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俺のロボ  作者: 温泉卵
94/113

仮面の武士テッカメン

 

 近海の潜水艦は全て排除した筈だ。残りは、島に上陸したスキュータム達だな。

 

 あいつらを倒すくらい、バスターソードで十分過ぎる。

 

 足ヒレをインベントリに収納し、海底を踏みしめて感覚を取り戻す。

 

 よしっ、行くぞ! そのまま剣を構えて一気に波打ち際から躍り出ると、海岸近くでたむろっていた奴を、出会いがしらに切り捨てる。

 

「まずは一つ」

 

 隣にいた奴が、ビームガンを構えようとするが、反応が遅すぎる。有尾人の爪の垢でも飲むんだな。


「二つ」

 

 突きでコクピットを貫く。苦しむ暇もなかっただろう、せめてもの慈悲だ。

 

「三つ」

 

 ようやくロックオンしてきた奴を、勢いに任せて袈裟斬りにする。弱い弱い、クモ脚メカより弱いぞ。

 

「えーと、四つ」

 

 なんか狼狽えて意味不明のダンスみたいな動きをしている奴を、地雷原に蹴り込む。

 まあ、レバガチャしてたんだろうがな。ゲーセンでたまにそういう奴がいた。一度ノーコンになってしまうと、素人じゃなかなか機体を立て直せないんだよな。


 前のめりに倒れ込んだ機体の下から、パッパッと煙が噴き出して動かなくなる。コクピットハッチを地雷が吹き飛ばしたようだ。

 

 海岸にいたのはこれで全部か。

 あとの奴らは、少し上がった丘の手前で、地雷原に阻まれて一か所に固まっている。

 好都合じゃないか。


 核爆発の中性子線に曝されても、埋まっている地雷は機能を失わないようだな。

 おそらく化学反応だけで機能する爆弾なんだろう。防衛陸軍だか陸上自衛隊だか知らないが、執念だよなあ。

 設置した奴らは、最早この世にいないのか……諸行は無常って奴だ。

 それでも残された地雷は、敵からこの島を守り続けている。


 なんか、銀河連邦が地球を消滅させたがる気持ちが少しわかった気がする。地球人はヤバイ戦闘民族だ。粗末な武器しか持っていない間に消滅させておかないと、何をするかわからない怖さがある。

 

 

 生き残った量産型スキュータムはあと9機か。

 この状況を見ても、まだ事態を把握できていないようだな。味方が四対一であっさり負けたのが信じられないか? お前達もすぐに同じことになるんだぞ。

 

 いかなる攻撃も回避できるよう、ブーストダッシュは使わずに早歩きで接近する。このレベルの相手ならばいらぬ用心だが、まあ、習慣みたいなものだ。

 

 ようやくリンクスをロックオンしようと慌て出す。この距離だと歩きで回避できてしまうから、無駄なことだが。

 

 直前までリンクスのいた場所を、次々にビームが通り過ぎていく。無駄、無駄、無駄だ。

 

 お、リンクスの行く手をビームが掠めていく。

 

 ほう、一機だけノーロックオン射撃ができる奴がいるのか。下手糞だが、その他の連中に比べれば戦い方を知っているな。

 そういえば“ガーディアントルーパーズ”とほぼ同じゲームが、一時期アメリカでも稼働してたらしい。ノーロックオン射撃は、元プレイヤーだったらできて当然のテクニックだ。


 ゲーム大会でテロリストに攫われたプレイヤーがいたっけな。あいつはアメリカ版のチャンピオンだったんじゃなかったか? 戦った相手のことは一応覚えている。俺にクラッシャーソードを献上してくれたしな……チェッ、逃げるのだけは上手い奴だったな。

 

「五つ、六つ、七つっ!」

 

 前ブーストダッシュで敵のビームを全て置き去りにし、一気に踏み込む。剣を叩き付けることで制動。運動エネルギーさんは味方にしないとな。

 

 当然、ゲーム経験者らしい奴を真っ先に倒した。残りは烏合の衆だ。返す刀でついでにぶった斬る。

 

