back to the Earth
地球は青かった。
茶色とかも混じっているが、うん、まあ、青いと言えなくはないよな。
ズームすれば陸地の形まではっきり見える、あれはアフリカ大陸だな。上下が逆で最初はよくわからなかったが、ひっくり返せば確かにアフリカの形をしている。
つまり、リンクスが逆立ちしてる? 宇宙に上下もないもんだが、やはり北が上でないと変な感じはするな。
それにしてもちっぽけな星だ。宇宙人の視点から見れば、地球なんてミジンコ程の価値もないかもしれない。
たとえば俺が銀河連邦の軍人だったとして、地球を消してこいと上司から命令されたとしたら、躊躇なくボタンを押すだろう。
だけどまあ、俺はあそこに何億人も住んでいることを知識として知っているからな。大事な星だよね? と聞かれたら大事な星だと答えるだろう。
ああ、でも、つまらない星だねと言われたら、つまらないよねと同意するだろうな。小学生の頃からずっと、アンケートとかそんな感じだったし。
「地球よ、俺は帰って来た! うーん……なあベティちゃん、なんかどんどん離れていってないか?」
転移したばかりの時は、もう少し大きく見えていたと思う。ガンガンにブーストダッシュをかけて地球に向かっているのに、明後日の方向に流されているような?
『どうやら当機は現在、太陽に向かって落下中のようですね』
なんだよそのロボットアニメの最終回のような展開は?
「いや、どうせ落ちるなら地球だろ? あ、そもそもリンクスに大気圏突入できる性能はあるのかな?」
大気圏突入にそれ程詳しいわけじゃないが、隕石なんかは地上に着く前に燃え尽きてしまうし、アニメなんかでもヤバげな描写が多い。とにかく熱くなることくらいは知っている。
『その辺はなんとでもなりますが。困りましたね。地球への落下コースに乗せないと』
どうやら大気圏突入くらいリンクスは余裕っぽい。その点は頼もしいベティちゃんだが、地球から高速で遠ざかっている現状はお間抜けじゃないか?
大昔のオモチャみたいな惑星探査機にだってできたことが、どうしてできない?
どうやら地球に向かってブーストをかければいいというものでもないらしい。軌道計算? 何故そんなのが必要になる?
「この前見た記録映像じゃ、オリジナルリンクスは普通に宇宙を飛んでたじゃないか」
仲間はビシバシ敵UFOにやられてたけれど、宇宙飛行そのものには一切苦労しているようには見えなかったぞ。
『ああ、宇宙飛行のフラグメントクリスタルを使用していたからですね。あれさえあれば問題は解決するでしょう。海のほこらにあった筈です。一度取りに戻りましょう』
え? せっかく地球が見える所まで来たというのに、また戻るのか?
まあ、急がば回れだし、別にいいか。いいんだが、そんな便利そうなフラグメントがあったのなら、何故回収しておかなかったのかと多少は愚痴りたい。
普通はこんなこともあろうかと、使えそうなアイテムは全て回収しておくのが常識ってもんだよ。インベントリにはいくらでも入るんだし。
だが、転移先が宇宙空間だとは俺も予想外だったし、ベティちゃんを責めても仕方ない。
ビリー氏の……宇宙海賊の技術なら狙った地点にドンピシャで転移できるのにな。フラグメントクリスタルのプログラムは、骨董品級の物凄い旧式らしいから仕方ないんだろうな。
何億光年離れているのか知らないが、宇宙の途方もない距離を飛び越えて、ちゃんと地球が見える場所に転移できたんだ。それだけでも地球の科学技術じゃ手も足も出ないレベルだよ。正直大したもんだよ。
むしろ飛び出した場所が宇宙空間でよかったと考えるべきだろうな。マグマの中とか、石の中にいるとか、そういうパターンだったら終わっていただろう。
まあでも、確率で言えば、宇宙は大部分が宇宙だからなあ。ランダムに転移しても九割九分九厘、いやもっとずっと高確率で、出口は宇宙空間だ。
突然リンクスが大きく揺れる。再び転移してあの星に戻ったようだな。こういうのって心の準備が必要だから、ベティちゃんには次からちゃんとカウントダウンをしてもらおう。
アニメなんかで秒読みをしているのは、ただのカッコつけや演出ではないのだよ。
異常な振動。眼下に見える海面が物凄いスピードで流れていく。リンクスは飛んでいるのか?
