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俺のロボ  作者: 温泉卵
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海のミリオン

 

「ほこらって、もっとちんまりしてるイメージだったんだけどなあ」

 

 居並ぶ巨石像を見上げていると、ついそんな言葉が口をついて出てしまう。

 入り口の両脇に二体ずつ、計四体の巨人の立像が岸壁に刻まれているのだが……エジプトにあるというアブ・シンベル神殿を彷彿させるレイアウトでありながら、明らかにこっちの方が数段でかい。

 

 エジプト、行ったことないけどな。今時、海外旅行は金があったって行けない。地中海周辺は特に治安が悪いらしくて、許可がなかなか下りないからなあ。

 エジプト観光がしたければ、アフリカ周辺で操業している水産会社に勤めるのが早道だと聞いている。伝染病の予防接種を病気になるほど受けさせられるんだそうだ。

 ピラミッドとか面白そうだけれど、命懸けの冒険をしてまで見に行きたいとは思わないな。

 

 巨人の立像は、リンクスと比較しても半端なくでかい。ベティちゃんがゲージを表示してくれる。目盛りを読むと60メートルに少し足りないくらいか。

 

 何故か頭部だけが、異様にリアルな仕上がりだ。他の部分は古代彫刻のような様式美があるのに、顔だけとってつけたように写実的なんで違和感がある。

 頭身が明らかにおかしいしな、二十頭身くらいか? 小顔にも程がある。

 まさか、後から頭部だけ削って修正したのか? 盗掘団がわざわざそんなことをするとは思えないが、どうも心配だな。なにしろミンミンの所と違って、こっちは海面より上に突き出している。

 あっちは海に沈んで、こっちは隆起したのだろうか? 地殻変動激しすぎだろう。

 

 最果ての島とはいえ、水上にこんなにデカい遺跡が見えてたら目立つわけで、ここも盗掘済の可能性が高い。

 願わくば、ガーディアンが無茶苦茶強い奴で、盗掘団を蹴散らしてくれていたらいいんだが。

 

 門の中に入ると、長い石造りの通路が続いている。なんかスケール感がおかしいな。身長十メートルのリンクスではなく、五十メートル級の巨大ロボのために作られたような、そんな感じだ。

 でかけりゃいいってものでもないが、やはり巨大ロボなら五十メートル程度は欲しいよなあ。十メートルはギリギリサイズで、スキュータムIIのコクピットなんて身動きできないほど狭かった。

 

 そういえば、リンクスのコクピットは、いつの間にか居住性がアップしているな。明らかにゲーム筐体より広々としている。

 物理的にリンクスの中に納まりそうにないから、空間を歪めてるんじゃなかろうか? 宇宙人の科学力は、わりとなんでもありな感じだし、今更驚くことじゃない。

 

 周囲の気配に気を配りながら、ミンミンに作らせた盾剣、クラッシャーソード・改を軽く握る。一本しかない貴重な剣だが、今回は真剣勝負だ。最初から全力で行く。

 ミンミンに作ってもらった新兵器だ。結局、クダケナカッターソードという洒落の効いたネーミングは、頑なにベティちゃんに却下されてしまった。うーん、単にダジャレが嫌いなだけじゃないか?

 

 壁の狭間のようなスリットから、銀色のボールのようなメカが次々に飛び出してくる。ドローン的な何かだろう。ぶら下げているビームガンっぽいのを向けてくるので、剣の間合いに入った奴から切り捨てていく。

 

 侵入者を撃退するだけなら、通路の端にビームガンを設置して撃てばいいだけなのに、わざわざこんなオモチャを出して来るとは……明らかに手加減してくれているな。

 

 おまけにボールのビームガンは、発射直前に銃口が赤く輝く親切仕様だ。タイミングを合わせて剣を振るだけで楽にビームを斬り払える。

 ボールの数が増えるにつれて、難易度は上がっていくものの、微妙に時間差をつけて撃って来てくれるので何とでもなる。

 

 たとえ飽和攻撃されたところで、通路という地形を活かせばまとめて切り払えるな。前後に挟まれると厄介なので後ろに回り込まれないように、すれ違う時に全て落として進む。

 

 あ、でもこのパターンが続けば、追加のボールが出現したらどのみち挟撃されるよな。

 真・Xキャリヴァーも取り出して、二刀流に切り替える。

 両手剣の二刀流とか、普通なら重過ぎだが、剣を浮かせておけば問題ない。派手に飛び回らせるより、こういう地味な使い方が便利だな。

 

