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第4話:GMソフィア

 揺らぎながら明滅する視界。


 突如、座っていた椅子とその背もたれが消え、後方へ倒れる感覚――刹那の後、俺は木の床に尻餅をついて倒れた。


「イテテ……」


 幸い後ろには何もなく、受け身も取れたので頭は打たずに済んだ。起き上がろうとしたとき、俺の顔を覗きこむソフィアさんと目が合った。


「お怪我はありませんか?」


 澄んだ蒼い瞳、艶のある唇、差し伸べられた白い手。


 トクンと聞こえた音は、俺の心臓の鼓動だった。


 不意に彼女のはちきれそうな胸に目がいってしまい、慌てて視線をそらした。


「大丈夫です。自分で立てますから、その……なんでもないです」


 近すぎるなんて言えなかった。


 人妻がそんな瞳で他の男を見つめていいのか。当たり前だが俺を男として見ていないからなのだろう。


 キリキリと胸が痛む。この自覚症状は明らかな嫉妬。


 どうにかしてあの男から彼女を引き離す術はないものか。


 って、あれ? 岩瀬いないじゃん?


 今いる部屋は、見た感じ木造。机と椅子とベッドが一つずつ置かれている。宿の一室だろうか。


 さほど広くない部屋にソフィアさんと俺の二人だけ。邪魔者はいない……。そうじゃなくて!


 何を考えているんだ俺は。平静を装い、窓の外を眺める。


 高さからここは二階の部屋らしい。対面には商店が軒を連ね、人々が行き交う石畳の道を馬車がゆっくりとすれ違っているのが見えた。


 この部屋も、ベッドも机も椅子も、外の景色も、ソフィアさんも、全部リアルだ。さっき尻餅をついて受け身を取った感触さえも。


 身体はアバターなのに、ここはVR空間じゃない!


 本当に異世界なんだ。次第に実感が湧いてくる。


「ところでGMは?」


「岩瀬は他の宿へ飛びました。今後は私ソフィアが航さんの……ワタロットさんのご案内を致します。改めてよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ソフィアさんの頭上には「GM」と光る文字が浮かんでいた。


 そうか、彼女もGMなんだ。それだけで何故か畏まってしまう俺。権力とは偉大なものだ。ただし、岩瀬を除く。


「それでは、まずこの世界の時間について。一年は約三六五日、一日の長さも同じです。しかし、時間の流れは違って、こちらの一日は日本の二時間、こちらの一年は日本の一ヶ月に相当します」


 あぁ、疑問が一つ解けた。


「それじゃテストプレイは」


「はい。最低でも二年間はこちらで生活していただきます」


 召喚されてから聞かされてもね。ここは、遊べる期間が延びたと割り切ろう。


「次に、生活上の注意点を。こちらでは日本の法律は適用されません。何かと勘違いをして、他人の家に土足で踏み入り片っ端から金目の物を持ち出したりしないようお願いします」


 そんなゲームもあったっけ。


「正当な理由なく殺人や傷害などの罪を犯して捕まり、こちらで刑罰を受けると最悪の場合は死亡。日本へ帰れなくなってしまいますので、行動には十分ご注意ください」


 さらっと怖いことを言われたよ。


 正当な理由があればいいのかという疑問はあるが、なるべく事件に巻き込まれないよう気を付けよう。


「皆様の活動を見守るため、各宿にはGMが配置されております。宿代は一ヶ月分を前払いしてありますので、その間に活動を安定させてください。ちなみに、冒険者ギルドは宿と同じ通りにございます」


「分かりました」


 一ヶ月あれば生活費くらい稼げるようになるだろう。じゃなきゃ二年間過ごすどころではない。


「最後に、アバターの能力についてですが、これは直接ご覧になったほうが早いと思います。メニューを開いてみてください。ゲームの画面をイメージすれば表示されるはずです」


「出ました。これ確認しながら話聞いてもいいですか?」


「ええ。どうぞ」


 このアバターにはどこまでゲームシステムが実装されているのだろうか。とりあえずステータスを見てみよう。



 プレイヤー名:満島(みつしま) (わたる)

 アバター名:ワタロット

 種族/身分:人間/平民

 戦闘職:未設定

 生産職:未設定

 装備:私服

 パッシブ:未習得

 固有スキル:アイテム複製



 ふむふむ。職業が未設定で、装備は私服。まあ、のまま召喚されたからな。


 ん? 固有スキル? これは気になる項目だ。


「職業は選べるんですか?」


「はい。今回、皆様には、お好みの戦闘職と生産職を一つずつお選びいただいて、20レベルからスタートできるようになっています。その際、職業に応じた初期装備一式をお渡しします。ゲーム同様、職業は臨機応変に使い分けることができますが、他の職業はレベル1からのスタートとなります」


「なるほど。オッケーです」


 ワンメモの職業はいつでも自由に変更できる。種族によって選択できない職があったり、装備によっては十分な力を発揮できないこともあるけれど。


 例えば、遠くの敵に弓矢を射たり魔法を撃ち込んで、近寄ってきたら剣と盾に持ち替えて直接戦うという風に。


 ぼっち(・・・)だった俺はいつもそのような狩り方をしていたため、PTを組んでいる人に比べて効率が悪く、弓や魔法のレベルは特に上げにくかった。


 でも、その代わりレアアイテムの分配でモメることはなかったし、生産系の職業は全て網羅した。


 装備は生産スキルで作成するのが一般的であり、ぼっちの俺は全て自作するしかなかったのだ。


 ちなみに20レベルというのはまだまだ初級。ゲームでは40レベルになると中級の職業に、80レベルになると上級の職業に転職するクエストが受けられた。


 20レベルか、だいぶ弱くなってるな。


 まあ、いきなりカンスト状態のキャラを大量に送り込んだら強すぎてテストにならないだろうし、そこまでの力は今のシステムにも、召喚してくれたソフィアさんにもなかったということだ。


 さて、職業を選択する前にもう一つ確認すべきことがある。


「それで、固有スキルって何ですか?」

お読みいただきありがとうございます。

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