宇宙忍者トビトカゲ
数日ぶりのリンクスのコクピット。やっぱりここが一番落ち着くなあ。
ナンシーが気を遣って、広いベッドや真水のお風呂なんかを用意してくれたんだが、夢にまで見た筈なのにそれ程でもなかった。いやまあ、普通に気持ちよかったんだけどな。今では水も貴重品らしいので、感謝しなきゃバチが当たる。
俺にはリンクスのコクピットの方がしっくりくるってだけの話だ。すっかり体が馴染んでしまったらしい。
コクピットのシートは包み込むように俺の身体を保持してくれるし、耐圧スーツ内部の高圧シャワーはツボが刺激されて気持ちいい。何より、コクピット内部は重力まで快適にコントロールされている。
一昔前に胎内回帰ブームなる珍妙な社会現象が起きて、高価な安眠カプセルがバカ売れしたことがあった。当時は、世の中には酔狂な人もいると軽くスルーしたものだったが、今なら理解できんこともない。無重力の浮遊感覚は、ちょっと癖になるからなあ。
そういえばいつの間にか、コクピットが随分広くなっている。もう物理的にリンクスの胸部に納まりきらないサイズだよなあ。宇宙のすごい科学力によって、空間をある程度自由にコントロールできるようだ。
難しいことはわからんが、居住性は大幅にアップした。いいことなのだから、細かいことは気にしない。
モニター類も、そこに壁があるのがわからないレベルになっている。普通に空中に何層にも重なって表示されて見える。こういうのは実用性皆無の面白グッズとしては昔からあった。高価なわりにほぼ使い物にならない代物で、アニメや特撮の世界でのみ活躍していたな。
当然、リンクスのはそんなオモチャじゃない。何が凄いって、ほとんど意識することなく使えるのが凄い。人間だって自分の視覚を仕様とか気にせず使いこなしているんだ。本能的に、直感的に使えるインターフェースが至高だと言えよう。
急にモニタのことを意識したのは、無数のパイロットランプが目の前にどんどん表示されているからだ。次第に赤から緑色に変わっているってことは……現状とにかくいい感じってことだろう。
ビリーに提供させた転移用のプログラムらしい。専用のハードウエアがないから、エミュレータ上で動かしているようだ。これさえあればいちいち宇宙空間に飛び出さなくても、地上の座標に正確にワープできるようになる。
「ウィンウィンウィン……エネルギー充填120%……」
『これはエネルギーゲージではありません。ただのチェックリストですよ』
そんなことはわかってるさ。気分を盛り上げようと、せっかく効果音まで演出してやったのに、ベティちゃんは相変わらずノリが悪い。
『全項目オールグリーン。準備完了です』
「それじゃあ、まあ、ワープっと」
モニタが一度暗転し、周囲に見覚えのある山並みが広がる。
ああ、ここはガトIIのスタート地点の一つだな。何十回も見た景色だ。
再びカニメカ達の星にやって来たわけだ。
「なんか前より余計に手間と時間がかかってるよな? ビリーの奴、旧式のプログラムを渡しやがったな?」
『以前は専用のサポートシステムを使っていましたから。リンクス単体で動かすとなると、それなりに準備時間は必要です。ここからさらに最適化はしていきますが』
サポートシステムというのは、アリサちゃん達がいた地下の設備のことだろう。ゲーム筐体に見せかけて、実は転送装置だったわけだ。
あれを動かすためだけに専用の原子炉が使われていたらしい。それだけじゃ足りずに、月面発電所からもエネルギーを引っ張っていたようだ。
「そういや、アリサちゃん達はエスパーで、いろいろサポートしてくれてたそうだぞ。具体的に何してたんだろうなあ?」
出撃後のオペレーター業務はベティちゃんが一人でやってくれていたし、超能力者の出番は特になかったように思う。
『祈ってくれていたのでしょうね。絆が深まれば、帰還の成功率が高まりますから』
そういや、転移には縁や絆なんてものが関係してるってビリーが言ってたな。科学としては理解できんが、魔法みたいなものだと思えば何となくありそうではある。オカルトも科学も、行くところまで行けば似たようなものだって言うしな。