 こいつら、初心者に毛が生えた程度の腕で、よくリアルの戦場に出て来れたもんだな。初心者狩りは趣味ではないが、本職の軍人相手に手加減してやる義理もない。


 民間人が軍人を殺すのは違法行為だが、そもそもこいつら正規軍かどうかも怪しいもんだし、今の地球で法が機能しているとも思えない。

 己の正義を基準に銀河連邦とも一戦を辞さぬ覚悟を決めた俺にとっては、地球の法など些事。文句を言ってくる奴とは、それが国であっても戦うのみだ。アメリカだろうが、日本だろうが、まとめて叩き切ってやる。

 個人が国家と戦争していかん理屈はあるまい? 勝算もあるしな。

 

「八つ、九つ、とおっ」

 

 近接戦闘のやり方を知らないんだろうな。ビームガンを構えてよたよたしているだけだ。俺はゼロ距離射撃されるほどノロマじゃない。

 

 敵集団に斬りこみ、順番に撃破していく。といっても、ほぼ据物斬りだ。

 

 機体の性能もパイロットの腕も、有尾人の搭乗するスキュータムIIの足元にも及ばない相手だ。

 

 まあ、強さにもいろいろある。中性子爆弾をためらいもなく使えるのも、ある意味では強さだ。

 勝つためには手段を選ばない奴らだ。圧倒していても、最後まで油断はできない。

 

 残り四機。それでこの胸糞の悪い戦いも終わる。

 気を引き締めて剣を振るう。


 ビームガンを連射して来るが、当たる訳がない。

 わざとゆっくり動いて、紙一重で躱す。初心者には何故当たらないのか理解できていないだろうなあ。わからないまま死んでいけ。

 

 リンクスには当たらないビームも、スキュータム同士には当たるようだ。乱戦には同士討ちはつきものだろうに、軍人なら銃の撃ち方くらい心得ておけよ。


 こいつらの使っているビームガンは、ヨンヨンビームガンの劣化コピーみたいな奴だ。

 銃身が短くなって、他のパーツもかなり簡略化されている。肝心の威力は半減どころじゃない、ヘロヘロビームだ。

 

 そんなカスみたいなビームが掠っただけでも、量産型スキュータムには大穴が開くんだな。紙装甲にも程がある。

 そういや、戦車砲一発で撃破されてたな。

 

 試しに軽くパンチしてみると、クシャっと凹む。こいつらの装甲はアルミ箔かよ? モンキーモデルどころか、粗製乱造のハリボテじゃないか。

 そのまま振り回すと腰部ジョイントが引き千切れ、下半身が泣き別れになる。

 

 皆殺しにするつもりだったが、手の中で潰すのは趣味じゃないので、上半身はコクピットごと敵機に投げつけて処分する。これで二機まとめて片付いた。

 

 まったく、軍人さんってのも因果な商売だよなあ。他人の嫌がる仕事でも、やらにゃならない。

 まあ、俺はただの一民間人なんだがな。義を見てせざるは勇無きなり、義勇軍って奴だな。

 

 最後の一機はもう完全に戦意を喪失し、地雷原の上をブーストダッシュで逃走。安物だからエネルギーゲージが短いんだろう、すぐに息切れしてポトンと着地する。


 そして地雷を踏んで足が吹き飛ぶ。コクピットはまだ生きているな。こちらもブーストダッシュで追撃する。

 

 そういえば、ジェネレーターの性能も随分上がっているから、ブーストダッシュ程度じゃエネルギーゲージは全然減らないな。なんならその場でホバリングもできるし。

 少しずつ強化されているからそれほど実感はなかったが、リンクスはゲーセンで遊んでいた頃とは別次元の高性能機に進化しているんだ。

 

 これならずっとホバー移動を続けることもできるな。俺は歩きの方が好みだが、地雷原の上を移動するには便利ではある。

 普通に移動する分には何ら問題はないが、空中にピタリと静止するのは、これが意外に難しい。微妙にフラフラぶれるのは、ダウンウォッシュが地上から反射して煽られているのか。

