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俺のロボ  作者: 温泉卵
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ポテト・サラダ

 

 暇だ。

 

 プロジェクトが中止になったためしばらくやることがない。


 出社しても仕事がないことはこれまでもままあったが、今回は少し事情が違う。スタッフの大半が逃げてしまったとはいえ、納期に間に合わなくなったのはウチのミスだ。仕事を回してもらっている下請け……のさらに下請けの弱小企業の立場では、これはマズイ。下手をすると次の仕事が回してもらえなくなるかもな。

 

 派遣の人たちが来ていないので、パーテーションに仕切られた俺たちの島は閑散としている。ついに俺と田端先輩の二人きりになってしまった。

 

 まあ、こんな時にしかできないこともある。

 

 田端先輩は何やら掃除の真似事をしているようだ。カオスだった彼の机周辺がやや小奇麗になっている、かもしれない。

 

 俺は私物がほとんどないので掃除に一分もかからない。掃除の極意は物を持たないことだ。必要のない物は片っ端から捨ててしまえば整理整頓に時間をとられることもない。そもそも金がないから何も買えないんだけどな。


 やることがないので、パソコンを立ち上げて表計算ソフトの自作プラグインを弄り始める。

 

 別段大したことをやっている訳ではないが、少しの工夫で仕事の効率は桁違いにアップする。仕事なんて基本的にルーチンワークの繰り返しだからな。ちょっとマクロでも組んでやれば一時間かかる仕事がワンクリックで終わるようになる。


 一応社内の人間には秘密にしている、作業効率が上がっても人を減らされるだけだ。それに手柄は上司が独り占め、不具合が起きれば全責任を押し付けられるのは俺なのはわかりきっている。

 

 そういえばうちの馬鹿上司は随分大人しくなったな。出社はして来ているようだが、ほとんどこちらには顔を出さなくなった。今回の責任を全部押し付けられたんだろうが、同情はしない。

 

「何まじめに仕事なんかしてんだよ」


 田端先輩がにやにやしながら隣の空いた席に座る。何やら紙切れを渡してくるのでよく見ると重役連中のリストだった。給与の一覧に家族構成までついている。

 

「これって?」


「俺ってスーパーハカー、みたいな。まったくふざけてるだろ」


 社長の給料が500万ちょい、社長の年収にしては少ないんじゃないかと思ったら月収だった。社長夫人は月に何度か社内に遊びに来る水商売風の若い女なのだが、あの子は月給300以上もらってるんだな。社長一族は少なくとも毎月100万以上の手取りがあり、さらにボーナスや社長賞などを加えるとヒラの俺たちの10倍以上はもらっているようだ。

 

「どう思うよ?」


「確かに多いですけど、思ってた程じゃないかな」


 ヒラの俺に比べれば確かに多いが、別段羨ましいとも思わない。重役連中はテンプレのように浪費家の奥様を持ち、車と家のローンに追われ、子どもを私立に通わせて寄付金を搾り取られている。収支のバランスを考えれば俺たち以上に悲惨かもしれない。会社に来てもたいして働きもせずに、お互いに金が足りないと愚痴ばかり言っている。ある意味哀れなものだ。


「実際ほとんど働かなくてもそれだけの手取りがあるんだぜ、オイシすぎるよなあ」

 

 先輩の言うこともわかるけどね。


 俺は労働の対価としてそれなりに給料が出て、ついでにサービス残業などがなければそれでいいけどな。


 今時のほとんどの若者は、高望みもせず安月給でも黙ってよく働く。上の連中が少しくらい俺たちにも配慮してくれていれば、誰も逃げ出さなかった。会社も上手く回っていただろうに。


 欲張り過ぎて金の卵を産むガチョウを殺してしまう昔話があったのを思い出した。百姓は生かさぬように殺さぬようにと言ったのは家康だったかな? 何事もバランスが大事だよな。

 


 仕事がないので残業はなしだ。5時に会社を出ると開放感が半端ない。

 

 せっかく時間があるので夕飯は自炊することにする。

 

 アパート近くのスーパーに寄って食材を買い込む。鶏もも肉とジャガイモが格安だったので、学生時代にお世話になった照り焼きチキンを久しぶりに作ってみることにした。見た目も味も豪華な上に、ポテトサラダを含めても一食分の材料はワンコインに収まる。いや、収めてみせる。


 節約生活のコツは野菜の相場を読むことだ。タマネギの価格は許容範囲内だがニンジンは高かったのでパス。最近あまり意識していなかったが、食品価格の乱高下は年々ひどくなっているようだ。ネットで調べるとニンジンの店頭価格は今月の間に10倍近く動いている。こんなの底値の時に買いだめするしかないじゃないか。

 

 アパートに帰り早速調理にとりかかる。俺の料理は我流だから簡単だ。照り焼きチキンといっても醤油とみりんを適当に混ぜてタレを作り、もも肉と一緒に魚焼きグリルのトレイに直接入れて焼くだけ。


 学生時代につきあっていた彼女が、魚焼きグリルで照り焼きなんか焼いたら火事になると騒いでいたのを思い出した。説明書には確かに魚以外は焼くなと書いてあるが、魚がよくてチキンが駄目というのは道理に合わない。消火器もあることだし、目を離さなければ多分大丈夫だ。