フライトユニットも装備していないのに、何故か物凄いスピードで飛んでるな。
高速過ぎるため、空気とバリアーの摩擦で過熱している? バリアーって物質じゃないのに、いっちょ前に加熱するんだな。あるいは、空気と空気がぶつかっているのかもしれない。
機体そのものが過熱する危険に比べれば、バリアーが過熱しようがそんなものは屁でもない。
ベティちゃんが大気圏突入に余裕をかましていたのもだからだろう。
熱でやられる心配はなさそうだが、あまりに高度が低い。これってちょっとヤバいんじゃないか?
普通の大気圏突入なら十分高度はあるから、減速するための時間はたっぷりある。
今回のケースだと、馬鹿みたいなスピードでワープアウトしてしまったのに、減速する時間がほとんどない。
いや、これ、絶対にヤバいよ!! 減速できなきゃどうなるか? 何かに凄い勢いで衝突することになる。
このままだと海面にぶつかるよな。
水だからって甘くない。ぶち当たればリンクスは木端微塵だ。
ただ、大岩のような障害物がないだけでも、地上よりいくらかマシだ。
とにかく、少しでもスピードを殺すことだ。バリアーを加熱させる程の凄まじい空気抵抗は、物凄いブレーキになっているとも言える。
おまけバリアーを追加でいい感じに展開してみる。落下ではなく飛行にできれば、時間はかかろうと安全なスピードまで減速できる筈だ。
が、ジリジリ高度は下がっていく。こんな超高速で揚力の発生ってどうやればいい? 下手にやり過ぎると空中分解しかねないし、悩ましい。
あーあ、海面がぐんぐん迫る。
せめて波乗りみたいな感じで着水したいが、まだまだスピードが速すぎる。超音速で大気を切り裂き突進するリンクスの遥か後方で、ソニックブームが海面を派手に巻き上げている。ビジュアル的にはなかなかだが、誰もみていないし、そんなのを気にしている場合でもない。
そうだ! 水面で跳ねるんだ。河原で石を投げて水切り遊びをしたことを思い出せ、あのイメージだ。
大事なのは角度。そして高速スピンさせること。
おまけバリアーで大きな丸盾を作り、回転させる。こいつで水を叩いて、反動で跳ねる理屈だ。
南無三、男は度胸だ。
水面との距離感がイマイチ掴みにくい。このくらいで接触するかと予想していたより随分沈み込んだあたりで、おまけバリアーに手ごたえがあった。
よし、上手く跳ねたぞ。ほとんどGを感じないくらいだ。コクピット内のGは俺の体に負担がかからない程度に、慣性制御で相殺してくれている。だが、それとて限界はあり、大きすぎる衝撃は打ち消しきれなくなるのだ。
リンクスは跳ねる、跳ねる。背後に巨大な水柱が次々に上がっていく。一体、何段跳べるんだ? なんか楽しくなってきたぞ。
何十回となく、水面を連続で跳ねる。跳ねる度に運動エネルギーが失われていく。つまり、どんどんスピードが落ちるわけだ。
いい感じだ。速度に合わせておまけバリアーの角度とかも微調整していく必要があるが、今の所それが上手くいっている。目指せ世界記録! 多分、今の時点でチャンピオンは俺だ。
音速を下回ったあたりで、ほっとした。このくらいの速度なら、普段の戦闘でもたまに踏み込む領域だ。
家の近所まで戻って来たような安心感。
だが、嫌な予感がする。家に帰るまでが遠足だと、昔の偉い人は言っていたそうだ。
走馬灯のように、過去と未来の時が見える。
未来が見えたところで、対処できなければ意味がないんだけどな。
バットで頭を殴られたような衝撃。最後の瞬間、リンクスの右腕がちぎれて飛んで行くのが見えた。
あ、これは駄目なやつだ。多分、俺、死んだな。
ブーストダッシュで強引に上空へ飛び上がるべきだったんだよ。マッハ1くらいなら、力任せでどうにかできたのに。
水切りを続けたために、バランスを崩して変な角度で水面に衝突してしまったんだな。
後から回る知恵だ。人生をやり直せるなら、一秒前からやり直したかったぜ。
真っ暗だ。体が動かん。相殺できないくらい強烈なGを受けて、内臓とかがシロップみたいになったんじゃないか? 脳も駄目だな。ウニの塩辛みたいになったに違いない。
こんな最後だとは予想もしていなかったが、そんなものかもしれないとも思う。戦闘で死にたかった? まさかな。どんな状況だろうが死ぬのは嫌に決まっている。
まあ、わりと面白い人生だったかもしれない。ベティちゃんに感謝だな、いい夢見せてもらったぜ。
辞世の句か……
面白き この世をとても 面白く それにつけても 金の欲しさよ
いや、金はもういいや。俺が本当に欲しいものは……くそ、頭が全然回らん。
死にたくない。
いや、そうじゃない……生きたい。
頭がガンガンする。口の中が鉄臭い。全身ひどい筋肉痛だし、目もよく見えない。
ここは天国か? はたまた地獄か?
