないと、解決しないよ?」


「わかっては……いるんですが……」


「まぁ、そりゃあ聞きづらいよね」


「はい……」


 聞いて、もしも高志の予想通りの答えが返ってきたらと思うと、高志は恐かった。


「もうすぐ文化祭だし、そのときにでも聞いてみたらどうだい?」


「……そうですね、聞かないと始まりませんもんね」


「そうそう……はい、完成」


 話している間に、処置は終わっていた。


「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」


「頑張ってね、応援してるからさ」


「はい」


 高志は先生にお礼を言い、保険室を後にした。

 鞄を取りに教室に戻ると、そこには紗弥が一人で待っていた。

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