初体験
「あそこが右翼の街に続いてる村だよ」
雨を頭に乗せている雪が村を指差している姿は微笑ましく、同時にシュールでもある
「じゃあ、ちょっと村で食料とか調達してくるよ」
そう言って雨を呼ぶと雪の頭から器用に降りてきた
見た目は完全に犬なのに猫顔負けの身軽さだ
その雨を見て少し悲しそうな顔をする雪
「・・・・・・・雨は雪と一緒にここで待っててくれるかい?」
そう言うと雨は了解という感じに鳴き、雪は一気に嬉しそうな顔になった
流石にあんなにしょんぼりとした顔をされると雨を連れていくなんて言えなかった
(まぁ、食料調達してすぐ出てくるしそのくらいならいいか)
それに『心獣』とテイマーは繋がっているので『心獣』に何かあればテイマーにはすぐにわかるのだ
だからと言って普通のテイマーなら『心獣』をあってすぐの人に託したりはしないのだが・・・・・
村で食料を確保して集合場所としていた場所に行くとそこにはきちんとテントが立てられていた
これもただのテントではなく、特殊な魔物の素材である糸を使って作られたもので回りの色に同化するように作られているのでかなり見つけにくいというものだ
そこでぱっぱと夕食の準備をして雨と雪と一緒に食べる
「お昼御飯の時も思ったんだけど、どうして空のご飯ってこんなに美味しいの?」
「そんなに美味しいか?」
いつも自分で作っているし美味しいのかどうかよくわからないのだ
「普段はどんなものを食べてたんだ?」
「んー、野草とかそこら辺にいる動物とかかな?」
その言葉に雨が驚いて俺の懐に飛び込んでくる
「あわわわ!別に雨ちゃんを食べる訳じゃないよぉ!」
だから逃げないでとでも言いそうにこちらに手を伸ばす雪
(っていうか絶対雪は料理できないだろ)
これから何があっても料理は自分でしようと決意した瞬間でもあった
寝る時間になり、テントを用意してからある一つの事実にきづく
(あれ?これって・・・・・もしかして、一緒に寝ることになるのか・・・・・?)
一人っ子で妹などもいなかったため、誰かと(特に女の子)と一緒に寝るなどという経験はなかった
(はぁ、今夜は眠れない夜になりそうだ・・・・・)
結局、緊張で眠ることはできず、そんな俺とは対象的に割と早い段階で眠りに落ちていた雪に若干呆れることとなった
もとから生産の時は徹夜することもあるとはいえ流石にこれが数日続くと辛い
なので、俺の隣でも緊張せずに普通に寝ている雪にコツを聞くことにした
「なぁ、雪って俺の隣でも普通に寝てるけど何かされるとか考えたことないのか?」
「え?何かするの?」
その返事の中に俺に対するかなり高めの信頼(実際には違う)を感じて俺はそれ以上何も聞くことはできなかった
そうして道を歩いていると茂みから何かが飛び出してきた
「スライム・・・・・?」
「スライム・・・・・なのか?」
「くるぅ?」
雪の呟きや俺の呟き(+雨の鳴き声)が疑問系なのは、目の前にいた存在が知識上のスライムとは違っていたからだ
確かに形はスライムなのだが色が水色ではなく黒なのだ
そのスライム(?)だがこちらをじっと見ている(目がどこにあるのかわからないのであくまでそう見えるだけ)だけでこちらに危害を加えようとしている風には見えない・・・・・
と思っていたらいきなり大口を開けた
「?」
するとそこから風が発生して吹き飛ばされそうになる
慌てて踏ん張って回りの様子を見回すと雨がこの風をものともせずにスライム(?)に近づくと
前足で頭を叩きつけて口を閉じさせると尻尾で追撃する
その追撃により吹き飛ばされたスライム(?)は光の玉に変わり雨に近づいていった
雨はその光の玉をパクッと食べる
「「えぇええええええええ!!!?」」
思わず俺と雪の声が被ってしまう
いくつもの驚きが内包していた
まず、一つ目としては普通に可愛い雨が思ったより高めの戦闘能力(?)を持っていたこと
二つ目は魔物を倒したときに光の玉になったこと
三つ目はその光の玉を雨が食べたことだ
「そうだ!なにか状態以上にでもなっていないかステータスを確認しないと!!」
そう思い雨のステータスを確認すると
『異空間作成 new』
という文字が目にはいる
「なんか増えとる・・・・・」
思わずどこか別の世界の方言になってしまうくらいに驚く
その『異空間作成』をくわしく調べると
『異空間作成』
異空間を作成することができる最大10個まで作成することができ、それぞれの大きさと入る許容量は使用者の魔力の強さに依存する
どこからでもどの異空間にもアクセスすることができ、生き物が入っていない、復は干渉していない異空間は時間が進まない
また、生き物が入っている場合も任意で時を止めることは可能だが、その場合時を止めた異空間の内部にいる生き物は外に出ることができず、一度、他の存在によって時間の停止を解除してもらわなければならない
「あれ?これって・・・・優秀な倉庫なんじゃね?」
とりあえず雪に事情を説明して(雨がなんで異空間作成を使えるようになったのかは予想はできるが話していない)安心してもらう
その後、荷物を雨の作った異空間の一つに入れてもらい、俺たちは身軽なままに旅を続けることにした
勿論、次の村では悲しそうな顔をする雪を振り切って雨と二人で大量に食料を購入し、片っ端から雨の異空間に突っ込んでいくという作業を繰り返した
結局、異空間の内5個が食料で埋まることとなり、そのお陰でその後は村にはいる必要もなく、寝るときは普通にテントを使い(異空間で寝てもよかったがまだとても体を伸ばせるようなスペースはなかった)
俺も(なんとか)慣れたため、きっちりとした睡眠をとることが出来た(一回だけ起きたら雪に抱きつかれていて焦ったこともあったが)
そんなこんなで俺が村を出てから6日目、俺たちはようやく領主様の屋敷がある右翼の街へとたどり着いた