ある騎士の独り言
ある騎士の独り言
ある日の午後、ライザックは物思いに耽っていた。ライザックは、騎士である。第一騎士団において、ライザックの地位はそれほど高くはない。周りの騎士たちは、全員名のある名家の出であり王都を守るにふさわしい屈強な者たちである。対して自分は、神聖国内でも知らないものの方が多いような辺境の村出身で、見た目もヒョロッとしていて頼りがいがなさそうである。
だが、そんな自分にある日転機が訪れた。毎年開かれる御前試合において、組み合わせが良かったのか何なのか知らないが優勝してしまったのである。その時の功績を買われて、騎士爵しか持たない身でありながら第一騎士団に入団することができた。
入ったまでは良かったのだが、およそ場違いな自分に対して風当たりは強く、先輩騎士たちによる執拗な嫌がらせが始まった。稽古場へ行けば、先輩騎士複数人による模擬戦を挑まれ、魔物狩りではしんがりをさせられたりと普通なら根を上げてしまっていただろう。実際、誰もがそう思っていた。
しかし、周囲の予想とは違っていた。模擬戦では、対戦相手をことごとく屠り、魔物狩りでは魔物をすべて討伐してしまうなどの目を見張る活躍をしてみせた。次第に周囲の見る目も変わってきた。
現在ライザックは、神聖国と帝国との国境付近にいる。そこでは、今度新設される”白銀騎士団”(しろがねきしだん)の選考会が行われている。入団できるのは、女性騎士のみ。その理由は、王女殿下の御身をお守りするためである。近い将来、国王様がご結婚なされる。その時に、王女殿下の周囲を固める者が男では何かと不便である。まさかトイレや寝所にまで男がくっついているわけにもいかない。そのため、王女殿下をお守りするための部隊が必要になったのだ。その選考会の、責任者には神聖国内の騎士の中で最も強く、周囲からの信頼が厚い者が選ばれた・・・・・はずだった。
新手の嫌がらせか何かの陰謀なのか知らないが、選ばれた責任者は実家で所要があるらしく、途中で補給の為立ち寄った田舎町にて別れ、副官であったライザックが責任者をやることになってしまった。といっても、この後の日程は平地でのキャンプと模擬戦だけなので全く問題はない。このあたりの魔物の活動期は終わっているという報告も受けている。なので、安心しきってしまっていた。
その夜、遠くで地響きのような音が聞こえたが、気にはならずに眠りに入った。翌朝、トーナメント形式の1対1の模擬戦が行われた。結果から言ってしまえば最終選考に残った騎士は、8人だった。結果発表は、皇都に帰ってから伝えればよいので受験者全員で来た道を戻ることとなった。
街道に出るとすぐに気が付いた。昨日にはなかった魔物の足跡がたくさんあったのだ。この魔物の進路に見当がついてすぐに安心した。なぜならそこには、神聖国最強の一角がいるのだから。