あらしのよるに輝いて
クモ脚メカにサクッと剣を突き刺し、クルンと軽くひねるとコアがニュルンと飛び出して来る。すかさず左アームでキャッチして引きちぎり、コアをそのままインベントリに収納する。
一連の作業に二秒近くかかっているな。そう、作業だ。もはや戦闘ではない感じだ。
農家の人とか、漁師の人になった気がする。マテリアルの収穫作業だな。
単純作業……という程単純でもないか。
クモ脚だって逃げようとするし、反撃してくる。明らかに学習能力はあるしな。同じパターンを続けていると、すぐに対処してくる。
まあ、このくらい変化があった方が飽きなくていい。クモ脚達が学習してくれば、俺はさらにそれ以上に手際よく動く。こういうイタチごっこは嫌いじゃない。
なあに、そんなに難しくはないさ。基本は無駄な動きをそぎ取っていくだけだ。
動きの無駄をなくせば、一匹処理する時間は短くなり、剣は傷みにくくなり、俺も疲れなくなる道理だ。
剣の達人の動きは美しいというが、さらに突き詰めていけば美すらなくなる。シンプルイズベスト、何の変哲もない、誰にでもできそうな動き。だが、それでいい。
一連の流れを、息をするように自然にできるようになれば、わりといい感じだ。
最近は一匹見つけるのにも苦労していたクモ脚メカが、隙間なく大地を埋め尽くしているのは不思議だ。カニメカも相当数混じっているが、どちらにせよ一撃で倒すのだから誤差みたいなものだ。
大発生中だからなのか、新種っぽいのもチラホラいるようだが、詳しく検証している余裕はない。
命名するチャンスだというのに勿体ない話だな。
新種は重装甲のものが多いようだが、バスターソードの突きで貫けないようなのはまだ見ない。クリスタルの甲殻を切断するのにもコツがあって、慣れれば分厚くてもサクッと刃が入る。
いずれはもっと強い形態に進化するのかもしれないが、単に防御を上げればいいというものでもない。甲殻を厚くすればそれだけ重くなり、動きも鈍くなるからな。
敵に勝つことだけが生存戦略じゃないと、奴らに教えてやりたい。カメレオンやナナフシみたいに保護色になるのもいいし、ネズミやゴキブリのように繁殖力で勝負するって手もあるだろう。まさか、それでこんなに大発生したんじゃないだろうな?
そもそもこいつらは生物なのかメカなのかすらよくわからん。宇宙は広いから、いろんな変なのがいるんだろう。現実はゲームより奇なりってことだな。
剣の耐久が半分になる前に、インベントリに収納して新しいのに持ち替える。
収納中も耐久値はゆっくり自己修復するからな。予備の剣は三桁はあるし、ローテーションして使えば一周している間に最初の剣は全回復しているというわけだ。理論上は無限に戦える。
マテリアルさえあれば最大耐久値まで回復できるという点では、ガトIより甘い仕様だ。クモ脚のコアを回収しまくっているから、マテリアルは貯まる一方だしな。
マテリアルのカンストってあるんだろうか? この機会に試してみるのも面白いかもしれない。
ビリー氏や宇宙海賊、銀河連邦との交渉材料にも使えるかもしれないしな。皆マテリアルが欲しいんだ。だって超便利だし。
敵の数を数えるのは意味がないのでやめた。こいつらは海底の湧きポイントからいくらでもポップしてくるからな。いや、この世界がゲームじゃないとすれば、あれも転移ゲート的な仕掛けなんだろう。
クモ脚達がウジャウジャいる別の世界から侵入して来ているとすれば、この理不尽な大発生の説明もつく。
大発生イベントが終われば、こいつらは大人しく自分の世界に帰ってくれるんだろうな?
希望的観測だが、根拠がないわけじゃない。この星の歴史上、何度もこんな大発生を乗り越えて来ている筈だ。
エイ型母艦の対地ビーム砲なんか、明らかに大発生対策の仕様だしな。つまり、ひたすら耐えていればそのうちなんとかなるだろう。
リンクスの場合、やられる前にやるのが基本だ。一定のペースで殲滅し続けていれば、ノーダメージでいける。
別にクモ脚メカに対する憎しみとかはないが、倒していかないと飲み込まれるからなあ。
奴らにしてみれば、仲間を乱獲されて恨んでいるかもしれない……果たして感情とか知能があるのだろうか?