 ベティちゃんにアシストしてもらえばいい話だが、あまり簡単にできても面白くないしな。

 

 反重力装置だけで浮かべば揺れないんだろうが、不安定であるのは別段悪いことじゃない。回避なんかにも活かせるしな。

 

 

 思わず少し遊んでしまった。俺の悪い癖だ。その間に、擱座した機体のコクピットからパイロットが這い出して来て、白旗を振っている。

 今更降伏なんて許さないけどな。国際法なんか知ったことか。

 

『あー、捕虜は貴重な情報源です。殺さないでくれるとありがたい』

 

 おや、どこからか声がするぞ。なんとなく聞き覚えのある喋り方だ。

 

『あの潜望鏡が怪しいですね』

 

 ベティちゃんがマーキングして拡大表示してくれる。確かに地面から棒みたいのが生えてるな、怪しいなんてもんじゃない。

 

 地下にまだ防衛軍が生き残ってたか。まあよかった。

 捕虜が必要だというなら、俺に異論はない。仲間を殺されたのは他ならぬ彼らだ。

 

 

 飛び出して来たドローンの誘導に従い、地下道に入る。コンクリート製のバンカーの奥には空母で使えるくらいのエレベーターが設置されていたが、一番下まで降りたまま動かない。

 

『浅い階層の電子機器類はさっきの爆発でほとんどやられちゃいましてね。申し訳ないですが、飛び降りてください』

 

 間違いない、この声の主は犀川さんだな。

 

 この程度の高さ、飛び降りるくらいわけはない。罠って可能性もあるが、そうだったとしても、瞬間移動で逃げればいいだけだ。ジャンプ先はまた宇宙空間になるがな。

 

 正直、瞬間移動はどんな武器より強力だ。リンクス本体の転移先がかなりアバウトになってしまうのが欠点だが、ビリー氏なら正確に座標を設定する方法を知っている筈なんだ。

 あいつにはまた会わないといけない。

 

 軽く制動をかけながら、長い縦抗を壁面に接触しないように降下する。

 左右に数メートルしか余裕がない。これ、意外に難しいぞ。

 

 飛び上がる時はさらに難易度が上がるな。擦らずに一発で成功する自信はない。

 ゲームにすれば面白いか? 穴のサイズを変えれば難易度も調整し易そうだし、戦闘が苦手なプレイヤーでも楽しめるだろう。


 照明が消えた真っ暗な地下格納庫には、防衛空軍の戦闘機がズラリと並んでいた。戦車なんかは見当たらない、おそらくここは空軍専用のバンカーなんだろうな。

 こんなところにまで縦割り行政の弊害か……いや、整備体系とか考えれば飛行機と戦車は分けておく方がいいのか?


 奥の壁際に翼を連ねているデカイのは、米海兵隊のガンシップだな。反重力装置で空に浮かぶ移動トーチカだ。戦車並みの重装甲で、対空ミサイルを食らってもそう簡単に落ちないと言われていた。まあ、事故で何機も墜落してニュースになってたがな。

 米軍マークが描かれているから、鹵獲機体ではないな。在日米軍か? 味方か?

 

 うーむ、誰と誰が戦っているのか分からなくなってきたぞ。米国は南北戦争顔負けの内戦をやらかしているみたいだし、すでに国家として機能していないのかもな。

 

『そこから先は機体を降りてお進みください。大丈夫、線量は基準値以下ですよ』

 

 リンクスを降りる……だと? それはちょっと抵抗があるな。

 リンクスは俺の牙で、俺の力そのものだ。リンクスを降りた俺なんて、生まれたての小鹿のようにか弱いべーべちゃんだぞ。

 やはり罠かもな。

 

『大丈夫です。こんなこともあろうかと、地球対応のドロイドを用意してあります』

 

 ナイスだベティちゃん。その手があったか。

 

 新しいドロイドは見た目は俺そっくりで、仮面を装着している。やはりベティちゃんのセンスはちょっと変だな。人工知能がどこでこういうのを学習してくるのだろう?

