表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のロボ  作者: 温泉卵
96/113

黄昏ている神


 

『装甲シャッターの開放を確認。新手が来ますよ』

 

「よっしゃあ、いつでも来い」

 

 赤のマーカーが点滅している場所が装甲シャッターなんだろう。ホテルの地下駐車場のあったあたりだな。あの辺は不必要なくらいだだっ広かったから、何か怪しいとは思ってたんだよ。

 要するにあれだろ? ロボが基地から発進して来る出口? みたいな? ロボットアニメではお約束の奴だ。

 ビリー氏が採用してるってことは、何らかの合理性があるってことだ。アニメも馬鹿にできないな。

 

 出て来たところをいきなり叩くか? いや、向こうだって同じことを考えているかもしれない。出撃と同時に全弾発射とか、ゲームの対人戦じゃよくあったパターンだ。

 少し距離を空けて様子見するか。

 

 戦いは先手必勝、敵の準備が整う前に攻撃できれば圧倒的に有利だ。理想は相手が気づかないうちに倒してしまうこと。

 ただ、今回みたいなケースだと奇襲はほぼほぼ成立しない。西部劇みたいに早撃ち勝負でもするか? 俺の場合、得物は剣だから、後の先を狙う方が確実だな。

 

 後の先というと達人っぽいが、対戦ゲームなら常識のテクニックだ。後出しじゃんけんみたいなものだから、使いどころさえ間違えなければ勝てる。

 あまりこればっか狙っていると、待ちプレイとか言われて嫌われるけどな。

 

 実戦だと敵に先に撃たせてやるなんて正気の沙汰じゃないが、対処さえ間違えなければゲームとそう変わるまい。

 政治的には先に攻撃した方が不利になるが、結局のところどんな手を使っても、勝ってしまえば官軍なのだよ。

 

 バスターソードをラッチに固定し、腕組みして待ち受ける。

 

 そうだ。リンクスを変装……偽装? しようと計画してたんだった。タケバヤシの馬鹿がいきなり撃ってきたんで、すっかり忘れていた。

 

 今更だが、深紅のマントを取り出して装備する。ミリオンのとこから分捕って来たアイテムの一つだ。

 対ビームコーティングされているらしいが、ぶっちゃけ実戦では役に立たないと思う。見た目が珍しいので変装用としては悪くないだろう。

 布製のマントなんて、装備するだけで印象がガラリと変わるからな。厳密には布じゃないんだろうけれど。

 

 さらに、クワガタのようなツノも装備する。こいつはセンサーの一種みたいなんだが、リンクスの内蔵センサーの方が高性能なのでほぼほぼ意味がない。むしろ邪魔だ。

 だが、戦国武将だって兜にヘンテコなものをいろいろつけてたじゃないか。相手を怖がらせる心理的な効果とか、少しはあるかもしれない。

 

『すでに100%バレていますよ。今更変装して何か意味があるのですか?』

 

「昔から言うんだよ。無理を通して道理を引っ込ませるのさ」

 

 バレていようが関係ない。本人がリンクスじゃないって言ってるんだから、リンクスじゃないんだ。

 

 どうせビリー氏とまともな交渉ができるなんて思っちゃいない。圧倒的な力でねじ伏せてからオハナシすることになるだろう。屁理屈だろうがなんだろうが押し通すさ。

 

 ビリー氏の戦力を完全に把握しているわけではない。はっきりしているのは、奴に苦戦するようじゃ銀河連邦に挑むなんておこがましいってことだよ。

 

『新しい名前は決めてあるのですか?』

 

 そうか、リンクスじゃないってタテマエなんだったら、別の名前がいるわけだ。

 相変わらずベティちゃんは名前にこだわるな。だが、今回は駄目出しはない筈だ。俺のセンスを褒め称えるがいい。

 

「心配ない、バッチリだ。その名もジャイアント・麒麟・G!! いい名前だろう?」

 

 ジャイアントは巨人、麒麟はめでたい、Gは戦闘ロボって感じですごくいい。

 

『少々長いですね。略称はキリンでいいですか?』

 

 それは……なんかカッコ悪くないか? どちらかというと可愛い系?