転生して赤ん坊スタートとかでも面白いが、魚や虫に生まれ変わるのはちょっと勘弁して欲しい。
ああ、でもイシダイなんかだったら、ウニやカニなんかを好きなだけ食えるのか。そういうのも悪くない気がしてきたな。
光に目が慣れてくると、自分がまだリンクスのコクピットにいることがわかった。
リンクスはノーダメージ。完璧な状態だ。
奇妙な夢を見ていた気がするが、夢なんかどうでもいい。
両手でジョイスティックを握り込むとやっぱり安心するな。体調は最悪だが。
「やれやれ、本当に死ぬかと思ったぜ」
『ある意味死んでいたとも言えます』
ベティちゃんが縁起でもないことを言う。確かに、死が永遠の眠りだとすれば、寝るのは一時的に死ぬようなもんだけれど。
イテテ、頭痛が酷くてツッコむ気にもならん。もう少し寝るか? だが、すでに寝過ぎてこれ以上眠れそうにない。
全身の感覚が戻るにつれ、ズキズキが酷くなる。耐えられない程の痛みではないが、これがずっと続くのは勘弁して欲しい。
「ベティちゃん、痛み止めとかないの?」
『痛みは重要な信号です。それを誤魔化すなんてとんでもない』
そりゃあそうなんだろうが、ふう、ここは前向きに考えてみようか。苦しいのは生きている証拠だ。生きているから苦しいんだ。
ホラ、考え方一つで辛い苦しみも生きる喜びに……なるか! そんなもん!!
ベティちゃんにこのくらいのツッコミができればなあ。
気を紛らわせるために、リンクスを操縦する。余計な事を考えると頭痛が酷くなるので、ただなんとなく、無心に動かすだけだ。海のど真ん中に浮いている状態だし、間違っても間違いなど起こるまい。
手足を適当に動かしているだけで、なんとなく泳いでいるような感じにはなるな。古式泳法だとでも言えば、知らない人なら騙せるかもしれない。ロボは息継ぎしなくていいから楽でいい。
重要なのはリズムだが、頭がズキンズキンするので嫌でもリズミカルな泳ぎになる。
ああ、これは心臓の鼓動か。脈拍に合わせて血圧が上がって、それで痛くなっているようだ。
人は自覚がなくても、心拍とか呼吸とかのリズムに影響されているんだ。リズムにはメリットもあるが、敵に動きを読まれ易くなるのはデメリットだよな。
戦闘のことを考え始めると、全身の痛みが軽くなった気がする。脳内麻薬のアドレナリンが分泌されているんだろうか?
化学物質に思考をコントロールされるとはな、なんか負けた気がするぞ。いや、自前で鎮痛剤を用意できるんだからエコなのか?