ん? どうも変だな? クモ脚達の反応がおかしい。集中力に欠けているというか、やたらと背後を気にしている?
「何か違和感があるな……誰かが近くで戦っているのか?」
『近くで射撃戦が行われていますね。降下部隊の生き残りがいるようです』
ベティちゃんがサブウインドウに拡大表示してくれる。
近いと言っても数十キロ離れている。少し気になるし、様子を見に行ってみるか?
野次馬根性を出して移動を開始する。といっても戦いながらなので、遅々として進まない。
ようやくビームの閃光が見えて来た。圧倒的なクモ脚メカ達のビームに対して、反撃しているスキュータムIIはたった一機か?
造りかけのピラミッドのような岩山だ。急斜面の中腹に開口部があって、そこからスキュータムIIが顔を出している。内部は要塞化されているようだな。
多勢に無勢とはいえ、地の利を上手く活かして敵を寄せ付けない戦いをしている。
いずれは数の暴力で押し潰されるだろうが、あれならもうしばらくは持ちそうだ。
少し助けてやるか? 敵の敵は味方、というわけじゃないが、一人で頑張っている奴は応援してやりたくなる。
リンクスを接近させると、奴らはこっちにターゲットを変更してくる。だが仲間が邪魔で攻撃できず、右往左往している。やっぱりこいつら、ネズミより馬鹿だろう?
リンクスに気づいた岩山のスキュータムIIはしばらく戸惑っていたようだが、共闘を選んだようだ。リンクスに気をとられて向きを変えたクモ脚メカを、背後から狙撃し始めた。
一撃でクモ脚のコアを撃ち抜いていく。なかなかいい腕じゃないか。タケバヤシなんかよりよっぽど凄腕だ。
ついでにリンクスにも攻撃してくるかと思ったが、そこまで馬鹿じゃないようだ。緊急事態とはいえ、スキュータムIIと共闘か。たまにはこういうのも面白いじゃないか。
俺が二匹処理している間に、あいつも一匹は倒しているな。
単純計算で戦力は1.5倍になったか、悪くない。
スキュータムIIなんかでも、使い方次第では役に立つもんだな。どうせなら十機くらいいれば、いろんな作戦ができるんだがなあ。
そういえば、俺は結構な数のスキュータムIIをぶっ壊してしまったよな。それで戦力不足になって、今回の異常事態が起きたとしたら……いや、専守防衛しただけだし、俺は悪くないよな?
小一時間ほどスキュータムIIと共闘するうちに、息も合ってきた。やっつけたクモ脚は四桁に達する、目指せ五桁だな。それでも全然減った感じはしない、焼け石に水だ。
しかしなんだな。ソロの時に比べるとミスが増えた。注意力が散漫になっているように思う。もちろん悪いのは俺自身だ。自分の甘さが嫌になる。
連携といっても、別段難しいことをしている訳じゃないんだがなあ。基本的にはスキュータムIIの射程内でいつも通りに剣を振り回しているだけだ。
ゲームなら後衛が狙われないように、ヘイト管理のテクニックが必要になるが、どういう訳かクモ脚達は最優先でリンクスを狙って来るから楽でいい。
そもそも、俺もあいつも一撃で敵を倒してるからなあ。
ゲームでいうところの、適正難易度以下の狩場で乱獲している状態だ。
奴らが脅威なのは、ただひたすらに数が多いということ。今は楽勝だが、疲れて眠くなってきたらヤバイだろうな。缶コーヒーやシャキッとするドリンク剤はたっぷりあるけれど、それにしたって限界はあるし。
ブラック企業で働いていた時は完徹は当たり前で、三日くらい寝ないことも珍しくはなかったが、一週間寝ないのは無理だ。さすがに死んでしまう。
世の中には何年も眠らなかった特異体質の人もいたみたいだが……今はちょっと羨ましいぞ。
そういえば、有尾人達は戦闘用の人造人間だったよな。彼らは睡眠を必要とするんだろうか?
