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俺のロボ  作者: 温泉卵
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新しい地平線を目指せ

 いつもと同じスタート地点。だが、昨日までと違うこともある。きっと、多分、ある筈だ。一度通った場所はログに記録される仕様だからな。

 

 広域マップを表示し、どんどん縮小表示していく。黒ベタで表示されているのが未探査のエリアだ。

 逆に言えば探査済みのエリアが、黒い地図の上に虫食い状に記録されている。クモ脚メカを追いかけて海の方まで通った足跡がきっちり残っている。

 こうして改めて見ると、気まぐれにふらふらとうろつき回っていたのがよくわかるよな。俺の性格を表しているようだ。

 

 さらに縮尺を小さくしていくと、飛び地のようにぽつんと別の虫食い跡が見えてくる。昨日のミッションで動き回った場所だ。リザードマン虐殺の苦い記憶がよみがえる、こんなに後味が悪いシナリオを考えた奴には文句の一つも言ってやりたい……ゲームは楽しくやらせてください、お願いします。

 

 なるほど、リザードマンの都市は海とは逆方向に三倍くらい行った所だな。ちと遠いが、フライトユニットでまっすぐ飛べば八時間以内にはたどり着けるだろう。行ってみるか?

 

 惨劇の跡がリセットされていればいいんだが……殺されたモンスターは時間経過で復活するもんだしな。それを確認したいのもあるし、どうせそろそろ新たな狩場を探す必要はあったんだよ。

 このあたりの獲物たちはすっかりスレてしまって、リンクスの気配を察するだけでこそこそ隠れてしまうからダメだ。

 最終的には未踏査エリアを全て調査したいが、まずは昨日の場所に向かってみよう。 



 武装を全てインベントリに収納し、スキージャンプの選手のように空気抵抗が減る姿勢をとってみる。フライトユニットの可動翼も、後退角をつけていい感じにする。

 そうしておいて、ブーストダッシュをガンガンかけて加速していく。速度最優先での飛行だ。


 リンクスはジェネレーター出力に余裕があるから、こんな強引な移動方法もできるが、それでも定期的に着地して、エネルギーゲージを満タンまで回復する必要がある。


 バッタみたいに着地を挟みつつ飛び跳ねて突き進む……名付けてバッタ移動。いや、カッコよくグラスホッパージャンプとでも呼ぼうか。

 

 そういえばアフリカ大陸じゃ毎年バッタが大発生しているが、映像を見る限りじゃ普通に蛾みたいに飛び続けてたよなあ。

 あの大発生したバッタは高級食材として世界中に輸出されている。農作物には大きな被害は出るが、バッタハンター達は大金を稼ぐそうだ。

 俺は虫は嫌いだけれど、慣れれば結構美味いというなあ。粉末コオロギなんかは食品原料として普通に使われているらしいし、実は気づかない間にさんざん口にしているのかもしれない。


 ……やっぱり虫系のネーミングはやめておこう。普通に高速ジャンプ移動でいいよ。


 高速ジャンプ移動のキモは、着地時のアクションだな。着地の反動を利用して飛び上がるのでは、時間が短すぎてそれほどエネルギーは溜まらない。結果としてこまめにピョンピョン飛び跳ねることになり、バッタどころかカエルのジャンプみたいになってしまう。


 だからといってゲージが満タンになるまでいちいち休んでいたのでは、普通に走った方が速い。


 リンクスの場合、走るのも結構速いから、エネルギーの回復を待つ間も走り続けるのが最適解だな。


 浅い角度で接地し、なるべくスピードを殺さずに地上走行に移る。単純なことだが、これが結構難しい。


 西部劇で列車の最後尾から飛び降りて走り続けるアクションシーンがあったが、あの列車はそんなにスピードは出てなかった。リンクスの場合、亜音速からの着地になるから、もっとずっと無茶をしなくてはならない。足場が悪いと結構怖い。

 

 結局は足場が最大の問題だな。この辺りだと森が深いから、結局は木々の梢の上をブーストダッシュで飛んで行かざるを得ないことが多いしな。ダッシュ移動中はエネルギーは減る一方だから、これじゃあ再び飛び上がれない。


 待てよ? おまけバリアーを足場代わりに設置してその上を走り抜けるのはどうだ? 足を置く瞬間だけ出現させれば、無限軌道ならぬ無限足場にならないかな?