 あー、キンキンに冷えたビールが飲みたくなってきたな。エダマメ……いや、冷奴か。モロキュウもいいな。

 ヤバイなおい。マテリアルで複製するにしても、まずはオリジナルを手に入れなけりゃ話にならない。冷凍エダマメくらいは探せばあると思うんだが。

 

 

 装甲シャッターから姿を現したのは、スキュータムに似た機体だった。ということは、中の人は坊主の後釜の影の薄い人か?

 いや、まだ決めるのは早計だな。あまり適当なことを言っていると、ベティちゃんに愛想を尽かされる危険がある。

 

 武装は、右手に棍、左手にレイピアか……二刀流ということは、レオの発展型の機体か? 元々レオもスキュータム系列の機体だから、似ていても不思議じゃない。

 

『タケバヤシを倒したくらいでいい気にならないでよね。奴は四天王の中で最弱。あなたはここで死ぬのよ。閃光のフォトン、いざ参る』

 

 女の声? ぷるりんちゃんじゃないし、誰だ?

 

 四天王とか言ってるが、ビリー氏の戦力は四機くらいじゃないだろう。目の前の敵にばかり気を取られていると、いきなり背後からズドンってこともあり得るな。


 閃光のフォトンとやらは高速で突進して来る。この機動力は! どうやらレオの強化版みたいだな。以前のリンクスより圧倒的に速い。

 

 まあ、斬り合いなら望むところだ。スピードだけじゃ勝てないことを教えてやる。

 

 いきなりレイピアで突きを放ってくるか、が、素人め、間合いが甘い。

 

 ん? 首筋にヒヤリとした気配を感じ、なんとなくバスターソードを盾代わりに構える。

 次の瞬間、刀身が真っ二つになって吹き飛んで行った。嘘だろおい。まあ、バスターソードの一本くらい別にいいけどな。

 

 振り出し竿のように何倍もの長さに伸びてきたレイピアが、バスターソードの刀身に突き刺さり、破砕してしまったんだな。 

 虫の知らせのおかげで命拾いした。俺は子供の頃から迷信深いんだ。

 

 崖崩れに巻き込まれそうになった時も、暴走車が突っ込んで来た時も、間一髪で無事だった。幸運な小学生だと地元紙に記事が出たこともある。

 

 超能力が実在すると考えれば、全てのつじつまは合うんだよなあ。俺の力はナージャちゃんの下位互換なのかもしれないぞ。それでも大概凄いことだ。

 

 伸びてきたレイピアは、シュッと元の長さに戻った。

 レールガンの弾より遅い程度だったな。マッハ3くらいで繰り出される突きってことか。スピードより、リーチが変化するのが初見殺しだろう。

 

 なんだろうな、あの武器は? ずるいぞ、欲しいぞ!

 

『私の光速の攻撃が、何故見切られる!?』

 

 なんか驚いてるな。いや、光速には程遠かったし。正確には超音速の突きだな。スーパーソニック突きとか、カッコイイじゃないか。それじゃ駄目なのか?

 

「確かに肉眼では捉え辛いスピードだが、技に入る前の予備動作で狙いがバレバレなんだよ。たとえ本当に光速の突きだったとしても、結果は同じだったろうがな。

 フェイントで大事なのは駆け引きで、スピードそのものじゃない。その辺がわからんうちは、まだまだ素人だな」

 

 よし、今度はちゃんと通信が繋がってるな。どうせビリー氏も見ているんだろうし、少々ハッタリをかましても俺の強さをアピールしておこう。

 

 フォトンは破れかぶれのような無様な突きを繰り出して来る。未熟なパイロットめ、心の乱れがそのまま太刀筋に表れているな。

 短くなったバスターソードで余裕でレイピアをいなし、棍を握っている相手の右手首を狙って回し蹴りを放つ。

 鈍器系は出鱈目に振り回されると物騒だが、速度の乗っていない棍など、ただの棒だ。

 