「ん? 故障したのか?」
スキュータムIIのビームが、急に太くなった。逆に威力は落ちたみたいで、クモ脚の装甲に弾かれている。
『収束が甘くなってきていますね。ビームガンの寿命でしょう』
武器には耐久値がある。俺だってすでにバスターソードを何本も交換している。
スキュータムIIのビームガンは、武器腕に固定されているから交換もできないだろう。まあ、今までよく頑張ったよ。ご苦労さんってことだな。
最初から一人で戦うつもりだったし、既定路線に戻るだけだ。
目の前の敵に集中する。剣を突き刺す角度を微妙に調整し、飛び出して来るコアを流れるようにインベントリに収納していく。
もはや左手でコアを抜き取る必要もない。
二刀流でこれができれば、処理速度は二倍か。疲れることはしないけどな。ミス一つやらかせば、タコ殴りにされて人生ゲームオーバーだ。
しばらく孤独な戦いを続けていると、再びスキュータムIIの射撃が再開される。
『先程とは別の機体ですね』
「中の人は同じっぽいけどな。乗り換えたのか?」
あいつはなかなかいい腕をしている。あんなのが何人もいるとは、ちょっと考えられない。
要塞の中に予備機があったんだろうな。何故パイロットが一人しかいないのかは謎だが、あいつらにもいろんな事情があるんだろう。
人造人間とはいえ、有尾人には心があるみたいだった。ドロイドとは違うポジションなんだろう。
ドロイドが働きアリだとすれば、有尾人は兵隊アリだろうか? クモ脚メカと戦ってマテリアルを回収するための手駒なのだろう。
クモ脚達が破壊されれば、それだけマテリアルが大気中に拡散するんだった。銀河連邦にとってはこの大発生もボーナスステージみたいなものか。
俺はコアを丸ごと回収しているから、マテリアルはほとんど洩れていない筈だ。銀河連邦め、ざまあみろだ。
スキュータムIIが新しい機体になったことだし、俺も休憩タイムだな。腹も減ったし、できれば仮眠もとりたい。
周囲のクモ脚を瞬殺してから、ブーストジャンプで一気に要塞に飛び込む。
リンクスを狙ったビームが、トンネルの外縁部に当たって飛び散る。なかなか丈夫そうでいいじゃないか。アンチビームコーティングって奴かな?
リンクスが退いたことで、クモ脚達がトンネル目指してよじ登ろうとしてくる。奴らある程度ツルツルした壁は登れないみたいだな。次々に仲間を踏み台にして、少しずつ高さを稼ごうとしている。
スキュータムIIが狙撃しても、奴らはコアを脚でかばうので、なかなか撃破はできないが、バランスを崩して転げ落ちていく。案外どんくさい。
要塞内部はただのトンネルというか、剥き出しの岩盤? 奥の方には何機もスキュータムIIが駐機している。
一機だけ色違いの機体の残骸が転がっている。あのカラーリングはエイ型母艦の艦載機だな。
降下部隊の生き残りが、無人の補給基地に転がり込んで立てこもってたとか、そんなストーリーを想像してみる。
まあいいや、貴重な休息時間だし、しっかり仮眠をとらせてもらおう。
チョコバーをスポーツドリンクで流し込む。十秒もかけない早食いだ。
あとは目を閉じるだけだ。急降下で眠りに落ちていく。1、2、3、グウ。
聞きなれた警告音に目が覚めると、でかいカニメカが要塞に侵入して来るところだった。
大きなハサミに半身を挟み込まれて、スキュータムIIがもがいている。
もう少し早く起こしてくれよと思いながら、おっとり刀で飛び出す。
ハサミを切断し、スキュータムIIを救出。
バランスを崩したカニメカを、そのまま外に蹴り落とす。
大破したスキュータムIIはヨタヨタ引っ込み、そのまま床に擱座する。
背部のコクピットハッチが開き、小柄なパイロットが飛び出すと、別の機体に駆け寄っていく。元気そうじゃないか。予備機はまだまだあるからな。頑張れ。
女か? 有尾人に性別があるのかどうかは知らないが、大柄な逞しいタイプと小柄なのと二種類いるよな。
狭いスキュータムIIのコクピットに乗り込むなら、小柄な方がいいのだろう。俺でもかなり窮屈だったし。
さて、仮眠もとって頭もスッキリした。また24時間くらい戦いますか。
結局、前と同じ場所まで戻ってしまった。ここだとスキュータムIIからの射撃がいい感じに決まる。ベストポジションってわけだな。
倒したクモ脚メカの残骸がすぐに消滅してくれるのは助かる。ゲームだと思っていた時は気にならなかったが、空気に溶けるとは不思議物質だよなあ。
うーむ、さっき蹴りを入れた時に、リンクスの足首を少し傷めてしまったようだ。痛恨のミスだな。
しばらくすれば自己修復するだろうが、その間にも新たな傷がつくかもしれない。危うい綱渡りだ。厳しい戦いだよ、プレッシャーに溺れそうになる。
それでも自己修復機能があるだけマシか。リンクスはゲームに登場する機体の中でも修復能力は突出していた筈だ。
どんなに大怪我しても一日もかからず完治してしまうんだからな。人間だったら何か月も入院だぞ。
そういえば、ギリシャ神話のプロメテウスって、肝臓がモリモリ自己修復したらしい。完治するたびにハゲタカがやって来て食ってしまうから永遠に苦しむという糞仕様だ。
何故今そんな話を思い出すのか? 俺は神話の英雄じゃないし、罰を受けている訳でもないぞ。共通点は糞仕様ってことだけだな、くそっ。
絶望的な状況の中にあって、背後からの援護射撃には癒される。
そこまで頼りになるかといえば微妙だが、仲間がいるというのもいいもんだな。
たまに射撃が途切れるのは、スキュータムIIを修理しているのか、それとも休憩しているのか?