 

『可能ですが、エネルギーの節約にはならないと思いますよ』


 おまけバリアーで足場を設置するのに、ブーストダッシュとほぼ同じくらいエネルギーを消費するんだそうだ。そもそもブーストダッシュの設定からして、なんちゃらフィールドの斥力がどうのこうので、バリアー技術の応用みたいだな。

 

 ビジュアル的にもリンクスにはロケットノズル的なパーツは皆無だし、デザイナーさんが細かい設定にちゃんとこだわってるんだな。

 俺的にはブースターから盛大に火を噴いて飛んでいくようなロボも、昭和の香りがして好きなんだが。

 

 

 ベティちゃんの解説で、エネルギーの節約にはならないという理論はざっくり理解した。

 でも、省エネ抜きにしても、バリアーで作った足場を踏んで走るのって面白くないか? 絶対面白いに決まってるじゃないか。よし、やろう。

 

 問題は空いているボタンがもうない点だよなあ。同時押しは好きじゃないが、仕方ないか。救いはベティちゃんがかなり甘く入力を受け付けてくれることだ。明らかに誤って押した場合とかはちゃんと弾いてくれるし、安心感がある。

 最近のAI家電でも似たようなことはやってくれるんだが、AIが馬鹿だと逆にイライラさせられることも多い。完全アナログ式の機械が上流階級の間で流行しているのも、多分そういうことだろうな。

 

 おまけバリアーの出現位置は、ボタンを押すタイミングでベティちゃんに決めてもらう。相対座標とか絶対座標とか言われてもよくわからんので、賢いAIに丸投げでお任せだ。


 空中に出現する足場をタイミングよく蹴って空中を走るわけだが……ボタンを即離して足場を消滅させれば結構燃費よくないか? 走ってる時間の大部分は空中を飛んでるわけだしな。インパクトの瞬間以外は足場は必要ないわけだ。

 

『はい、意外です。シミュレーション結果よりもかなり効率のよい移動方法のようです』

 

「極めればもっと省エネだぞ。ヤバい、おまけバリアー超便利だよ」


 フライトユニットを外してインベントリに収納してしまう。飛行中以外はこんなものはただのデッドウエイトでしかない。

 

 目標は飛ぶより速く走り続けることだ。フォームとかもいろいろ工夫してみる。速くなればなる程、空気抵抗が文字通り壁になるわけだよ。音速を超えるあたりから、おまけバリアーを風防としても利用することで、エネルギー収支がトータルでは改善することが判明した。


 おまけバリアーがこんなに役に立つとは想像もしていなかったな。もう少しカッコいい呼び名をつければよかった。万能バリアー? なんでもあリヤーとかどうだろう。

 それとなくベティちゃんに話を振ってみたんだが、無視された。関西弁とダジャレの組み合わせは理解できなかったかな? 優秀なAIでも苦手なジャンルはあるみたいだ。


 フライトユニットを使うより省エネで、かつ高速で移動する手段を手に入れたのはいいが、この方法には大きい欠点もあることが判明した。


 長時間続けると物凄く疲れる。


 操作ミスしてズッコケたら、それだけで下手したら大破だよ。シャレにならんよ。


 心臓がバクバクいっている。なんかこめかみの血管がピクピクしてきたし、脳が痛い。額に第三の目でも開眼しそうな気分だ。


 キツければやめればいいだけなんだが、つい次の一歩を踏み出してしまう。もっと速く、少しでも速く、チャレンジし続ける自分に酔っている俺がいる。


 何だったっけ? ナルシスト? そういうのとはちょっと違うか。

 

 

 ピッと警告音。反射的にエリアマップに目をやる。前方にクモ脚メカ、その他もろもろ。赤いマーカーが次々と表示されていく。

 

