第49話:金策と育成と攻略と。
<前話までのあらすじ>
・ソフィアの魔法契約を更新するため、俺は貴族にならねばならないが、まずは名誉騎士を目指している。
・ドワーフの職人(=マカレナさん)が帰郷する際、辺境の賊や妖魔を討伐し、手柄を上げるつもりだ。
・アップデートを機に、PTの戦力を整えようと冒険者ギルドで募集をするはずが、巨人族の傭兵団長トルーディと喧嘩になり、何とか勝利した俺はその団員を丸ごと面倒見ることになった。
「おかわり!」
運ばれてくる料理を次々平らげる傭兵団員。その催促に応えるようにメルチェが皿に盛り付けて、ソフィアがテーブルへと運ぶ。
「はいはい、どうぞ召し上がれ」
「そんなに腹が減ってたのか?」と団長のトルーディに聞くと、
「ああ。ちょうど隊商の護衛が終わったところでな。ここ何日か馬車で野宿をしてたから、ずっと保存食だったんだよ」
とのこと。他の団員も、
「オイラ、こんな旨いメシが食えるなら何でもするッス」と食べながら喋るカルロス。俺の喧嘩を真っ先に買ったくせに、このお調子者め。
「同感です。皆さんと旅をするのが楽しみになってきました」とエルフのレナートも同意し、
「早速、我々にも食事を振舞っていただけるとは。流石、団長を娶られた方は器が違いますな」とイヌ型獣人族のシプリー(シプリアーノ)が尻尾を振った。
そのシプリーの言葉どおり、俺はトルーディと先ほど《内縁》の契約を済ませ、元々市民階級だった彼女の権利(婚姻枠と雇用枠)を引き継いだ。
これから俺は、八人の婚姻枠と十二人の雇用枠を持つことになる。支払う税金も増えるけれど。
現在、婚姻枠にはアサツユ、ユリア、トルーディの三人。ソフィアの枠も予約済みだから、残りの枠は四つ。
雇用枠にはメルチェと尚光、元盗賊三人に加え、傭兵団員も三人受け入れたから、合計八人。こちらも空きは四人分だ。
「ところで、旦那は自分の馬車を使わないのか?」とトルーディに尋ねられ、
「馬車か。あれば欲しいけど、簡単に手に入るものか?」と逆に聞いてみた。
戦利品の馬は一度乗っただけで手放してしまったし、メルチェの村へ行くのに使った馬は騎士団のものだった。この世界の馬や馬車はどこで取引されているのだろう。
「ウチの幌馬車はカルロスとレナートが組み立てたんだよな」
「ええ。ほとんどカルロスが一人で完成させてましたね」
答えたのはレナートのほうで、当のカルロスは食事に夢中だ。お調子者は意外と器用なんだな。
「それなら材料があれば作れそうか」と結論する俺に、
「時期的に難しいのは馬のほうですな」とシプリーが言うには、今は馬が繁殖期に入る季節なので、どこの牧場も大変なのだとか。
「確かに。そっちはアタイが、ツテをあたってみようじゃないか。前に助けた知り合いがいるんだ」
なるほど。そういう人脈って大事ですよね。
「俺も行って構わないか?」
「問題ない。往復で半日くらいの場所だけど、これから行くならアタイの馬を出すよ」
若馬一頭の平均価格は金貨二十五枚ほど。二頭立ての幌馬車を二台運用するには四頭必要なので、予算は金貨百枚になる。
一応、懐には金貨百五十枚あるけれど、家の修理でも入用だから、先に一稼ぎしておくべきだな。
「いや、今日はこれからダンジョンで狩る予定なんだ。トルーディも来てくれ」
「分かった。牧場は、明日の朝にでも出発しようじゃないか」
「よろしく頼む」
……。
というわけで、いつもの《南の里山》のダンジョン前。
入り口に人が屯しているのは、デスペナの回復待ちか、それとも情報交換か。近づくと話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、あそこにいるのソフィアさんじゃない?」「ホントだ。相変わらずクソエロい身体してるぜ。隣の小っちゃい子もメチャ可愛いな」「ユリアちゃんだろ」「うっそー、来てたんだー」「俺、あのPT入りたいわ」「ほんとそれ思った」