 

 チキンを弱火でじっくり焼き上げる間にポテトサラダの準備をする。ジャガイモの芽は毒があるくらいは知ってるので、適当にイモを切りながら取り除いていく。皮は面倒なので適当にざっと剥く。イモの皮が残っていると少し渋いが、そういうのもジャガイモの風味だと思えばあまり気にならない。タマネギは生のままスライスして、湯がきあがったジャガイモと共にマヨネーズであえる。かなり適当なポテトサラダの完成だ、これぞ漢の料理よ。


 米が炊き上がったらさっそく食う、ひたすら食う。


 チキンの脂が混ざった香ばしいタレが、ポテトサラダと混ざって絶妙の味となる。照り焼きのタレは自作すると安い上に最高に美味い。俺は醤油とみりんに砂糖を少し加えているが、これだと材料費は市販のタレの一割もかからない。香辛料? 贅沢は敵なのだ。


 炊き立てご飯との相性が最強だ。チキンでご飯、ポテトとご飯、タレとご飯、どれも素晴らしく美味だ。一合炊きじゃ足りなかった。

 

 残ったポテトサラダにはラップをかけ、久しく使っていなかった冷蔵庫に入れる。明日の朝はポテトサンドでもいいな。多目に作って昼飯持参にすればさらに安上がりじゃないか。

 

 久しぶりに人間らしい生活を味わった気がするよ。満ち足りた気持ちで布団に入る。未来に希望が見えなくてもテリヤキチキンとポテサラがあれば人は幸せになれる生き物なのだよ。何か重要なことを忘れている気がするが気にしないことにする。

 

 眠りに落ちる直前に、今日がクリスマストーナメント二戦目の解禁日だったことを思い出した。一瞬で目が覚めて飛び起きる。時計を見ると夜の8時を少し回ったところだ。よかった、まだ間に合うな。



 ゲームセンターに9時前に到着、結局いつもと同じくらいの時刻だ。解禁日のせいか普段より少し混み合ってはいるものの、それほど待たされることもなく順番が回ってきた。

 

 筐体に乗り込む直前に、二戦目で敗退してしまったらしくジミー君がしょぼくれているのが見えた。彼の心配をしている余裕はない、まず自分が勝たないとな。

 

 幸いすぐにマッチング相手は見つかった。少し迷ったが、いつもの装備にソードブレイカーとプラズマランチャーも加えて出撃する。

 

 荒野ステージか、しかも夕日バージョンだ。雰囲気はあるんだが、夕日のステージは距離感が妙に把握しにくいのであまり好きじゃない。

 

 敵の位置はわからないが、できれば夕日を背にして会敵したい。格好をつける訳じゃなく、有視界戦闘じゃその方が有利だからだ。

 

 敵はなかなか撃たない。ステルス性能が高い機体なのか、こちらのパッシブスキャナにはまだ何の反応もない。評価ポイントがどちらもゼロだと、時間切れドローで双方負け扱いのルールだったと思う。気は焦るもののここは焦ったら負けだ。

 

 そいつは荒野のど真ん中に堂々と突っ立っていた。両腕にバスターソードを装備している、二刀流か?

 

 俺も二刀流は試したことがあるが、二刀のバランスや重心移動のタイミングなどいろいろ面倒が多かったので実用性無しと判断してそれっきりだった。だが、敵が二刀流だとちょっと不気味だ。

 

 敵機体は一見スキュータムに似ているが、シルエットに多少の違和感がある。盾を装備していないからだろうか。

 

 まあ、向こうも近接戦を狙っているなら好都合だ。射撃を掻い潜って接近する手間がいらないのだから。

 

 一気に距離を詰める。相手はまだ動かない。気に入らないな、待ちのスタイルから繰り出される相手の最初の一撃は読めない。反面、こっちの仕掛けは動きからある程度予測されてしまう。

 

 間合いの外で一度止まって仕切りなおすか? いや、案外相手はただのハッタリ野朗で、本当にただ突っ立ってるだけかもしれないぞ。

 

 様子見に軽く一撃離脱することにして突っ込む。同じバスターソードなんだからリーチも当然同じ、攻撃のタイミングも同じ筈。


 だが、奴は片方の剣で俺の剣を弾くと、もう一方の剣で斬り付けてきやがった。二刀流相手だとこうなるのか。

 

 なんとか紙一重で避けたが大きくバランスを崩してしまう。奴は隙を見逃さず嬉々として飛び掛って来た。

  

 近くで見ると細部がスキュータムとは違う。ガッシリとした肩部ユニットはトーラスほどではないが、明らかに近接戦用として頑丈に設計されている。スキュータムの近接戦特化型といったところか。

 

 俺のリンクスも近接戦に特化した機体だが、リンクスの戦闘スタイルは敵の射撃を掻い潜って接近し、強力な剣の一撃で獲物を仕留めるといったものだ。獲物がサジタリウスのような射撃特化の機体であれば、近づけさえすればいいカモにできる。

 

