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※第37話:ユリアの事情と腹筋と妄想

 冒険者ギルドを出てすぐ、俺は3人と分かれ、金策のためマカレナさんの工房に寄ることにした。


「よう色男、マカレナなら奥にいるぜ」と、ロックさんに歓迎されて中に入る。


 彼も相当儲かっていると思われるが、その割にはあまり遊んでいる様子に見えないよな。実は妻帯者なのだろうか。今度ご馳走したときにそこらへん聞いてみよう。



「ああ、冒険者さん! 今日も何か作ってく? それとも私と子ども作る?」


「相変わらずお元気そうですね。机あいてますか?」


 マカレナさんの「子ども作る」発言も挨拶感覚になってきた。軽く流して空席があるか確認する。


「もちろん! 今日はもうお終いにしたから、どこでも座っていいよー。それで今日は何を作るんだい」と聞かれて、


「こないだのジャスパーでブレスレットを作ろうと思ってます」と答える俺に、


「いいねぇ。それじゃアタシも何か作ろっかな」と言って隣に座るマカレナさん。


 2人で競ったわけではないけれど、ほぼ同じ速度でマクラメを編み上げ、ふと思い出した。



「ロックさん、これ加工できたりします?」と、徐に《良質な天然石原石+》を取り出して見せた。


「これは……マカレナの村んとこのお師匠さんじゃねぇと多分無理だな。試しにやってみてもいいが、ほとんど今のと同じ品質にしかならないと思うぜ。たくさんあれば中には良いのも出来るかもしれねぇけどな」


 ふむ。やはり難しいか。村にお師匠さんがいるなら遠征のときにお願いしてみよう。


「じゃあ今度村に行ったときにします」と言って、俺は工房を後にした。



 ……。



 その足でギルドへ向かい、作ったばかりのブレスレットを早速納品する。


 買取価格はラブラドライトのペンダントと同じく金貨15枚。箱代を浮かせて今回の利益は金貨11枚になった。


 ついでに消し炭も納品し、前回同様、金貨8枚と銀貨8枚を受け取る。


 これで現在の所持金は金貨150枚(うち90枚は修理の予算)と、銀貨98枚。至極順調である。



 ……。



 少し寄り道をしたが、俺もまだ明るいうちに宿に戻れた。


 広間はちょうど客が入り始めた頃で、カウンターの中にいるソフィアさんとアサツユは今までずっと仕込みの手伝いをしていたようだ。


 ホントこの2人は宿屋に溶け込んでるよな……。それも引っ越すまでの、あと数日のことだけれど。



 やることがないユリアは青森の3人組とテーブルを囲んで談笑し、テーブルを追い出された尚光はカウンターで大学生2人に酒を勧めていた。


 尚光に注意しないと危ないぞ、弦五郎くん。まあ、今さら俺が口を出すまでもないか。


 すると今日は熊五郎に声をかけられ、


「あ、ワタロットさん、おかえりなさい。ユリアちゃんからお屋敷のこと聞きましたよ、凄いですね。俺たちもそんな家に住んでみたいです」


「だからもっとダンジョン頑張ろうよ」と言うりんごちゃんに、


「それはそうだけど、安全が第一だから」と答える弦五郎は、冒険しないタイプのようである。



「屋敷って言っても半分焼け落ちてるからな。修理が終わったら遊びに来るか? その頃にはそっちも良い家見つけて引っ越してると思うけど」と言うと、


「ああ、それ、オレがもう誘ったから」とユリア。なんでだよ。家の主はお前じゃねぇだろ!


「本当ですか? お邪魔するの楽しみにしてます」と熊五郎。


「私たちも頑張らないと。ね、お兄ちゃん」と、弦五郎に詰め寄るりんごちゃん。


「仕方ないなぁ……ボスがもっと余裕で倒せるようになったらなぁ……。あっ、そうだ、ワタロットさん、鉱山の狩りを見に来るって言ってましたよね」


 と言う弦五郎のPTはそんなに苦戦しているのか?