 この距離なら向こうにはまだ気づかれていないな。だが、このままではすぐに飛び込んでしまう。


 スピードがのっているから急には止まれない。慣性の法則って奴だな。


 慣性制御テクノロジーってのも設定上は使われている筈だが、ゲームプレイ上は特に何かできるわけじゃない。反重力装置とかと同じで、SFチックな世界観を盛り上げるための演出に過ぎない。


 まあ、急停止できなければ曲がればいい。ベクトルとか、なんかそういう理論だ。


 機体を斜めに傾けて強引に曲がる。まさか人型ロボでハングオンみたいな真似をすることになるとはなあ。


 周囲の地形を利用し、丘の陰に機体を滑り込ませることに成功する。なんとかスピードも落とせた。


 なるほどな、速く走り過ぎるとこういうこともあるのか。戦闘中にやることじゃないよなあ。速いと言ったところで音速をちょっと超えたくらいだし、ビームで狙われたらむしろいい的だ。

 

『スキュータムIIを八機確認』


「クモ脚とリザードマンのロボが一緒にいるのか……妙な組み合わせだなあ」


 どうやら交戦中のようだな。いや、これは狩りと言うべきか。クモ脚が一方的にやられている。

 

 二機のスキュータムIIが、クモ脚を挟みこむようにポジショニングして攻撃している。シールドを上手く使って、ぐいぐい押し込んでるな。シールドバッシュという奴か。近接戦闘のテクニックとしてわりと有名だが、実際に使いこなしている奴はほとんど見ない。そもそも近接戦闘がレアケースだから、わざわざ練習するプレイヤーがいないんだよ。


 左右から交互に、盾ごとぶちかましをかけられて、クモ脚はヘロヘロだ。そこに他の二機が、少し離れた距離からビームガンでチクチク削っている。

 手加減してるのか? 生け捕りにするつもりか? いや、多分マテリアル目当てだろうなあ。

 

 残りの四機は戦闘には参加せず、周囲に散開している。次の獲物を探しているのか? あるいはカニメカとリンクした場合に備えているのか?

 

 たかがクモ脚相手に慎重過ぎる気がしなくもないが、カニメカに乱入されていつも全滅しているタケバヤシ達に比べると、手慣れているというか要領がいいな。


 まあ、八機もいれば連携とかいろいろ考えられるからな。やっぱ戦いは数だよな。



 さて、リザードマン達の狩場を荒らさないように、別の場所を探すか。こういう錬度の高い部隊がいるなら、タケバヤシ達に一方的に虐殺されることもないだろう。昨日のは奇襲だったからなあ。



 フライトユニットを再び装備し、風の向くまま気の向くまま、未踏査エリアをふらふらと飛び回る。

 マッピングがなんだか楽しくなってしまい、弁当を食うのも忘れて夢中になってしまった。いや、ちゃんと食うけどな。コロッケサンドだったし、三時のおやつってことにしよう。


 子供の頃はコロッケ大好きだったんだが、大人になってからは神格化する程でもなくなってしまったな。安い定食や弁当についてくるありふれた惣菜の一つになってしまった。


 だが、一流の料理人の手にかかると、ただのコロッケサンドもご馳走に化けるな。


 粗く潰されたジャガイモにはしっかりと下味がつけられており、形の残った肉がゴロゴロ入っている。おまけにシャキシャキッとしたタケノコの歯触りが心地よく、まるで昨夜食った肉じゃがだよ……いや、これって昨夜の残りに衣をつけて揚げただけじゃないか? 爺さんの奴、手を抜いたな。

 

 でも、まあ、美味いことは美味いし。家庭料理だと考えれば残り物を再利用するのはむしろ当然か? 貧乏くさいというか、庶民感覚だな。

 

 


 やはりおやつとしては少々ボリュームがあり過ぎたようだ。これは晩飯が食えなくなるかもしれない。


 腹が満たされると眠くなるよなあ。なんかもう仕事なんてどうでもいいやって気分になる。いつも思うけどハングリー精神って大事だよ。それでも俺は腹いっぱい食べたいけどな。


 別に勤務時間が決められているわけでもないし、今日は早目に切り上げるか? ああ、このミッションだと途中で撤退すると未完扱いになるのか、そんなのもう別にどうでもいいや。ログアウトだ。


 平日の昼間に働いていないと背徳感がすごいよな。それだけに妙な解放感もある。さて、空いた時間で何をしようかな?