 

 地球仕様ということで、問題なく呼吸もできるな。当然、バイオハザードの問題もクリアしているのだろう。

 確かにこのドロイドさえあれば、俺はリンクスに乗ったままで活動できるな。


 地球に戻ったら広いベッドで体を伸ばして寝たり、温泉にゆっくり浸かったりしたかったんだがなあ。

 

「何かのアニメのコスプレですか?」

 

 わざわざ階段を上って出迎えてくれた犀川さんの第一声がそれだった。

 

 仮面の者はロボットアニメなんかだと普通に登場するが、リアルだと普通に恥ずかしい恰好だよなあ。

 だが、コスプレが趣味のリンリンに付き合わされて悟ったことがある。恥ずかしいと思うから恥ずかしいのだ。堂々と振舞っていれば、すぐに常識の方がおかしいのだと周囲は納得してくれる。

 少なくとも、慣れてあまり気にしなくなる。


 考えてもみろ? 普通の軍服だって変と思えば変だ。偉い人はさらに勲章だのいろんな飾りをつけて喜んでいて、周囲もそれが変だとは言わない。


 俺のこの格好だって、見慣れれば皆がカッコイイと思うようになるさ。

 

「私は正義の味方、仮面の武士テッカメン。つまりそういうことだ」

 

「はあ、なるほど。そういうことですか、了解です」

 

 意外になんとかなるもんだ。

 

 

 地下とはいえ、久しぶりに地球の大地を自分の足で踏んだというのに、思った程の感動がない。やはり仮面のせいか?

 

「その仮面、暑くないですか?」

 

「いや、快適だが」

 

 そういえば犀川さん、半袖のラフな格好なのに汗をかいている。空調が止まっているようで、随分な暑さだ。

 幸い、ドロイドは暑さを感じても不快にはならない。慣れれば実に便利な体だ。

 

「この基地は、旧軍の地下壕のさらにずっと下にありますから、地熱も凄いんです。ビーム兵器対策に随分深く掘っていたおかげで、中性子爆弾の被害も限定的でした。それでも戦死者は多数出ましたがね」

 

 部下の死を淡々と語るよな。俺だったら相当落ち込むだろう。

 まあ、内心どう考えてるかまではわからん。

 

 量産型スキュータムのビームは、直撃しなくても電子機器を狂わせてしまうそうだ。なにしろ宇宙人の作った武器だし、怪しい放射線でも出ているんだろうな。


 人間にも有害らしいが、6mm厚の鉛板でシールドできることが判明したそうだ。


 従来型の航空機や衛星なんかは簡単に無力化されてしまい、まるで役立たずらしい。とりあえず開発中だった新型の機動戦車には対策を施してみたらしい。

 あれは、もう戦車とは言えなくないか? 脚が生えてたしなあ。


 電子機器を鉛の板でシールドするだけの改造でも、飛行機なんかは数年かかりそうとのこと。

 非常時にチンタラやってるんじゃないと言いたいところだが、空を飛ぶものだしバランスとかあるんだろうな。


 それに戦闘機をシールドできたとしても、肝心のミサイルが使えないんじゃ意味ないだろうしな。

 結局、まともに戦えるのが量産型スキュータムしかいない状況ってわけか。それならまあ、あんな欠陥機でも活躍できるだろうな。


「宇宙人のロボットはなるべく使わずに済ませたいんですがねえ。北米の連中はロボ百機分の対価としてアラスカを差し出したらしいです。いやあ、もう馬鹿かとね」

 

 機密情報ですがねと前置きして、結構ベラベラと教えてくれる。なんか以前より言葉遣いが丁重な気がするな。仮面の者にぞんざいな口は利けないってことか。


 防衛軍は量産型スキュータムをそれ程の数は確保できていないらしい。今回鹵獲した機体も。ニコイチ、サンコイチして戦力を補充するそうだ。

 残骸とはいえ一応俺の戦利品なんだが、暗に譲れってことか? 対価が欲しい訳じゃないが、タダ働きする奴と思われるのはちょっとシャクだな。

 