 尚光も加入したし、前に聞いたときは「里山よりも楽」って言ってたと思うが……。特殊階のボスを攻めあぐねているのかもしれない。それなら鉱山がどんなところか、一度見せてもらおうじゃないか。


「そうだった。明日の午後にでも行っていいか? 俺が入ると7人になるから、PTの編成は任せる」と聞いてみる。


「もちろんです。お手並み拝見させていただきます」と言う弦五郎。


 お手並み拝見させてもらうのは俺の方なんだけどな。とりあえず、


「それじゃまた明日、ヨロシクな」と言って話を終えた。


 それから俺は先に風呂で汗を流し、4人で夕食を済ませると、部屋で複製に励んだ。



 ……。



 頃合いを見てユリアの部屋をノックし、


「ユリアー、マッサージに来てやったぞ」と声をかける。


「あー、開いてるから勝手に入ってくれ」とのこと。


 鍵くらい掛けておけよ――と思いながら部屋に入ると、ユリアは可愛い下着姿でベッドに寝そべり、俺に背を向けたまま、ツヤのある足をバタバタさせてメニュー画面を弄っていた。


 これじゃどうぞ襲ってくださいと言ってるようなものだ。尚光に縁を切らせておいて正解だったな。



「航ー、今日は色々ありがとな。今ストレッチやってるとこだから、もうちょい待ってくれ」と言うユリア。


 顔は見えないが、のっけから俺に礼を言うなんてやけに素直じゃないか。俺は椅子に腰掛け、しばらくユリアの生足を眺めることにした。


「おぅ。少しは気分転換できたか?」


 と聞いてみると、ユリアはメニューを閉じてこちらへ向き直り、ベッドの上で体育座りになった。


 そんな格好でそんな座り方をしたら……。思わず視線が釘付けになってしまう。


「ああ。お陰でアサちゃんと仲良くなれたし、尚光とは縁が切れたし。沢山歩いて疲れたけど、良い服着て、美味しいもの食べて、みんなウチらのこと振り返って見てたぜ。ここに来てから一番楽しかったかもな」


 俺たちそんなに注目浴びてたっけ? 内見のことに夢中で気付かなかったが、ユリアはよく見ていたんだな。アイドルは自分を魅せるのが仕事だし、当然といえば当然か。



「ユリアが楽しんでくれて良かったよ。まあ、今までそんなこと思ったこともなかったけど」


「航はずっとパシリだったもんな……って、そんな目で見るなよ。もう終わったことだろ……」


 そうだ、終わったことだった。つい、いつもの癖でユリアを睨んでしまったじゃないか。


 俺は尚光のパシリで、ユリアは尚光の彼女だった(・・・)。どちらも既に過去形で、互いに思い出したくない過去である。


 過ぎたことは忘れよう。ユリアと新たな関係を築くためにも。



「せっかくアイツと縁が切れたんだし、思い出しても仕方ないな」と言う俺に、


「そうそう。嫌なことは忘れようぜ。それより航、ちょっと腹筋の手伝いしてくれよ」


「俺はいいけど……。その格好でやるのか?」


「悪りぃかよ。オレは撮影で水着とか下着見られんの慣れてっから全然気になんねぇし、航だってオレのカラダ見るの慣れてるだろ?」


 慣れてるとか慣れてないとか、そういう問題じゃねぇだろ!


 健全な男子が健康な女子の下着姿を正面から見たら誰だって身体が反応する。ああ、そういえば以前の俺はユリアを女だと思ってなかったんだっけ。


「そうだな」と答えて、俺はユリアの正面に座り、足を押さえた。


 間近で見るユリアの身体は、前回マッサージしたときより随分余分な肉が落ち、引き締まっているように感じられた。


「ユリアって、ちゃんとトレーニングしてたんだな」


「ったり前だろ。こっち来て何もしなかったらナマっちまうからな」


 だけど、そうやっていくらトレーニングを頑張ってウェストを絞ったり、ダンスで足腰を鍛えたりしても、残念なことにその洗濯板のような胸だけはどうしようもないっていう。


「ふぅ」やれやれとばかりに無意識にため息をつくと、


「おい、航! 今オレの胸見て何か失礼なこと考えただろ!!」


 やっべ、視線でバレてしまったか。


「べ、別に何も考えてないし、お前の胸を見て俺がどう思おうが俺の勝手だし」


「まあいいけどな。はぁ。オレにもう少し胸があれば、もっと仕事続けられたかもしれないのにな……」


 ――え?