 なんとなくホテルのゲームセンターに足が向く。襲撃は怖いが、いつまでもビクビクしているのには飽きてきた。どうせ一度の人生さ、死ぬときは死ぬだけさ。矢でも鉄砲でも持って来いって開き直ってしまえば、少なくとも恐怖心は誤魔化せる。

 

 スキュータムIIが使ってたみたいな、当たり判定のオンオフができるビームソードが欲しいよな。実用性がイマイチなのはわかっているんだけれど、持ってないガジェットはむやみに欲しくなるのがコレクター心理というものだ。

 

 オークションをのぞくついでに、一応CPU戦を一巡してみる。もはやヌルゲーなのに、いまだにクリアできないんだよな。

 敵の配置的に、制限時間内に全ての敵を破壊するのはどう考えても無理だろ? 遠くにいるのは長距離からの狙撃で処理するって手もあるが、障害物の影に隠れている奴がいるからなあ。瞬間移動でもしない限り、やはり間に合わない。

 まあでも、ステージ3あたりからすでにクリアが不可能なゲームだと言われていたし、何か攻略方法が隠されているのかもしれない。


 結局今日もゲームクリアならず。クモ脚を何機か残し、時間切れでゲームオーバー。


 スコアポイントの精算後に、バトルチップなるものを百単位もらえた。何だこれは? グラフィックはまんまカジノコインだけれど、スコアポイントとどう違うんだろう?


 説明を読むと、イベント期間が過ぎると消滅しますとある。また何かイベントが始まっているのか?


 期間中にプレイすれば、成績に関係なくこいつを毎日百単位ずつもらえるってことだな。いわゆるログインボーナスだろう。


 使い方はシンプルで、対人戦でチップを賭けてバトルできるみたいだ。


 こんなイベントをやってるんなら告知してくれよな。何日分か取り逃がしてしまったじゃないか。俺だって一応は関係者なのに、何も聞いてないぞ。

 ああ、でも、俺があまり一般人と対戦するのは不味いんだったな。こんな時こそコメートさんの出番だ。

 

 集めたバトルチップは限定アイテムと交換できるみたいだ。なんだよもう、面白そうじゃないか。しばらくは毎日ゲーセン通いだな。


 限定アイテムは欲しいが、あまりガチでやるとアリサちゃんに怒られそうだ。

 ハンデとして、右手に店売りスナイパーライフル、左手に店売りショットガンを装備する。舐めプもいいところだが、これなら言い訳できるよな。

 もちろんバトルチップは全賭けだ。負ける筈のない相手と戦うにしても、背負うものがでかいとそれなりに緊張感はあるよな。


 ピンクのコメートさんが連戦連勝を重ねていく。

 イベント戦は通信モードにしておくのが暗黙のルールになっているようで、ベティちゃんが適当に挨拶してくれている。お祭り騒ぎかよ。

 女性のプレイヤーは少ないから、やたらチヤホヤされるな。ぷるりんちゃんが勘違いするのも仕方あるまい。

 

 勝利のたびに倍々になっていくバトルチップ。なかなか楽しい。だがこの賭け方には問題もあって、しばらくすると対戦相手がいなくなってしまった。

 

 負ければ全て失うという緊張感がよかったんだが、賭けるチップを減らすしかないな。持ってるチップの半分だけ賭けようか?


