予言
「はっ、初めまして!空といいます」
「雪です」
本当ならばこちらから自己紹介をしなければならないのに領主様からさせてしまうだなんて・・・・・
「ふむ、空君に雪さんか・・・・ところで、私に用事があったようだが・・・・どんな用事か・・・・・・当てて見せようか?」
領主様がいたずらっ子のような笑みを浮かべる
「667人目の魔王について・・・・・だろう?」
その言葉に思わず目を見開く
「どっ、どうしてその事を・・・・・!?」
口に出してしまってから自分の話し方がこの場にそぐわないものになってしまっていたことに気づく
「しっ、失礼いたしました!!」
慌てて頭を下げたがこちらを見ていた領主様は笑ったまま
「構わないよ、貴族の子でもない君たちのような年の子どもに礼儀なんて求めることはないから。呼び方も常識の範囲内であればどう呼ぼうが指摘はしない・・別にローズさんとかでも構わないくらいだ。まあま、気になるならローズ様とでも呼んでくれればいい」
どうやら領主様・・・ローズ様はかなり気さくな人のようだ
俺はローズ様に改めて目を向けると
「どうしてこの雨が667人目の魔王であることを知っていたのですか?」
敬語としては多少おかしなものだとは気づいているが先程構わないと言われたのだから気にしないこととした
元から敬語なんて苦手なのだ
それに気づいているのかローズ様は苦笑しながら
「ほんの1週間くらい前にね、王都でとある占いが出たんだよ」
「占い?」
さっきから黙っていた雪が首を傾げる
「あぁ、その内容はね
『右の翼に新たなる魔王の運命を刻まれし獣が産まれた
その獣の主は強き業を持つ孤独の少女を連れて翼の主の元へと来るだろう』
という内容だったのさ」
なるほど・・・・それで、新たなる魔王っていうのが667人目の魔王
強き業を持つ少女というのは咎人の事をさすと考えたわけか・・・・
ん?ということは俺と雪が一緒に行動することも予言されていたってことか?少し怖いな
予言の時期が1週間程前だというのも雨が産まれた時期と合致する
「それで・・・・どうなさるおつもりなのですか?」
俺はローズ様の沙汰を待つことにする
隣の雪は俺が何を言ってるのかわからないといった風に首を傾げている
「私が667人目の魔王を処刑するか・・・という問いでいいのかい?」
「なっ!?」
俺が頷くのを見て雪が俺の前に立ちはだかる
「はぁ、そんなに心配しなくても私が君たちを処刑することは無い・・・・・そう考えてもらって結構だよ」
そんな雪を見たローズ様がため息をつく
その言葉に雪の緊張が解けたのを感じた
「雪・・・・」
「怖かった・・・・・また一人になるかもと思って・・・・!!」
雪に少しばかり小言を言おうとしたのに涙ながらに睨まれて言葉が引っ込む
「私をもう一人にしないでよ・・・・」
雪が俺に抱きつく・・・・というよりも俺を抱き締める
まるで、そうでもしないと俺が遠くにいってしまうかのように
俺は抜け出そうともがいていたが完璧に腕をしめられており、抜け出すことが出来なかった
「オホン・・・・えーっと・・・構わないかな?」
その言葉に俺を抱き締めていた雪がビクンと跳ねて俺から離れる
「とりあえず、注意点だけは言っておこう。まず、君の処刑に関してだが・・・・」
また微かに雪が強ばる
「667人目の魔王・・・・つまり、雨が君の言うことをきちんと聞き、理由もなく人民に被害を与えないならという前提がつく。それと、君には667人目の魔王を連れて魔王討伐の旅に出てほしいと考えているんだ」
「へ?」
思わず声が出てしまった
ローズ様の前半の言葉は理解できる、だが、後半の言葉が理解できなかった
「上ではある程度議論があってね、667人目の魔王をまだ力の無いうちに処刑するべきだという人もそれなりにいたんだ。それでも667人目の魔王を処刑しない方向に話が落ち着いたのはその子・・・・雨の成長した後の魔王としての実力を使えるのではないか?と考えた人が多かったからだ。つまり、もし、雨が強くなれば魔王と対等の力を得ることも可能なのではないか?というわけだ」
なるほど、それで納得がいった
つまり・・・・・
「私が旅に出ないと・・・役に立たない上に将来危険な可能性が高いという理由で処刑されるということですね・・・」
俺の推論にローズ様が頷く
「いきなりで悪いとは思うが、その詫びとして支度金はかなり用意した。それで準備を整えて旅へと出発してくれないか?」
ローズ様が袋を机の上に置く
「ここに金貨が100枚ある。白金貨だと使いづらいだろうから金貨で用意させてらもらった。これを使ってくれ・・・・・」
ちなみにこの世界の通過は低いものから銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっており
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貨1枚
となっている
ちなみに4人家族が1日すごそうと思ったら3食きちんと食べても銀貨1枚前後といったところだろうか?
ついでに言うと平均的な一般男性の日当が銀貨2枚で、俺が出発前にもらったお金が銀貨10枚だと言えばかなりの大金だということがわかるだろう
ちなみに白金貨など、商人が大口の取引等で使用するくらいで、実物など見たことがない
「あっ、ありがとうございます」
俺と雪は一瞬呆然としたものの俺はローズ様からお金を受けとると雨に頼んで異空間にしまっておいてもらった
それを見てローズ様が少し眉を上げるがそれは気にせずに俺はローズ様に向き合う
「ローズ様、旅立ちのことなのですが、一度報告のために故郷に戻ってからでも構わないでしょうか?旅立つにしても一応故郷のものには知らせておきたいので」
「うむ、勿論構わん・・・・そうだな・・・こらも餞別にくれてやろう」
そう言って一つのメダルのような物を取り出すローズ様
どうやらライト家の家紋が掘られているようだが使い方がわからない
「これは?」
「これは私の家紋の入ったメダルだ。これを兵士に見せれば咎人でも村に入ることができるだろう。これは私の名において身柄を保証するという証だからな」
どうやらかなりすごいものだったようだ
「ありがとうございます!大事に扱わせていただきます」
そう言ってメダルを受けとる
「また、何があったらこちらへとくるがよい・・・私にできることならある程度は便宜を図ろう」
「何から何までありがとうございます!それでは失礼します」
お礼を言って雪と共にローズ様の書斎を辞することにする
勿論後で雪に絞られたのは言うまでもない
空達が部屋を出ていってから領主であるローズ・ライトは考え事をしていた
(さてと・・・・旅に出ることが彼らの吉となるか凶となるか・・・・・)