あいつが前衛をしっかり支えてくれたら、俺もたっぷり仮眠をとれるんだけどな。立派な盾を持っているのに、スキュータムIIって前衛向きじゃないんだよなあ。
まあ、射撃に関してはそこそこ頼りになる奴だし、数時間程度なら一人でも敵を食い止めてくれるのもわかっている。
あいつだって俺同様に、無謀に突っ込んで自滅したエイ型母艦の被害者だしな。シンパシーも湧くってもんだ。
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もう何度目の休息タイムだろうか。栄養ドリンクを飲み、チョコバーをむさぼり、つかの間の仮眠をとる。
ルーチンワークの繰り返し。結局、ブラック企業で働いていた頃と変わらないな。先の見えない地獄を延々と彷徨い続けるんだ。
何か違うとしたら、リンクスのパイロットとしての誇り、戦士の誇りってのか? 誰に認められているわけでもないが……いや、違うな。少なくとも今は共闘しているスキュータムIIのパイロット、トカゲ女がいる。
要塞のスキュータムIIも残り少なくなってきたが、交換用の武器腕はまだまだストックがある。
腕ごと簡単に交換できる仕様になってるんだな。合理的だ。
トカゲ女も随分頑張っている。俺より楽なポジションだとはいえ、よく心が折れないものだ。
ああ、戦闘用に造られた人造人間だったな。それでも、まあ、立派なものだ。
この星は全てクモ脚メカに覆われてしまったんじゃないか? 数日でどこかへ行ってしまうと思っていたんだが、いまだに地平線の彼方まで群れは続いている。
まさに地獄の戦場だ。
コクピットの空調は完璧で肌を焼く業火はないけれど、極度の疲労に感覚がマヒして、もはや暑いのか寒いのかもよくわからない。自分の肉体とリンクスの機体がごっちゃになっていて、己がどこにいるのかすらたまに見失う。
まるで幽体離脱したかのように、戦場を第三者視点で俯瞰しているような錯覚。
なあ、やっぱコレって、VRゲームじゃないのか?
数値化はされないけれど、己のステータスが異様に伸びているのがわかる。そりゃあこれだけ場数を踏めば嫌でも成長するだろう。
トカゲ女だって、随分腕を上げている。
壊れたスキュータムIIのパーツをインベントリに入れてみたところ、自己修復機能はないがマテリアルを消費して修理することは可能だった。
マテリアルなら有り余っているし、俺達はいつまでだって戦い続けてやるぜ。
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いつからだろうか? 気がつけば俺達の『生活』は格段に楽になっていた。
約8時間くらいで俺とトカゲ女は戦闘を交代するようになった。別に話し合って決めたわけではなく、なんとなく成り行きでそんな感じになったんだ。
そのことで仮眠ではなくしっかりと眠れるようになり、肉体的にも精神的にも余裕を取り戻すことができた。
トカゲ女の技量が随分上がって、単独でもクモ脚相手に無双できるようになったため、その間は安心して寝ていられる。
マテリアルでスキュータムIIを複製できたので、補給の問題もクリアできた。単なるコピーではない、ベティちゃんがチョイチョイと弄って強化してくれた。
主にビームガンの耐久性能が向上して、8時間程度の戦闘では故障しなくなった。
本体の性能も若干向上しているし、最早スキュータムIIカスタムと言っていいだろう。その機体を予備機として、常時三機以上ストックしている。
万一リンクスが大破しても、トカゲ女が頑張ってくれれば自己修復が間に合う計算だ。
他にも有尾人用のレーションセットみたいのも複製してやっている。
最近はトカゲ女も慣れたもので、複製して欲しいものがあれば持ってくるようになった。
貴重な生マテリアルを使って食料を複製するなど、本来はあり得ないことのようだが、マテリアルは貯まる一方だし、まったく問題ない。
俺とトカゲ女のどちらかが死ぬまで、この奇妙な『共生関係』は続くのだろう。
クモ脚メカも進化し続けていて、強化された変異体も続々と現れているが、俺達だって奴らに負けない勢いで成長している。
マンガやアニメで主人公がライバルと切磋琢磨して成長していくというのは定番だが、まさかクモ脚メカという『種族』とライバル関係になるとはなあ。
あいつらって、個々はたいした知能などないように見えて、全体では小癪な策を練ってくるから油断も隙も無い。
まあ、良きライバルと言えるだろうな。敵だけれどマテリアルを提供してくれるのは有難いし。
家畜のように飼いならせればいいんだろうけれど、銀河連邦にもできなかったことだ。
変異体の中に、人型のタイプもチラホラと見かけるようになった。なんとなくリンクスに似ているのは、擬態のつもりだろうか?