 だが、世の中にはチャレンジャーもいるらしい。募集を一度閉じようとしたその時、挑戦者が現れてくれた。


 やはりスキュータムか、猫も杓子もスキュータムだよな。

 タケバヤシが優勝したこともあって、一時期はサジタリウス使いが急増したものの、使いこなせるプレイヤーは一握りしかいなかったようだな。

 ファンサイト調べでも上位陣の大半がスキュータムだ。残念ながらリンクスは完全にイロモノ認定されている。そりゃあ、主人公機タイプとは言えないけれど、人型と言えるかすら微妙なムスカやキャンサーなんかと比べれば、わりと正統派のロボなのにな。


 今回のお相手は純白のスキュータムか。ただの白ではなく、輝くような純白だ。限定品のペイントアイテムでも使ってるんだろうな。特に性能が上がるわけでもないやつでも、ユニーク塗料はオークションで高値がつく。目立ちたがり屋さんが多いのだろう。パール系やメタリック系は通常の塗り替え機能じゃ出せないからな。

 俺としては、機能が追加される系のユニーク塗料に興味があるんだが、見た目がちょっとな。ステルス強化はカーボンブラックだし、対ビームコーティングはカナブンみたいな色で、イマイチ食指が伸びない。

 グレー系のステルス強化が出たら即買いなんだがな。


 それにしても純白ねえ。戦場で目立ってどうするんだとは思う。あえて狙わせておいて避ける作戦だろうか?

 コメートさんの時は、俺もピンクのチョバムアーマーを装備しているんだし、他人のことを言えた義理ではないけどな。


『よろしくお願いします』


『やっぱり女プレイヤーか。機体をピンク色にしてバカな男どもにアピールしているつもり? そういうの、さもしくてよ』

 

 今度の相手は女性プレイヤーか、いきなり喧嘩腰だなおい。まあ、芝居がかったセリフで、戦闘動画のアクセス数を稼ぎたいんだろうな。

 そこそこ有名なプレイヤーなら、ギャランティシステムの収入だけで下手なサラリーマンより稼げるらしいからなあ。俺も大会でTOP4に食い込んでいなければ、アクセス稼ぎにやっきになっていたかもしれない。


 まあ、大量のバトルチップを持ってるってことは、腕の方も確かなんだろうな。


 スキュータムなのに盾を持っていないのか……これは楽しめそうだ。


 右手の装備はヨンヨンビームガンか? ちょっと違うか。上位モデルか何かかもしれない。

 左手に持ってるのはもっと特別感があるな。望遠レンズのついた一眼レフみたいな……銃? そういえば、今日の対戦相手にはあれを持っている奴が結構いたよな。流行ってるのか?

 

『N・T・グラビティですね。射程範囲内の敵機の性能を、10%程度低下させることが可能です』


「なるほど、重力的な何かってことか……誰も使ってこないところを見ると、使用制限が重いようだな。エネルギーを無茶苦茶使うとか?」


『現在も被弾中ですが』


 そういえば、スクリーン全体がちょっと赤っぽく点滅しているな、イベントの演出か何かだと思ってたよ。ベティちゃんもちゃんと説明してくれよ。まあ、素人じゃあるまいし、これくらい気づいて当然ではあるか。


 ガトIIに慣れたせいで、操縦感覚の違和感に気づけなかったというのはある。そうでなくてもコメートさん仕様のリンクスはチョバムアーマーを着ているせいで動きが鈍くなるしな。

 対戦相手が弱すぎて、多少の性能低下など無視できたしな。


 いや、ベティちゃん相手につまらん言い訳はしないでおこう。そういうのは見苦しいというか、恥の上塗りってやつ?

 

 言われてみれば、確かに画面が赤っぽくなっている間は、動きがヌルッとするというか、若干動きが重くなるな。あえて言い訳をすれば、ゲームで処理落ちした時とかって、無意識にタイミングを合わせてしまうよな?


 グラビティなんちゃらの効果範囲は相当広いようで、回避は無理みたいだ。デバフねえ……ちょうどいいハンデか?


 一応目立たないように自重はしている。近接戦闘はしないし、武器も銃だけだ。

 

 長射程のスナイパーライフルなんてものは使いこなせないが、こいつを持っているだけで相手は逃げを選ばなくなる。まあ、お守りみたいなもんだ。

 ショットガンを装備しているとその逆だな。不用意に近づいて来なくなる。


 結果的に中距離での撃ち合いに終始することになる。大抵のプレイヤーが一番得意な間合いなので、俺のこの作戦が嫌がられることもない。

 敵の攻撃を全て避ければ負けることはないし、射撃の練習にはちょうどいいわけだ。射撃の腕はまだまだだが、さすがに一試合のうちに何発かは当たるようになった。

 判定勝ちでも勝ちは勝ちだからな。ちょっと地味だが、そもそも目立ちたくないんだからそれでいいわけだ。

 