 だが、棍がいきなり傘のように展開し、丸盾になった。リンクスのキックがはじかれ、危うく転倒しそうになった。

 無様を晒してしまったな、仕切り直しだ。

 

 こいつ、なかなかユニークな武器を持ってるじゃないか。びっくり箱みたいな奴だな。

 殴れば棍、開けば盾になる戦闘用の傘……アニメの暗器かよ? この傘も欲しいな。あまり実用的だとは思えんが、使いこなせれば楽しそうだ。

 

 まあ、ギミックがわかってしまえばどうということはない。こいつの実力はだいたい見切ったな。

 自慢するだけあってスピードは大したもんだが、突きは直線的過ぎ、それを補うための棍なのだろうが使いこなせていない。

 

「ベティちゃん、ダブルトマホーク(笑)だ」

 

『舐めプですね』

 

 そういうわけでもないんだがな。

 

 トマホーク(笑)は丈夫なだけが取り柄の質量兵器だ。バリアで護られている相手には攻撃は通らないが、つまりバリアに質量分の負荷は与えることができるわけだ。

 ダブルで連打乱打を繰り返すと、フォトンの関節部やバリア発生装置が悲鳴を上げ始める。

 

 関節の壊し方にはコツがあって、どの機体でもわりと共通している。バリアに加えられた負荷を軽減するために関節ごとパーツが曲がるわけだが、人間の関節と同じで曲がっちゃいけない角度というものがある。

 トマホークを叩きつける角度とタイミングを微妙に調整することで、関節へのダメージを蓄積させていく。

 二刀流で、太鼓を叩くように一気にたたみかける。ゴキッ、グキッといい感じで壊れていくなあ。

 一応反撃を警戒しているんだが、相手はもはや抵抗どころではないようだ。

 

 こいつ、さっきはタケバヤシのことを馬鹿にしていたが、あいつの方がまだちょっと強いんじゃないかな?

 機体の相性もあるからなんとも言えないか。今のリンクスは性能の一割も出していないんだがなあ。

 

『ちょ、やめて! 降参! 降参!!』

 

 根性のない奴め。こいつも機体ごと鹵獲しようと思ったのにな。

 まあ、伸びるレイピアと傘は頂いたので許してやろう。

 

『次が来ましたよ』

 

 次か? 戦力の逐次投入とは、ビリー氏もまだまだ余裕だな。最初から全部ぶつけてくれば、ひょっとしたら勝てたかもしれないのに。

 まあ、舐めプしているのはお互い様だ。ガチバトルするような局面じゃないからな。

 すでに交渉は始まっている。拳で語り合う……いや? ロボで語り合う、かな? すでに言葉としてかなり変だが。

 

 装甲シャッターから出て来たシルエットは、ジェミニっぽい。ぷるりんちゃんか?

 

『あたしは戦わないわよ! っていうかー、誰が戦えって言ったのよ。閃光のフォトン、いや、山田洋子三十二歳!! あんたって馬鹿なの?』

 

『なんでそんなイジワル言うんですか! 歳のことだったらセンパイだって』

 

『ぷるりんちゃんわあ、永遠の十八歳だもん』

 

 うわあ、こいつら漫才始めやがった。もの凄く脱力するぞ、まさか精神攻撃のつもりか?

 

 イライラするなあ。新型ジェミニも破壊したくなってきた。いろいろ強化されているみたいだが、懐に飛び込んで斬ってしまえば関係ないだろう。

 ただ、こいつの場合は倒しても、あまり分捕りたいパーツとかないんだよなあ。

 

『ああそうそう、ビリーさんがテッカメンさんをパーリィーにご招待するのデスよ』

 

 そういう大事なことは、一番最初に言えよ。ガキの使いかよ。

 いや、俺も今年で三十。この歳になってわかったことがある。人間、いくつになっても立派な大人になんてなれないってことだ。

 

 ぷるりんちゃんは極端だとしても、他の連中も大同小異で、内面はでかくなっただけのただのガキなんだよ。

 ビリー氏が偉い人? 総理や大統領を顎で使う権力者だから? 自称世界一の天才だからか? いやいや、奴こそクソガキの最たる者だ。知能指数が高いだけの大きなお子様だ。

 

 

 装甲シャッターの中に足を踏み入れる。罠の可能性もあるが、今更だ。

 

 エレベーターが降下し始め……これは、転移か?

