剣の舞う神殿
モチモチと赤飯を噛みしめる。別に、目出度いことがあったわけじゃない。
レーションカートンのリストの中に、缶入り赤飯を見つけて無性に食べたくなったのだ。
赤飯缶は温めて食べても美味いが、俺はそのまま常温で食べるのが好きだ。
子供の頃は赤飯なんてと思っていたけれど、樺太の基地で赤飯缶を食べてからハマった。大人になって味覚が変化したのかもしれない。
軍人さん達にも赤飯缶は人気があるが、基地外への持ち出しは厳重注意になっていたな。なんでも、マスコミに見つかると不謹慎だと叩かれるらしい。
確かに戦場や被災地で赤飯を食べていたら、一般の人にはいろいろ誤解されるかもな。腹持ちが良く、戦闘食として非常に優秀なんだけれど。
小豆の代わりにグリンピースを使った代用品もそこそこ美味いんだけれど、そもそも論として、軍はもっとしっかり広報すべきだと思う。
たかが赤飯、されど赤飯だ。戦場で死ぬ前に、最後に赤飯を食いたかった兵隊さんだっていたかもしれないんだぞ。
そして缶入り味噌汁をすする。ホットが美味しいが、これも常温で飲むのが好きなんだ。冷めた味噌汁にもまた違った味わいがあるんだよ。
爺さんが用意してくれる料亭レベルの味とは比べ物にならないが、いつでもどこでも手軽に味噌汁が飲める点が素晴らしい。
五ミリ角くらいに小さく切られた豆腐まで入っているのが、なんとも心憎い。この豆腐、どうしても最後まで残ることが多いが、それを缶を逆さにして頑張って食べるのがまた楽しいんだ。
栄養バランスを考えて、焼き鳥缶と瓶詰めアスパラも開ける。アスパラは水っぽくて微妙だな、マヨさえあればなあ……お、小袋の調味料がちゃんとあったよ! マヨさえあれば俺は十年は戦える気がする。まあ、とっととイベントを終わらせて帰還するけどな。
こういう食事もたまにはいいもんだ。
インベントリのリストには、マテリアル複製プラント×5が追加されている。他にもスキュータムIIやら、時計の針、ビームソード(文字化け)、ドロイド(文字化け)など、戦利品が加わっているのは嬉しいんだが……ドロイドまでアイテム扱いなのか。あれって生きてないか?
「意外にプラントの生産能力が大したことないよな。まあ、インベントリに入れたままでマテリアルを生産できるとか、いろいろおかしいけど」
『インベントリへの収納は、属性データを書き換えるだけですからね。アクセス権が変更されただけで、プラントは元の場所に存在したままですよ』
またベティちゃんがゲームみたいなことを言う。やっぱ、現実じゃないのかなあ?
俺としてはその方が有難いけどな。異星人とはいえ、生き物を殺すことには抵抗がある。
いや、ゲームだから現実だからとフラフラ迷うのはもうやめたいな、やめないとな。
どんな時も迷わずに一本芯の通った振舞いをしていたいものだ……うーん、そういうカッコイイ生き方って俺には無理だなあ。
なんだかんだ言っても、これからも迷い続けるんだろうな。もうそれでいいよ、その方が俺らしいってことにしておこう。
臨機応変だよ? ものは言いようだ。
ゲームだとしても、現実だとしても、どちらでも両立できるような行動をとっておこうか。あとは成り行き任せでなんとかなるんじゃないか?
