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情報交換

・砂漠の国




アルとエアは互いに手に入れた情報を交換する。と言っても半分ほどは被っており、まとめるとこうだ。

──この劇場の地下に新しい広い空間が作られた。

──だが、その空間に出入り口はない。

──空間が出来てから不審な集団が劇場を彷徨くようになった。

──不気味な祝詞らしきものがどこかから聞こえるようになった。

まとめ終わったエアは面倒臭そうに舌打ちし、会話を進める。


『つまり、劇場の地下に邪教徒共の集会所がある……ってことだね』


「邪教徒……? 何、またやばい話に顔突っ込んでるの?」


『まぁな』


「少しはそういうの躊躇いなよ……」


リンはアルの耳元でヒソヒソと話しているつもりだが、その声はエアもフェルも一言一句逃さず拾っている。


『じゃあ、早速地下行こうか』


『いや、とりあえずベルゼブブ様達と合流しよう』


『……僕じゃ力不足だって言いたいわけ?』


『入れ違いになったら面倒だろう、ただそれだけだ。私に八つ当たりしない方が良いぞ、此処での貴様の言動は全てヘルに報告する』


『お肉食べたくない? 一番高いの買ってあげる』


エアは猫撫で声を出す。リンはその急変に背筋が寒くなるのを感じ、構ってもらえないフェルは抱き着く力を強めた。


『……ところで、ボサボサ君。君は何か情報持ってないの? 持ってないね、この無能』


「返事させて!? 持ってる! 持ってるよ!」


『ならさっき話してた時に口を挟みなよ、この無能、馬鹿、塵、屑、芥』


「……この国の太陽神信仰がまだ薄れてないから、近々また正義の国が攻め込むかもしれない。この国を治める王様が最近怪しい預言者にハマってる。近頃遺跡群の防衛呪術が誤作動を起こして動く屍体が人を襲ってる。こんなものかな」


『どうでもいい情報で僕の脳の容量を圧迫し、貴重な時間を奪ってくれてどうもありがとう、今度お礼としてストレス発散用の達磨にしてあげる』


「ねぇなんでコレの弟があんな可愛くなるの?」


リンはアルの背後に隠れつつ、エアに負けじと減らず口を叩く。


『僕が真心込めて教育したからに決まってるだろ?』


『……二度とやるなよ』


『分かってるよ、嫌われるのはやだからね』


「え……? 何したの……?」


いやそれより、とリンが言葉を続ける。


「その、弟くんさっきから君にずっと引っ付いてるけど相手しなくていいの?」


フェルはエアの胸に顔を埋め、人間なら息が出来ないくらいに強くエアの背に腕を回していた。だが、エアはそんなフェルに一瞥もせず、アルやリンと会話していた。


『あぁ……鬱陶しいね』


片手で容易く引き剥がし、突き飛ばす。


「ちょっ……! な、なんてことするんだよ! 弟なんだろ!?」


『僕の弟はヘルだけだよ。あぁでもヘルはソレ気に入ってたかな。君にはあげないけどこっちに居る間なら遊ばせてあげてもいいよ』


リンは啜り泣くフェルに手を伸ばす──が、フェルはその手を振り払い、エアの背に隠れる。エアはそんなフェルの髪を掴み、力任せに床に転がした。


『鬱陶しい、用事があったら呼ぶから近寄らないで』


『……ごめんなさい』


『アル君、あの蝿と合流しよう。酒場に居るかな?』


『十中八九呑んでいるだろうな』


エアは踵を返し劇場を出る扉に向かう。アルもそれに続き、フェルも起き上がって続こうとする。だが、リンが腕を掴んだ。


「……君、普段からあんな扱い受けてるの?」


フェルは黙ったまま腕を振り払い、小走りで二人を追いかけた。リンもまたそれを追いかける。


『なんで着いてきてるの?』


「あんなの見て放っておけるわけないだろ!?」


炎天下に怒声が響く。


「虐待じゃないか……!」


『他人の物の扱いに文句言うなんて随分と暇なんだね。そんな暇あるなら髪を整えたら?』


振り返らずに、立ち止まらずに吐き捨てる。リンはフェルに視線をやるが、フェルはそれから逃れるようにエアの隣に移動した。


「……アルギュロス」


『大丈夫、ヘルに傷を負わせるような真似はさせん』


「君も、あの子はどうでもいいの?」


『……ヘルによく似た可愛らしい子だ。だが、それだけだ、ヘルでは無い。心苦しいが……アレは兄君の物だからな、仕方ない。覚えておくんだなリン、私は魔獣、それも悪魔を模したモノだ。貴様のような道徳や優しさは持ち合わせていない』