 石造りの通路が終わると、SFチックなホールの様な場所に出た。ホールの中心部には大きな柱。左右には別の通路の入り口か。

 ボス部屋って雰囲気ではないな。通路っぽ過ぎる。スケールはでかいが、ただの三差路だ。

 

 柱を回り込んでみると、奥にも通路がある。四辻のど真ん中に大きな柱が立っていただけか。通行の邪魔なだけじゃないか。

 

 まあ、無意味にスケールがでかいのは、メカモノダンジョンっぽくはあるよな。どの道を選ぼうかと迷っていると、ボールがどんどん湧いてきた。


 ザコ敵のバリエーションが少な過ぎてちょと呆れる。だが、このボール、見た目こそ最弱だが、なにげにスキュータムIIより強い。

 ビームガンのチャージに時間がかかるらしく連射はして来ないが、その分一発の威力はある。斬り払う時の手応えからして、まともにくらえば即死コースだ。

 

 このボール達が盗掘団からお宝を守ってくれていると考えると、頼もしくはある。

 スキュータムIIの大群が侵入して来ても、あっさり返り討ちにしてしまいそうだ。泥棒はそんな割に合わない真似はしないだろう?

 

 よし、横道に逸れずに真っ直ぐ進もう。それなら少なくとも迷うことはないだろう。

 ゲームじゃないんだし、普通は正面に重要な施設を配置するんじゃないか?

 

 ダンジョン攻略のルートで迷うなんて、子供の頃に初めてゲームをやった時以来だな。慣れるとすぐ適当になって、それでもクリアできるもんだからますます適当になっていったんだ。

 

 初めての時のときめきを、少年の日のあのドキドキ感を思いだす。

 大人になると感性が鈍くなるのか、命懸けのゲームでないとドキドキしないんだよな。つまり、冒険するなら子供の頃がコスパが良い?

 昔は裏山にカナブンを探しに行くだけで大冒険だったからな。実に安上がりだった。

 

「おっにがでるか、じゃがでるかー、なっにがでるかな、おったのしみー」

 

 作詞作曲俺の歌を口ずさみながら、上機嫌で進んでいく。次の一瞬で命を失うとしても、まあそう悪い人生でもないか。

 俺とリンクスが全力を出しても勝てないなら、それはそれで仕方ない。凡ミスでやられるのは避けたいが、それはそれで油断するのが悪い。

 

 昔の侍とか、若くして死んでる人が多いし、不幸な時代だったのかと思っていたが、それは違うな。一瞬でも本当に命を燃やして生きられたなら、意外に満足感はある。

 最悪なのは飢え死にとかその辺だよな。古今東西、兵站を軽視した将軍は大勢いて、兵を無駄死にさせている。

 そういう奴に限って、自分だけはちゃっかり生き延びてたりする。戦勝国にとっては敗軍の愚将は最大の功労者だしな。中には本物のスパイだっていただろうしな。

 

 三国志なんかの調略とか陰謀とかの話も嫌いじゃないんだが、やっぱり俺はシンプルに武を競うのが性に合っているな。張飛や呂布なんかとは美味い酒が飲めそうだ。

 そういえば、ビームソードをくれたイケメンリザードマンも悪い奴じゃなかったな。

 殴り合って友情が芽生えるとか、マンガの世界限定の話だと思っていたが、急に腑に落ちたぞ。自分の同類だとわかれば、仲良くなるしかないじゃないか。

 

 

 まとわりつくボールを適当にいなしながら進んでいくと、どんどん通路が太くなっていく。やはりまっすぐ進んで正解だったようだ。

 

 金属なのかコンクリートなのかはわからないが、SFチックな材質で構成された壁面。謎の幾何学模様を描くパーティングラインで、タイルユニットが組み合わされているようだ。

 待てよ、ユニット一つずつならインベントリに収納できるサイズじゃないか? こんなの持って帰って何に使うんだって話だが……あまり余計なものを拾っていたらベティちゃんが怒る気もするが……記念に一枚くらい欲しいかも。

 

 下手にユニットを抜いたら、ダンジョン全体が崩壊するなんてオチもあり得るので自重するが、インベントリの可能性は無限だよな。

 

 ボールを収納できないかな? なんか駄目みたいだな。ゲームとかでも普通敵は収納できないしな。

  

 なんとなく、水力発電所っぽい場所に出た。奥の方にダムみたいな壁も見えて来たし、本当に発電所かもな。宇宙人の癖にローテクじゃないか?