行き当たりばったりとはちょっと違う。しっかり情報収集した上で、ふわっとした作戦を立てて、最後は勢いで乗り切ってしまおうか。
「ベティちゃん、教えてくれないか。俺達は今、誰かと戦争してるんだよな? この星の連中は一体何者だ? その辺の設定はどうなってるんだ?」
『この星は希少なマテリアルの鉱山であり、現状、銀河連邦の保護観察下にあります。連邦加入の全ての文明は、この星への干渉が禁じられています。連邦未加入の地球は例外ですが』
銀河連邦ってのはゲームの設定には登場してなかったような? いや、世界観としては、全宇宙を支配している的な組織はあったような気もする。
マテリアルが重要だというのはガトIIになってからの設定だったと思うが、ゲーセンでプレイしていた頃にも、ジミー君あたりがそんな話をしていたかもしれない。
「要するに、銀河連邦がマテリアルの持ち出しを禁止しているけれど、地球人は銀河連邦とか関係ないから、どんどんマテリアルを採集できるって話か」
少年にヤクの運び屋をやらせるマフィアみたいなものか? ちょっと違うか?
『未開な蛮族に対して星間法を適用することはできません。やり過ぎれば害獣として駆除される可能性はありますが』
銀河連邦がレイシストだった件。宇宙の正義ってもっとこう、進歩的なものだと思っていたよ。
「害獣って、地球人が?」
『はい、銀河連邦への加入資格を喪失した時点で、地球人は知的生物から獣に格下げになりました』
「資格喪失って、なんで?」
『第三の火を、同族に対する武器として使用しましたね? 銀河連邦の基準では準駆除対象になり得る行為です』
第三の火って何だ? ああ、核兵器ね。そういえば、二十世紀の日米戦争の末期には、UFOが頻繁に目撃されたらしい、その当時の話か。
つまり、銀河連邦とやらの連中が、野蛮人の惑星を調査に来ていて、その愚かさに失望したんだな。
「やらかしたのはアメリカ合衆国なんだが」
『地球人類の連帯責任ということですね。第三の火を手にした文明は、保護対象ではなくなります。駆除される際には、太陽系ごと処分されるでしょう』
核兵器を手にした野蛮人とか、物騒過ぎるもんな。銀河連邦の正義もわからなくもない。独善的過ぎるけどな。
太陽ごと消されるとか、ゲームの設定だとしてもスケールがでかすぎてピンと来ないが、要するに地球が大ピンチじゃないか。
マテリアルに手を出しちゃ駄目じゃん! 危険が危ない!!
地球がまだ無事ってことは、ある程度の許容範囲はあるみたいだけれど、わざわざ火中の栗を拾う意味がない。
悪いのはビリー氏か? 全ての元凶か?
「ビリー氏は何を考えてるんだよ? あいつは一体何者なんだ?」
ダメ元で聞いてみる。
『彼は……マテリアル密輸の片棒を担がされている、宇宙海賊の下っ端に過ぎませんね』
宇宙海賊って何だよ? いや、宇宙の海賊だろうってことはわかるんだが、ひ弱なビリー氏と海賊のイメージがどうにも結びつかない。
その宇宙海賊ってのは、銀河連邦に加入している合法的な組織らしい。いや、合法的な海賊ってなんだよ! とツッコミたくはなるが。
なんとなく東インド会社みたいなのを想像して、無理やり納得してみる。
宇宙海賊達は、マテリアルが欲しかった。だけど、自分達が直接取りに行くと法に触れるので、わざわざ地球人を利用してマテリアルを回収しようと企んだってことだろうな。
ビリー氏は鵜飼の鵜だったってことか、一応話の筋は通っているな。それを言うなら俺はビリー氏の鵜なわけで……ウが多過ぎだ。孫請け方式かよ。ウは宇宙の鵜ってことで、おあとがよろしいようで……
かなりショッキングな内容だが……いやあ、何でも聞いてみるもんだよなあ。この際だし、気になることは根掘り葉掘り聞いてしまおう。聞くは一時の恥だ。旅の恥は掻き捨てだからノーカンだ。
「リンクスは、その宇宙海賊が用意したロボなのか?」
『私は、この星の先史文明の遺産のようです。銀河連邦と戦い敗れ、戦利品として鹵獲された後に骨董品として保管されていました。大量に複製されたレプリカの一つなのでしょうけれど』
なんと、この星の連中は昔は銀河連邦と戦ったことがあるらしい。なかなか見上げた根性だ。
星に歴史あり、銀河の歴史がまた一ページ。
負けたのになんで星系ごと消去されなかったんだろう? ああ、そんなの聞くまでもないか、マテリアルを産出するからだろうな。
カニメカ達は地球における油田のような存在ってことだ。産油国の悲劇みたいのが、この星にも起きたんだな。
「それで、地球人の優秀なパイロットを探す必要があった。そのためにビリー氏が作ったゲームが、ガーディアントルーパーなんだな」
前からそうじゃないかと思ってたんだよ。全ては俺が推理していた通りに、一本の線で繋がった。
『パイロットとして優秀かどうかは、あまり重要ではありませんでした。我々が気に入るパートナーであればよかったのです』
待てよ、ってことはつまり、俺達はロボットバトルを競っているつもりでギャルゲーをしてたってことか?