 

『現在の座標をロストしました』

 

「転移で脱出できないってことか?」

 

『ランダムワープすれば、高確率で地球周辺の宇宙空間に跳べますが』

 

 割のいいロシアンルーレットってことだな? つまり、まあ、なんとでもなる?

 

 転移先は格納庫っぽい場所で、エレベーターのパネルが床にぴったり収まっている。

 床の材質はコンクリじゃないな。金属でもなさそうだし? オーバーテクノロジーの匂いがするぞ。

 

 雰囲気的には、ミリオンのダンジョンになんとなく似ているか。ここは地球じゃないのかもしれない。

 

 リンクスの足元まで、メイド服の女性が歩いて来る。アンドロイドなのかサイボーグなのか、ビリー氏が本気で製造すると、両者の境界線が限りなく曖昧になるんだよ。

 どうやらここから先は、リンクスから降りてついて来いってことらしいな。

 

 ビリー氏にはバレるだろうが、今回も鉄仮面を装備したドロイドを出す。相手を信用してないことを隠すつもりもないしな。

 

 長い廊下を、メイドさんの後ろについて歩く。やけに規則正しい歩き方だな。腰も尻も太腿も、理想的なラインを描いているんだが、完璧過ぎてなんかイマイチだ。多少の不完全さが、女性の魅力の秘訣なのかもしれない。

 

 そういえばこの建物も、床にも壁にも傷一つないな。新築とかそういうレベルじゃないし。撮影して見せれば、皆CGだと思うだろう。

 

 建築デザインというものは、文化の特徴が出るものだ。有尾人のピラミッドや、ツノゼミンミンやミリオンのいたダンジョン、それぞれが異なった設計思想によって建てられていた。

 

 ここは、一体どこなんだ?

 

 ミリオン達の属していた文明が、物凄くつまらない方向に進化していけばこんな感じになるかもしれない。果たしてそれは進化なのか……退化?

 

 未来的な建造物なら、移動用の乗り物とか、動く床くらい用意しろよと思い始めた頃、ようやく目的地っぽい大部屋に到着。

 入り口の扉がやけに大きく、ちょっとボス部屋っぽい。いや、間違ってはいないかもしれないぞ、ビリー氏がいるんだからな。

 

 懐に忍ばせたビームソードが頼もしい。有尾人の隊長からもらった奴のコピーだが、これさえあれば負ける気がしない。毒ガスとか使われたら負けるんだけどな。

 

 天井の高い部屋だった。この部屋のみ無駄が許されたデザインって感じだな。

 そうか、無駄な空間って贅沢だったんだな。

 

 部屋の中央には、これまた無駄としか思えない長いテーブル。フルーツの盛り合わせやら酒瓶やら冷めても問題なさそうな料理やらが並んでいる。

 お誕生日席に、ビリー氏がちょこんと座っていた。なんとなく最後の晩餐って感じだな。 

 反対側の端に俺が座ると、ビリー氏が口を開く。

 

「ようこそ、仮面の者よ。子供じみた振舞いだけど、ボクはそういうノリ嫌いじゃないよ」

 

「時間が惜しい、単刀直入に聞こう。貴様とトリック星人はどういう関係だ?」

 

 ビリー氏は両手を上げる。降参か? お手上げ? ヨガのポーズだったら怒るぞ。

 

「自動翻訳が上手く機能していないようだが、ボクがトリックスターと呼んでいる者達のことなら、すでに秘密でも何でもないよ。キミも見ただろう、沢山のスキュータムもどきを。あれをバラまいているのも彼らだよ。ボクの友人達とは別のグループではあるけどね」

 

 つまり、別の宇宙海賊団ってことだろう? 海賊って一枚岩じゃないイメージがあるから、まあそういうものだとは予想していた。

 

「私が知りたいのは貴様のその友人達の目的だ。マテリアル以外に何が目的だ?」

 

