第30話:市民になりました。
※28~29話のあらすじ
・適性レベル25のダンジョンは、通常階は普通にクリアできたが、3周目の特殊階には武装したゴブリンやオークの戦士が多数出現し、革装備のままでは厳しかった。
・そこで市民街の社交会館へと向かい、金属防具を買い揃え、装備全体を強化した。
・この世界の強化システムは俺の能力と極めて相性が良く、+9強化の装備も簡単に作れてしまった。
社交会館の1階ロビーへ戻った俺は、2人と合流すべくラウンジを見渡す。
まず目に入ったのは、鼻歌交じりにケーキバイキングを楽しんでいるアサツユ。その姿を追っていくとソフィアさんの座るテーブルも容易に特定できた。
おや? 見れば知らない女性2人が相席し、楽しそうにおしゃべりをしているではないか。1人は優雅なドレスを身に纏い、1人は軽装の鎧を身に付け佩剣している。
「すみません、お待たせしました……」と声をかけると、
「ワタロットさん、お疲れさまです。お2人とも紹介しますわ。こちらは私の冒険パーティーでリーダーを務めて頂いているワタロット氏……」
「……こちらはプリシラ・グティエレス卿。この町を含む『アルクエンカ』の地域一帯を治めている女伯爵殿ですわ。昔の岩瀬と繋がりのある方で、私たちに資金援助をして下さいましたの」
――マジで!? それって、この町の領主様ってことじゃないですか。俺は何と言って挨拶すればいいんだ……と思案していると、
「やめてください、ソフィア様。あの程度の額、とても援助と呼べるものではありませんわ。ほんの少しエレナのお小遣いを減らして調達しただけのものですから」
ええと……。話の流れだとソフィアさんって、この町のトップより偉いのか?
領主の祖先が240年前に岩瀬と何らかの付き合いがあったということから、単純に名誉侯爵夫人と女伯爵という身分、爵位の比較は出来ないのかもしれないけれど。
領主の言葉に、横に侍る女性が非難の声を上げる。
「お恨み申し上げます、主様」
「あらあら、そんなに目を三角にしていては殿方に嫌われてしまいますわよ。このエレナは当家の騎士団長の娘で、私の護衛をしてくれていますの」
領主様自ら近侍を紹介してくれたところで、ようやく俺も挨拶をする。
「ワタロットです。よろしくお願いします」
なんか気まずいな。騎士や貴族になるとこういう挨拶にも慣れなければいけないのか。面倒くせぇ。
「エレナ・オルテガ。私は私より弱い男に興味はない。以上だ」
と、これはまたベタな女性騎士。年は俺と同じくらいだろうか。誇り高く、ユリア並みにツンツンしている。
「ご安心下さい、騎士様。俺は俺が守りたいと思う女性を守れれば十分ですから」と返しておく。
「ほら、また嫌われてしまったでしょう。エレナが早くお婿さんをもらって私の養子になってくれないと、私が困るんですよ」
むむ……。何やら複雑な事情を抱えているみたいだな。直接聞くのは失礼になりそうだし、後でソフィアさんに聞けばいいか。
とまあ、成り行きでこの町の領主様と同じテーブルを囲むことになったわけだが、こうして俺たちが話している間、アサツユはずっとケーキに夢中。
ていうか、ビュッフェ(バイキング形式)だからってどんだけ食ってんだよ。太るぞ!