いや、この場合、攻略対象は俺達プレイヤー側なんだよな。ベティちゃんが乙女ゲーをしてたってことでOK?
ベティちゃんは同時並列的に、見所のあるリンクスのプレイヤー達をサポートしていて、最終的に一番気に入った俺を選んだようだ。
他の機体のプレイヤーも同じだったみたいだな。つまりサジタリウスのAIに最も気に入られたプレイヤーがタケバヤシか。趣味が悪いAIもいたものだ。
自分が勝てていたのが、ゲームが上手かったからじゃなくて、ベティちゃんと相性がよかったからというのは、一番ショックな情報かもしれない。
俺って最近はそこそこ強くなったよな? 勘違いじゃないと思いたい。だが、ベティちゃん抜きだとスキュータムIIすらまともに操縦できなかったしな。
まあいいか、どうせリンクス以外で戦う気はないんだし。とりあえず、悪い奴が何者かは理解した。
一番悪いのは宇宙海賊だし、地球に戻ったらそいつらをやっつけよう。これがゲームだろうが、現実だろうが、それが正解で正義だ。
ビリー氏についてはどうしたものかな。全てがゲームなら、自作のゲームに悪役で出たがる変な奴でしかない。適当に相手してやればいい。
だが、これが現実なら、とんでもない裏切り者だ。売国奴という言葉はあるが、売星奴? 宇宙海賊のついでにブッ飛ばしてやる。
厄介なのは銀河連邦だな。地球人をサル扱いとか、どうにも気にくわない連中だが、太陽系を丸ごと消せるような相手ではそもそも勝負にならない。
かかわらなくて済むなら、それが一番だ。
結局のところ、何をするにしても地球に戻らなければ話にならない。つまり、やることは今までと同じだ。
まあ、銀河連邦とやらを刺激しないように、この星の連中にはできるだけ優しくしようか。
真・Xキャリヴァーをくれる神殿っていうのは、ベティちゃんの説明では先史文明の遺跡らしい。銀河連邦と戦った連中が作った基地だな。
当時の施設がまだ稼働していて、武器の補給が可能みたいだ。
敵性の軍事施設を放置とか、銀河連邦は馬鹿なんだろうかと思うが、どうもクモ脚メカなんかの湧きと関係しているみたいだ。
遺跡を壊してしまうとあいつらがポップしなくなるとか、そういう理由らしい。
ゆらゆらと海流に乗って漂うのもオツなもんだが、目標地点から少々ズレてしまった。やはり自然の力はあてにならない。まあ、空を飛べば多少の誤差など一瞬で修正できる。
最初から飛んでいれば早かったのは間違いない。だが、たっぷりの睡眠とゆっくりとる食事、人生においてこれ以上に重要なことがあるだろうか? ブラック企業で地獄を見れば、誰だって気づく真実じゃないか。
考える時間も必要だったし、おかげで銀河連邦の情報も知ることができた。のんびりするのも無駄ではないってことだ。
遺跡のある場所は、広域マップではただの離れ小島に見えたんだが。近づいてみると結構でかい島だった。
映画で見た宝島くらいはあるな。伝説級の剣なら財宝と言えないこともない。本物の宝島だな。
白い砂浜に、ヤシの木……じゃないか、なんかソテツっぽい植物が生えている。そんなのでも、南国っぽい雰囲気は一応ある。
無人島だから、俺専用のプライベートビーチか。悪くないな。
『地形と記録が一致しないようです。目標地点が水没している可能性がありますね』
「海底神殿に眠るお宝か。ありがちだけど、ロマンあるよな」
オリジナルリンクスの持っていた情報よりも、海水面が多少上昇しているようだ。あるいは島全体が地盤沈下でもしたのか?
