旅程1日目
「それじゃあ行ってきまーす」
見送りに来てくれた村長や晴たちに手を振り村を出る
雨はゆっくりと歩いている俺の周りを嬉しそうに歩き回り、見たことのない景色に興味津々のようだ
そんなこんなで一日目に泊まる村についた
特筆するようなこともなかったし、魔物や盗賊も出なかった
ハプニングやこういう旅お決まりの新しい出会いとかもなかったし
それに、俺にとってはこの村には生産業の関係上何度も来ているためよく知っている町なのだ
ぶっちゃけて言うと、俺たちの住んでた村には薬学をきちんと学んでいる人がいなかったため、俺は薬学を学ぶためにしばらくこの村の薬剤師(薬学を究めて薬を作ったりする人)の家に住み込みで教えてもらっていたのだ
その時に
「家出とかしたときは家に泊まりにおいで。仕事は手伝ってもらうけど寝床と飯ぐらいは用意してあげるから」
と人の良い薬剤師さんのメディさんに言われていたため、今日はメディさんの家に止めてもらうつもりなのだ
「メディさんいますか?」
「おぉ、その声は空坊かい?」
薬屋の扉を開けてメディさんを呼ぶと中から恰幅の良い女性が出てくる
もう30代前半(正確な数字は言うと怒られるので言わないが)なのに独身の女性で珍しく適正が魔法使いなのに生産業になった人だ
だから少しだけとはいえ、魔法を使うこともできるらしい
「メディさん、紹介するね。こいつがようやく生まれた俺の『心獣』の雨」
雨を抱き抱えてメディさんに見せる
「へぇ。ようやく生まれたのかい。よく見せておくれ」
メディさんが見やすいようにカウンターの上に雨を置く
「わふ?」
雨はどうやらカウンターに興味津々のようだ
「それで、メディさん。ちょっと用事があって右翼の街まで行かないといけないんだけど今晩泊めてくれないかな?勿論お手伝いはちゃんとするよ」
右翼の街とはここら辺一帯を治める領主様の住んでいる街のことだ
「勿論いいよ。あんたは腕がいいからねぇ。ほんとにこの店を継いでくれたら良いのに」
「ごめんね。俺は俺の村に薬屋の技術を持ち帰るために来たから・・・・」
「まぁ、しゃあないねぇ。最初からそういう話だったし・・・・じゃあ、きちんと技術を伝えた後は考えておいておくれよ?うちの村にはろくに薬学を学んでるやつなんていやしないんだから」
その言葉に苦笑を返し店兼メディさんの自宅へと入っていく
ここまではテンプレとまで言える会話なのだ
「それじゃあまずは風邪薬から頼もうかね」
「了解!」
普通ならば冒険者相手に売れる傷薬や体力回復薬などが売れるので、それを作るのだがここは辺境の村の一つで近くに魔王の国があるわけでもなく、冒険者用の薬は最低限でよく、村人を対象とした風邪薬や軽度の傷に対して作る傷薬などが売れ筋の商品となっていたため、そちらが優先されるのだ
俺はメディさんと一緒に薬を作り、雨と遊んでからゆっくりと休んだ
次の朝になり、少しだけ朝の仕事を手伝ってから俺と雨は次の村へと向かって旅立つことにした
「もっとゆっくりしてけば良いのにねぇ。まぁ体には気をつけるんだよ」
「ありがとう。メディさん」
泊めてくれたお礼を言ってから村を出る
メディさんからは餞別にと冒険者用の薬を一通りと店で余っている素材を持たせてくれた
簡易調合用のキットはメディさんの所を卒業したときにもらっているのできちんと旅の道具の中にしまっている
次の村からは今まで行ったことが無いので少し心配だがなんとかなるだろう
何てったって雨も一緒にいるんだから
「ふーん、なんか面白そうな奴が歩いてる・・・・見た目はそうでも無さそうだけど結構大きな荷物持ってるし・・・・それなりに金も持ってるのかな?それならいいんだけど・・・・まぁ、かわいそうだけど私の糧になってもらおうか」
遠くから空と雨を見ていた存在がそう呟いた
だけど空と雨はまだそのことを知らない