「今回の私の獲物はくれてやる。貴様達がつかんでいる宇宙人との取引相場が知りたい」

 

 対価として情報を要求してみる。日本の偉い人達は情報を安売りする傾向が強いから、機密情報とかもバンバン教えてくれるかもしれない。

 量産型スキュータムも、サンプルに一機くらい欲しかったが。まあいい、そこまでいい機体でもないし、どうせまた戦うだろう。

 

「そのくらいお安い御用ですが、あれ? ビリーさんにもその辺のレポートは送ってる筈なんですけどね……なるほど、そちらさんもいろいろ訳ありって奴ですな」

 

 どうも、犀川さんは俺がまだビリー氏の手下だと思っていたようだな。なんか勝手に誤解してくれたようだが。

 

 あれ? そういえば、実際どうなんだ? 契約的には俺って今でもバイト扱いなのか? でもビリー氏の正体は宇宙海賊だったわけで、そういう契約って普通は無効じゃないか? いや、法律には詳しくないからわからんが。

 

 ゲームだと騙されてマテリアルの盗掘をやらされていたわけだし、俺は被害者だ。契約だのなんだの面倒なことを言って来たら、肉体言語でオハナシしてもいいよな?

 

 

 

 さっそく捕虜の尋問を始めるとのことで、取調室の隣の部屋に案内された。

 お約束のハーフミラーの他に、二桁を超す隠しカメラからの映像を映すモニターが並んでいる。

 

 捕虜の表情のアップが、いろんな角度から、毛穴までくっきり表示されている。他にも心拍や体温の変化まで記録されているようだ。

 

 捕虜の人は茶髪の太ったオッサンで、両手をビニールテープみたいので固定されている。

 とても軍人には見えないな、なんか弱そうだし。まあ、ステレオタイプのアメリカ人って見た目ではある。いかにもハンバーガーやコーラが似合いそうだ。

 

 

 尋問を担当するのも、こちらもアメリカ人っぽい見た目の二人組だ。

 マフィアの幹部役が似合う神経質そうな金髪の大男と、ラスト十五分で主人公をかばって犠牲になるタイプの人の良さそうな黒人青年だ。

 これがグッドコップとバッドコップって奴かな? 一人が乱暴な態度で脅し、もう一人が優しい言葉をかけるとコロッと自白するってアレだよ。

 

「なんだよ。ジャップならアニメの話をしてやれば待遇が良くなるってマニュアルに書いてあったのに、裏切り者の海兵隊野郎かよ」

 

 捕虜のオッサン、いきなり飛ばしまくるなあ。なんで尋問を米軍に任せているのかは知らないが、日本人はお行儀よすぎて舐められるんだろうな。

 あの二人は在日米軍の海兵隊か。それっぽい制服だもんな。機械で同時翻訳できても、細かいニュアンスなんかは伝わりにくいから、こういう尋問とかは、やはりアメリカ人同士の方がいいんだろうな。

 

「我々は星条旗に忠誠を誓っている、本物の軍人だ。貴様らテロリストとは違うのだよ。同盟国である日本軍と共に正義のために戦う。それが俺達のジャスティスだ」

 

 金髪の大男はドスの効いたいい声をしている。普通に悪役俳優とかできそうじゃないか。言ってることは、まあ、なんか普通だな。

 

「俺達のハワイ臨時政府こそが、本物の合衆国だ! 同盟国だあ? 同盟国なら溜め込んでる食料を全部寄こせってんだよ!!」

 

 捕虜の太っちょは勝手なことを言った。

 

「日本はすでに備蓄食料の半分を海外に支援している」


 黒人青年が口をはさむ。本当かよ? 何やってるんだ日本! お人好しにも程があるぞ。


「だから、残りの半分を全て我々の政府に渡せと言っているんだ。日本人に管理能力はないよ。我々が優先順位を考えて世界に分配しなければならない」

 

