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第47話:創作意欲

<前話までのあらすじ>

・俺はソフィアの魔法契約を更新するため貴族にならねばならないが、まずはコツコツ手柄を上げて名誉騎士を目指すことにした。

・昨日は、宿から家に引っ越したり、奴隷身分となった元盗賊三人の身柄を引取ったり、村の復興を手伝ったり、村娘のメルチェをメイドに雇ったり、夜はお楽しみがあったりで忙しかった。

・今日はシステムのアップデートがあるらしいが、その前にやりかけの仕事を終わらせなければならない。

「アップデートが行われるのは午前十時ですから、九時半には宿屋にお集まりください」


 朝食の席で、GMとしてのソフィアが俺に告げた。


 午前は炭窯と鍛冶屋に寄って、それからユリアの指輪を作る予定だったが、急いで回らないと間に合わないかも。


「じゃあ、俺は寄るところがあるから、それまで皆も生産とか自由行動ってことで。あ、ユリアは来れたら一緒に来てくれ」


「おっけー」「では、後ほど」


 ユリアとソフィアは肯定の返事をくれ、アサツユはパンが喉を通過中。一拍遅れて、


「分かったよ。私もワタロットと一緒が良かったけど、生産も大事だもんね」との回答を得る。


 朝食を軽めに終えた俺は早速、出かける準備に取りかかった。家事をメイドのメルチェに任せ、ルイスとマノロには玄関から裏庭までの清掃を割り当てた。



 ……。



 最初の目的地は炭窯。家を出るとき、元盗賊で奴隷身分のアンドレアも連れて来たことについて、


「なんだ。二人っきりじゃなかったのかよ」と不満を口にするユリア。あからさまに不機嫌な態度で。


「初っ端から真っ黒になると後が大変だからな」


 理由は、今日は黒炭の窯出しだから、俺の代わりに汚れる作業をやらせるためだ。


 昨日も杏仁オイルを搾るために、ベリンダさんのお店で力仕事をやってもらったけれど。もっと働いて稼いでもらわなければ俺が損するだけだし、犯した罪の報いにもならないし。


「そっか。航が何してたか、ちょっと興味があったけど、そんなに汚い仕事してたのか」


 などと話しながら、家近の転移石を使って市民街から平民街へ飛び、そこから歩いて目的地へ着くと、玄関のドアは開け放たれていた。


 無用心だなと思いつつも勝手に入って中庭へ抜けると、正面の倉庫で何やら作業をしているいつものエルフの姿が見えた。



「おはようございます」


「あ、冒険者さん、おはようございます。今、木酢液もくさくえきを蒸留していたところです。黒炭はもう窯出しできますよ」


「木酢液って何だっけ」「オレに聞くなよ」


 なんとなくホームセンターの園芸用品売り場で見た気がするけど、ユリアも知らなかったか。二人を紹介した後、クレスセンシアさんが木酢液について簡単に話をしてくれた。


 木炭を作るときに出る煙を冷やすと褐色の液体が採れるが、それをここでは倉庫の暗所で半年ほど寝かせるそうだ。すると、軽い油分は上に浮き、重いタール分は下に沈んで、層状に分離する。


 その中間の層が木酢液と呼ばれる酸性の液体で、残った不純物を取り除くために今こうして蒸留しているというわけだ。


 しかし、炭焼きに一週間かかると聞いただけでも驚いたのに、さらに半年がかりの作業があったとは。まあ、それを言ったら木を育てるのに何十年、何百年かかるんだっていう話になってしまうけれど。



「タールは防腐剤として塗料などに、木酢液は薄めて畑にまいたりするといいんですって」


「へぇ、そうなんですね。帰りにもらって行ってもいいですか?」


「ええ、もちろん。それでは、お手伝いをお願いします。お目当ての松炭は出来ているかしら」


 それは出来ててくれないと困るんですが。作業はアンドレアに手伝わせ、サクサクと窯出しを終えた。


『《良質な松炭》を一箱手に入れました』


 とシステムメッセージが表示され、無事に良質品が作れたことを確認。


 よし。これを複製すればカルメロ叔父さんのクエストがクリアできるぞ。


 松炭以外は全て一緒くたに箱詰めされて《良質な黒炭》になった。ギルドに納品したとき、窯の使用料を差し引いた分が俺の取り分となるはず。


 けど、時刻はもうすぐ七時半。アップデートまで二時間余り。金を受け取るのは今度にしよう。


「すみません、今日は他にも行くところがあるので、また後で来てもいいですか?」


 と言って帰ろうとしたとき、クレスセンシアさんに袖をつかまれた。おっととと。


「あの、次の木材をお忘れではないですよね?」


「えっ」


 新しい木材が欲しいってこと? そういや「木材なら何本でも用意できます」って前に言った気がするけれど、「毎回持ってきます」とは言ってないよな。微妙に勘違いされているようだ。