「ボク達も彼らも、最終目的はマテリアルさ。どんな願いも叶えてくれる魔法のタネだからね。違いは地球文明に対するリスペクト? その辺の話はさ、食事でもしながらじっくり語り合おうじゃないか」

 

 ビリー氏が合図すると、メイド達が次々に料理を運んで来る。別にフルコースってわけでもなさそうだな。単に自分の好きなものをどんどん持って来させているだけみたいだ。

 こいつが酷い偏食なのはわりと有名な話で、おかげで上流階級の食事のマナーが大幅に変更されたらしい。まったく、何様だよ。

 俺も堅苦しいのは好きじゃないが、それはそれ、これはこれだ。

 

 揚げ物系が中心か、若い頃なら喜んだかもしれんが、最近は野菜の美味さに目覚めたからなあ。

 

 魚ならどうかと白身魚のムニエルっぽいものを口にしてみる。

 妙な味だ……普通に超不味い。どうもこのドロイドの味覚は、人間とは違うようだな。

 

「トリックスターとのファーストコンタクトは、ボクが十二歳で最初の博士号を取った頃だった。彼らにとって一般の地球人の知能は低すぎ、まともなコミュニケーションは困難だったんでね、そこで超天才であるボクの存在に目をつけたのさ」

 

 なんか自分語りを始めちゃったし、しばらく気持ちよく喋らせておこう。

 それにしてもドロイドの味覚が残念過ぎて残念だぞ。貴重な食材を使った料理の筈なのになあ。食べ残した分を、ドギーバッグに詰めて持ち帰れないものだろうか。

 

「彼らは太古の昔から地球を訪れていた。たまに人類の歴史に干渉しながらね。キミも知っての通り、月の裏側にはマテリアルファームへのスターゲートが遺されている。超空間的には、地球は彼らの母星からはそう遠くないのさ」

 

 どうも、転移ってやつはいろいろ制約が多いようだ。宇宙のどこへでも簡単にワープというわけにはいかないみたいだな。

 地球は、有尾人達の惑星……いや、衛星だっけ? とにかく、あの星に縁があるらしい。

 そして、月のスターゲートは宇宙海賊達の母星に繋がっているそうだ。

 

「ボクの推測では火星にも別のスターゲートが存在するようだ。トリックスター達は利用していないがね。残念ながら彼らの宇宙船の速度でも、火星までは何か月もかかるようだ」

 

 なるほどなるほど。アニメの宇宙戦艦みたいなスピードは出せないようだな。銀河をまたに飛び回れるのも、スターゲートありきってことか。

 地球におけるパナマ運河みたいなものか、戦略上の要衝ってことだな。破壊とかできるシロモノなんだろうか?

 

「長い歴史の中で、彼らは概ね地球人に好意的だった。たまに派手な悪戯もしたがね。だからこそボクは、トリックスターと名付けたんだ。だけど最近彼らはそんな余裕も失っているよねえ、なりふり構っていられなくなったんだろう。その原因も概ね想像はつくけどね」

 

 禅問答みたいなことを言い出したなあ。頭のいい奴はすぐこれだから。

 とりあえず聞き流しておいて、後でベティちゃんに要点だけまとめてもらおう。

 

 食事が楽しめないというのはやっぱ辛い。間が持たん。

 

「これまでマテリアルの密輸を黙認していた宇宙政府が、取り締まりを強化し始めたのさ。ボク達穏健派はやっとこれから収穫の時だってタイミングでね。ホント、いい迷惑だよ。おかげで強硬派の連中が息を吹き返したのさ。あいつら地球人並に馬鹿で野蛮だから、話が通じないんだよね」

 

 穏健派のトリックスター星人がビリー氏が所属する宇宙海賊で、強硬派ってのが別の海賊団なんだろうな? なんかカッコイイ団名とかつければいいのに。何だったら俺がつけてやろうか?

