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魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る  作者: ムーン
第四十八章 正義を滅ぼす魔性の王とその下僕
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魔界の門

・竜の里──魔界




竜の里に残っている天使と互角以上に戦える者をヴェーン邸の中庭に集めた。


『ヴェーンさんは残るんだよね、アザゼルは?』


「パスに決まってんだろ? 戦ってる最中にグロルに代わっちまったら即死だし、そろそろ統合が近いのかめっちゃ不安定だし……」


堕天使なのだからグロルの部分が完全に消えてしまえば戦力になると思っていたが、戦争に統合は間に合わなかったようだし、アザゼルの性格上参加する訳はなかった。


『トリニテート国王方は絶対に留守番していただきますよ』


「へーへ、足痛てぇし大人しくしてるよ」


『……竜の里に侵入してくる者が居ないとは限りません。特に……ナイ、アイツの動きや能力の限界は読めません。竜の導きなく結界を突破する可能性は十分あります』


真に警戒すべきはナイだ、正義の国や天界は悪魔達に任せたって構わない。負けはしないだろう。しかしナイが横槍を入れればそれは変わってくる。


『ナイ君としては多分、僕がこれ以上増長するのは避けたいはず……創造神との共倒れを狙ってくるだろうし、天使と戦ってる時に確実に邪魔してくると思うから、兄さんはここに居てね』


『え……!? ボクも留守番!? そんな……』


戦力としては痛いが、仕方ない。ライアーがナイの顕現として吸収されたら向こうの戦力が増えてしまう。

自分の能力に見合った自信を持っていただろうライアーは酷く落ち込んで項垂れた。


『ヘル……私は連れて行ってもらえないのか?』


『のかー?』


寂しそうに僕を見上げるアルとその頭に乗って楽しげなクラール。愛しい妻子を戦場に置く判断はできない、しかし竜の里が絶対に安全という訳でもない。


『天使が侵入したせいで国民が混乱してる。一応落ち着かせたけど、僕の不在が分かったらまた恐慌に陥るかも。だから王妃の君まで居なくなる訳にはいかないよ、ここでの生産は再建に絶対必要だから不安になられちゃ困るんだ』


『筋は通っているな。貴方の勝手で私を囲い込む言い訳としては優秀だ。それにしてもヘル……随分と難しい言葉を幾つも覚えたな?』


『おぼえちゃなぁー』


嫌味っぽい上に馬鹿にしてくるアルには苛立ちではなく戸惑いを覚えたが、寂しくてつい言ってしまったのだろうと解釈し、その柔らかな銀毛を撫でた。


『さっきも言った通り、侵入者が居ないとは限らない。兄さん、カルコス、クリューソス、ヴェーンさん、アザゼル……アルに何かあったら天使の次に滅ぶのは君達だからね』


『ヘル! なんて事を言うんだ、それが仲間に対する態度か!』


『…………ごめん、ちょっと気が立ってるみたい』


『ヘル……少し前から口調や言葉選びが少しおかしい。やはり天使を喰らうのはもうやめるべきだ』


『べきらー』


『そういう訳にはいかないよ……ありがとう、アル……心配してくれて嬉しい』


時折アルの言葉を復唱するクラールごとアルの頭を撫で回し、高揚が落ち着いたらカヤと小烏を呼ぶ。


『カヤ、アルとクラールの護衛を命令する。二人の生存を最優先し、襲われたら戦わずに逃げ回れ。指示は小烏に随時仰げ』


『了……傀』


犬神とは本来こういった臨機応変さが求められる命令には向かないのだろう。しかしカヤは理解した様子で了承し、アルの体に溶けるように消えた。


『じゃあ皆、留守番お願いね。にいさま、行こ』


『ヘルっ……ヘル、必ず帰って来てくれ。貴方のまま、貴方が帰って来てくれ』


僕自身はあまり天使を取り込むデメリットを感じていない。しかしアルを筆頭に仲間達は不安を覚えているようだ。くぅん……と可愛らしく鳴くアルの頭をもう一度撫でて、再び皆に手を振り、兄と共にヴェーン邸を出た。