 捕虜の言ってることは無茶苦茶なんだが、なんとなく説得力はあるな。食料を奪われることになる日本人以外なら賛成してしまいそうだ。

 

「総理もあれと同じことを言い出して、秘密裏に備蓄食料を全てハワイに輸送させようとしたのです。だが、それでは国民が飢え死にしてしまう。やむにやまれず我々は決起したのです」

 

 犀川さんによると、防衛軍がクーデターを起こして国会を占拠したらしい。総理は潜水艦で亡命しようとしているところを捕えられたそうだ。

 幸か不幸か、輸送船がほぼ壊滅していたせいで、持ち出された備蓄食料は数百万トンで済んだらしいが、僅かな配給を頼りに日々空腹に耐えているシェルターの国民は怒りに燃えた。

 普段は冷静な日本国民も、食べ物のこととなると本気で怒るようだ。総理だけでなく、それ以前に海外に食料支援した政治家達も即日公開処刑されたらしい。


「世界中で処刑ブームだよ、嫌な時代になったもんだ。口減らしは最優先事項だから、合理的ではあるんだけどねえ」

 

 食料か……マテリアルがあれば食料の生産は可能だが、リンクスのは元々が一人用だしなあ。せいぜい数百人分だなあ。

 ビリー氏ならちゃんとした生産プラントを持っているかもしれない。マテリアルなんて使わずとも、月の発電所のエネルギーを使えば合成食料くらいいくらでも作れるだろうに。

 まあ、出来るのと、やるかどうかは別の問題だからな。あいつのことだから、ゲーム感覚で、何かの試練くらいに考えていそうだ。


「いいかい君達。我々には中性子爆弾がある、水爆もある。世界を何百回も破壊できるだけのパワーだ。日本軍の核弾頭は我々が貸し与えたものだ。我々が起動コードを教えなければただのガラクタだ。我々には強力な生物化学兵器があるが、奴らは何一つ持っちゃいない。百回戦えば、百回勝てる相手だ。そんな奴らが素晴らしいシェルターと、安全な食料を持っている。奪うしかないじゃないか? 今は非常時なんだ。祖国のため、家族のため、偉大な同盟国の奴らに感謝して奪おうじゃないか」

 

 いかんな、捕虜の奴、随分と口が達者だ。ディベートだっけ? 主張が正しかろうが間違っていようが、巧みな話術で相手を説得すれば勝ち、みたいな?

 以心伝心を良しとする日本人にはイマイチ評判が悪いが、所詮はテクニックだからな。いいも悪いも使い手次第だろう。

 

「よく言うぜ。お前達、核まで使っておいて一方的に負けたじゃないか」

 

 どうやら目つきの悪い金髪ノッポには、ディベートは効果がなかったようだ。


「あれは、いきなりだったから驚いたんだ! ロボットで刀を振り回す野蛮な奴がいると思うか? 落ち着いて遠くから狙撃していれば楽勝だった。銃が剣に負けるわけがないだろう?」

 

 馬鹿め。こいつは敗因に全く気付いていないようだな。そんなことを言っている間は、絶対俺には勝てないぞ。

 

「あんた達は戦う相手を間違えたんだ。友達になれば、日本人達は自分達が飢えていても食料を分け与えてくれるのに」

 

 黒人青年はなんかいい話のように言っているが、日本人はお人好し過ぎて滅びるかもしれないな。

 

「甘い! 甘すぎるっ!! 今は非常時だぞ。生き残るために何だってやらにゃあならん! 箱舟は定員オーバーなんだ。綺麗ごとじゃ済まないんだよっ!!」


 捕虜の男はテーブルにガンガン自分の頭を打ち付け始める。


 ああ、この男の言うことも多分正しい。将来のことを考えれば、残された貴重なリソースは専有すべきなんだ。

 敵と味方を線引きし、口減らしのためにもライバルは早目に滅ぼしてしまう。

 非情な決断だが、間違っているわけでもない。

 

 こいつらが間違ったのは……この俺を本気で怒らせたことか。いや、わりとマジで。


 

 殺気?


