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守るも守るも

(注釈:本作に登場する言葉遣いや単語は、翻訳者によってすべて現代風に書き換えられてしまっています。その範囲は尾張→名古屋国といった当時の名称の変更だけではなく、比喩表現のために当時存在しない物までが平気で登場する過激な物になっていますが、なにとぞご了承下さい)


 良い国家とは何だろうか。


 昔、何かで読んだことがある。

 民に寄り添い、民の安寧を願い、民を愛する国家。


 しかし現実にそんな国家はほとんど存在しない。

 多くの国の政治家たちは、自分達のことばかり考え、民のことなど顧みない。

 そして国家は退廃し、革命という名の反乱により消滅する。

 革命は新たな国家を生み出すがやがて退廃し、消滅する。そしてまた新たな国家が・・・歴史は繰り返す。



 西暦1601年(皇紀2261年)


 夜な夜なカッポレカッポレ踊り狂い、眩いばかりのハッピーライフを満喫した朝廷が生み出したのは群雄割拠の戦国時代。

 女、子供は泣き叫び、老いは絶望に暮れ、男たちは皆、武器を手に取って血で血を洗う地獄のような時代。


 けれどもそういう時代には例外なく乱世の奸雄が各地に現れる訳で、ほら戦いをやめろ、武器を捨てろと、それぞれがそれぞれのルールを作りながら地方を治めていく。

 そして世界は再びゆっくりと収束へむかってゆくのです。


 で、僕が生まれた時代は既に太平の世。

 戦なんてものは呆けた爺さんの「わしの若いころは...」的な戯言、となればよかったんですが、残念なことに僕が物心ついた頃でも、戦乱は終盤にさしかかりつつも、灯消えんとして光を増していたのです。


 今、この倭の国は大きく九州国、広島四国、京都国、名古屋国、関東国の五つに分かれ、それぞれが血筋の怪しい帝を立てて他国をけん制しながら睨みあっています。


 そして、僕が所属している京国は、史学的に見れば正統な王朝なのですが、戦乱のきっかけを作り出した室山朝廷が現実に治める国です。

 この本来であれば最初に打倒されるべき国が、思いつく限りの権謀術数を張り巡らし今も生きながらえているのは、魑魅魍魎の卑しさに感嘆の声をあげざるを得ないのです。


 何はともあれ、この五国時代はしばらく安定していたのですが、一年ほど前に形勢が一気に傾く出来事が起きます。


 岐阜の風情漂う『養老』の岡盆地にて、広島四国と京都国を中心とする『西軍』と、名古屋と関東の連合国『東軍』による大規模なぶつかり合いが発生しました。

『美濃養老の戦い』と命名され、全国民が固唾を飲んで見守ったこの戦ですが、知者の間ではその行く末は想像に難くなかったようです。


 何故なら、この長く続く戦乱の時代において、ただの紙切れほどの価値しかない勅命を大量発行し、他人を動かすことに腐心してきた関西国と、日々剣を振りながら強豪ひしめき合う東の地を生き残った二国の実力差は歴然だったからです。


 戦力で劣る西軍は戦略で優位性を取り返すしかないのわけですが、最前線で奮闘する数少ない知将が提案する妙策はことごとく愚かな京国の廷臣によって却下されていきます。


 そして、このハリボテの廷臣達が、劣勢が判明するや否や脱兎の如く逃げていくのは最早言うまでもないのですが、むしろ問題なのはこの戦いに置いて『西軍』の数少ない知将、猛将がこぞって戦死してしまったということ。


 これにて京都国と広島四国は五大国の並びから抜け落ち、実質本州を抑えることになった『東軍』は、神話時代以来千年以上ぶりにこの国の統一に向かっていくのです。


 ここまでくると、関東国の武将などはもはや勝った気分で、京都を占領した後のことを考えています。

 我が物顔で四条通りを闊歩しながら祇園に向かい、芸妓遊びをするという夢の生活を思い浮かべているのです。


 しかし、名古屋国の武将は、依然として難しい表情を浮かべながら、日本地図を眺めています。


 見つめる先は岐阜から西に進んだ、陸地の三分の二近くが琵琶湖で占められている滋賀。

 古くから京都と名古屋を結ぶ商人の通り道程度にしか扱われていなかったこの地には、嘗ては大陸に名を馳せた勇将が住んでいました。


「何を言うか。京極東源は美濃養老の戦いで討死したではないか」


 こんなことを口にするのは、間違いなく事情を知らない関東国の武士。

 関東国から東海道の長旅を経て、黄金に輝くと言われる雄琴遊郭に魂を抜かれてしまったようです。


「確かに京極東源を討ち取ったことは、美濃養老の戦いおいて最も意味のあることの一つだった。名古屋国の徳川大元帥、終始京極東源の動きに腐心していたことは自明だからな」

「そうだ。だから何も心配することはない。もはや残ったのは剣の握り方も知らず、蹴鞠しか出来ぬ貴族のみだ」


「しかし、今のところ先発隊からはいい知らせは届いていない」


「最後の抵抗といったところだろうが、そこが崩れるのも時間の問題だ」


 そう呑気に言うこの関東国の将軍は、まだ知らないのです。


 京極東源には、その自身の分身とも言うべき六人の娘がいるということを。


 その六人の娘が滋賀に残った最後の抵抗軍であるということを。


 そして、彼らの最大の敵であるということを。



 

 六人の娘はそのいずれもが京極東源の才能を引き継ぎ、各々がその一芸を磨いているという。

 ある者は物心ついた頃から刀を振り、ある者は弓術を極め、ある者は兵法を学び、ある者は軍をとりまとめ、父親と共に戦場を駆け巡っていたという。


 まあ伝聞みたいに言ってしまったが、実際は噂とは比べものにならない位ヤバい人達だ。

 いい意味でもわるい意味でも。


 というわけで、京極東源の残り種達が残党を一手に集め、琵琶湖の上に浮かぶ沖島を拠点とした神出鬼没の軍として名乗りをあげた。

 敵を押し返すは火の如し、東からくる軍勢をことごとく苦しめているという。


「京極東源の娘か……確かに噂には聞いたことがあったが……しかし、所詮は女だろう。何を恐れることがあるか」


「あ、そういえば姉妹以外にも確か一人だけ男児もいるはずだ」


「何!? かの京極東源の血を継ぐ嫡男となるとそちらの方が気になるところだ」


「いや、それは相当にポン助らしい。間違いない情報らしいので気に止めなくていい」


 その将校の言葉に対し、おいっ、誰がポン助やねん! という突っ込みを入れるが、虚しく空を切る。


 ポン助じゃない。大体ポン助ってどういう意味やねん!せめて凡庸と言ってくれ、凡庸と。


 ついに京極家に男児が生まれた。

 これは将来の大将軍は間違いないなと勝手に期待のハードルをあげるにあげといて、それを越えられないからポン助って酷いじゃないか。


 というわけで、僕と片方だけ血の繋がった六人姉妹の物語の、始まり始まりなのです。


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