 ん、待てよ。それは却って好都合かもしれない。毎回安定した利益が見込めるならば。それに、もう一つ思いついたことがある。


「窯を使わせてもらえるなら喜んで出しますよ」


「こんなに良い炭が焼けるのですから、何度でもご利用ください」


「それじゃ遠慮なく」


 と、俺が取り出したのは《良質な松材+》の丸太五十本。


「えっ……。これは……この立派な松は何なのですか? 例の秘密のダンジョンで採れたのですか? 本当に焼いてしまってもよろしいのですか? いえ、今さらダメと言われてももう手遅れです。じゅるり」


 感情を表情に出すことが困難な生粋のエルフも一瞬言葉を失い、思い出したように早口になって、終いには涎を垂らして、喜びを表現してくれた。


 俺としてはワンランク上の松炭が一箱でも出来れば儲けもの。今日と同じ良質品だけでも稼ぎとしては十分だ。じゅるり。


 取り出した松材を切り揃え、窯に詰め込む作業があるが、今の俺には時間がない。そこで、アンドレアを一人残し、俺とユリアは次の目的地、カルメロ叔父さんの鍛冶屋へ向かった。



 ……。



「よう、若けぇの! 昨日はどうしたんでぇ。俺にこき使われるのが嫌で他の奴を寄越したのか?」


「いえ、他に用事があったんです。炭もまだ焼けていませんでしたし。あ、これです。間違いないですよね」


 皮肉混じりの挨拶を受け流して、頼まれていた松炭三十箱と金貨二十枚を叔父さんに渡した。


「ほう! こりゃあ良い炭じゃねぇか、本当に作って来やがったな! 金も確かに受け取ったかんな、お前ぇさんの鎧はちゃんと作ってやるぜ!」


「よろしくお願いします」



「それで、モノはついでなんだがな! お前ぇさんが置いてった材料、ありゃぁ斧を作るのに使っちまったからよ! また適当に狩って来てくれや!」


 材料なかったら鎧作れないじゃん! と心の中でツッコミを入れて、けれど安く作ってもらうからには多少の我慢も必要だ。


「仕方ないですね。斧もいいですけど、鎧を作ってください。お願いします」


 俺は《良質な鉱石》と《良質な金属片》を提供した。


「ガハハッ! 話が分かるじゃねぇか。お前ぇさんのもちゃんとあるぜ、一本持って行きな!」


「では、ありがたく」


 俺は《良質な片手斧》を手に入れた。この人、今までもこんな感じで注文を受けていたんだろうか。



「ところで、そっちの嬢ちゃんは?」


「ユリアは俺の……大切な仲間の一人です」「初めまして」


 婚姻関係はまだ伏せて置くんだった。ユリアを仲間として紹介したところが、


「そういうぺったんこなのが趣味だったんだな」


 突然、叔父さんの口からセクハラ発言が飛び出した。


「何このエロオヤジ、ぶっ飛ばしていい?」


 当然、これにはユリアがブチキレて……。まずい、このままでは叔父さんがビンタの餌食になってしまう。



「ちょっと待った。叔父さん、これが何だか分かりますか? 実は、(ごにょごにょ……)」


 ユリアを宥めつつ、叔父さんにソフィアの胸当てを見せてみたところ、


「そいつは凄げぇ! うおぉ、俄然、創作意欲が湧いてきたぜ! おい、それの持ち主の鎧も俺に作らせろ、いいな!」


 叔父さん、急にやる気出し過ぎ。斧と巨乳で創作意欲が湧くって、相変わらずドワーフのツボは分からない。


 しかし、これはある意味棚からぼたもち。ソフィアの身体に合う鎧はきっと店では手に入らないだろうから、ここで作るしかないと思っていたのだ。


 叔父さんの気が変わらないうちに俺のと同じ金貨二十枚で話をまとめ、材料と採寸表(ソフィアに送ってもらった)を置いて出た。


「それじゃ、次んとこ行こうぜ。次こそユリアの出番だから」


「本当だな?」



 ……。



 最後はマカレナさんの工房へ。


 時刻は八時を回ったところ。指輪の製作に費やせるのは一時間が限度か。


「おはようございます。席空いてますか?」


「あっ、冒険者さん! 今日は全然人がいなくて、アタシ一人で寂しかったよ」


 本当だ、誰もいない。アップデートを控えているテストプレイヤーは来ないだろうけど、地元の人までいないとは。


「ロックさんは?」


「アイツはここんとこ、村に帰る準備で忙しいから来てないんだ。お陰さまで加工済みの石は山ほどストックがあるし。冒険者さんこそ、今度は何を作るんだい」


「そうですか。今日はこの子の指輪を作りに」


「オレの指輪?」「ああ、まだ簡単なのしか作れないけどな」


「あれ? アンタは確か、前に見かけたとき他の男の子と一緒じゃなかったかい」


「色々ありまして、今は俺たちと一緒になりました」


「色々ねぇ。とりあえず好きなとこに座って、一緒に指輪を作りましょう」


「お願いします」



 席に着き、作業台に石を並べる俺に、


「こういうときの指輪って普通、金とかプラチナとかダイヤじゃね?」


 ユリアが疑問を口にした。


「作れるなら作るんだけどな。まあ、追々ってことで」


 この世界に婚約指輪や結婚指輪という概念があるかどうかは別にして、技術的にも材料的にも、そのレベルのものにはまだ手が出ない。それに法的にも金貨を無闇に鋳潰してはいけないらしいし。