「どういうことだ?」


 尋ねると、ユリアは一旦腹筋を中断し、部屋に鍵を掛けて遮音状態にした。ていうか、もっと早く掛けろよ。


「誰にも言うなよ……オレ、表向きは学業に専念するため休業ってことになってるけど……本当は休業させられてるんだ……」


「事務所の都合で、アイドルを続けたかったらこれからは夜も接待しろって……その営業成績も加味して仕事を割り振るって……おかしいだろ?」


「今まで目立たなかった子は喜んで尻尾振っちゃってるけど、ある程度売れてたスタイル良い子は事務所移ってモデルとかグラビア行くって言うし、頭良い子は女優やるとか言ってる。どっちにしても甘くねぇよ。オレは胸も頭もないから、夜の仕事断ってアイドル引退するって言ったんだけどな。結局それは引き止められて、とりあえず休業」


「まあ、オレもダンスなら良いほうだったけど、それだけでどこまでやれるかなんて分かんねぇし、尚光の財布に期待してこっちに付いて来てみたらこのザマだよ。だからオレも、金目当てでアイツに近寄った他の女子と何も変わんねぇんだ」


 と、言うだけ言って、腹筋を続けるユリア。


 大学受験に落ちた俺より、実はユリアのほうが辛かったんじゃないか?


 華やかに見える世界も、一寸先は闇である。


 俺はユリアに何て言えばいいんだろう。


「ユリアのこと今まであまり考えたことなかったけど、そういう世界に居たんだな」


「ああ。でも航に話したら少し楽になったかも。聞いてくれてありがとな……って、あっ! そういえば昼間の話だけど、お前、オレのこと真面目に考えてるって言ってなかったか?」


 そうだった。このタイミングでそれを思い出すとは……。どうしよう。


「今まではあまり考えたことなかったけど、今は真面目に考えてるんだよ」と、お茶を濁す俺に、


「だーかーらー、その『真面目に』って具体的にどういうことかって聞いてんの。一夫多妻の話は聞いたよ、何人とでも結婚できるって。だけど、アサちゃんとの結婚も遊びじゃないんだろ? それなのにお前、オレのこともマジで……本気で好きとか思ってんのか?」


 ――なっ!? お前、直接それを聞くか?


 思わせぶりなこと言ったのは俺のほうだけど……。


 言っちゃっていいんですか。いいや、言っちゃえ。


「じゃあ真面目に答えるけど、俺はずっとユリアのこと嫌いだったよ。でもそれは全部尚光のせいで、勘違いしてた。本当は俺、ユリアのことが好きで、ずっと気になってたんだ。今はそれに気付いたから、ユリアのことをもっと知りたい。もっと好きになりたい。だから、真面目に考えてるって言ったんだ。さっきの話聞いて、やっぱりユリアは勇気あるって思ったし、自分の体を売るような子よりも、俺はユリアが好きだ。ユリアがアイドル辞めても、胸が小さいままでも、俺はユリアのことが好きだから」


 誘導されて、勢いで告ってしまったじゃないか。勝算などない。


 振られたら振られたでユリアの気持ちを確かめられるし、チャンスはまだあるだろう。



「へぇぇー。マジか。航、本当にオレのことも好きなのか。『胸が小さい』は一言余計だけど。分かったよ。じゃあオレも真面目に考えるから……その間、航は腹筋な!」


「は?」


 成り行きで告白させられた後、今度は腹筋をさせられることになった俺。


 下着姿のユリアが俺の足を押さえ付ける。くっそ、腹筋が捗るじゃないか。


 