よそ見をして歩いていたリンは突然立ち止まったエアにぶつかる。けれどもエアは一瞥もせず、周囲を見回した。


『……フェル、酒場はどこ?』


『えっと……地図によると、ここから北。そんなに遠くないから真っ直ぐ行けば見つかるよ』


『見せて…………南じゃないか。地図も読めないの? この出来損ない』


『南と言うと……この路地の奥か。日陰だな』


アルは嬉嬉として路地を進む。先頭はアルに変わり、次いでエアが、その次に地図とにらめっこをするフェルが続く。


「……地図読むのって案外難しいよ。落ち込まなくていいからね」


『…………構わないでください』


「どうして?」


『……お願いですから話しかけないでください』


初対面の時にヘルではないと見破られたからフェルはリンが苦手になっていた。ヘルのフリでも身代わりでもない扱われ方はまだ不得手なのだ。


「これだけ聞かせて? ヘル君は君をどう扱ってるの?」


『……弟として扱ってます。頼りあったり、口喧嘩したり、心細い時に手を繋いだり……します』


「そっか、ヘル君はまともか……そうだよね、あの子が、そんな……」


『もういいですよね? じゃあ、もう僕は返事しませんからね』


アルの歩みが止まる。酒の匂いだと鼻を上に向け、数歩進んで古びた扉の前で止まる。エアは大きく舌打ちをして扉を蹴り開けた。途端に室内から大音量の音楽が溢れ出す。


『耳が痛いな、入りたくない』


『振動半減っと。ほらアル君、行くよ』


『私にもその魔法を……あぁ、待て、兄君、私にも……』


酒場の店主は無愛想で、一通り顔を見ると視線を磨いているグラスに戻した。そんな事は気に留めず、二人は奥の席で酒を浴びるように飲んでいるベルゼブブと酒呑の元へ一直線に歩く。エアは彼らが座った席の前に立ち、机を蹴りつけた。


『……情報収集するんじゃないの?』


『してますよ、相も変わらず乱暴ですねぇ』


「あ、えっと……ベル……? 何とかちゃん」


『おや、変態さん。お久しぶりです』


机に新しく豚を丸々焼いたものが運ばれてくる。ベルゼブブは心底嬉しそうにそれにナイフとフォークを突き刺した。


『…………情報収集してるようには見えないけど』


『私、帝王ですよ? そういうのは下っ端の仕事です、ねぇ?』


無数の赤い瞳が酒呑を見つめる。


『誰が下っ端や』


机の上はもちろん、下まで空の酒瓶が転がっている。エアは再び机を蹴った。


『本当、乱暴な人ですねぇ。そんなんだからヘルシャフト様に嫌われるんです』


『…………嫌われてない』


『嫌われてますよ。言ってましたよ? 貴方が居ない時、私に。貴方のことが嫌いだと、一緒に居たくないと、死ねばいいのに、と』


ベルゼブブは豚肉を頬張りながら適当な嘘を並べていく。

エアは机から足を下ろし、ベルゼブブを睨んだまま動かなくなる。その瞬間、激しい炎が豚の丸焼きを包み、炎が消えた後には灰の山だけが残った。


『……まずい。リン、私の後ろに』


「な、なんでいきなり燃えたの? え? な、何? なんかやばい?」


戸惑うリンの服の裾を咥え、アルはフェルの後ろに下がる。フェルは杖を振り、結界を構築した。酒呑も酒瓶を二本引っ掴みアルの隣に並んだ。


『私の食事を邪魔するとは、貴方、随分と……度胸があるなぁクソ野郎がっ!』


「ひぇっ!? きっ、キレた!?」


『……殺してやる。あぁ、そうだ、ヘルには僕以外必要無いんだよ! ここで全員消してやるっ!』


「こっちもキレてる! しかも俺も危なさそう!」


リンは反射的に隣に居た酒呑の背に隠れ、肩を掴む。


『解説おおきに。しっかしまぁ、どないすんの。頭領居らんかったら俺らこないまとまりないんか……』


『どうにも馬が合わんようだな、ヘルが居ても喧嘩は怒るだろうが、ここまで酷くはならんだろう』


『悪かったねお兄ちゃんじゃなくて! どーせ僕は出来損ないの作り損ないだよ! 何にも出来ない穀潰しだよ!』


『何言っておらんだろう……それに、弟君が居らねば結界は張れず、私達も危険に晒されていた』


八つ当たりで涙目になっていたフェルはアルの言葉に一瞬笑顔を見せるが、次の瞬間にはその笑顔は消えていた。


『……あの二人が本気出したら僕の結界じゃ流れ弾止められないよ、結界なら酒呑さんの方が上手いし……』


『せやな』


『否定してよっ! 僕を慰めてよっ! お兄ちゃんなら慰めるくせに!』


『頭領やってもせぇへん』


不満を叫ぶフェルの背後で結界にヒビが入る。フェルは再び杖を振り、結界を修復する。


『……少しずつ後退して離れよう。流石に加減するとは思うが、本気を出されたら店が無くなる』


もう店には誰も残っていない。

四人は少しずつ後退し、建物の外に出た。




ベルゼブブが怒る主な理由

・食事の邪魔をされる。

・格下に侮辱される。

・ナイっぽいのが目の前に居る。


エアが怒る主な理由

・思い通りにならない

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