「後ろの赤髪は『巨人の凶刃』トルーディじゃな」「有名なんですか?」「城の騎士にも匹敵するそうな」「でもその人、前の人と喧嘩して負けてたよ」「なんじゃと! 異世界人にもそのような者がおったとは」「すみませんね、ウチら弱くて」
なんか俺たち、思いっきり注目されてるじゃないですか。まあ、有名人が三人もいれば仕方ないことだけど。
「お疲れさまです」と声をかけてから階段を下り、狩りの編成を考える。
現在のレベルはこんな感じ。(育ってない職は省略)
[プレイヤー]
ワタロット……騎士=戦士=盗賊=射手=魔法(土)35
ソフィア ……騎士=戦士=盗賊=射手=魔法(火)35
アサツユ ……戦士=盗賊=射手=魔法(水)35
ユリア ……魔法(風)33
尚光 ……騎士=戦士30
[元盗賊]
ルイス ……戦士22、盗賊20
アンドレア……盗賊18、戦士14
マノロ ……盗賊16、戦士13
[傭兵団員]
トルーディ……狂戦士42、騎士34、射手30
カルロス ……戦士33、騎士32、盗賊=射手30、魔法(火)26
レナート ……魔法(水)33、盗賊32、射手30、戦士28
シプリー ……盗賊33、戦士=騎士32
※編成ポイント=3,300(最大レベルの合計×10。ソフィアを除く)
団長のトルーディが一人だけズバ抜けているが、他の団員もそれなりに経験豊富に見える。
ここはレベルの低いルイスたちのため、最初はPTを二つに分けよう。
オールラウンダーのソフィアに三人を預け、後衛火力のアサツユ、ユリアと一緒に適正25のダンジョンを周回してもらうことにした。
一方、俺はトルーディたちと適正30に挑戦しようと思ったが、こちらは進入条件が設定されていた。その条件とは、適正25のハードモードを1PTでクリアすること。
ハードモードって、周回数が3の倍数になると敵が増えたり変わったりするところだよな。俺にとっては今さらだけど、皆の条件をクリアしなければ。「1PTで」ということは、どのみちPTを分ける必要があったわけだ。ちゃちゃっとクリアして先に進もう。
……。
「おおっ! これが噂の秘密のダンジョン!」と感動の声をあげるカルロス。
「ここは通路を回る奴と、射手には気を付けてくれ」と注意すると、
「承知した」とトルーディが頷いた。
装備と薬は先に配ってある。強化装備を手にした皆は、その力を存分に発揮し、全く危なげなく三周を終えた。
そういえば尚光もここクリアしたの初めてだったんだな。ユリアと絶縁してから弦五郎のPTだったから。
アップデート後のハードモードは、一階から五階まで全ての敵が変わっていた。これからクリアしようとするPTは少し苦労をするかもしれない。
さて、ソフィアのPTが三周し終わる前に適正30の下見に行こう。
……。
「ここもダンジョンの中? 村の入り口に見えるのはアタイだけか?」とトルーディの言うとおり、俺たちは転移石が設置された村の前に出た――ように見えた。
「違います……よ!」と俺は軽く杖を振り、空へ小さな《石つぶて》を放った。
青空が映し出された天井に当たった石は「カーン」と乾いた音を立て、砕けた破片がパラパラと地面に落ちた。
「なるほど。巨大なドームというわけですか」
とレナートが呟き、皆も納得した様子。
そのとき、次のシステムメッセージが表示された。
『村の門を守りきれ! スタートするには、兵士を配置してください。(中略)兵士を配置したら《準備完了》のボタンで開始してください』
「防衛戦か。これは初めてだな」
まあ、ゲームではよくあるパターンだけれど。
ルールはこんな感じ。
・守る門は二つあり、一つの門につき四人の兵士(NPC)を配置する。
・配置できる場所は、門内、門上、門外のいずれか。
・門内では門を修理する工兵となり、戦闘には参加しない。
・門上では弓兵となり敵後衛を、門外では歩兵となり敵前衛を主に攻撃する。
・兵士のレベルは30、敵のレベルは31~35。
・勝利条件は全ての門を守りきり、敵を全滅させること。
・敗北条件は門の一つが破壊されるか、参加者の一人が戦闘不能になること。
ふむふむ。今までのダンジョンとの違いは、NPCがいること、PTが分断されること、戦闘不能以外の敗北条件があること。