 

「かつて遊星イオの先住生物が使っていたというヒトガタ兵器。そのレプリカの、さらに劣化コピーを地球にバラまいたのだよ。未開文明の兵器をコレクションするのは容易だったのだが、連中は本質を理解していない。ヒトガタはイオ、つまり現在のマテリアルファームで使用するから意味があるわけだし」

 

 遊星イオって、あの星のことだろうな? でも、あそこは確か巨大惑星の衛星だった筈。

 そういえば、木製の衛星にもイオってのがあった。相手が宇宙人だと名前が被るのは仕方ないよなあ、だからマテリアルファームと呼ぶことにしたのか?

 

「誤解しないで欲しいのは、彼らも我々も、地球人とはフェアな取引をしていたってことだよ。ボクが与えた技術のおかげで、地球文明は一気に数百年分進歩しただろう? ボクの最終目的は、地球人を宇宙政府に参加させることだからね。マテリアルを対価としてそれを為すつもりだったのだけれど」

 

 宇宙政府? 銀河連邦のことか? ベティちゃんの翻訳と微妙に食い違うせいで、頭がこんがらがってきたぞ。

 地球が銀河連邦に加入すれば、太陽系ごと消去されるなんてこともなくなるんだろうが、そう上手くいくかな? 地球人は同族殺しの野蛮人認定されてるんじゃなかったっけ?

 

「残念ながら地球人類の大半は無能だ。平均値を出せば到底宇宙市民にはなれないよ。でも、ボクには秘策があるんだ」

 

 そこまで言っておいて、ビリー氏は二つ割りになったオマールエビに手を伸ばす。クローン培養のやつだろうか?

 口いっぱいにエビの身をほおばって、しばらくモグモグしている。

 

 急に静かになった食卓。なんか間が持たないから困る。

 だが、せっかくいい感じでペラペラと語ってくれているんだ。ここで俺が下手に喋って流れが変わると困る。

 

 仕方なく、俺もエビを食って時間を潰してみる。やっぱり味覚が変だな。塩味のガムみたいだ。

 ドロイドに食べる喜びはないようだ。人生の半分は損してる? 人造人間だけどな。

 

「ええと、どこまで話したっけ? そう、秘策だ。簡単なことさ、宇宙市民の基準を満たす天才ばかりを選別して、新たな地球人類とすればいい。ボクは新人類の神となって彼らを導くんだ。まあ、神様も辛いよね」

 

 クラスの平均点を上げるために、成績上位者だけを集める、みたいな?

 そんなインチキくさいやり方で銀河連邦に加入できるのだろうか?

 

「言っておくが、断じてボクはレイシストではないからね。むしろ超天才であるボクはマイノリティ、差別される側だったのさ。旧人類は自らの愚かさ故に滅びるかもしれない、それは悲しいけれど仕方のないことさ。かつてネアンデルタール人が滅びたのと同じなんだよ」

 

 小心者の偽善者め。どうせ悪党なんだから、もっと邪悪なセリフの一つでも言えばいいのに。

 なんだかんだ言って、自分達だけが銀河連邦に入れてもらって助かろうってことだろう?

 

 人類の半分以上が死んだんだぞ。直接手は下しちゃいないのかもしれないが、全くの無関係ってこともなさそうだ。

 冷血漢というのもちょっと違うな、そもそも凡人には関心がないのか? まあ、悲しんでいる演技をされても、それはそれでウザいけどな。

 

 仮にビリー氏率いる新人類が銀河連邦への加入を認められたとして、その場合旧人類の扱いはどうなるんだ? 天才じゃない俺にも、碌なことにならないことくらいはわかるぞ。

  

「宇宙市民として認められるために、ボクには一人でも多く有能な手駒が必要なのだよ。キミには期待しているんだ」

 

 手駒、か。何気に俺のトラウマスイッチを刺激するパワーワードだ。

 

 サラリーマンは会社の歯車だと言われ続けて、それでも生きるために働いていた。諦観があった。

 だが、舞台裏のカラクリを知ってしまったからなあ。

 結局のところ、俺達は現代の奴隷だった。合法的に搾取され続けていた。法律を作ってる連中も皆こいつの手下だったんだから、嫌も応もなかったんだ。

 

 日本のサラリーマンは、追い詰められても一揆すら起こせず、自ら命を絶つしかなかったんだぞ。かつては俺もそうだった。教育による洗脳。ネットの情報統制。全て仕組んでいた黒幕がこの男だ。

 

 地球の支配階級の頂点に立って、神にでもなったつもりか?

