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甘え上手な彼女  作者: Joker
デートと親バレ
16/44

♯16



 あっという間に時間は過ぎ、現在の時刻は夕方の五時。

 高志と紗弥は、帰りの電車に乗って、家に帰宅する途中だった。


「今日は楽しかったよ」


 電車に乗り、高志の隣に座った紗弥が笑顔で言う。

 自分はちゃんとデートが出来ていただろうか?

 そんな事を帰宅途中に振り返っていたが、紗弥の顔を見て、そんな心配が無いことを知る。

「なら良かったよ」


 安心したような柔らかい表情で、高志は紗弥に言う。

 すると、紗弥は映画館でしてきたように、高志の肩に頭を乗せ、寄りかかってきた。

 一日歩いたのだから、疲れたのだろう。

 高志はそう思い、紗弥に何も言わずに肩を貸した。

 少しして、紗弥は眠ってしまい、高志はそんな紗弥を見て笑みを浮かべていた。

 しかし、すぐに周囲の視線に気がつく。

 電車に乗っている人(男)が、鋭い視線を高志に向けていた。


「………」


(この視線にも慣れなきゃな……)


 隣で寝息を立てる紗弥を他所に、高志はそう思う。

 スマホを弄って、視線から気をそらし、高志は目的の駅に早く着いて欲しいと願った。


「紗弥、紗弥」


「ん? ……ごめん、寝てた……」


 駅に到着し、高志は紗弥を起こした。

 まだ寝ぼけている紗弥の手を引き、高志は電車を降りて駅のホームにあるベンチに紗弥を座らせる。


「そろそろ目覚ましたか?」


「うん、ちょっと疲れちゃって、早く帰ろっか」


 紗弥が完全に目を覚まし、高志と紗弥は再び帰り道を歩き始めた。

 高志は、紗弥を送って行こうと、紗弥の家に向かって足取りを進めたが、何故か紗弥がそれを拒んだ。


「え? 良いのか、送って行かなくて?」


「うん、て言うか……来ない方が良いかも……」


 何故か目を反らし、気まずそうな表情で話す紗弥。

 紗弥の家までは後数分、住宅外だし心配は無いが、高志は何故、今日は自分が家に来るのを拒むのかが気になった。


「まぁ、それならここで分かれるけど……ほんとにどうしたの?」


「えっと……そのうち教えるけど……今はちょっと……あ、嫌いになったとかじゃないから!」


 歯切れ悪く言う紗弥に、高志はそれ以上何も聞こうとは思わなかった。

 隠したい事もあるだろうと思い、高志は笑みを浮かべて紗弥に言う。


「わかってるよ、じゃあまたね」


「うん……最後に……」


 紗弥はそう言うと、顔を赤くしながら高志に向かって両手を広げる。

 

「ぎゅってして……」


「……えっと……ご近所で噂になったら大変では?」


「今は誰も居ないから……お願い」


「うっ……だから、その表情は卑怯だ……」


 高志は紗弥の上目遣いでのお願いに負け、紗弥を抱きしめようと近づく。

 しかし、誰も居ないと思われた周囲に、一人の人影があった。

 人影は、紗弥と高志を見つけると、二人の方に向かって全力でダッシュしてきた。


「紗弥ぁぁぁぁぁ!」


「「?!」」


 紗弥の名前を叫びながら、全速力でダッシュしてくる人影を発見し、紗弥と高志は驚いて離れる。

 そして、その人物の正体に気がついたらしい紗弥は、肩を落として溜息を吐き、呟く。


「パパ……」


「パパ!?」


 まさかの紗弥の父親の登場に、高志は驚く。

 紗弥の父は二人の前にやってくると、呼吸を整え高志に言う。


「貴様かぁ! うちの娘をたぶらかすクソ野郎はぁ!!!」


「えぇ……」


 初対面から、紗弥の父親の高志に対する好感度は最悪だった。

 ダンディーな感じの顔つきに、年相応のお洒落な服装。

 母親も美人だったが、父親も男前だなと高志は感じつつも、この状況をどうしたら良いか、わからずにいた。

 すると、さきほどまで落胆した様子だった紗弥が、父親に向かって口を開く。


「パパ! なんでここに居るのよ!」


「さやたん! なんでこんな奴と買い物なんかに! 買い物なんか、パパがどこでも好きなところに連れて行ってあげるのに!!」


「え? 紗弥…たん?」


 他の家の事情にあまり口を挟む気は無い高志だったが、流石に父親が娘をそう呼ぶのはまずいのでは無いかと思う高志。

 

「その呼び方やめてって行ってるでしょ! はぁ……これだから、今朝はお父さんが寝ているうちに家を出たのに……」


 なんとなく、今朝の出来事と紗弥の言っていた言葉の意味を理解し始める高志。

 恐らく、紗弥の父親は、紗弥を溺愛しているのであろう、彼氏なんか家につれて来た日には恐らく追い返す勢いなほどに。

 だから、紗弥は高志と父親を合わせないように、休日の今日はあまり高志を家に近づけたくなかったのだろう。


「貴様ぁぁぁぁ!! うちのエンジェルを一日中好き放題しやがって!! 許さん! 許さんぞ!!」


「お、お父さん…落ち着いて下さい!」


「誰がお父さんだ! 貴様にそう言われる覚えはない!!」


 紗弥の父親の怒りが、高志に向いた丁度その頃__。


「えい」


「ぐへっ! ……」


「もう、貴方ったら、何をやってるのかと思えば……高志君、大丈夫?」


「あ、紗弥のお母さん…」


 やってきたのは、紗弥の母親だった。

 右手にはフライパンを持っており、そのフライパンで紗弥の父親の頭を叩いた様子だった。 紗弥の父親は道路に倒れ、そのまま気絶した様子だった。


「全く、うちの人は未だに子離れ出来なくて困っちゃうわ~」


「だ、大丈夫なんですか……これ?」


「心配しなくても大丈夫よ、いつもの事だから」


(いつもって……)


 助けてくれたのはありがたかったが、フライパンを持って笑顔で話す紗弥の母親に、高志は少し恐怖を覚えた。


「じゃあ、私はこの人連れて行くから、紗弥と高志君はお別れ済ませてから来なさい」


 そう言って紗弥の母親は、紗弥の父親を引きずって家に帰って言った。

 残された高志と紗弥は気まずい空気になってしまった。


「ごめんね……高志…」


「さ、紗弥が謝る事じゃないだろ?」


「……うちのパパ、あんな感じで面倒臭いのよ……」


「う、うん……なんとなくわかった」


 少しの沈黙、高志はなんと声を掛けて良いかわからなかった。

 紗弥は俯き、寂しそうな表情を浮かべながら、高志に向けて口を開いた。


「……パパがあんなだから、合わせたくなかったの……嫌われるの……嫌だったから……」


 さっきまで笑顔だった紗弥の表情が曇る。

 高志はそんな紗弥を見て、笑顔を向ける。


「まぁ、びっくりしたけど……紗弥が悪いわけじゃないし……それに、こんなことぐらいで嫌いにならないから」


「……ホント?」


「うん、それに……今日は楽しかったし……また紗弥と出かけたいから……」


 頬を赤く染めながら高志は紗弥に言う。

 紗弥は高志の言葉を聞き、無言で高志に抱きつく。


「……ありがと」


「あ、あぁ…気にすんなって……」


 力一杯抱きしめられ、高志もドキドキしながら、ぎこちなく紗弥の体を抱きしめる。

 高志は、こうやってちゃんと紗弥を抱きしめるのは、初めてだった。

 

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