「そりゃあオレも航のこと散々『ウザい』とか『キモい』とか言ってきたし、パシリに使って……今は悪かったと思ってるけど、あのときはそういう雰囲気だったじゃん」


 その雰囲気は尚光が作り出したものだった。お陰で「ウザい」と「キモい」には耐性ができた。


「けど航、こっち来てから凄く変わったし、皆からチヤホヤされて超生意気だし、アサちゃんと結婚してから幸せオーラ全開で見てると段々ムカついてくるし、オレがちょっと休んでる間にめっちゃ強くなって一々ドヤ顔してくるし、まだ何か隠してるような気がするし……。だからオレも航のことが気になるっていうか、丸裸にしてやりたいんだよね」


 ほとんど悪口にしか聞こえないんですけど。しかも微妙に鋭いし、ジト目で睨むのはやめてくれ。


 俺が変わったと言うなら、変われたのはソフィアさんのお陰だと思う。


「しかし、酷い言われようだな、俺」


「まあでも尚光よりマシかな……。航はオレのこと助けてくれたし、強いことに変わりはないから、いざってときに頼れる気がする……好きかと聞かれるとまだよく分かんないけど……」


 お? 珍しく自分の気持ちに迷うユリア。それなら、


「尚光よりマシって言うなら、これからは俺と付き合ってくれよ。いいよな?」と、強気で最後のひと押しをしてみると、


「それも悪くないかもな。いいよ、付き合っても」と、あっさりOKの返事。


 ユリアって、意外と押しに弱かった?


 いや、そんなことはないはず。少なくとも事務所にはNOと言ってきたのだから。


 まあ、尚光ともそんなに深い関係じゃなかったみたいだし、まだ軽い気持ちなのかもしれない。


 これからもっと押していこうと思った俺だったが……。



「じゃあ今からユリアは俺の彼女な」と宣言する俺に、


「だからそういうこと言うのが生意気なんだよ。付き合うからって調子乗んな。オレはモノじゃねぇし、彼氏になった途端、いきなり上から言ってくんのやめろよな」と、異議を唱えるユリア。


 ユリアは対等の関係をお望みのようだ。言葉には気を付けよう。


「分かってるって、そういうつもりで言ったんじゃないから。それじゃ、これからもヨロシク」


「こちらこそ、ヨロシク……。って、こういう改まるのもなんかむず痒いんですけど! ああ、もう、いつも通りでいろよ。航が変なこと言うから身体がむずむずしてきたじゃねぇか。腹筋はもういいから、マッサージしてくれよ。これだけは航じゃないとダメだし」


「おぅ、それなら任せてくれ」


 そんなこんなで俺はユリアとも付き合うことになったけれど、その関係は中々一筋縄ではいきそうになかった。


 ユリアの問題を解決しようにも、日本での問題がこの世界でなんとかなるとは思えない。だが、根本解決はできないとしても、ユリアの今後の道についても頭の片隅に置いて考えることにしよう。



 とりあえず、現状、ユリアにとって俺が唯一の存在と言えるのがこのマッサージだ。俺は持ってきたスイートアーモンドオイルに精油を滴下して香りを付け、ユリアのハリのある肌に塗布していく。


 この凝り固まった身体と共に、心も少しずつ揉みほぐしていけたらいいな。


「今日は途中で寝るなよ、ユリア」


「なんでだよ、ここオレの部屋なんだから別にいいだろ?」


「お前の寝顔が可愛過ぎて、俺が我慢できなくなるかもしれねぇから」


「ハァ? 何言ってんだ、お前、いくらオレの寝顔が可愛いからって、ムラムラきても我慢しろし。変なことしたらソフィアさんに言い付けるからな」


「わーってるよ」


 ユリアは「可愛い」と言われ慣れているせいか、普通に返されて全然面白くない。たとえ演技でも少しは照れてくれたほうが可愛げがあるのに。そしてソフィアさんに言い付けるのは勘弁してください。



