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番外編 後日

超短編を二つ。

一つ目はヴィッセン 二つ目は『黒』の話

・無期限延期



砂漠の国の中心部、少しだけ科学も取り入れた都市。

遺跡の底から現れた獣の骨を持ち、正装の男はハヤブサの装飾が施された門をくぐる。

男はこの大学で歴史学の教授として勤めていた。


「サーバートさん! ああ、良かった。無事だったんですね」


骨の解析を頼むために、同僚の部屋を訪ねた。

年下の同僚の名はヒロセレウス、生物学の教授だ。


「やぁ、ヒロちゃん。少し協力して欲しいことが……」


「目は!? 目は無事ですか、サーバートさん!」


「は? 目? 砂はちゃんと洗い流したよ」


男の顔を掴み、瞼をこじ開ける。


「大丈夫みたいですね。外に出たって聞いて心配していたんですよ」


「何かあったのか?」


ヒロは机の上に散乱した紙の中から新聞を持ってきた。

遺跡調査、そして獣討伐の時間帯──つまり、蝕の時。


「蝕が起こっている間って辺りが暗くなるじゃないですか。今まで起こったのはただ暗くなるだけで何ともなかったじゃないですか。でも今回のは違うんですよ」


「狂った人々、自分の目を抉り出す。神の怒りか国連の警告か。ねぇ」


「暗くなった途端に外から叫び声が聞こえたんですよ、一人だったので怖くて怖くて……なんでこんな日に出ていっちゃうんですか!」


泣きそうになってすがりつく同僚を無視して、新聞を読み進めるヴィッセン。

神の怒り──この国は太古より太陽神を筆頭とする神々を崇拝してきた。

だから太陽が隠れる蝕は不吉の象徴で、皆家から出ない。

それを信じない人々への罰だとでも言いたいのか。


そしてもう一つ。

国連の警告──国連はヤハウェ神を信仰している。

人を創った唯一の神、天使を人間界に送り込み守護される素晴らしき神。

だから国連には、その神以外を信仰する国は加入できない。

近頃では他の神を崇める国々と戦争が起こるという噂もあった。

今回の事件は太陽神を崇める砂漠の国への警告、今なら許してやる、なんて……


「……お得意の陰謀論か、神も人も関係ないんだな、あいつらにとっては」


これだからマスメディアは信用ならない、男はそう吐いて新聞を投げた。

人々が狂い自らの目を抉ったのは、もっと違う……何か恐ろしいものの仕業だ。

信憑性のない報道を批判しつつも、ヴィッセンも勘だけで予想を立てた。

まぁ、何も知らないのだから仕方のないことではあるが。


「サーバートさんは怖くないんですか?」


「無事だからね、何とも思わない。今は落ち着いているんだろう?」


「そうですけど……私は怖くて怖くて、仕方ないんですよ。しばらくここに居てくださいよ」


「次の学会のために論文を書きたいんだけどな」


「ああ、それなら延期ですよ。この事件で国は大騒ぎなので、しばらく休校ですから仕事はありません。研究もしなくていいですし、家に居て大丈夫ですよ」


その話を聞いて、男は膝から崩れ落ちる。

あれだけの危険を冒してまで調査に行ったというのに、意味がなかったと。


「まぁ……論文は書こう、暇になるだろうし」


「真面目ですねぇ。でもま、そういうところが……い、いえ、何でもないですよ? なんでもないなんでもない」


「ヒロちゃんにも手伝ってもらいたいんだ、骨の解析を頼みたくて来たんだよ」


「あ、はい。サーバートさんの頼みなら喜んで!」


可愛らしい笑顔で快諾すると、骨を受け取って奥の研究室に走った。

ヴィッセンはいい後輩をもったと喜び、資料を集めるために部屋を出た。


その後、「怖いからひとりにしないでって言ったのに!」と責められる羽目になるのだが、今のヴィッセンには知る由もない。






・無貌



砂漠の国のとある宿、屋根の上に黒い人影。

禍々しくも神聖なそれの首には、目と鱗のない蛇のようなモノが巻きついていた。


『………ふふふ、ふふふっ、どうなるかなぁ。ねぇ、『黒』はどうなると思う?』


庇護欲と嗜虐心を掻き立てるその儚げな美しさ。

危険な香りのする少女は、自分の名であるはずの名に問いかけた。

当然のごとく返事はなく、『黒』はただ笑う。


『天使長は、どこまでやってくれるかなぁ。楽しみだなぁ、愉しみ、嬉しみ、早く見たいな』


首に巻きついた黒い蛇のようなモノが狂乱する。


『ふふ、ふふふふっ、君のナカに入ってよかった。これ以上の愉悦はないね』


魂が眠ってしまった人形のように、『黒』は無感情に笑い続けた。

感情を表すように躍る黒蛇。

黒蛇は『黒』の首に穴を開けると、そこから体内に潜り込んだ。

何事もなかったかのように傷は消え、『黒』の瞳に色が戻る。


『………あれ? ここどこだっけ。何してたっけ……ああ、なんか、頼み事……なんだっけ』


ふらりと辺りを見回す、まばらな建物と砂漠。

遠い地平線では日が沈んでいた。


『まぁ……いいか。リベルタかヴォロンタに交代しよう』


屋根から降りる頃には姿が変わっていた。

彼女は体内の異物に気がつかず、仮初の自由を謳歌する。


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