まあ、敵に襲撃されている時に痛みで動けなかったりしたら、むざむざ殺されてしまうからな。緊急時にはリミッターカットして頑張れっていうのは合理的だ。
あー、つまり痛みを感じなくなっているだけで、その分後から反動はあるってことか。
まあいいや、ひたすら泳法の改善に没頭し、現実逃避することにする。
『水流制御用のフラグメントクリスタルなら、入手していますよ』
リンクスの装甲に沿って、ウォータージェットのように水を加速させることができる。反動で水中をグングン進めて爽快だ。これさえあれば、泳ぎの練習なんてする必要ない。
でも、こんなものより宇宙飛行用のを貰えばよかったのに。
困ったぞ、することがなくなってしまったじゃないか。痛みを忘れるには……何をしよう?
『地球の最新ニュースをご覧になれますよ。ネットのデータをアーカイブに飲み込みましたから』
おお、久しぶりにネットに繋げるのか? アーカイブだからこちらから書き込んだりはできないが、俺は普段からもっぱら読み専だし問題ない。
モスクワ陥落? いきなり大ニュースじゃないか。もちろん占領したのはユーラシア連邦だ。因縁の対決も、ついに決着したか。
勝ったユーラシア連邦側も、支配地域の大半を核で焼かれたようだ。たった三日の戦闘で、両国の死者は合わせて十億を超えたらしい。あれ? ロシアの総人口って、すでにもう二千万人もいなかったような?
それにしても、ロシアのやらかした最後っ屁はオーバーキルもいいところだ。メガトン級の水爆なんて何故使った? そこまでして復讐したかったのだろうか?
おかげで世界は放射能の雲に覆われて、日本でも地下都市への移住が前倒しになったようだ。
シェルターへ避難する際のトラブルで、怪我人が続出してしまったようだが、億単位の死者の前には霞んで見える。
ユーラシア大陸だけじゃなく、北アメリカでも核兵器が使用されたようだ。第二次南北戦争? まさかの内戦なのか。南軍にはメキシコや南米諸国まで加わっているみたいで、北軍は今度は負けそうだ。
日本は中立の立場か。まあ、そうだろうな。
「このニュースって本当かなあ? 何故いきなり核戦争になるんだよ? おかしいじゃないか?」
『どうやら宇宙海賊が、地球各地の勢力に量産型スキュータムを売りつけているようですね』
量産型? スキュータムIIとどっちが強いんだろう?
「量産型のスキュータムって、核兵器でないと倒せない程凄いんだろうか?」
『核爆発は、基本的にバリアで防げますからね』
微妙に話が噛み合っていない気がする。俺の頭がまだ本調子でない? 悪夢の続きか? 夢オチか?
『ああ、ですが、爆風に吹き飛ばされた瓦礫であれば、バリアを貫通する可能性はありますね』
つまり何か? バリアがあれば核爆発の熱線や放射能は怖くないと。でも飛んで来る破片に当たると危ないと。
リンクスが核攻撃を受けたら、ジャンプで上空に逃げるのが良さそうだ。地上付近にいれば高確率で何かにぶつかるだろう。
それにしても、核爆発の熱線ってビームよりショボいのか。いや、実はビームって案外凄い? シミュレーターだと戦車砲の徹甲弾でもバリアを貫通していたし、基準がよくわからんな。
そうか、リンクスのコクピットにいれば、放射線は心配しなくていいのか。そりゃあ、宇宙でも戦える機体なんだから、その辺の対策はバッチリなんだろう。
待てよ、ユーラシア連邦の偉いさん達がこのことを知っていたとすれば、自分達は量産型スキュータムに乗り込んでたんじゃないか? なら核戦争も怖くないってことで、イケイケドンドン攻め込んだ?
そこまでバカじゃないと思いたいがなあ。
宇宙海賊は死の商人だったわけか。うーん、幕末に日本がやられたのと似たような手口だな。生まれた星が違っても、悪党の考えることはそう変わらないようだ。
どうせ量産型スキュータムとやらも、わざと性能を落としたモンキーモデルなんだろう。
リンクスとどっちが性能が上なのか? そういえば、オリジナルリンクスと融合して以降、しっかり俺の反応についてこれるようになったよな。バリアの出力も上がっているようだし、やはり以前はリミッターがかけられていたんだろう。
以前の性能であれば、奴らにとっては左程の脅威ではなかったということだ。それならば、今のリンクスなら通用するのか?