 太いパイプみたいのが何本か、ダムの上から下まで繋がっている。形状的に中を通っているのは水じゃなさそうだ。切ってみればわかるか?

 

『来ましたよ』

 

 来たって、あいつのことか? まあ、ここのボスなんだろうな。

 

 ツノゼミンミンにちょっと似た感じの機体が、ダムのへりに立ってこちらを見下ろしている。

 下半身はツノゼミンミンと共通っぽい、同系列なのか? 派生型か、特別仕様かな?

 

 基本スペックはリンクスより桁違いに上の筈だ。ボスだしな。

 

 ボール達が引き上げていったところを見ると、タイマンをご希望かな? 素直に転移のフラグメントクリスタルをくれるなら、戦う必要はないと思うんだがな。

 奴だってミンミンの仲間じゃないのか? 今でも銀河連邦と戦い続けているんだろう?

 

「ワレワレ、テキ、チガウ。ハナセバワカル」

 

 片手を上げて話しかけてみる。

 

『何故カタコトなんですか? どう翻訳すればいいんですか?』

 

「そこは、ニュアンス重視で」

 

 ベティちゃんなりに頑張ってくれたんだと思う。だが、返答の代わりにビームが飛んできた。

 

 いきなり本気で当てに来たな。リンクスの上体を捻ってギリギリかわす。

 いかんいかん、ちょっと油断してしまった。気を引き締めなければ、命がいくつあっても足りやしない。

 

「交渉決裂か」

 

『重要拠点のガーディアン相手に、交渉は無理でしょう』

 

 転移のフラグメントクリスタルって、重要なアイテムじゃないって言ってなかったか? まあいいや、強敵と戦うのは嫌いじゃない。

 

 奴は普通にビームガンで攻撃して来る。剣は飛ばして来ないのか? そもそも剣を装備していないようだ。

 

 相手が射撃機体だとなると、懐に飛び込むまでは避けゲーになるな。ゲームで何百、何千回と繰り返して来たシチュエーションだ。

 

 高い場所から奴はリンクスを見下し、強者の余裕で攻撃して来る。これがホントの上から目線、なんちゃって。

 そういえば、ビーム粒子って重力の影響を受けるみたいで、横から見ると僅かに下向きに曲がるんだよな。高所からの攻撃だと、多少威力が上がったりするんだろうか?

 どのみち当たれば一発で終わりだから、誤差の範囲内ではあるな。

 

 さすがはボス、正確な射撃だ。

 ただ正確なだけじゃない、俺の回避の先を読んで、フェイントも織り交ぜて来る。

 なんの負けるか、こっちはさらにその先を読んで動く。

 

 これだ。これが戦いだよ! 互いに相手の二手三手先を読み合う詰め将棋のようなバトル。見た目は地味だからギャラリー受けはしないが、なんか俺、本当に生きてるって気がする。

 

 なんかもう、死とかそういうのはあまり気にならんな。

 恐怖心が麻痺した訳じゃない。単に優先順位の問題だ。

 本能が、闘争本能って奴が、勝つための最適解を探せと訴えかけてくるんだから仕方がない。

 

 俺は決してバトルジャンキーではない。人間の本能だから仕方ないんだ。

 

 銀河連邦とやらに言わせれば、そういうのが駆逐すべき野蛮な衝動なんだろうな。

 石器で殴り合っていた頃の猿じゃないんだから、進化したなら平和的に生きなさいって言いたいんだろう。

 確かに、奴らの言い分にも一理ある。今の時代、本気で戦争なんかしたら、地球は数日で丸焼けだ。

 だが、それならば自滅するまで放っておいて欲しい。奴らの自己満足のために太陽系ごと消去されちゃたまらない。

 核戦争で人類が滅びたって、ネズミやゴキブリあたりは生き延びる気がするしな。地球は死の星にはならない、何度でも甦るのさ。

 

 ほんの一瞬。瞬きをするよりも短い時間の間に、なんか悟りのようなものを開いてしまった。

 

 俺が命を賭して戦うのは、ゴキブリの未来のためであったらしい。奴らのことは大嫌いなんだがな。

 でもまあ、それでもいいや。太陽系が丸ごと消滅するよりはずっといい。

 

 悟りを開いた俺は強くなった。

 人は守るべきモノのために、愛するモノのために戦うのだよ。対象はゴキだけどな。

 まあ、カッコつけて言えば、地球に住む全ての生命のために戦うのだ。

 

 勘の冴えがよくなった気がする。相手の動きの先が手に取るように読める。

 先読みくらい今までだって調子のいい時にはできたことだが、何かが決定的に違う。

 

 見える、全てが。

 

 いや、今までの自分には何も見えていなかったってことがわかっただけだ。


 目の前の敵は、間違いなく今までで最強なんだが、なんだかとっても小さく見える。

 お前のそのビームガン一丁きりでは、今の俺を追い詰めるのは無理だよ。

 

 相手もそれがわかったのだろう。肩パッドを展開して隠し腕を展開する。

 細いサブアームが……結構うじゃうじゃ生えてきた。千手観音みたいだ。実際には千本もないけどな。

 なら名前はセンジュか? いや、仏様に失礼だ。ならばゲジはどうだ?