階層がないということは、途中で休憩も取れそうにないし。どんな敵が攻めてくるのか、まずは一回試してみないと分からない。
「配置は旦那に任せるよ。早く決めて、始めておくれ」と俺を急かすトルーディは、戦いたくてウズウズしている様子だ。
「じゃあ、とりあえず、歩兵を一人と弓兵を三人配置するか。俺たちも三人ずつに分かれよう。こっちは尚光と、カルロス来てくれ」
「はいよ」「了解!」と指名された二人が返事をして、
「レナート、シプリー。アタイらは反対側へ行くよ!」と残りの団員はトルーディが率いる。
ボイスチャットを接続しておき、頃合いを見て、
「準備はいいか?」と問いかけ、
『ああ。いつでも大丈夫だ』との応答を確認。
「OK、それじゃいくぞ」
と言って開始した途端、前方に魔物が湧いた。
見た目はゴリラのデカい奴! それが横二列、ズラリと並んで攻めてくる。
一斉に門へと突進してくる前列の六体と、大きな石を持ち上げ投擲のための助走をしている後列の六体。
いきなり門狙いとは、明らかに今までの敵と異なる動きだ。そしてこの敵の数、やはりここは2PT以上のグループ推奨ダンジョンと思われる。
「二人とも吹っ飛ばされるなよ」
「いつの話だよ」「任せてくださいよ」
尚光とカルロス、二人の戦士は歩兵と共に前衛ゴリラを迎え撃つ体勢だ。
一方、魔法職の俺がいるのは弓兵を配置した門上。
ここに来たのは、視野の広い位置から魔法を飛ばしたいという理由もあるが、何より弓兵たちに《良質なロングボウ+6》を持たせるためだ。
そう。NPCの装備は変えられる。
ただし、その装備は外へ出る際、兵士諸共、自然の魔力に同化し消えてしまう。なので、普通は変えたりしないものだ。その点、俺はすぐに《複製》できるから、このような使い捨て作戦が可能となる。
弓兵同様、歩兵も+6装備に持ち替えさせて、ここまでは反対側も同じ作戦だ。後は兵士がどこまで動けるか。
というわけで少し出遅れたけれど、先制攻撃にはまだ間に合う。
後衛ゴリラが投げた石は、俺の《石つぶて》で撃ち落とし、投擲後の隙を狙って放たれた矢がゴリラの急所を貫通した。
弓兵さん、良い仕事してますよ。その調子。
歩兵と戦士の左右を抜けて、門へと向かうゴリラには、巨大な《石つぶて》をぶつけ、押しつぶしてやった。パッと見、歩兵も良い動きをしている。
ふぅ。デカゴリラは大体片付いたな。
次はどんな敵が来るのかと前を向いたとき、そこには既に武装したゴブリンが湧いていた。
ブリガンダインを着たゴブリンの戦士六体がバーサークして突撃をかけ、射手六体が火矢を番えている。
火矢はマズい――と思ったとき、ボイスチャットから、
『レナート、門の前に氷の壁を!』とのトルーディの指示が聞こえた。
あぁ、その手があったか。俺も即座に石の壁を作り出し、門を保護する。
火矢は弾かれ、弓兵のカウンターが敵射手の半数を倒した。そのまま残りも倒してくれるだろう。俺は魔法で敵戦士を処理し、味方にバフと回復魔法を施した。
「団長の旦那は魔法もお手の物ッスね」とのカルロスのお世辞に、
「まあ、それなりに。できれば俺も下で剣を振りたいんだが」と答える。
人数が少ないとバランスが取りにくいし、このメンバーだと俺が魔法を使うしかなかった。
次に湧いたのは、縦二列に並んだ熊の魔物十二体。ゴリラと同じく、立ち上がれば体長は三メートル程ありそうだ。まだアクティブになっていないのか、ゆっくりと向かってくる。
熊が射程に入ったとき、その後方に武装したオークが湧くのが見えた。十二体全てブリガンダインを着た戦士。これは何となくヤバい予感。
雄叫びを上げたオークにつられて前の熊も殺気立ち、同時に雪崩れ込んでくる。
「ひぃぃ! これは無理ッス!」とカルロスが悲鳴を上げ、
「おい! 早く魔法で何とかしろよ、航」と尚光が喚いた。
「わーってるよ! こうなったら砂で生き埋めにしてやる!」
『レナート! こっちも足止めだ! 氷を敷いてツルツルにしてやりな!』
どうやら、あっちも同じ状況らしい。