「金の指輪は叔父さんが作れるよ。でも、魔法処理したときにドワーフ族の恩恵に似た効果になっちゃうから、魔法の力が欲しい人はやっぱり石付きだね。もちろん、アタシくらい熟練にならなくちゃダイヤなんて使わせてもらえないよ、普通はね」


 なるほど。魔法使いのユリアには石付きの指輪がよくて、前衛に出る俺とソフィアは金の指輪にするのも有りってことか。


「叔父さんって、あのエロオヤジ?」


「そうそう。あ、さっき寄ってきたんですけど、鍛冶屋さんって武器防具だけじゃないんですね」


「何でもやらなきゃ、やっていけないのさ、アタシらは」


 その割には斧ばかり作っているという。



 さて、ユリアの指輪は石付きで作るとして、問題は何の石を使うかだな。種類が被らないように選びたいけど、ホークスアイは杖に使ったし、ムーンストーンキャッツアイはアサツユの指輪に使ったし。


「他に無属性の石ってありませんかね」


「あるにはあるけど、滅多に手に入らないからねぇ。まいっか、特別に見せてあげるよ」


「ありがとうございます」


 マカレナさんに頼んで奥の棚からケースを出してもらった。


「無属性のはこの二つ。サンストーンとルチルクォーツ、どちらもキャッツアイだね。ルチルの品質は普通なんだけど、一応『魔水晶』の一種だから。今まで冒険者さんが持って来た良質の『天然石』よりも値が張るかな」


「それがいい」と、話を聞くなり即決するユリア。だから、高いって言ってるじゃん!


 ルチルクォーツは、水晶の中に金紅石ルチルの針状の結晶が入り込んだものなので、その方向が揃っていればホークスアイと同様にキャッツアイ効果が見られる。ルチルの色はいくつかあるが、ここでは濃い目の赤褐色。それに、魔水晶というからには単なる水晶とは違うはず。



「おいくらですか?」と値段を聞くと、


「石は石で、冒険者さんの持ってる特殊石を二つもらうよ。それから、魔水晶の装飾には『魔白銀ましろぎん』のワイヤーと、魔法処理にも『魔獣皮』の獣皮紙を使わないといけないから、合わせて金貨を七枚ちょうだい」


「それなら、これで」


 交換材料にはホークスアイとムーンストーンキャッツアイを渡し、残りの材料も併せて購入した。


 普通品質にしては高価な買い物だったので、できれば使用前に複製したかったけれども、残念ながら今回はその余裕がなかった。まあ、色んな魔物を倒していれば、そのうちドロップするだろう。



 それより今日は、マカレナさんの魔法が見れた。いつもの羊皮紙を使った魔法処理ではなくて、生の魔法を。


 ユリアの指に合うように、大きな石を縮める(・・・)ところを。実は、この魔法を見るのは初めてではないのだが、アサツユの指輪を作るときには気にも留めず、観察する間もなく終わっていたのだ。


 魔法の属性は土。対象は石一つ。しかし、見た目の地味さに似合わず、魔法の規模は結構大きい。石の縮小率に応じて変動するタイプと見た。ユリアの手、小っちゃいもんな。


「《縮石(ストーン・シュリンク)》」


 ふむふむ。短い詠唱を補助にしてるんですね。詠唱はともかく俺にも真似できそうだな、よし。


 出しっぱなしだった滅属性のオニキスを対象にして、ストーン・シュリンク!


 無詠唱のまま、魔法の発動に成功した。


「あれ? アタシ魔法間違っちゃったかな。オニキスも小っちゃくなっちゃったよ。どうしよう」


「あ、それ、俺がやりました」


「え? 嘘でしょ? ドワーフ以外でこれが使えるなんて、冒険者さんって本当に凄いんだねぇ」


「何でもやらなきゃ、やっていけないんですよ、俺たちも」


「アッハハー! これは一本取られたね」


 マカレナさんと二人で笑っていると、


「いいから早く指輪作れよ。時間ねぇだろ」とユリアに急かされた。


「やべぇ、そうだった」


 マカレナ先生の指導の下、俺はルチルクォーツのワイヤーリングを完成させて、ユリアの右手薬指にはめた。


「思ってたよりいい感じだな。今はこれで我慢しといてやるぜ。サンキュー、航」


「おぅ。それじゃ、そろそろ宿に行くか」


 アップデートがどんな内容か楽しみだな。


 ……。

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