ただ、彼女達の能力では99.9%が99.99%になるくらいの効果しかないそうだ。それでもあるとないでは違うんだろうが……祈ってもらって悪い気はしないしな。
さてと、マテリアル集めにカニメカを狩りたい気もするが、それはまた今度だ。ここにはいつでも来れるから。
この星を皆がいろんな名前で呼ぶので、いいかげんややこしい。銀河連邦がつけた名前もビリーがつけた名前も使いたくないしなあ。
ここはひとつ、俺がいい名を考えようじゃないか……
『転移の準備できましたよ』
星の名前を思いつく前に、地球へワープする準備ができてしまったようだ。まあ、じっくりいい名前をつけてやるさ。考えている間が一番楽しいからなあ、無理に今決めてしまう必要もないわけだ。
目の前に地球の地図が表示される。目的地はアメリカ……北アメリカのどこかっぽいな。
「これが噂のコネチカットか」
『いえ、隣のマサチューセッツ州です。データベースにあったポイントの中では、ここが一番近かったので』
どうも、ビリーが登録している地点にしか跳べないようだ。地球から地球へのワープもできないみたいだし、いろいろ制限が多い。
それでも、数分で日本からアメリカまで移動できるのは便利だ。弾道ミサイルでも30分はかかるんだからな。
マサチューセッツ州なら俺も知っている。確か、有名な工科大学があるんだよな。
政忠摂津工科大学とか、漢字で書くとイマイチな感じだな。
馬鹿なことを考えていると、一瞬でワープ。ベティちゃんは確認すらしてくれなくなったな、別にいいけど。
日本では夜だったが、こちらは昼間か。地球は丸いからこういうことも起きる。なんというか……グローバル?
ワープアウト地点は、緑地のそこここにモダンなビルが配置されていて、いかにも大学か研究所の構内って感じだ。まさか、本当に例の大学なのか?
見た目的には、その辺にゾロゾロ天才博士とかが歩いてそうな感じだな。人っ子一人いないけど。
この近辺でも何発か核兵器が使用されたようだ。馬鹿どもめ。放射線は……今はそれ程でもないな。生身で外に出たくはないが。
大量のゴミが、風に吹かれて無人の通りを転がって行く。
「情緒がないなあ。アメリカだったら、転がる枯れ草が見たかったぞ」
『タンブルウィードですね。乾燥地帯に行けば見られると思いますが』
あの転がってる奴って名前があったのか。
ベティちゃんのデータベースには、相当無駄知識も詰まってるよなあ。
さてさて、このまま白いキリンのアジトに乗り込むか? フライトユニットを使えばほんの一飛だ。強襲になるが、まあ、いつもやってることだしな。そんなに難しくはないさ。
いや、せっかく少し離れた場所に出たんだし、偵察も兼ねて潜入するの面白そうだ。
アメリカがどうなってしまったのか、自分で歩いて確かめたいしな。そのための準備だってバッチリして来ている。備えあれば嬉しいなって言葉を、俺の座右の銘にしよう。
ベティちゃんが作ってくれた新たな高機動型ドロイドの出番だ。その名もトビトカゲ、命名はリンリンだ。あいつのネーミングセンスは壊滅的だが、アメリカではそういうのがウケるらしい。
ネーミングだけでなく、ニンジャコスチュームまで貸してくれた。何故かサイズが俺にぴったりだったのがちょっと怖い。
まあ、ドロイドのトビトカゲは俺より一回り大柄なんだけどな。五十代の謎の東洋人、その正体は甲賀の中忍という設定だ。俺なら大猿と名付けたところだ。
掘りの深い怖い顔に無精髭。これならアメリカ人に舐められないだろう。
リンリンに借りた白い忍者服は、ベティちゃんが瞬時にサイズを調整してくれた。この程度の加工であれば、マテリアルを消費する必要はないらしい。
別にマテリアルなんて山ほどあるんだが、一グラムあれば一万世帯に一年間電気を供給できるらしいからな。そう考えると無駄遣いはできない。
忍者コスだから鎖帷子はわかるが、何故か肩にトゲトゲパッドがついている。頭には鉢金。仕上げに布マスクをすると、ニンジャに見えなくもない。まあ、こんなのニンジャ以外にはあり得ないしなあ。