「あ、魔物使い君……行くの?」


羊にもたれているヘルメスに話しかけられる。


『はい、すぐに戻ります。動けそうなら中入ってくださいね、お兄さん達いますし……家の中の方が休めますよね?』


「んー……でも、この羊気持ちいいし」


もふん、と羊の毛に後頭部を押し付けるヘルメスの表情は暗い。家に入らないのは羊と共に居たいからではなく、家族と顔を合わせるのが気まずいからだろう。会えば神具の使い過ぎを咎められるのも、それで喧嘩になるのも分かっているから。


『……後悔しないよう過ごしてくださいね。ウェナトリアさんは? 帰りました?』


「あぁ、うん、国が心配ーとか言って」


『そうですか……じゃあ、僕もう行きますから、何かあったら兄さん辺りに相談してくださいね』


気まずいからと浪費するような時間は彼には残っていないだろう。しかし家族と過ごせと強要する権利は僕にはない、ヘルメスと同じく残り少ない命のクラールから離れる僕には……


『シェリー! お願い!』


庭の真ん中で丸まって眠っているシェリーに人界へ出る門を作るよう頼む。


『ター君、いってら~』


『あ、ハスター…………忘れてた。えっと、君は来ないの? 戦力欲しいんだけど』


『邪神成分抜けちゃったから戦闘能力ほぼないんだよ~、羊しか守れな~い』


『いや、ほら、竜巻起こしたり……』


『アレ邪神成分だも~ん。羊に関わる天候なら操れるけど~、羊に関係ない天候なんかどうにもなんないよ~』


クトゥルフやナイと戦う前に正義の国に戦争を仕掛けるべきだっただろうか。


『きゅい? きゅうぅ……?』


『シェリー、門できた? ありがとう、行こう。ハスター、羊の世話以外の留守番もお願いね』


『気が向いたらね~』


人界へ出たら現在地を確認する前に兄に頼んで隠匿魔法をかけてもらう。これで即刻天使に見つかる心配は消えた。


『シェリー、僕の影の中に入ってて、ルシフェルに噛み付いたりしちゃダメだよ。ルシフェルー、聞こえる? シェリーに槍刺さらないよう槍まとめておいて』


竜の里以外では水に浸かっていなければ動けないシェリーを連れ歩くには影の中が一番だ。安全のためには一人で帰ってもらうべきなのだが、戦争が終わった時に人界に竜が居なければ移動も連絡もできない、仕方ないのだ。


『正義の国の近くに魔界と通じる穴が開くはずなんだ。その前に悪魔達と合流したいんだけど……』


兄は界を跨ぐような空間転移はできないはずだ。そう分かってはいるが念の為に聞いてみると、兄は体内から握り拳ほどの大きさの蝿を取り出した。


『蝿、僕の弟がそっちに行きたいって言ってる』


その蝿は気色悪くも分裂し、群れとなり、僕と兄を囲むように飛び回った。相変わらずの不快感に目を閉じて浮遊感を待ち、再び目を開けると赤黒い景色が広がっていた。

赤みを帯びた黒い岩盤の上、見覚えのない形をした奇妙な獣達が穴を開けるために働いている。洞窟のようにも思えるこの魔界の灯りは天井から垂れ下がったりしている鬼灯型の何かだが、その見た感じの薄明かりに反して見通しはいい。


『蝿はそっちだね。おーい蝿ー、来たよ』


兄に着いてベルゼブブの元へ行くと、ベルフェゴールと言い争いをしているようだった。


『ベルゼブブ、ベルフェゴール、何喧嘩してるの? 今そんな場合じゃないでしょ』


『魔物使い様! 聞いてくださいよ、ベルフェゴールったら薬打ちたくないって言うんですよ!』


『薬なくても起きてるんだからいーじゃんっつってんですよ!』


ベルフェゴールは働かずに眠ってしまうから有事の際は麻薬で無理矢理肉体を覚醒させているのだが、麻薬なしで起きて働いているのなら何の問題もない。


『働くなら薬打たなくていいよ。再生するから平気とはいえ……いいものじゃないし、高いしね』


『私はベルフェゴールが働かないから打たせたいんじゃなくて、私の命令に反発しているから苛立っているんですよ!』


『自己分析できてるなら反省と改善して。ほら、各々の仕事に戻って』


喧嘩を簡単に納められたことを誇り、胸を張る。数秒してからベルフェゴールが麻薬を打ちたがらなかった理由が気になって、サタンの元へ行こうと言う兄を無視して彼女の背中を追った。

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