 

 ゲジゲジって名前でかなり損してるよな。ゴキを食べてくれるのに、ゴキより嫌われている。英語だとセンチピードだっけ? わりとカッコイイじゃないか。ベティちゃんは英語のネーミングだとうるさく言わない傾向があるしな。決めたよ、お前の名はセンチだ。 

 センチのサブアームに装備された二桁のビームガンが一斉に火を噴く。細腕の割に結構高火力なのを装備しているな。さすがはボスキャラだ。

 

 周囲を埋め尽くす程のビームが飛んで来るのは圧巻だ。避けるというより、タイミングよく安全地帯に移動することで事なきを得る。

 

 真・Xキャリヴァーが十本もあれば、周囲に浮遊させてカッコよく防ぐんだがな。見た目は間違いなく絵になるぞ。剣の耐久を無意味にすり減らすだけで、特にメリットはないが。

 

 なんか後方からもビームが飛んで来るようになった。勝てそうになくて増援を呼んだのか? いや、違うぞ。空中から突然ビームが出現している。超常現象か?

 

 訳は分からなくても、未来が見える今の俺には避けるのはただの作業だ。安全地帯を計算し、敵の攻撃を誘導し、間に合わない場合は斬り払い、時にはおまけバリアーやタイムスキップまで駆使する。

 

 エネルギーゲージの残量が半分を切った時はヒヤッとしたが、勝ちパターンがわかってくるとエネルギーを節約できるようになってきた。

 それだけ無駄な動きが多かったってことだな。少なからずいい気になっていた自分が恥ずかしいぞ。

 

 戦いを通して一つわかったことがある。強いライバルの存在が、俺をさらに強くしてくれるんだな。だからもっと何かしてこい。お前の力はこの程度じゃない筈だ。

 

 

 全方位から降り注ぐビームの雨を避け続けているうちに、だいたい謎は解けた。奴にはビームをワープさせる能力があるようだ。

 空間を曲げるのか繋ぐのか知らんが、吸い込まれるように消滅したビームが、別の地点から向きを変えて飛んで来る。

 

 やってることは凄いんだろうが、これってボールを数十機用意すれば似たようなことができるよな。

 

 こっちの攻撃をワープさせられたりしたら面倒だから、ビームガンは使わないでおこう。待てよ? 剣の攻撃もどこかへ飛ばされたりするんだろうか?

 敵を斬ったつもりが、背後の空間から切っ先が飛び出してきたりしたら、ちょっとシャレにならない。

 

 ならば!!

 

 案外あっさり相手の懐に飛び込むことができた。真・Xキャリヴァーで真っ二つにすることもできたが、明らかに何か狙ってる雰囲気だったのでやめておく。

 そのかわり、奴の頭部ユニットに左手でアイアンクローをかけて振り回す。リンクスの方が小柄で軽量なので、どちらかといえばこっちが振り回されているが、いいんだよ。

 

 足払いをかけて寝技に持ち込み、腕ひしぎ十字固めからのサブミッションフルコースに移行する。

 

 予想外の展開だったのか、敵は一瞬為すがままだったが、力任せにリンクスを振りほどこうともがき始め、サブアームのビームガンを零距離射撃してくる。

 おまけバリアーで銃口を塞いでいるから暴発するだけだけどな。

 

 何かの力場がバリアーと干渉しているな。おそらくはワープのからくりだろう。

 

 どうやら空中に転移門的な何かを、自由に出現させることができるようだ。

 面白そうな特技だな。使いこなせれば可能性は無限じゃないか。関節技への対処は考えてなかったようだがな。

 

 恐ろしく丈夫な奴で、逆関節でメリメリ引っ張っても壊れない。

 仕方ないからその場に浮遊させておいた真・Xキャリヴァーをゆっくり動かして、慎重にサブアームを刈り取っていく。

 