そして両脇に収納されているムササビスーツのような布。これを広げて本当に滑空可能らしい。トビトカゲだしな。
今回はベティちゃん用のドロイドは使わない。トビトカゲを一緒に使うから必要ないらしい。といっても、リンクス召喚のトリガーをドロイドに埋め込んであるだけらしい。
召喚の際の小道具として、それっぽいカードや口にくわえる巻物とかも用意してある。もちろんただのオモチャだ。
カードを天に掲げて、『いでよリンクス!』とかやってみたいじゃないか。ああ、リンクスって言っちゃうと忍んでいる意味が無くなるな。トビトカゲロボとかどうだろう? そのまんまだが、どうせ使うのは今回限りだしな。闇に生まれ闇に消える、それがニンジャのサダメなのだ。
ドロイドに憑依するのにも慣れたもので、身体能力が跳ね上がってもすぐに調整できる。その辺のコツは、リンクスを操縦するのと似ているからな。
さて、少し体を動かしてみるか。
軽くジャンプして三階建てのビルの屋上に着地。こりゃあ、アニメレベルのニンジャアクションができそうだ。
試しに三角跳びしてみると普通にできる。丈夫な壁を蹴らないと踏み抜いてしまうけどな。幸いアメリカの建物は過剰なくらいにコンクリが分厚い。蹴った感じで全然違う。
ムササビ飛行を試してみると、確かに多少は滑空できる。ただ、着地が難しいな。本物のムササビはどうしてるんだ? これは固い路面に激突すると死ねるなあ。
ニンジャっぽく跳びまわるのはやめだ。普通に走った方が速い。
さすがはドロイド、軽く時速百キロは超えて走れる。ただし、急には止まれないし、それほど曲がれない。障害物にぶち当たったら木端微塵だろう。転ぶだけでも大怪我しそうだ。
そもそも人間の体は、そんな高速で走るようにできていないんだ。超人的な筋力のドロイドであっても、二足走行では限界があるようだ。四本足なら多少は安定するだろうけど、生物が百キロ以上で走るのはいろいろ無理があるのだと悟った。せめて姿勢制御用のバーニアくらいは欲しいところだ。
路上には放置車両がいくらでも転がっている。探せばバッテリーが残っている車もありそうだが、瓦礫やゴミや他の車が道を塞いでいて、走行は不可能だ。駄目かあ……せめてバイクか自転車があればいいんだが、当然そんな役に立ちそうなものは持ち去られている訳でなあ。
あと、自転車に乗るニンジャってのも変じゃないか? ごついマウンテンバイクならアリか?
なんとなく、車の屋根に飛び乗ってみると、ベコリと盛大に凹んだ。最近のアメ車はタフさを失ってしまったようだ。車の持ち主には悪いことをしたな。生きていればいいが。
辺り一面に死体が転がっているだろうと覚悟をしていたが、今のところ見ない。
爆心地からの距離や風向きなどによっても、被爆者の生存率は大きく変わるらしい。結局のところ、運次第ではあるのだが。
相互確証破壊が成り立たなくなったことで、最強国家アメリカはあっけなく崩壊してしまった。
虚しいな、祇園精舎だよ、諸行無常だよ。
大腿骨っぽいのを咥えた犬が、慌てて逃げて行く。人骨とは限らない、と思うことにする。バッファローか何かの骨かもしれない。
街路樹の緑の枯れ葉が、大量にカサカサと風に吹かれて飛んでいく。放射線にやられたのか、それともスプリンクラーが壊れたのか? 植物は比較的放射線に強いと聞いている。
道路標識を見ながら小走りに移動する。コネチカットまで30マイルらしい。マイルって何キロだ? たしか、キロメートルより多少長かった筈だ。アメリカ人は何故頑なにメートル表記を拒んでいたのか? まあ、頑固な人が多いんだろうな。
矢印の指示に従うと何故か反対方向に向かうことになるんだが、何故だ? 何かの罠か?
しばらく走るとハイウェイが見えて来た。謎は全て解けたぜ。最寄りのインターチェンジに戻ってハイウェイに乗れってことだな。
それさえわかれば、ニンジャにインターチェンジなど不要だ。適当な足場を見つけてハイウェイによじ登る。ショートカットだ。
片側四車線? いや、八車線の道路なのか? 広いハイウェイ上に停車している車は全てこちらを向いている。コネチカット側から逃げて来ていたのだろうか?