まあいいや、一度戦ってみればどっちが強いかはすぐにわかるさ。
俺が戻るまで地球が残っていればいいけどな。アメリカの内戦が激化して、ありったけの核兵器で応酬を始めたら、多分地球はもう駄目だ。
いや、今でも相当やばくないか? 銀河連邦に地球が消される前に人類が自滅したら、その場合はどうなるんだろうな? なんか見逃してもらえそうではある。
核戦争で文明が滅びて、僅かに残された人々も原始時代に逆戻りとか、SFでよくあるパターンだ。
棍棒で戦っていれば消されないと思う。ある意味最善手かもしれないぞ。
銀河連邦に勝つのは、どう考えても非現実的だしな。かといって降伏は受け入れちゃくれないだろうし。
この星のマテリアルみたいに連中が欲しがる特産物があれば、まだ交渉の余地はあったろうになあ。
いや、待てよ。宇宙海賊がかまってくるってことは、地球にも何かあるんじゃないか? ただの勘だが、俺の勘はなかなか当たるんだ。
数日で体調は回復した。宇宙飛行のフラグメントを貰い受けるために、再び海のほこらを訪れる。
まさかこんなに早く戻ってこようとはな。なんとなくバツが悪い。
『また勝負ですか? 今度は負けませんよ』
ミリオンの奴はなんだか嬉しそうだな。何故そんな思考になる? このバトルジャンキーめ。
さっさとフラグメントだけ寄こせと言いたいところだが、こいつも独りぼっちで相当退屈してるんだろう。仕方ない、付き合ってやるか。
一度勝った相手に次の対戦でボコボコにされるなんてのは、対戦ゲームじゃよくあることだ。
それが面白くもあるんだがな。まあ、状況的に今回は負けても殺されないとは思う。
前回と違って闘技場のような場所に案内される。
ツノゼミンミンと戦ったのとほぼ同じドーム状の空間だが、床の模様とかが少し違うな。あと、こっちの方が二回りくらい広いようだ。
お互いかなり離れた場所からスタート。俺が不利になるが、ハンデってことでいいだろう。
ミリオンは最初からサブアームを展開して本気モードだ。
正面からビームの雨が飛んで来る。そして、そのうちいくらかは途中で虚空に消える。
消えた分が厄介なんだよな、全方位からワープアウトしてくるんだよ。
初見の時は何が何だかわからなかったが、タネとシカケを知ってしまえば、ただのワープゲートを使ったトリックではある。
俺だってもうその技は使えるからな。ビームを避けずにワープゲートを展開して吸い込む。出口は適当にミリオンの方に向けておけばいい、ひょっとすると当たるかもしれないし。
当たらなくても、多少でもプレッシャーを感じてくれれば儲けものだ。
ワープゲートの取り扱いも剣を飛ばすのと似たようなもので、十組くらいはそう苦労せず操れる。それ以上となると、ちょっと気が散って戦闘に集中できないな。
複座型の機体とかならその辺は余裕がありそうだが、人間関係に気を遣わなきゃならんのがデメリットか。
全て一人でこなすのがやっぱ最強かな? ベティちゃんのサポートがあれば、わりとなんとかなる部分も多いしな。
ただ手数だけ増やしたって、当たらなければ意味がないのだよ。
ミリオンが同時に開いて来るワープゲートは三組程度と案外少ない。
急に近場から飛び出して来られると対処が間に合わないが、ワープゲートの出現位置を予測することで対応する。
同じ場所にこちらのワープゲートを展開して、出て来るビームを吸い込んでしまえばいい。
久しぶりの命懸けじゃない戦いは、やっぱり楽しいな。
互いにビームを転移させまくる攻防は、テニスや卓球のラリーにも似た楽しさがある。
俺はまだまだワープゲート初心者だから、単純にラリーが続くだけで嬉しい。肩の力を抜いて練習させてもらおう。
何しろ相手は本家本元だからな。対峙しているだけで学べることも多い。
そういえば、いつからかジョイスティックやボタンの操作は補助的なものでしかなくなっている。まともに操作してたんじゃ間に合わないというのもあるな。意識するだけでリンクスを自分の体のように動かせるから問題ない。