 顔中血だらけになった男を止めようと、羽交い絞めに組み付いた黒人青年が後ろに吹き飛ばされる。


 捕虜の男は、両腕を拘束していたビニールテープを力任せに引き千切る。

 やっぱりあんなテープじゃ駄目だったな。いや、思いの外に丈夫なテープだったみたいで、腕の肉がごっそりとえぐれている。


 金髪ノッポが慌ててホルスターから拳銃を抜くが、瞬時に叩き落とされる。銃だけじゃなく、手首ごと血煙となって消滅した。


 何が起きた? ヤバイ薬でもドーピングしたのか?

 そういえば、ただの太ったオッサンだった男の胸が、大きく膨れ上がっている。巨乳か? 巨乳化だな。


 どうせなら巨乳美女に変身すれば良かったのに。胸以外は元のオッサンのままだから、グロテスクになっただけだな。

 おそらく、ホルモン系の肉体強化薬でも使ったんだろう。スポーツ選手や兵士の間でかなり需要があると聞いている。


「これは! パイロットシンドロームか!!」

 

 犀川さんが興奮してハーフミラーににじり寄るので、首筋を掴んで引っ張り戻す。

 次の瞬間、奴の拳がミラーを突き破って飛び込んできた。

 

「馬鹿な! 厚さ40㎜の防弾ポリカーボネートを!!」

 

 ポリカーボネートってペットボトルの材料だろ? 4センチはちょっと分厚いが、そんなに驚くことか?


 ドアが開いて、銃で武装した兵がなだれ込んで来る。が、ハーフミラーを力任せに引き裂いて、奴が乱入して来る方が一瞬早かった。

 

 兵達はあえて敵を狙わず、弾幕を張って迎撃する作戦のようだな。

 

 あいつ、弾が見えているのか? ほとんど避けやがった。

 俺だって小銃の弾なんて速過ぎて見えないぞ。予測で避けること自体は難しくないが、こう上手く弾幕を張られたんじゃ全部は無理だ。


 バケモノだな。力も、反応速度も、人間離れしている。


 ん? 粘土みたいのが壁に無数に張り付いている。部屋の中で弾をばらまいて、跳弾がないと思ったら、実弾じゃないのか。

 これじゃあ、ますます勝ち目はあるまい?


 仕方ないな。腰に吊るしていたビームソードを構える。前に貰った奴のレプリカだが、性能的には元のと変わらない。

 

 パチパチ唸るビームの刃を見て、奴は俺にターゲットを切り替える。

 凄いスピードで突進して来るが、ギャラリーも多いことだし、あえてゆっくり剣を振って見せる。

 

 一閃、そしてもう一閃。


 焼き斬られた奴の両腕が、肩からボトリと落ちる。


 バランスを失って転倒し、凄い勢いでジタバタしているが、立ち上がるのは無理そうだな。

 

 大量の血が流れ出ているにもかかわらず、元気あるなあ。バケモノ相手に舐めプは禁物だ。首をはねておくか。それでも生きてるようなら、もう知らん。


「ああっ! 貴重なサンプルですっ! 殺さないでください」


 犀川さんもブレないよな。なら、好きにするがいいさ。


 俺が剣を収めて一歩下がると、兵達が寄ってたかって捕えにかかった。


 

 あれだけ人外に成り果てるって、やっぱり宇宙海賊がらみだよなあ。

 パイロットシンドロームとか言ってたよな。あの捕虜が量産型スキュータムのパイロットだったことと、何か関係あるんだろうか?






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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかもうロボを降りられない体になってないよね。
[一言] リンリンたちは生き残ってるかなあ? 何故かゲーセン仲間たちがどうなってるかが気になる。 ゲームの上位プレイヤーはマジでみんな超人になってるのかもな。 ……主人公レベルは絶対にいないだろうが…
[一言] なんか急に終末モノになってんな なんだこれ
感想一覧
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