一人で逆走していると、放置車両のヘッドライトが生き物の目に見えて薄気味悪い。そういえば、子供の頃はオバケが怖かったな。理由は知らん、怖いものは怖いんだ。
誰にも会わないまま、州境を越えてしまう。ここから先がコネチカットか。何故人がいない? 車に乗っていた人達はどこへ行ったんだ?
監視カメラがことごとく破壊されていたので、生き残っている人間もどこかにいる筈なんだがなあ。おーい、出てこーい。
景色のいいポイントから町を見下ろしながら、エネルギー補給をする。ドロリとした糖蜜みたいなエナジードリンクで、甘ったるくてかなり不味い。が、ドロイドの味覚はいい加減なので、そこまで気にならない。
カロリーの高いモノは美味い理論は間違ってると思うんだ。ノーカロリーのコンニャクは超美味いしな。俺はスキヤキのシラタキが大好きなんだよ。
メシはマズいが景色は悪くない。いかにもアメリカンなカントリーって感じ?
ナンシーはコネチカットは名古屋みたいな場所だと言っていたが、もっと田舎だ。
まあ、日本だって都市部を少し離れれば、杉しか生えていない山ばかりだけどな。あまりよそ様のことは言えない。
それに、人間的な生活をしたいなら田舎はいい、人間関係が面倒だけどな。
アメリカの森といえばアライグマだよな。日本にも帰化して猛威を振るっている、可愛いくて狂暴な奴らだ。
あと、オポッサムとかスカンクとかシロカブトとか、そういうのがいる筈だ。シートン動物記とかは読んだことがあるから、結構詳しいぞ。さすがに現代ではグリズリーやジャガーなんかの猛獣はいないだろうなあ。
残念ながら緑の森は道路網で寸断されている。住宅がそこここに点在しているから、それなりに人は住んでるんだな。車がなければ生活していくのは無理な感じだ。果たして生き残りはいるのか?
ショッピングモールらしい大型の建物も見える。付近の住民は生活物資はあそこで買っている筈だ。つまり、人がいる可能性が高い場所だ。
第一村人……第一アメリカ人に会うため、少し寄り道していくか。せっかくドロイドで忍んで来たのに、誰にも会わずにアジトに着いてしまったら意味がないからな。
ん? 銃声が聞こえる。すわ戦闘か。
スタタタとニンジャっぽく走って近づく。やってるやってる、何だあれは? こりゃまたエライのと戦ってるなあ。
ロボット軍団、なんだろうなあ? リンクスなんかに比べれば結構小さい、せいぜい三メートル程度の二足歩行ロボだ。そんなのが、一ダース程でショッピングモールを襲撃している。
カーキ色で塗装された頑丈そうなのが、ロボ軍団の前衛に立ち、両腕のクローを振り回している。車もコンクリも当たれば一撃粉砕だ。
ショッピングモール側からの銃撃はまったく効いていないな。弾が軽すぎるんじゃないか? あのサイズのロボなら、装甲はそれ程分厚くできない筈だ。対戦車用の武器ならいけそうな気がする。
ロボ軍団の後衛は、人間サイズで両腕が銃になっているタイプだ。日本では市販されていないが、海外のカタログなんかを見れば、この手の警備ロボは普通に売られている。
火力は自動小銃程度か? 何機か片腕がグレネードランチャーになっている奴がいるな。
うーん、この程度のロボなら、異星人は関係ないかもな。こんなご時世じゃなければ、何かのイベントだと思っただろう。
そんなチンケなロボ軍団に、蹂躙されてしまいそうなのがショッピングモールの連中だ。アメリカでも民間人は徹甲弾とか持っていないみたいだな。
どうしよう? 面倒でも助けてやるか?
