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家族の時間

 

            家族の時間

               


        


「うん?」


 終業のチャイムがなった。俺の名前は、古城宗助。最近就職して今は、地元にある工場で働いている作業員だ。仕事が終わったことで緊張をとき、あくびをするものや、伸びをする者など様々な様子だ。これから飲みにいかないかと、同僚に誘われるが明日も早いからとやんわりと断る。


 

 帰り支度を終え、更衣室を出ようとする俺に同僚の一人がやってきてこう告げた。


 「古城さん。おつかれさまです。もう帰られるのですか?工場長のところにはもう行かれたんですか?さきほど、工場長が古城さんを探していましたよ。」


 「そうか、ありがとう。工場長は今どちらにいらっしゃるかわかるかな。」

 

 「事務所の方じゃないですか?給料日前は、大体あそこに行ってますから。」


 さっそく事務所に行くために更衣室を出てみると今まで働いていた工場の灯が消えたところだった。

 工場の周りには、家が一軒もないためか急に夜になったような錯覚をうける。事務所の方を見ると誰かいるらしく明かりがついている。工場長が中にいることを祈ってノックをする。


 「失礼します。古城です。私に何か御用でしょうか。」

 「おう。まあ、座れ。」

 俺は、近くの椅子に腰かける。

 

 お茶をだされたのでいただく。一口飲んだ時に工場長が話し始めた。内容は、仕事には慣れたかとか、同僚たちとの付き合いのこととかであった。

 最後に真顔になって

 「昨日、兄の遺品を整理してたらこんなものが出てきたんだ。」

 そういうと、机の下から包みが出てきた。包みの表面には(祝14才誕生日おめでとう!)と書かれていた。

 

 俺の家族は、15年前、俺を残して全員死んだ。死んだというのは適切ではない。俺が修学旅行中に強盗に襲われ、両親が殺された後、妹はレイプされて殺された。そして、強盗した犯人たちは、警察にその日のうちに自首をし事件が明るみになったというわけだ。京都のホテルのフロントで担任からその話を聞き、俺は茫然自失となった。ショックが抜けきらないまま、急きょ実家に帰り、警察の霊安室で家族と対面した。そのとき、警察で強盗犯たちは全員18歳以下の少年であり、計画を持ちかけた少年は妹の同級生で妹にふられた腹いせに実行に移したと話していると聞いた。当時はまだ少年法の改正前であり、今とは違い加害者の少年たちは、3人も殺していながら少年院措置だけだった。俺は怒り狂い、少年たちの顔と住所を公開するようにと警察に毎日のように抗議に行った。だが公開などしてはくれなかった。

 年が明け、俺は、高校卒業とともに東京にある大学に入った。大学の費用は俺の身元引受人になった父の弟にあたる正人さんが出してくれた。この人が工場長である。正人さんは、この材木工場を父親から譲り受けていた。親父は、祖父が存命中には、商社に入りすでに部長職を任されており、工場を継げる状況ではなかった。なので就職活動中だった正人さんが工場を継いだというわけだ。もともと商才があったのか正人さんが経営を始めてから業績は良くなり、今では地元で優良企業とされている。

 俺は、大学在学中にちょっとした間違いを起こし最近、出所したところだ。正人さんが出所のとき迎えに来てくれ、工場で働かせてもらっている。俺が犯してしまったことに対して正人さんは、ある程度理解してくれている。


 

 家に帰ると、渡された包みを開いてみる。中には1冊の本が入っていた。それは、ファンタジー小説で当時、妹が欲しかった最新巻だ。奇しくも今日は俺の32歳の誕生日だった。当時をなつかしむように本を開いた。内容は、魔族大陸に侵入した勇者パーティが魔王を倒して世界を平和にするというよくある話だ。この本が話題になった理由としては、これを書いたのが13歳の少年だったというところにある。現在と違い15年前では子供が書いた小説が一般書籍として本屋の店頭に並ぶということは前代未聞の出来事であった。マスコミはこぞって取りあげていたし、物珍しさもあってどこの店でも売り切れが続出していた。俺自身もハマったひとりだ。

 本の最終ページを見ると「こうして世界は、一時の平和を得ることができた」と締めくくられていた。

俺は全然平和じゃないけどな・・・・・。明日も早いしそろそろ風呂に入って寝ようとすると急にめまいがしだした。かぜでもひいたかもしれないと思い風呂をやめて布団の中に入る。目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。

 


 目を開けるとなぜかベッドの上で目を覚ました。辺りを見回すとずいぶんと質素な部屋だ。ポスターもカレンダーもなくテレビもない。映画で観たことのある中世の民家のセットに似ている。まだ夢でも見ているのかと思いながらドアを開ける。そこにあった光景をみて俺は、絶句した。


 家族が死んだはずの家族の姿がそこにはあった。ってそんなことあるわけない。寝ぼけているだけだろうとそんなことを思ったとき、

「宗助。今起きたのか。はやく顔を洗って着替えてきなさい。」

 父にそう言われた。夢じゃないのか?突然涙が頬を伝う。父さんたちはそんな俺に怪訝な表情を浮かべる。涙を右手で強引にぬぐうと

「もしかして、なにかの病気?」

「休んでいた方がいいんじゃないの」

と、心配される。何が起こったかはわからない。それでも今の状況はすごくうれしい。顔を洗ってからテーブルにつくと、

「ちょっと寝ぼけてたみたいだ。なんかひさしぶりにみんなと会えた気がして」

と何事もなかったように接する。ふと、思いついたことがあり聞いてみる。

「そういえば、父さん。こんな朝早くになんでみんな起きてるの?今日、なんかあったっけ。」

「何言ってるんだ。いつもと変わらんだろう。」

「だってまだ外は暗いじゃないか。」こんな時間じゃバスも出てないだろうと言おうとしたとき、今更ながら気が付いた。電気の明かりだと思ったらランプの明かりだ。それにみんなの着ているものもみすぼらしい。と、そこへドアを開けて見知らぬ男が突然入ってきた。

 「フ~。やっぱこの時期はまだ冷え込むなあ。」と椅子に座ろうとしたとき、

 「なんだてめえ。人の家でなに勝手にくつろごうとしてやがる。」

 俺は男の胸ぐらをつかみにかかる。と、間に妹が割って入ってきた。

 「フロイドに何やってんのよ。おかしいんじゃないの?」

 なぜか俺以外の家族はみんなこのフロイドとかいうやつのことを知っているようだ。俺が説明を求めようとしたときに、

 「う~ん。うちとけたと思ったんだけど、まだ義兄さんには時間が必要みたいだね。」

 その言葉に呆然とした。

 













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