いずれにせよ、地形そのものはたいして変化していなかったようで、ベティちゃんがチョイチョイっとデータを修正すると、3Dマップが更新される。入り口はすぐに見つかった。
周囲にはギリシャの神殿っぽい列柱が残っている。天井はどこにも見当たらないが、崩れかけた廃墟というのも、実に趣があるよな。
サンゴに覆われた柱の陰からは、トライデントを構えた人魚姫でも飛び出して来そうな感じだ。ま、実際にいたのはウミヘビっぽい生き物だったけどな。
シーサーペントとでも言うのか? かば焼きにすれば十人分以上はありそうだ。重要なのは味だが……
遺跡のほぼ中央、巨大な一枚岩の床に、ぽっかり開いている四角い穴。地下への入り口なんだろうが、艦載機用のエレベータよりでかいな。中は異様に真っ暗で、リンクスのスキャナーでも何も見えない。
「それじゃあ、ダンジョンアタックといきますか」
狭い通路なんかだとバスターソードの方が取り回しが良さそうだが、あえてXキャリヴァーを装備する。
どういうルールかわからないからな。クリア報酬が真・バスターソードになったりしたら嫌じゃないか。
一歩踏み込むと、穴の中に水は侵入していなかった。バリアーのような力場が天井の水を支えているようだ。なんというか、とんでもないエネルギーの無駄遣いだよ。
内部に入ってしまうと、ちゃんとスキャナが機能する。水を押しとどめているバリアーが、光とかも通さない仕組みなんじゃないか? よくわからんけれども。
周囲の通路の壁は、磨き抜かれた黒曜石のようにも、手抜きのゲーム画面にも見える。
マップ画面には、フライパンのような地形が表示されている。
リンクスの現在位置は、フライパンの柄にあたる部分だ。つまり、この細い通路を進んで行けば、円形闘技場ってパターンだろうな。
雑魚敵が出るとしたら通路の部分だろうな。いきなりボス戦の可能性が高いが。
そもそもベティちゃんの説明が正しければ、ここって友軍の補給基地みたいなものなのに、何故戦闘イベントが発生するんだ?
ゲームだったら、何かと理由をつけて戦闘イベントは起きるものだが、ああいうのってリアリティを台無しにしてるよなあ。
敵はエンカウントせず、通路は終わってしまう。扉はなかったが、大部屋に侵入すると背後の穴は消失。逃がさないってか? 罠にかかったようでいい気はしないな。
予想通り円形闘技場って感じだな。観客席はなく、壁はそのままなだらかにドーム状の天井に繋がっている。
床には魔法陣のような光る線が描かれている。グリッド、目盛りのようなものかな。
比較対象がまったくないと、距離感が掴みづらいからこれは助かる。
実用的だが、手抜き感が半端ない……隠しコマンドで出現するテストプレイ用ステージですかここは?
覚悟を決めて同心円の中心部に向かう。どうせある程度近づいたらボスがエンカウントするんだろ? こちとら全てお見通しよ。フィールドの手抜き具合からして、演出なしにいきなり出現しそうだよな。
明らかに他より輝度が高い円があるのが、どう見ても怪しい。ここから内側に入ったらバトルスタートってことか?
Xキャリヴァーを突き入れてみるが、何も起きない。リンクス本体に判定があるとかかな?