ていうか、この速度で敵が湧いてたら普通、2PTでも足りないだろ。
余計なことを考えるのは後にして、魔法を完成させるのが先だ。
イメージしたのは、破れたサンドバッグと、広大な砂丘。
「ウラァ!」
膨大な質量を持った砂の塊が滝のように流れ落ち、魔物を飲み込み山となる。下降流に巻き込まれた空気が砂煙となって周囲へ広がり、門の前にも押し寄せた。
「ゲホッ、ゲホッ! チキショウ、航。やりすぎだっつーの。これじゃ前が見えねぇだろ」とぼやく尚光。
うん。それは想定外だった。
悪いな、尚光。晩飯にも呼んでやるから我慢してくれ、と俺は心の中で呟いた。
砂丘を魔法で消したとき、埋まった魔物も消えていた。どうやら死亡の判定になったらしい。
「いやー、豪快ッスねぇ、旦那。団長のほうはどんな感じ?」
『アタイのことはいいから、自分の心配をするんだよ、カルロス』
そして湧いた最初の中ボスは、丸々太ったデカゴリラ。
とはいえ、単体を止めるのは難しくない。HPが多くても囲んでボコれば瞬殺だった。本来はさっきの集団が処理される前に湧くはずだったのだろう。
と、ここまでが適正20や25のダンジョンの一階分に相当する。
これを五階分繰り返し、俺たちは外へ出ることができた。
……。
適正30は初見でクリアできたぜ!
と思っていると、次のメッセージが表示された。
『ノーマルモード、ミッションコンプリート! クリアランク《S》の報酬が分配されました』
おお。《S》って普通、一番良い成績だよな。
クリアボーナスが成績によって変化するのも初めてのことだし、その基準は一体何だろう。周回していればいずれ分かることか。
「お疲れさま。そっちはどうだった?」と反対側にいた三人に感想を聞くと、
「アタイはまだまだ物足りないけど、旦那の采配は良かったと思うよ」「これくらいの魔物は任務でも遭遇していましたし、頂いた杖とローブのお陰で余裕でした」
とトルーディとレナートが答え、
「そういえば、誰かさんの悲鳴が聞こえてきましたな。はっはっは」とシプリーが笑った。
「それは気のせいだわ」と慌てて否定するカルロス。
そこへソフィアのPTも外へ出てきて合流する。
「お待たせしました」と言って近くで休むソフィアたち。
「俺たちも出てきたばかりなので。それで、こいつらのレベルは?」と聞くと、
「バッチリ。三人とも今30レベル」とアサツユが答えた。
「マジで。速ぇぇな。それじゃ、次は皆で新しいとこ行こうぜ」と誘うと、
「おー!」とアサツユの返事に続き、
「オレは航のPTな」とユリア。「もちろん、私も」とソフィア。
休憩後、二つのPTをグループ化して、再び適正30のダンジョンへと入る。
アサツユとユリアが門上で魔法を担当してくれるので、俺とソフィアは下で一緒に戦える。あと二人はルイスとマノロを入れて仕上がりを見よう。
こちら側は、俺とソフィア、アサツユ、ユリア、ルイス、マノロ。
反対側には、トルーディ、カルロス、レナート、シプリー、尚光、アンドレア。
一つの門に六人ずつ、兵士を合わせて十人もいれば楽勝だ。無事にクリアし、《S》ランクの報酬を獲得。ルイスたちの動きも様になっていた。
「この調子で次はハードモードだな」
……。
全員がノーマルモードを経験したことだし、三周目のハードモードも余裕かなと思ったのだが、その考えは少し甘かった。
表示されたメッセージを見た限り、守る門は一つ増えて三つになり、配置できる兵士は一人減って三人となる。
これだけでも編成に悩むところ。十二人を三つの門に四人ずつ。前衛三人と、敵の飛び道具から門を守れる魔法使いが必要だから……。
こんな感じで分けてみよう。兵士はそれぞれ弓兵一人と歩兵を二人。
[門A]:[ワタロット(戦37)、ユリア(風34)、尚光(戦35)、アンドレア(盗32)]
[門B]:[ソフィア(騎37)、アサツユ(水37)、ルイス(戦32)、マノロ(盗32)]
[門C]:[トルーディ(騎35)、カルロス(戦35)、レナート(水35)、シプリー(盗35)]