 さて、マッサージそのものはいつもと同じ内容。違うのは俺の気持ちと、オイルがあること。


 以前はただの「やっつけ仕事」だったのが、今はユリアを癒したい気持ちでいっぱいだ。


 ユリアの肌にオイルが浸透し、揮発した香気成分が部屋いっぱいに広がる。


 俺は手のひらから指先まで全神経を集中させ、目一杯丁寧に施術を開始した。



「なあ航、なんかいつもより気持ちいいんだけど……このオイル、変なモン入ってないよな?」


「日本で使ってたのと少し違うかもしれないけど、基本的には同じだと思うぜ。ユリアが敏感になったんじゃねぇの?」


「そんなわけねぇし、航の手付きがエロいんじゃねぇの?」


 うーん。そう言われるとそうかもしれない。黙っていると、


「おい! そこは否定しろよ!」


「まあ、いつものマッサージだけど、愛は込めてやってるぜ」


「キモいな」


「キモいって言うな。俺彼氏だろ」


「ああ、そうだった。忘れてたわ……って、冗談だってば、真に受けんなよ」


「はいはい」


 まったくユリアは……憎たらしいほど可愛らしい。こんなくだらないやりとりも楽しいと思えるとは。



 そしてそのままマッサージを続けていると、


「あのさ……。もしも、仮の話だけどさ、一夫多妻って、ウチらが結婚したらどうなるんだ? アサちゃんが1番で、オレが2番になるのか?」


 やばい。早速聞かれた。


 当然のことだが、俺と付き合う女性にとってこれは重要な問題だ。今ごまかしても必ず後で問題になる。話せる範囲で話してしまおう。



「誰にも言うなよ? 実は……、事情があってまだそういう関係になれないけど、俺が1番に結婚したい女性ひとはソフィアさんなんだ。アサツユもまだ内縁だからな」


「おいおい、マジかよ。ソフィアさん人妻じゃね? どんな事情かは知らねぇけど、仮にソフィアさんが1番で、アサちゃんが2番だとすると、オレは3番になるのか? 航、お前いつからそんな女好きのキャラになったんだよ。あの日の夜からか? 本当にオレのこと真面目に考えてるんだろうな? 遊びだったら承知しねぇぞ!」


 少なくともこの町の市民街に住んでいる「3番目の女」は世間一般に認められ、普通に「いいところの奥様」であるが、その習慣にまだ馴染みのないユリアに俺は疑いの目で見られ、「女好き」に認定されてしまった。