ドロイドにだって憑依できるくらいだし、やってることはそう変わらんか。反応速度が跳ね上がって便利だが、人類にとってはいささか危険なテクノロジーかもしれない。
体を動かさなくても考えるだけで何でもできる世界か。きっと運動不足で皆太るだろうな。そのうち脳以外が退化してしまうかもしれないぞ。
戦闘中に馬鹿なことを考えていられる程余裕があるのも、それだけ俺が強くなったからだろう。
でも考えてみれば、海面に激突して死にかけたくらいで、特に修業とかしてなかったな。
成長期? なんだろうか。戦闘力的な意味で。
さすがミリオンは中ボスだけあって、バリアもライフゲージもスキュータムなんかとは桁違いなんだけれど、それでも結構減ってきている。
送り返したビームがたまにかすってしまっているようだ。あいつ、避けるの下手だからな。
射撃戦の練習のために、今回はなるべく接近戦には持ち込まないつもりだったのに。このままでもあっさり勝ってしまいそうだ。
一応、奴のライフがジリジリ回復していってるところを見ると、自己修復能力だって凄いんだろうけどな。それでもトータルだとマイナスなんだよ。
送り返したビームが立て続けにヒットすると、さすがにライフがごっそり減ってしまう。
当てるつもりじゃなかったんだが、こんな時に限って何故かよく当たるんだ。見当違いの方向に流してしまってもいいのだが、露骨に手加減するのも相手のプライドを傷つけてしまうだろう。
接待プレイで最も重要なのは、気持ちよく相手に勝たせてやること。なんだったら気持ちよく負けさせてやってもいい。
わざと負けて相手を喜ばせようなんてのは、三流の考えることだな。
とにかくミリオンの奴を満足させてやって、フラグメントを頂こう。
というわけで、とびっきりのネタ技を披露するとしようか。
別に舐めプするわけじゃあない、ハイリスクな超必殺技みたいなのを思いついただけだ。
「燃え上れ俺のリビドー! 飛べよ剣! 未完の超必殺技! 問答無用! 空前絶後! 天地無双! 一挙両得! そもさん説破! 飛燕断空斬りいいっ!!」
わざとらしく見得を切りながら、オーバーアクションで剣を投げつける。いきなり技を出したらミリオンが避け損なうかもしれないからな。スーパーロボット風味に長口上で叫んでみた。
剣をただ飛ばすだけじゃない。さらにワープゲートで瞬間移動させる。
絶対凄いコンビネーション技になると思ったんだが、見た目は意外に地味だな……というか、視認し辛過ぎてそれ以前の問題か。
せっかく考えた必殺技だったが、華がない。
おかげでミリオンに命中してしまう。大丈夫だろうな? まさか、やっちまったか?
『さすがです。わざと目立つ真似をして注意を引きつけ、虚をついてきたのですね』
ボロ負けしたというのに、ミリオンは嬉しそうだ。まさか、こいつ、マゾなのか?
真っ二つに斬られたにもかかわらず、ミリオンは無事生きていた。どうやらあの闘技場は一種のバーチャル空間だったみたいだな。そうとわかっていれば、もっといろいろ試せたのになあ。
まあいい、実戦でワープゲートを使いこなす勘どころはだいたいわかった。そんなに凝ったことをしないでも、実に簡単に敵を倒せてしまうぞ。結構ヤバい技かもしれん。
凄い威力にミリオンも喜んでいるし、結果オーライだ、さあ、今度こそ宇宙飛行のフラグメントを貰おうか。
『そのフラグメントクリスタルなら在庫切れです。宇宙要塞まで行けば確実に残っているのですが』
RPGでお約束のたらい回しイベントかよ。
俺は好きじゃなかったな。現実だけで十分辛いんだから、ゲームくらいサクッとクリアさせろと言いたかった。
まあ、ゲームみたいだけどゲームじゃないんだし、その辺は百歩譲って仕方ないとしよう。
だが、ちょっと待て。宇宙要塞だと? やっぱり宇宙にある要塞なんだろうな。
そもそも、宇宙をまともに飛べないから宇宙飛行のフラグメントが欲しいんだぞ。
どうやって取りに行けばいいんだ? おい?