位置に付いて開始すると、いきなり二つの敵集団が湧いた。
一つはゴブリン、一つはオークの一団で、数はそれぞれ十体ずつの合計二十体。
ゴブリンは戦士が五体、盗賊職の敏捷バフとバーサークの重ねがけ。後衛には射手が三体と、魔法使いも二体いる。
一方、オークは十体全て戦士の格好。こちらは騎士職の防御バフとバーサークの重ねがけ。
『この妖魔どもは蛮族育ちか、その系統の奴らだね。こんなところでお目にかかるとは、面白いじゃないか』とボイスチャットからトルーディの声が聞こえた。そこそこレアな妖魔ってことなのかな。
『悲鳴を上げてもいいんですよ、カルロス』
『耳が長すぎて空耳でも聞いたんじゃねぇか、レナート』と言い争う二人を、
『今は戦いに集中するときですな』と言ってシプリーが止めた。
『私たちも油断せずにいきましょう。後ろはお願いしますね、アサツユさん』とソフィアも気合十分だ。
よし、俺たちも。
「敵の弓と魔法使いを倒したら、バフとデバフを。それからバーサークの解除も頼む」
「分かったから。一度に全部言うなって」と文句を垂れながら放ったユリアの風魔法が、敵の火魔法と交錯して爆ぜる。
結果は当然、手数も威力もあるユリアの勝利。
敵魔法使いは何も出来ず《風の刃》に切り刻まれた。ついでに火矢も空中で折れ、敵射手も微塵切りになっていた。
俺たち前衛はといえば、防御バフで進軍の遅くなったオークを横目に、敏捷バフで突っ込んでくるゴブリンの戦士を先に止める。局所的に見れば数は五対五、強化装備のあるこちらが有利だ。
ユリアの支援魔法を受けてゴブリンを倒している間、俺の弓でオークを一体ずつ仕留める弓兵。標準の弓ではバフと鎧の両方は貫通できなかっただろう。
オークのバーサークが解かれ、矢を剣で受けられるようになったところで俺たちの出番。デバフの掛かったオークの斬撃に元の威力はない。数の不利などなかったかのようにあっさりと殲滅した。
ゴブリンとオークの集団をもう一度倒した後、中ボスのゴブリンが雑魚十体を引き連れて出現した。
ふむふむ。ハードは敵がまとまって湧くんだな。一階分、一つの門あたり、
ノーマル …… [雑魚12体]×5+[中ボス1体]
ハード …… [雑魚20体]×2+[雑魚10体と中ボス1体]
さて、その中ボスは、現れるなり魔法を集中し始めた。
魔法使いだと!?
「ユリア! ボス先頼む!」
「あいよ」と中ボスを真っ先に狙うユリア。
どれ程の規模の魔法を準備していたのだろう。中ボスはその魔法を完成することなく、渦巻く風の中で肉塊と化した。
残りの雑魚はさっきと同じ。余裕で倒して次を待つ。これが前の集団戦の途中で湧いていたらまた話は違ったかもしれないけれど。
ソフィアとトルーディの様子を確認すると、どちらも中ボス戦を終えたところ。
「まあまあ忙しかったな」
『ですわね。このまま気を抜かずにいきましょう』
『アタイらは平気だよ。いつもの仲間で気心が知れてるからね』
「そうだな。理想は誰と組んでも同じ狩りができることだが」
『慣れるには時間がかかりますわ』
『つまりは戦いあるのみだ』
その後も雑魚と中ボスは同じ構成。
最後はチェインメイルを着たオークのボスが、雑魚オーク十体を率いて湧いた。ボスは大剣を片手剣のように振るい、空いた腕には盾も持っている。
「尚光、久しぶりにボスいってみるか?」
「チッ! 偉そうに言いやがって」
と言いつつもボスへ向かっていく尚光。その表情は心なしか楽しそうに見えた。俺への対抗心と、自己顕示欲の塊。置かれた立場が変わっても、こいつの中身は変わらないんだな。
まあ、俺の装備で簡単にやられることはないだろう。
尚光の援護に回って雑魚を倒し、ハードでも《S》ランクを獲得した。
「皆、お疲れさま。早いけど今日はここまでにしよう」
午後三時過ぎ。アップデート初日から無理をしてぶっ倒れるわけにはいかない。リーダーの心得として、狩りは引き際も大事だと学んだ。
『お疲れさまです。私たちは先に帰ってご飯とお風呂を用意しますわね』とソフィア。