現実はアニメとは違うから、うかつに人助けなんかした日には、後日謝罪と賠償を求められるなんて理不尽が良く起きる。人助けなんかする奴はお人好しに決まっているから、いいカモにされるわけだ。
助けに来るのが遅かった、巻き込まれて怪我をした、財産を破壊された、そういう訴えがよく起こされるらしい。最初に話を聞いた時はちょっと信じられなかったな。
日本の司法が、防衛軍を目の敵にしているからというのはあるかもしれない。アメリカじゃ違うかもしれない。でも、海外ドラマなんか見ていると、アメリカの裁判官って理不尽なことばかり言ってるイメージがある。
俺としては人助けをして感謝されたいわけじゃないが、恩知らずな奴は嫌いだ。
後で余計な真似をしたと難癖をつけられるくらいなら、やはりここは心を鬼にして見殺しが無難だな。
ん? なんだあいつは? モールの屋上からこっそりこちらを覗いている小さな人影。好奇心旺盛な子供がロボット軍団を見物しているみたいだな。
子供は未来、子供は無垢、子供は天使……んなこたあない。子供はただの未熟な大人だ。力も知識も経験も乏しいから、凶悪犯罪が少ないだけの話だろう。
目が合ったな。ふてぶてしい感じのクソガキだ。大人の言いつけを守らずに出て来たんだろう。自分が死ぬとは夢にも思ってない顔をしている。
だが、ロボット相手に子供も大人もない。武器を持っていないから優先順位が低いだけで、あのガキが排除されるのも時間の問題だな。
仕方ないなあ、今回限りの特別サービスだぞ。俺もロボ軍団の実力がどの程度のものか、多少興味はあるしな。
忍者刀を抜いて後衛の警備ロボに忍び寄り、斬りつける。フレームはシンプルに金属パイプの組み合わせか。何本かは切断できたが、機能停止には至っていない。一刀両断ってわけにはいかないようだ。
仕方なくビームソードでゆっくり炙ってみる。完全に破壊するまで四秒近くかかってしまった。戦場でこれだけ手間をかけるのは自殺行為だな。
タゲが俺に切り替わったな。銃弾の雨が降り注いで来る。単純な射撃だから、トビトカゲのスペックであれば回避は造作もない。
ドロイドの一番いいところは、人間離れしたスタミナだな。生身の体だと、初撃は躱せても息が続かない。相手が多いだけでジリ貧になってしまう。ドロイドはそれがない。
リミッターカットしてるようなものだから、限界が来ればいきなりダウンするだろうが、その限界値も人間よりずっと高い。
忍者刀とビームソードの二刀流で、美味しい位置にいた警備ロボを続けて三体破壊する。やはり一体潰すのに三秒はかかるな。孤立してる奴を狙わないと無理だ。
あとの奴らは……そう簡単にはやれそうにないなあ。
こいつらの思考パターンが少し分かって来たぞ。同士討ちの制限はかなり甘いようで、仲間を巻き込む攻撃でも躊躇しない。その点はカニメカより厄介だ。
ただ、思考の柔軟性や、反応速度はそこまででもない。この程度ってことは、地球製の戦闘ロボだってことだろう。
樺太基地で見た米軍の戦闘ロボは車両タイプが大半だった。少なくとも装甲と火力はあっちの方が上だ。ならば、あえて二足歩行タイプにした意味はなんだ? 愉快犯なのか?
少々無茶して縦横無尽に走り回り、敵をいい位置まで釣り出す。何発か小銃弾を忍者刀で弾いたら、それだけで刀身にガタがきてしまった。まあ、名刀ってわけでもなく、リンリンがコスプレ用に用意した奴だからな。金属パイプを切断できたし、一応本物の刀ではあるようだ。現代刀って奴かな。
信頼性のイマイチな刀を鞘に戻そうとすると、歪んでしまって入らない。仕方なく街路樹の根元に突き刺し、そのまま警備ロボの懐に飛び込んで背負い投げをかける。
コンクリートの床に受け身も取らずに叩きつけられた警備ロボは、そのまま動かなくなる。ほう、投げ技は有効か。
続いてもう一機投げようとするが、腕を引っ張るとバランスを取ろうとして生意気に抵抗する。その力を逆に利用して投げるわけだが……いちいち崩していると数秒かかってしまうな。咄嗟に掴んでいるロボを盾に銃撃をやり過ごすが、これはいけない。
投げるなら、掴んだ瞬間に投げてしまわないといけないようだ。難易度上がるなあ。
こんなポンコツ軍団相手に、まさかの大苦戦かよ。
うーん、なんとか半分くらい倒したけれど、ここへきて手詰まり感があるな。やはりどうにも火力不足だ。リンクスだと攻撃力は有り余っていたから気にしたことがなかったが、瞬殺できないと多対一の戦いは厳しいものがある。
嫌な予感がして、咄嗟に身を翻すと、ぶっ飛んで来たクローがコンクリート舗装に大穴を開けた。
壁役だと思っていたクローロボは、腕ごとクローを飛ばせるらしい。ワイヤーで巻き戻しているところを見ると、再攻撃も可能なのか。
あぶねえあぶねえ、こんな初見殺しの攻撃を隠し持っていたとはな。
だが、これで一つわかったぞ。クローロボを設計した奴は、アニメ好きだ。
無理な体勢から片手でバク転みたいなことをしてしまったため、腕の筋がおかしくなってしまった。十分もあれば修復するだろうが、その前に戦いは終わっているだろうな。
まあいい、どうせビームソードは一本しかないんだ……もっといろいろ武器を用意しておくべきだったか。
だが、通常の手裏剣とか効きそうもない。火炎瓶とかどうだ? 自分が巻き込まれそうだよな、立ち回りが難しそうだ。古典的だが、ワイヤーを絡みつかせるのは有効かもしれないな。
目の前のクローロボは三機か? もう一機残ってる筈だぞ。モールに突入したか?