足を踏み入れても何も起きなかったが、何かのスイッチが入ったような気もする。殺気というか……誰かに見られている?
屋内なのに風の音が聞こえ始める。音は徐々に大きくなり、女の悲鳴みたいなサイレンが響き渡る。そういえばサイレンとセイレーンって語源は同じか? セイレーンっていうのはファンタジー系のゲームで時々出てくる海の妖怪だけれど、鳥だったり魚だったりよくわからん奴だよな。
よく見ると部屋の中央あたりに、黒いボロキレみたいなのがフワフワ浮いている。今まで気がつかなかったのか、それとも出現したのか? 物理攻撃の効かないゴースト系のモンスターだったら嫌だなあ。
結構小さく見えるが、おそらくリンクスと大差ないサイズだ。背景がこう何もないと、スケール感がつかみにくい。
ボロマントをまとったスキュータム? 剣を構えている、両手剣のようだ。あれが真・Xキャリヴァーか? 俺にくれよ。
近づくといきなり突きを放ってきたので、紙一重で避ける。背景がシンプル過ぎて距離感がイマイチ掴みづらい。
俺が間合いをミスった訳じゃない。
恐ろしく伸びる突きだと思ったら、剣を投げたようだな、投擲か?
まあ、どんな攻撃だろうが、前もって殺気が感じられれば避けるのはそう難しくはない。
バトルの基本であり、全てだな。
どんなに威力の高い攻撃だろうが、当たらなければ関係ない。
問題は奴の異様な逃げ足の速さだな。足の動きと歩幅が全然合っていない、手抜きのゲームでよく見るようなモーションだ。数歩歩くだけでススーっと離れていってしまう。
まるで氷の上を滑っているかのようだ。
敵を夢中で追いかけまわしていると、後頭部にむず痒いチリチリを感じる。軽く横ステップ。
さっき投擲された大剣が後ろから掠めて行った。ああ、そうか、忘れていたな。
どうやらブーメランのように戻って来たようだ。両手剣なのにな。物理法則がいろいろおかしい。
「なあ、ベティちゃん。あいつ本当に敵なのか?」
『倒してしまっても問題ありません』
答えになっていない気もするが、まあいい、倒してしまおう。
相手はリンクスより機動性が上だ。接近できないと斬ることができない。ビームガンに切り替えるか? 俺の射撃の腕じゃなあ、あれだけ動きまくられると当たらんよなあ?
また剣を飛ばして来やがったが、わかっていればどうってことのない攻撃だ。
互いに決め手を欠くとなると、この勝負は決着がつかない。ドロー待ちか? 引き分けでも剣がもらえるなら、別にそれでもいいぞ。
奴もこのままじゃ駄目だと気がついたのだろう。どこからともなくもう一本剣を取り出し両手で構える。両手剣で二刀流かよ、力持ちじゃないか。
予想通り、二本とも投げてくる。ほとんど力を入れてないみたいなのに、凄いスピードで剣が飛んで来る。
明らかに投げた後にさらに加速してるぞ。見えないロケットエンジンでもついてるんだろうか?