俺の視線に気付いたのか、「ほのへーきおいひい」って、食べながら喋るんじゃない! お行儀が悪いですよ!! 頭をコツンと小突いてから少し撫でてやった。
「それで、ソフィア様の『いい人』は中々の幸運をお持ちだと聞いておりましたが、下の結果は如何でしたか?」
領主様から装備強化のことを聞かれた。+9装備が出来たとは言えないけど、何も答えないわけにもいかないよな。
「はい、いくつか良い物が出来ましたので、オークションに出品してから帰ろうと思ってます」と、出品予定の剣を取り出した。
「それはそれは。けれど良い物は普通、代々伝えて簡単に手放したりしないものですわ」
と、教訓を垂れる領主とは対照的に、エレナさんは俺の剣に注目している。弱い男には興味がなくても強い武具には興味があるということか。
それならば、「ご覧になりますか?」と言ってバスタードソード+6をエレナさんへ手渡す。
鞘から抜いた瞬間――輝く刀身に目が釘付けとなるエレナさん。
「これは……無銘のようだが実に美事な輝きだ。本当にこの剣を売りに出すつもりなのか?」
と、詰るような口調で問い質され、
「値段にもよりますけど、そうですね……金貨60枚からスタートして120枚なら即決で落札……って都合良すぎますかね」
試算した金額は、普通品の10倍から20倍という安易なものだったが、
「いや、これはその倍以上はするだろう。金貨120枚なら私が1秒で落札する」
――え!? さらにその倍と言われた。とりあえず推定で金貨200枚としておこう。
ていうかエレナさん、買う気満々なんですが。その理由は……。
「エレナのお小遣いを減らしてしまったから、その罪滅ぼしに何か欲しい物を1つ買ってあげる約束をしたのだけれど、この娘ったら『光る剣が欲しい』なんて言うのよ……もう少し大人の女性らしく飾り気がないと殿方にアピールできませんのに」
ふむふむ。そういうことか。元々探していた物がいま目の前にあると。
しかし、飾り気と言われてもな……。あぁ、そうだ、
「それなら、こういうのもあります」
と、良質なラブラドライトのペンダント+3をインベントリから取り出す。
「これはそれなりに綺麗ですわね。魔力のあるものならエマ……当家の魔術師もきっと欲しがるでしょう」
と言う領主様だが、貴族ならばダイヤやルビーのような高価な宝石を持っていて当然だ。けれど、冒険者のように魔力や属性を付与したり、何個も破壊して強化したりはしない。
これだって全属性を持つ稀少品なのだが、その価値を理解できるのは魔法使いと取扱業者だけだ。
2人の反応を見ると、やはりエレナさんは宝石に無関心で、領主様の鑑定眼もあまり期待できない様子。ここは一丁、抱き合わせで提案してみるか。
「こちらは金貨120枚から150枚程度と見積もっていました。なので、剣と合わせて金貨300枚でよければ出品せずにこのままお譲りしますけど」
「本当にいいのか? 手放したことを後悔するなよ?」
「ご安心下さい、騎士様。男に二言はありません」
最後の問いに答えると、エレナさんが領主を促し取引成立。
オークションに出すどころか、即売れしちゃったよ。金貨50枚入りの袋が6つ手渡され、その価値と重みをずっしりと感じる。
これで俺も晴れて市民になれる。その際、支払う税金はまた領主の懐に戻るわけだが、この時はそこまでの考えに至らなかった。
嬉しくて気持ちのやり場がなかった俺は、まだケーキを貪っているアサツユの頭をくしゃくしゃと撫でる。ふわりと香るラベンダーの匂いでふと我に返った。
領主様との取引が終わったのを見届けてから、「それでは私たちはそろそろ失礼致しますわ」と、ソフィアさんが帰りの時間を告げる。
俺も領主様とエレナさんに挨拶をして、ケーキが名残惜しいと言わんばかりのアサツユを引き摺って外に出た。
……。
もちろん、次に向かったのは役所である。税金半年分の金貨120枚を納め、羊皮紙にサインする。担当の官吏が読み上げると、羊皮紙の色が初めは黄色に、次第に赤に変わっていく。
「……以上で昇格の儀式は終了となります。本日よりワタロット氏を市民と認めます。お疲れさまでした」
途中の説明に比べれば、儀式は意外にあっさりとしていた。まあ学校の入学式にしても卒業式にしてもそんなものか。肝心な部分はごく僅かで、あとは長い挨拶や祝辞を聞いて終わる。
市民になって認められることは、
・通行の自由と居住の自由。屋敷を持って、門や転移石を自由に通過できるようになる。
・市民称号の名乗り。これは苗字が1つ増えるようなものだ。能力や職種に応じて付けることが多い。
・一夫多妻。またはその逆。基本は4人まで。追加で納税する毎に許可枠が2人ずつ増える。
・契約時の主人格。雇用主になれる。基本は6人まで。追加で納税する毎に許可枠が2人ずつ増える。
大体こんなところだ。同じ市民でも上の人たちは雇用している人数が多いから税金をもっと沢山支払う必要があるわけか。世知辛いな。
システムメッセージでも「おめでとうございます! ワタロット様の身分が市民に昇格しました!」と表示されたけれど、それよりも2人から祝ってもらえたことが嬉しかった。
「おめでとうございます。ワタロットさんの努力が報われましたね」とソフィアさん。
「おめでとう、ワタロット。これからはずっとワタロットの奢りだね」
と言うアサツユには「なんでだよ!」とツッコミを入れたいところではあるが、それもまた悪くないと思えるのはアサツユの性格からか、それとも俺が昇格して舞い上がっているからなのか。
「次は家を買わなきゃな」ふと呟いた俺に、
「そのことですが……。狩りの途中にでもお話ししましょう」
……。
※お読みいただきありがとうございます。