 奴は、リンクスほど敏捷には動けないようだ。射撃を回避したりは苦手だろう。その代わり頑丈で、パワフルで、ドッグファイトの泥仕合を制するために設計されているのだろう。おそらく奴の獲物はリンクスのような軽量級の近接戦特化型機体なのだ。


 つまり、俺にとっては天敵だ。初見の相手に考え無しで突っ込んだ愚かな俺は奴にとってはおあつらえ向きの獲物だろう。絶体絶命のピンチってやつだが、頭には血が滾りゾクゾクして来やがった。強敵上等じゃないか、やってやるぜ。

 

 運動性能ではこちらがやや有利だが、奴はカンフー映画のように二本の刀をブンブン振り回して手数で圧倒してくる。一度仕切り直したいが、前進だけはやたら速いようでなかなか引き離せない。

 

 敵の猛ラッシュをなんとか回避できているのは、二刀の連続攻撃がモーション登録されたものだからだ。どんなに鋭い攻撃でも、次の動きがわかっていれば避けるのはそう難しくない。もちろん敵が複数のモーションを使い分けて来る可能性もあるわけで、油断は禁物だ。

 

 そうこうしている間にも俺のバスターソードの耐久値はみるみる削られていく。単純計算だとこっちが倍削られるわけだしな。明らかに武器破壊を狙ってるだろ。

 

 くそ、こうなったら二刀流には二刀流、武器破壊には武器破壊だ。ソードブレイカーの有用性についてはトーナメントの終盤まで秘密にしておきたかったが、ここで負ければそんなことは言ってられなくなる。

 

 バスターソードを右手の片手持ちに構えなおし、ソードブレイカーを素早く左手に装備。ほんの僅かなミスが致命的となる一瞬の装備変更だが、何度となく繰り返した動きを俺の体はちゃんと覚えている。


 ワンパターンな敵の攻撃を見切ってバスターソードで攻撃をいなし、敵の一刀をソードブレイカーで受ける。


 相手の剣も耐久がそこそこ減っていたのだろう、ソードブレイカーと接触した瞬間に火花を散らしてへし折れた。

 

 これでうっとおしい二刀流から解放されたかと思ったのだが、敵もさるものだ。奴は思い切りよく残されたもう一本のバスターソードを投げ捨てると、両腕に内蔵されたビームソードを発動させやがった。

 

 通常のスキュータムの内装武器は右腕にビームソード、左腕にビームガンだが、どちらもオマケ程度の威力しかない。ところがこいつは左右共にビームソードを内装している。見た目にもとてもオマケには見えない。少なくともスキュータムのものよりは威力がありそうだ。

 

 ビームソード相手なら実剣が有利とはいえ、相手は二本。さすがにナイフサイズのソードブレイカーじゃビームソードを完全には防げない。


 だが、勝ちが見えた気がして来た。何故奴は折れてない剣まで捨ててしまったんだ? 察するに、奴の二刀流モーションは左右の武器が同じじゃないとバランスがとれないんだろう。


 今までと同じワンパターンな攻撃を続ける気だろうな、ただ武器がビームソードに変わるだけか。なら、いい手がある。

 

 剣に銃は少し卑怯な気もするが、プラズマランチャーを試させてもらおう。浮遊するプラズマ弾は盾に使える。実剣に斬られると一方的に消滅してしまうが、ビームソードならしばらく相殺できる筈だ。

 

 一瞬の隙をとらえてソードブレイカーを左足のラックに戻し、バスターソードを左手に持ち替え、右手で素早くプラズマランチャーを抜く。左手で銃を使うのにはまだ慣れてないんでね。

 

 敵は明らかに動揺したようだ。飛び道具は苦手か、わかりやすいよな。

 

 プラズマランチャーを避けるように俺の左側に回りこんで斬りかかって来る。俺としてはむしろ好都合だ。ビームの双剣を左手のバスターソードで散らしながら、ランチャーを握った右手を裏拳のように叩きつけて零距離射撃……のつもりだったのだが。

 

 間合いが近すぎてランチャーのグリップで敵の頭部ユニットを殴りつけてしまった。急所に入ったのか相手の首が変な角度に曲がってしまう。なるほど、零距離だと安全装置が働いて発射できないようだ。咄嗟に奴のボディに膝蹴りを入れて少し距離を空けると発射できた。


 プラズマ弾が炸裂した眩しい閃光の中にワイヤーアンカーを射ち込み、被弾した敵を手繰り寄せながらバスターソードでトドメの一撃を加える。なんか連続技っぽくなってしまった。

 

 閃光のせいで相手のプレイヤーには状況が把握できなかっただろうな。俺だって咄嗟にやってしまったものの、何がなんだかよくわからなかったくらいだ。


 対人戦だとこの、なんだかよくわからないうちに決着がついてしまうケースがわりとよくある。勝負は時の運というが……まあ、とにかく勝ったからいいや。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 設定を読み飛ばしたかもですがバスターソードはこの物語のゲーム内の仕様ですかね?バスタードソードではないという事でしょうか?。 [一言] ブクマだけして読むの忘れていてさっき読み始めたけ…
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