 全てが自分の思い通りになると思っているんだろうな。

 

 昔、ヒトラーの写真を見て驚いたことがある。ワンパンで倒せそうな貧弱な髭親父と、恐しい独裁者のイメージがあまりにも一致しなかったんだよな。

 よく考えれば不思議でも何でもない。ただの人間だ。魔王とかじゃないんだから。

 だけど、そのただの人間一人を排除するのは大変だったようだ。

 

 こいつはどうだ? おそらくオーバーテクノロジーとかで護られているのだろう。やってみなくちゃわからんが。

 利用価値はいろいろありそうだし、こいつを排除する選択は非合理だ。

 だが、ここで息の根を止めておきたい。なんとなく、勘で? 無念の死を遂げたサラリーマン達の怨念が、そうさせるのかもしれない。

 

 懐のビームソードに手を伸ばす。

 

「何を勘違いしている? 私は銀河連邦を滅ぼすために来たのだ。お前が少しでも役に立つなら手下にしてこき使ってやろう。従わなければ、斬る」

 

 言ってしまったな。

 

 これは宣戦布告と言っていい。まだいろいろ情報を聞き出せそうだったが、それはこいつを倒して手に入れればいいことだ。

 

 ビリーは一瞬きょとんとした後、アメリカンっぽい大笑いを始めた。

 

「HAHAHA。それはジョークで言ってるのかい? アリが象に挑むようなもの、いや、ビールスが象にチャレンジするようなものだよ」

 

「ウイルスは象だって殺すだろう」

 

 脊髄反射で、相手のたとえ話にマジレスしてしまった。これはクールじゃないな。

 

 まあ、別にいいか。交渉は決裂だ。

 

「なるほど面白い。確かに宇宙政府も絶対の存在ではない。ボクの知る限りでも、すでに制度疲労が見え始めている。よかろう、キミの手下とやらになろうじゃないか」

 

 芝居がかった態度で両手を上げて、降参のポーズをとるビリー。あれ? なんでそうなる? 壮絶なバトルはないのか? 命を懸けて戦う覚悟だったのに。

 

「ボクのプランでも、正直成功率は極めて低いんだよねえ。キミのプランはさらに可能性が低いが、ゼロではない。それに、成功した場合のリターンが比べ物にならないくらい大きい。人類史上……いや、宇宙史上でも最高クラスのハイリスクハイリターンだよ。乗るしかないよね、このビッグウエーブに」

 

 よくわからんが……異常に興奮しているな。意思の疎通に問題があるのだろうか? 自動翻訳はちゃんと機能しているか?

 

 最近の自動翻訳は性能が良過ぎて普通に会話できてしまうが、そこが罠でもある。微妙なニュアンスを誤訳して、まるで正反対の意味で相手に伝えてしまうことだってある。ビリーのように皮肉混じりに話すひねくれ者は、特にAI泣かせだ。

 だから、重要な交渉では通訳はいた方がいいんだよな。

 

 ベティちゃんはほぼ万能だけれど、ドジっ子属性を搭載している疑惑があるからなあ。

 日英の通訳ならナンシーが多分有能だ。あいつは普段は怪しげな関西弁だけれど、普通に標準語も話せるんだよ。

 問題は彼女がまだ生きてるかどうかだが……

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ビリー氏のキャラが良すぎる [一言] うおおおおお!!柿崎地球元首、爆誕!!!
[良い点] ビリー氏「俺の手下になれ 俺氏 「死にたくないならお前が手下になれ。 ビリー氏「楽しそうだしオッケー 面白すぎるだろ
[一言] 地球人類は核を使った所為で銀河連邦からさよならバイバイされたんじゃなかたっけ? ビリー氏はそれを知らないのかな? それにしても、最後の要求に乗ってくるとはねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