667人目の魔王の覚醒
俺たちが右翼の街を出発して2日
特に事件という事件もなく俺たちは竜属の里にたどり着いていた
竜属の里は竜山と呼ばれるかなりの高さと険しさを誇る山の頂上にあり、空を飛んで入ろうとしても竜属の加護を受けたもの以外は一定の高度以上に上昇することはできないというまさに竜属のためにあるような場所だった
ちなみに名前は竜属の里だが、実はごく少数だが竜属以外も住んでいたりする
最初に入る時に少しだけ揉めたがドラウスさんの
「なにかあったら俺が責任を持つ」
という鶴の一言で全てが押しきられた
ドラウスさんは里に入ると早速万能薬の作成に入り、俺はそれを観察させてもらうことが出来た
また、俺はドラウスさんが紹介してくれた薬師のリーフさんに、雪は里の中にいたエルフのサーシャさんに弟子入りすることになり、午前はサーシャさんを含めた3人+一匹で竜山の魔物を狩り、午後は別れてそれぞれの師匠の元で過ごし、夜は宿屋に帰ってきて二人で過ごすという生活を送っていた
リーフさんは金髪碧眼の竜属の青年で、背は俺よりの1.3倍くらいだろう、筋肉はそこまでついていないように見えるが手先の器用さが自慢だそうだ。ちなみに適正は魔法使いで職業は攻撃魔法に特化した魔術師だ。しかし、リーフさんはその攻撃魔法を普段の生活の中に生かしたいという考え方を持っているらしい。
どうして俺の身近の薬師は全員適正が魔法使いなのだろうか?
そのリーフさんだが、俺が今まで知らなかった調合の仕方や材料を使った調合を教えてくれ、一月ほどで作れる薬の種類はかなり多くなった
雪が師事したエルフのサーシャさんは、白髪の長髪を後ろで一本に束ねた女性で、背中には弓、腰には短剣を刺していた。適正は戦士で職業は弓と短剣を使用し、気配を消して相手を攻撃する暗殺者アサシンだ。おそらく雪が咎人ではなく普通の職業を持っていたらそこに行き着いていたのだろうという予想が出来たので丁度良かったとも言える
里の人たちも最初は俺たちを警戒していたようだが、俺たちが何も悪いことをせず、子どもたちが雨と一緒に遊んでいる姿を見てからは俺たちにも普通に接してくれるようになった
これは新しくわかったことなのだが竜属は外敵や外から来たものには厳しいが一度身内と認めればかなり優しくおおらかで仲間意識が強いのだ
それが例え竜属以外の存在であっても
例を上げると、リーフさんだ
彼は俺が練習で作った薬は材料はリーフさんが用意してくれているのにお金も取らずに俺に譲ってくれる
その他にも露店で声をかけるといつも子どもたちが雨のお世話になってるからと少しサービスしてくれるし、リーフさんに聞いた話だと昔一人の竜属と絆を結んだ人間がさらわれたときに竜属の里の全員でそのさらわれた人間を取り戻しに行き、さらった人間たちを全滅させた
という話を聞いてとても驚いたのだ
そして、俺はいつの間にか失った家族の暖かさを竜属の皆から感じていた
ちなみにローズ様への連絡は竜属の皆の許可を得て、一週間に一度行っており、つい先日行った報告の後に少し気になることを言っていた
『私の部下の隊長格の一人が最近おかしな行動を取っている。一応監視はつけておくが遠距離の遠征の訓練等と言っていたからそちらに向かうかもしれない・・・・・注意してくれ。その隊長というのが咎人や魔王という存在を憎んでいる部類のやつだからね』
と言っていたのだ
この時俺がこの言葉についてもう少し考えていたらあんなことは起こらなかったのかもしれない
しかし、俺は結局気づくことなく俺が事態を知ることになるのは6日の後となる
そして、その知らせは唐突に来た
『大変だ!空くん!』
調合中だった俺はいきなりのローズ様の大声に驚く
『どうしたんですか?ローズ様』
『この前言っていた隊長がついに行動を起こしたんだがやつらの狙いは君たちのいる竜属の里じゃなかった!やつらの狙いは君の村だ!』
『へ?』
思わず変な声が出てしまった
ローズ様の所の隊長という言葉と俺の故郷が狙いという言葉が結び付かず理解できなかったのだ
「俺たちの故郷が狙い?」
思わず必要もないのに口に出してしまう
『奴は君たちの村を蹂躙することで君たちをこちらへ戻らせようとしているんだ!』
その言葉に俺の中の何かがざわめいた気がした
『・・・・・・は・・しく・・・・が・・・・る・・・ら』
ローズ様が何か言ってたが最早俺には聞き取れなかった
俺はそのまま外に出ると雨が目の前にいた
俺は無意識に雨に手を伸ばし雨はこちらへと飛び上がった
そして雨は光となり俺の体に入ってくる
俺は自分の背中から羽が、自分の額に角が生え、自分の体から力があふれでてくるのを感じていた
「行くぞ」
その口から出たのは今までのような明るい声ではなく全てを飲み込まんとする怒りのこもった声だった
「・・・・・・!!」
リーフさんが後ろで何かを言っているが俺にはわからない
なので、俺はそれを無視すると大きく飛び上がり背中の羽を全力で稼働させ自分の生まれ故郷へと向かった
ここに667人目の魔王が覚醒した