まあ、ホーミングしてくるしな。見た目は剣だが、実質ミサイルだと思えばいいだろう。
Xキャリヴァー以上の攻撃力のミサイルとか、ズルいとしか言いようがない。どうせ当たらないからいいけどな。
二本の剣はリンクスを追ってくるが、理不尽なほど高性能ではないようだ。普通に歩きで躱せるってことは、店売りのミサイル程度の性能しかないってことだな。
あれが本当に真・Xキャリヴァーなら、当たれば即死だから、スーパーレア以上の価値はあるけどな。
どうやらただ飛ばすだけでなく、空中で突然スピンさせたりもできるらしい。斬りつけるような動きで脇をかすめていく。
面白そうだな。ますます欲しくなったぞ、絶対手に入れてやる。
死角に入ってから急加速して突っ込んで来たりもするし、なかなかトリッキーだ。回避のトレーニングにいいかもな。
なるほど、大事な剣を支給する相手には、それなりの資格を求めるってことか。これくらいの攻撃は避けて当然ということなのだろう。
試練系のバトルだとすれば、謎解き要素も隠されているのかもしれないな。ある種の知能テストだ。
要するに、攻略するにはパズル的要素を解く必要があるのだろう。
俺にはもう見当がついてるけどな。敵のホーミング兵器を上手く誘導して、敵本体に当ててクリアしろってことだろう? ありがちだなんだよ。
そのためには、攻撃のパターンを見切って、彼我の立ち位置を調整しなくてはな。
円形のバトルフィールドというのは、こういう時有難いかもしれん。加えて敵本体は、追いかけずに放置しておくと、中央部に戻っていく思考パターンのようだ。
敵本体と、飛ぶ剣の間にリンクスを滑りこませ、三者が一直線になるように位置取りをする。
あとは剣の突進をギリギリまで引き付けて避けるだけ。
正解だと思ったんだがなあ。どうもあの剣は空中でピタっと急停止もできるようだな、惜しかったよ。
だが、自分の武器で死にかけた敵さんは、どうやら本気モードになった。一応成功か?
ボロマントを脱ぎ捨てた奴は、なんというかクリスタルな感じだった。クモ脚やカニメカなんかに似た質感だ。
だが、一応は人型だ。尻尾は生えてるけどな。リザードマン型?
頭のツノや、大げさな肩アーマーの先や、つま先がやたらとんがっているデザインだ。
ツノゼミという奇怪な昆虫が実在するが、あいつらに匹敵するアンバランスさだぞ。
よし、決めた。奴の名はツノゼミンミンだ。なんかサイレンみたいな叫び声をあげてたし。
正体を見せたミンミンは大きな肩パッドを展開していく。追加の腕が姿を現したな、いわゆる隠し腕ってヤツだ。
左右に二本ずつ追加、元の腕と合わせて六本腕か……阿修羅だな。
追加の腕にも全て、真・Xキャリヴァーが装備されている。六刀流か、怪力過ぎるだろう。
まあ、カラクリは見抜いたけどな。念動力的な謎の力で剣を浮かせてるんだ。
奴は三本の剣を飛ばして来る。二本だとたいしたことなかったのに、一本増えただけでかなり難易度が上がったぞ。
三本の剣を避けるコツは、全ての剣の現在位置をイメージすることだな。目に見えている剣だけではなく、死角に入っているのも心眼で見るんだ。
慣れるまで頭の中がムズムズしたが、乱戦の中で回避しまくる感覚と大差ないので、わりとすぐにできるようになった。
俺が余裕で避け始めると、奴はさらにもう一本剣を増やす。やはり試されているみたいだな。
四本だとさらに難易度は跳ね上がるが、基本的にやることは変わらない。ただ本数が増えただけでなく、それぞれの剣が連携して突っ込んで来るのが厄介だ。
切り払いすると、Xキャリヴァーが破壊されそうだしなあ。避ける順番をミスったら詰むので、かなりの先読みが要求される。
未来を予測するだけでなく、避け易くなるように敵の剣を誘導する。
二手三手先を読んで、詰みそうなら潔く別の手に切り替える。失敗にどれだけ早く気付けるかも大事だな。
結構ギリギリ感があったのに、さらに容赦なく五本に増やされる。もはや考えていては到底間に合わないレベルだな。直感を頼りにひたすら頑張って避けまくる。詰みそうになっても意地で避ける。なんだこのマゾゲーは。
これは、いきなり五本だと無理だったな。徐々に慣れてきたせいでなんとか対応できている。
そして、やっぱり六本目が投入された。
もはや訳が分からんレベルだ。これならスキュータム百万機を相手にする方が余程楽だろう。
それでも諦めない。理不尽な難易度は人を絶望させもするが、やる気にもさせる。苦しみに耐えていれば、そのうち脳内麻薬がドバドバ分泌されて楽しくなってくる。
バトルジャンキーってのはこういうことか。
俺は根っから平和的な人間なんだが、こういうのは悪くない、悪くないぞ。
今この瞬間、本当に生きていると思える。生き残るとか、死への恐怖とか、そういうのは全部些細なことなんだ。
俺にビームソードをくれたリザードマンの気持ちが理解できた気がするな、あくまで気がするだけだが。
異星人と簡単にわかりあえるとか、肉体言語ってすげえ。
ああ……なんか時が見える。いや、見えるのはそんなのじゃなくて、光? 光の紐みたいのが剣とミンミン本体を結んでるな。六本あっても絡まらない。絡まる訳がない。だってありゃあ、縁みたいなものだしな。縁ってなんだ?