『守護者は降伏しました。弄ぶのはやめてあげてください』

 

「ありゃ、意外に根性ないのな? あと、コイツの名前はセンチな。異論は認めるが対案を出すこと」

 

『では、サウザントアームズはどうでしょうか?』

 

 対案、出して来るんだね。

 発想は俺とほぼ同じようだ。ベティちゃんもなかなかやるようになったな。

 

「センスは悪くないが、少し長いかな。あと、そいつの腕は実際には百本もないから。数えてみるか?」

 

『この場合の千は、多いという意味なのですが。では、いっそのことミリオンというのは?』

 

 ミリオンか、百万って意味だっけ? ありがちだな。だが、それがいい。大風呂敷広げましたって感じがコイツにぴったりだ。

 いや、センチだとイマイチ訳わからんというか、機体名としてどうよって感じだったからな。

 

「よし、採用。お前は今日からミリオンだ」

 

 そう宣言すると、センチ改めミリオンは屈辱にビクッと体を震わせる。

 実は名前をつけてもらえて嬉しかったりして? いや、それはないな。

 

『お前達に言いたいことはいろいろあるが……いや、敗者はただ従うのみ』

 

 なんだよ、こいつマジメ君キャラかよ。

 ミンミンと同じく中性的なマシンボイスだが、俺の中では密かにクッコロさんキャラに決定だ。

 

『転移のフラグメントクリスタルを受け取りましたが、通常のものとは異なるようです』

 

 地球に戻れるような転移じゃなかったようだ。

 小さな転移ゲートを、周囲の座標に設定して使うためのものらしい。二つ一組で使えば、さっきみたいにビームをワープさせることができるみたいだ。

 

 面白そうだが、欲しいのはこれじゃない。普通の転移ができるクリスタルをよこすんだ。

 

 お目当ての物は、最初の四辻で入って右側の通路の先に山ほどあった。一つあればいいんだけどな。

 

 やはりこのダンジョンは盗掘団に荒らされていなかったようだ。ミリオンは結構強いし。ボールによる防衛システムも生きてるしな。

 

 たまに無謀な挑戦者が訪れるようだが、四辻に至る前にボールに撃退されてしまうようだ。

 

 俺がダムだと思ったのは、ボールの生産工場だそうだ。大気中の微量なマテリアルを回収して、半永久的に稼働しているらしい。

 

 せっかくなので記念にボールを何機かお土産にもらっておく。

 

 ミリオンは、今でも銀河連邦と戦い続けているつもりだったようだ。まあ、好きにするがいいさ。頑張ってくれたまえ。

 

 敵対勢力を残したままにしておくとか、どうやら、銀河連邦は想像以上に腰が重いようだ。巨大組織ならさもありなん。

 太陽系まるごと消滅させるというやり方も、単に戦うのが面倒くさいだけなんじゃないかと思えてきた。

 

『本当にそれだけでいいのですか? 敗者は全てを奪われるものだと理解していたのですが』

 

 ミリオンはやはりクッコロさんで間違いなかったみたいだ。いっそのこと名前はクッコロ大魔王でいい気もするが、あまりふざけているとベティちゃんに怒られそうだ。

 

「貴様との戦いの中で俺は随分成長できたからな。それで十分だ」

 

 少しカッコつけておく。いや、ベティちゃんもいろいろ欲しいアイテムをゲットしてたみたいだし、略奪したみたいで悪いなと思っていたんだけれどな。本物の略奪者ってのは全て根こそぎ奪っていくものらしい。

 

『さすがは伝説の地球人ということか。いつか再び戦ってくれないか? それまでにもっと強くなっておくから』

 

 なかなかいいことを言う。戦いが終わればこうして分かり合えるじゃないか。これも俺が勝ったからだな。負けていれば問答無用で殺されていただろう。

 

 銀河連邦とも仲良くなれるかもしれないな。俺が勝った時限定で。

 

 とりあえず地球に戻ったら、ビリー氏にいろいろ問い詰めたい。

 場合によっては肉体言語で語る必要があるが、最近パワーアップのコツみたいのを掴んだからな、負ける気がしない。

 一度や二度負けたって、倒れるたび傷つくたび、俺はもっと強くなる。最後に立っていた者が勝者なんだよ。

 

 そろそろレーションにも飽きてきたしな。

 冷ややっことか、冷しゃぶとか、さっぱりしたものが食べたい。いや、逆にカツカレーとかシカゴピザとか、ガッツリ系でもいいな。

 

 飯が先かビリー氏が先か、それが問題だ。



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