 本命はソフィアさんだけど、アサツユもユリアも好きになったんだから仕方ない。尚光と同じカテゴリーに入れられるのは少し不本意ではあるが。


 しかし逆に言えば、ユリアも俺とのことを真剣に考えてくれているのだ。もっと頑張らないとな。


「ユリアに嫌な思いはさせねぇから、2番とか3番とか言うなよ。今日だって4人であちこち回ったけど、別に嫌じゃなかっただろ?」


「まぁな。それにしてもソフィアさんって、何食ったらあんなにデカくなるんだろうな」


 諦めろユリア。お前も今から育つ可能性は十分あるけれど、ソフィアさんのIカップは別格だ。それに、


「ユリアのだって需要あるだろ」


「本当かよ。需要って、航が彼氏なんだから、言ったことには責任取れよ」


 やっべ。そうだった。


「お、おぅ。胸が小さいままでも俺はユリアが好きだって言っただろ」


「だから小さいって言うなし。あと、ため息ついたり失礼なこと考えるのも禁止だからな!」


「わーってるよ」


 と言って、俺は再びマッサージに集中した。


 それからお互い無言だったが、ふと気付いたときには、


「航……彼氏……なんて……考え……なかった……。すやーっ……、すやーっ……」


 と、ユリアは半分寝言のように呟き、そして安らかな寝息を立てて寝やがりました。


 腹立たしくも悔しいことに、この無防備な寝顔を見ていると、無性に保護欲を駆り立てられてしまう。


 一方で、この寝顔はファンの誰も見たことがないのだと思うと優越感が込み上げてくる。



 施術が終わり、頬をぺちぺち叩いてみるが、全く起きる気配ねぇし。どうすっかな。とりあえず、暫くユリアの美しい肢体を眺めることにした。


 マッサージしてる俺が言うのもおかしいけど、ユリアの脚キレイだよな。肌のハリとツヤもあるし、ダンスで鍛えていたからか、お尻もプリプリしている。


 ウェストはくびれ、チャームポイントの腰えくぼがハッキリ浮かんで見える。胸はほぼ洗濯板だが、スッキリとした美しい背中は思わず抱きしめたくなってしまう。


 なにげに筋トレとストレッチを頑張っていたのだろう。



 もしユリアが日本に残ってアイドル活動を続ける決断をしていたら、好きでもない汚いオッサンたちに、この美しい身体を好きなように弄ばれていたかもしれないのか。


 尚光がいたから、ユリアもこの世界に付いて来た。尚光がいたから、結果的に俺はユリアと付き合うことになった。ありがとう尚光、俺とユリアの架け橋になってくれて。


 さて、十分堪能したところで、


「おい、起きろ、ユリア。終わったぞ」と言ってユリアを揺り起こす。


「んぁ。いつの間に……。ていうか起こすなよ……。オレもう寝るから、おやすみ」


「しょうがないなー。おやすみ、ユリア。また明日な」



 灯りを消して鍵をかけ、自分の部屋に戻ったとき、マッサージオイルを置いてきてしまったことに気付いた。この後アサツユにも施術する予定なのに。


 もちろん複製すればすぐに用意できるのだが、さっき出てきたばかりだし、取りに戻ろう。


 と、ユリアの部屋の前に来たとき――



「だから……そこは触っちゃダメだって言ってるだろ、航」


 ――えっ?


 ユリアの声が漏れ聞こえてきた。さっき寝たんじゃなかったのか? 寝言か?


「ん……そこじゃない……もっと上だってば……もう、じれったいなー」


「ああ、そう……そこそこ×2……もっとやさしく……航の指すごく気持ちいいよ……」


 やっぱり起きているようだ。でも、これって……。


 すると、女湯からアサツユが出てきて、


「あれ? こんなところで何やってるの?」


 と言うアサツユに、「しぃー!」と声をひそめるよう合図をして、2人で聞き耳を立てる。


「ほうほう、これは……」と、アサツユも様子を理解したようだ。


 ユリアの声は甘く、切なく、もどかしく、次第に艶を帯びていく。最後は一際高く切羽詰まり、やがて静かになった。


「ふうん、ユリアちゃんも寂しかったんだね」と呟くアサツユ。


 ユリアがそんな妄想をしていたとは……。


 はっ、そうじゃなくて!


 俺はオイルを回収する目的を思い出したが……今日はユリアをそっとしておくことにした。



 ……。



 それから俺の部屋でユリアと同じマッサージをアサツユにもしてやった。


「ワタロットの指、気持ちいいよ。このじれったい感じも……ユリアちゃんの気持ち分かるな」と言って身体を何度もくねらせた。


 エルフのアバターには余分な肉は付かないことになっているが、本体であるアサツユの肉欲には火が付いてしまった模様。


「ねぇねぇ、ワタロットぉ……そろそろシよぅよぉ……。ねぇぇ……準備できてるでしょ?」


 と、スイッチが入り我慢できなくなったアサツユ。状態異常を確認されるまでもなく俺のスイッチは最初からずっと入りっぱなしだ。


「まったく、悪い子だな」と言って灯りを消し、俺はずっと抑えていた心の中のオオカミを解き放った。


「それじゃ、良い子にするからいっぱい頂戴」


 好奇心旺盛なアサツユはベッドの上でも積極的かつ大胆に求めてくる。その上、素直で従順、甘え上手な新妻におねだりされたら、俺の理性のたがなどすぐに外れてしまう。


 午前2時を過ぎたところで少し眠り、朝は心地よく目覚めさせてくれた。



 ……。



 冷めた風呂を暖めなおして汗を流し、サッパリしたところで広間に下りていくと、ソフィアさんの笑顔と特製ドリンクが俺を待っていた。


 良薬は口に苦し。これ良く効くのはいいけど、マジで苦いんですけど!


 ふと傍らを見ると、アサツユとなぜかユリアも飲まされていた。


「うっわ、何これ。めっちゃ苦げぇんだけど! アサちゃん! 早く水出して! 水! 水!」


 昨夜のことなどケロリと忘れているユリアであった。



 ……。

お読みいただきありがとうございます。

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