とりあえず、位置取りを工夫して、飛び出すクローで同士討ちを狙うことにする。警備ロボは一撃粉砕だし、クローロボの装甲も結構凹むぞ。
射線の上に目標を誘導するだけの簡単なお仕事だよ。まったく、頼もしい破壊力だ。ロボのAIがおバカで助かった。
最後に残った二機のクローロボ同士は、クロスカウンターさせて破壊する。反応速度が同じだからなあ、俺が間に立って、タイミング良く回避するだけで上手くいった。
やっはり同士打ちを禁止するアルゴリズムは必要だろう。
周囲が静かになると、モールの方からの激しい銃撃音がはっきり聞こえるようになった。
弾丸を弾く金属音がキンキンと耳障りだ。
たった一機で先行したクローロボが無双している。撃たれまくって塗装はだいぶ剥げているが、装甲は表面が多少荒れた程度か。
意外なことに、装甲素材にセラミックは使用されていない、ただの鉄ってわけでもなさそうだが。
こいつらを作った奴は素人じゃないが、軍関係でもなさそうだ。俺のプロファイリングによると、犯人はビリーだな。まさかなあ。
クローが振り回されるたびに、モールを塞いでいるバリケードが粉砕されていく。なるほど、こういう用途ならこのロボットは理想的かもしれない。市街戦を想定して設計されたのかな?
まあ、最後の一機だし様子見だ。そのくらい自力で頑張れ。
「撃たないで! あのニンジャは味方だよ! 外のロボットをあっと言う間に全部やっつけたんだ!! ニンジュツすげー!」
あの屋上のクソガキが、やたら興奮して何やらずっと叫んでいる。なんというか、アメリカの子供ってテンション高過ぎだよな。
やがてモールからの銃撃がピタリと止まる。なんだよ、俺にやれってか? あまり他力本願なのはどうかと思うぞ。仕方ないなあ。
ビームソードも仕舞って、手ぶらでゆっくりと近づいていく。
クローロボのタゲが俺に切り替わる。鉄の爪が発射されるタイミングを読んで華麗に側転、が、飛んで来ない。クロー基部のパーツが砕けてしまっている。暴発したのか? どうやらあのクローは火薬で撃ち出していたようだ。ギャラリーのしらけた視線を感じる。避けた俺が馬鹿みたいじゃないか。
まあいい、こういうのを誤魔化すのには慣れている。そのまま最初から狙っていたかのように敵の背後に回り込み、膝カックンでバランスを崩す。
「忍法飯縄落とし!!」
ただの変則バックドロップだがな。クソガキへのリップサービスだ。
数トンはあるだろうが、相手の力を利用した投げであればそんなのは関係ねえ。
頭からコンクリに突っ込み、自重でクラッシュするクローロボ。常識的な強度だな、バリアー的なものはついてないし、やはり地球製のロボっぽい。
「ヒーハー!! ニンジャアアアッ!!!」
クソガキのテンションが限界突破してしまっている。興奮し過ぎで屋上からこぼれ落ちそうだ。
なんだよ、素直ないいお子様じゃないか。