「きらりーん」
多分俺は覚醒したので、効果音を口で言ってみる。ベティちゃんツッコんでくれよ! 寂しいなあ。
見える! 見えるぞ!! リンクスを荒っぽく振り回すのはやめて、飛び回る六本の剣を歩きとスキップで全て躱していく。
ちょっとしたコツに気がついたら、少しも難しいことじゃなかった。この広い部屋の中で、たかが六本の両手剣の占有する空間なんてほんの僅かなものでしかない。その他の部分は安全な空間だ。
つまり、そもそも剣がリンクスに当たる方がおかしいんだ。そりゃあ、狙って飛んで来るんだから動かなければ当たる。その当たる瞬間にちょいと動けば当たらない。
心臓の鼓動が落ち着き、汗がひいていく。アドレナリンの分泌が止まったんだろうな。なんだっけ? 副交感神経が仕事した?
奴はやけっぱちのように剣を乱舞させてくるが、手品の種がわかってしまうとアレだよなあ。
こんな攻撃、居眠りしながらでも躱せる気がしてきた。ああ、酔拳も面白いよな。俺の場合は酔剣か。
フラフラと、泥酔状態で蝶と戯れるように、それっぽいステップを刻む。ここの床はツルツルだから、ムーンウォークっぽい動きも実に簡単だ。
巨大ロボでタップダンスは難しいことにも気づいた。身長10mのリンクスは巨大ってほどでもないが、それでも重力加速度がちょっと足りない。俺のやり方が間違ってるのか?
地球に戻ったら、生身の体でタップダンスを習うんだ。ランネーちゃんあたりが詳しそうだな、なんてったって女優だしな。
馬鹿にされていると思ったのか、飛び交う剣がスピードアップ、六本が僅かな時間差で突進して来る。あ、閃いた!!
「チェストおっ!」
酔っぱらいのフルスイングで斬り払う。最大パワーのXキャリヴァーの一撃! 砕け散ったのはXキャリヴァーの方だったよ、予想はしてたけどな。
それでもさすがにXキャリヴァーだ。一瞬は耐えてくれた。それで十分だった。飛び込んで来た六本の剣が次々に追突し、木端微塵に吹き飛んでいく。
馬鹿げた攻撃力の割には耐久がショボかったからな。そりゃこうなるだろう。
「攻撃力ばかり偏重するからこうなる」
『今のは狙ってやったんですか?』
「ダイヤモンドを削るのに、ダイヤモンドを使うというからな」
カッコイイ台詞をキメたつもりなんだが、ベティちゃんのリアクションがない。
ああ、まだ敵を倒せてないしな。相手の武器を壊したくらいで何調子に乗ってるんだと思われたんだろう。
「さてと、お遊びはここまでにしておこうか」
相手に手加減してもらっていたのはバレバレだったからな、それをただ一言でひっくり返す。
俺も本気を出していなかったことにしてしまえば、つまり互角じゃないか。ズルいなあ、俺って。
つまらないプライドだが、ここから勝てば大丈夫だ。ラストで逆転大勝利は様式美だしな。
男は誰も皆、不器用で見栄っ張りな生き物なんだよ。