『アタイは疲れてないけど、旦那の指示に従うよ。おいこら、カルロス。涎なんて垂らして汚ないじゃないか』
『細かいこと言うなよ、トルーディ。オイラも晩飯呼んでくれますよね、旦那』
「もちろん、皆来てくれ。尚光もな」「しゃあねぇ、行ってやるよ」
『それでは我々は馬を連れて参りますかな』『そうしましょう』と話すシプリーとレナート。
なんていうか、皆もう家族みたいだな。
俺はこの素晴らしい仲間と巡り合えた幸運に改めて感謝した。
……。
冒険者ギルドにて戦利品の換金を行う俺。
以下の素材を手元に残した上で、金貨百四十四枚と銀貨十一枚。十分な戦果だ。
[新出レア素材]
良質な獣肉+、良質な獣の肝+、良質な鳥肉+、良質な鳥の卵+
良質な天然水+、良質な果実+、良質な染料+、良質な植物繊維+
良質な石材+、良質な鉱石+、良質な粘土+、良質な顔料+
魔獣の皮、魔獣の牙、魔樹の果実、魔蔓の蔓
魔鉱石、魔水晶、魔鳥の羽根、魔貝の真珠
《+》付きの素材は、ボスレアと、適正30のクリア報酬でも手に入った。ランダム配布になったようで、手に入る素材の種類が豊富になって嬉しい。
《魔》付きの素材は、適正30ハードモードのクリア報酬の中に、《+》付きの素材と一緒に入っていて驚いた。
いずれの報酬もクリアランクが関係していると思われるが、このまま《S》ランクを取り続ければ全種類コンプリートできそうだな。
「これは凄い。どっさり狩って来ましたねー。今のところ収獲量はこちらのグループがダントツですよ」とカウンター越しに目を丸くするギルド職員の女性。
「そうなんですか?」
「他の方々はそれほど満足のいく結果ではなかったようです」
他のグループは攻略がうまくいかなかったのか。デスペナを食らったり、門を壊されたり、あるいは進入条件でつまづいたのかもしれない。
ふと周りに目をやると、薬を買ったり、人を募集したり、話し合っている人たちの姿があった。
「アプデ前のが稼げたな」「ほんとドロップ率下がりすぎ」「敵も強くなったし」
「POTに頼った狩りはもうできねぇな。てか、誰か魔法使いやらねぇと破産するぜ」「魔法使いもPOT使うけどな」「真面目にバランス考えよ」
ふむふむ。どうやら従来のダンジョンの話らしい。
敵の強さは置いといて、ドロップ率が下がったって?
俺たちの収獲も一人当たりだと前より少なくなってるけど、少数精鋭での狩りとルイスたちを育てながらの狩りを比較しても仕方ない。適正30の周回を重ねていけば、自ずとレベルも効率も上がるはず。
皆の狩り後のレベルを見ると、
[プレイヤー]
ワタロット……戦士=魔法(土)38、騎士=盗賊=射手35
ソフィア ……騎士38、戦士=盗賊=射手=魔法(火)35
アサツユ ……魔法(水)38、戦士=盗賊=射手35
ユリア ……魔法(風)35
尚光 ……戦士35、騎士30
[元盗賊]
ルイス ……戦士34、盗賊20
アンドレア……盗賊33、戦士14
マノロ ……盗賊33、戦士13
[傭兵団員]
トルーディ……狂戦士42、騎士36、射手30
カルロス ……戦士36、騎士32、盗賊=射手30、魔法(火)26
レナート ……魔法(水)36、盗賊32、射手30、戦士28
シプリー ……盗賊36、戦士=騎士32
※編成ポイント=3,960(最大レベルの合計×10。ソフィアを除く)
元盗賊三人の成長が著しいのは、格上相手の狩りでレベルが上がりやすかったから。
今朝のアップデートで35レベルまで同格相手の狩りができるようになり、36レベルからは全ての敵が格下になって上がりにくくなる仕様だ。
明日は朝から牧場へ、お昼の後はダンジョンへ。目指すは全員40レベル。
さて、少し宿にも顔を出し、帰って素材を《複製》しよう。
……。
お読みいただきありがとうございます。
<メモ>
トルーディ(巨人族) -Trudi (ヘルトルーディス -Gertrudis)
カルロス(人間) -Carlos
レナート(エルフ) -Renato
シプリー(イヌ型獣人族) -Cipri (シプリアーノ -Cipriano)