人型のクモ脚メカというのも変な感じだ。そういえばあいつらって、正式名称はエレメンタルユニットだったよな。
エレメンタルってのは精霊って意味だったと思う。うーむ、奴らは精霊なんて可愛いもんじゃないぞ。そもそも精霊って可愛いのか? 架空の存在だしなあ。
******
ようやく軌道に乗り始めた俺達の戦いだったが、ある日突然終焉を迎えることになった。
それは遠雷のような閃光から始まった。
幸か不幸か、ちょうど俺が戦闘を担当している時だった。地平線の向こうに、黒雲のようにものすごい数のエイ型母艦の大群が来襲すると、無数のビームを放って地上を焼き始めたのだ。
それだけではなかった。
輝く羽を背負った天使達が飛び回り、どこまでも伸びる光の剣でクモ脚を薙ぎ払っていった。
それが、初めて見る銀河連邦の高性能機の姿だった。
光の剣に見えたのは、連続使用可能なビームガンだった。片手持ちの銃なのに、ジェミニのハイパーロマンキャノンより遥かに強力とか反則だろう。
とにかくチートな性能だった。
『ヴァルキリアですね』
「いや、スキュータムIIIだ」
ベティちゃんのネーミングセンスは、やっぱりちょっと酷いものがあった。北欧神話ネタとか中二病かよとツッコミたくなったが、つまらないことで言い争うのも馬鹿らしいので大人の対応をすることにした。
要するにヴァルキリアで決定したのだ。
よく見るとほとんどスキュータムの面影なんてなかったしな。輝く羽はフライトユニットというよりも、フルバーニアンタイプって感じだった。本来は宇宙戦仕様の機種なのだろうか?
地上のクモ脚達から、ビームが光のシャワーのように噴き上がっても、ヴァルキリア達は苦も無くバリアで弾いてしまった。どれだけジェネレータ出力に余裕があるんだよ? あれだけ強力なバリアを展開すれば、リンクスならあっという間にガス欠だな。
ツノゼミンミンやミリオンも強力なジェネレーターを積んでいたけれど、あいつらは中ボス的ポジションだからな。
ヴァルキリアは明らかに量産機だ。旧式のボス機体より遥かに強力な量産機とか、技術格差を感じるな。
スキュータムIIなんて、所詮はモンキーモデルだったわけだ。
ヴァルキリアの群れは、まるでUFOのように急加速、急停止し、時には瞬間移動まで駆使して乱獲を続けていった。
一方的な蹂躙に、クモ脚達は浮足立って逃げ散った。大半は地面に潜って機能停止したのだろう。
仮死状態になればスキャナに反応しなくなる。それでどれくらい生き延びたかは疑問だけどな。強力なビームは地中深くまで貫通しているみたいだった。
******
クモ脚の大群の脅威は去った。それはもうあっけない程。
だが、俺のピンチは終わらない。脅威度で言えば比べ物にならない強敵の出現。ますます大ピンチだ。
あんなとんでもない高性能機、タイマンでも勝てそうにないぞ。そんなのが大編隊で頭上を飛び回っている。
今度こそ詰んだか? 年貢の納め時って奴なのか? 俺は生き延びることができるのだろうか?