『このブリザードプリンセスに店売りの武装で挑むなんて、舐めてるの? それとも売名行為のつもりかしら?』


 なんか話しかけてきたし。自分をプリンセスとか言ってて、恥ずかしくないんだろうか。

 

「面倒臭そうな相手だなあ。適当に相手してやってよ」

 

『はい、負けた時の言い訳にするつもりです』


『な! 馬鹿にするなっ!!』


 何故か相手を怒らせてしまったようだな。確かにAIのユーモアのセンスはちょっと変わってるけれど、今のは笑うところだろ?


 怒りに任せてなんか沢山撃って来たが、たかが一機の、それもビームガンの攻撃なんてたかが知れている。命中コースの奴だけ、体を少し捻って避ける。この程度の攻撃でも、昔はわざわざ剣を振り回して斬り払いとかしてたんだよなあ。思い出すとあれはちょっと恥ずかしい。黒歴史として封印してしまいたいが、映像の再生回数が毎月百万を突破してるからなあ。ギャランティシステムのおかげで地道に稼ぎ続けているみたいだ。

 

『そっちは残像か? いや! まさか?』


 あちらさんは何やら痛々しいセリフを叫んでいる。ああ、ギャラリーうけを狙ってるのかもしれないなあ。一年後に自分の動画を見たら、きっと恥ずかしくて死にたくなるぞ。

 

 なんか隙だらけなんで適当に撃ち返しておく。ノーロックオンのスナイパーライフルだからまず当たる筈はないのだが、それだけにヒットした時はなにげに嬉しい。

 

 マーシャ曰く、的に当てようとしている間は素人なんだそうだ。ならどうしろって話なんだが、そういうのは言葉では教えられないものらしい。

 単に教えるのが下手なだけかもしれないが、狙撃の腕は確かだからな。騙されたと思って、当たるも八卦って感じで撃つことにした。

 結果的にはたまに当たるが、まあ、運次第だな。


 気楽に適当に、でも真剣に。コメートさんは舐めプはしない主義なんだ。そういう設定にした。

 

 偶然に一発当てると、その後は相手の動きが目に見えてずさんになった。やっぱり焦るんだろうなあ。

 こうなると面白いようにビシバシ命中し始めるが、所詮は店売りのスナイパーライフルなんで、悲しいくらいにライフゲージは減らない。

 

 一発逆転を狙って接近してきたところにショットガンをズドンとぶちこむ。会心の一撃だったが、こっちも店売り武器だった。やっぱりたいして削れない。


 プリンセスはライフルを投げ捨て、腕に内蔵されたビームソードで斬りつけてくる。その心意気やよし。

 

 間合いが甘いから、ギリギリで見切って空振りした隙にショットガンのゼロ距離射撃を叩き込む!! ゲージを一割くらい削ったが、これがバスターソードなら今の駆け引きで勝負はついてるよ。

 

 バスターソードみたいに一部超使える武器もあるが、店売り品の大半はゴミというかあくまでお試し用なんだよな。

 そりゃあこんなのを使ってちゃ、舐めプと思われても仕方ないか。

 

 容赦なく撃ち込んだのに、削り切れず判定勝ちになる。蹴り入れて倒そうかと何度思ったことか。さすがに身バレしそうだから自重したけどな。

 

 なんちゃらプリンセスは負けて相当へこんでいた。序盤の立ち回りは落ち着いていて悪くなかったし、そこそこの腕はあるけどな。タケバヤシ程度が相手ならいい勝負をするんじゃないか?

 

 新人さん達もどんどん力をつけてきているから、次の大会では上位陣が総入れ替えなんてことも有り得る話だ。

 

 俺も慢心してないで修行するか。驕れる者は貰いが少ないとか言うしな。

 

 そういえばプリンセスが投げ捨てたライフルをゲットしてしまった。ヨンヨンビームガンの上位互換的なやつで、まあ、普通に便利に使えそうだ。

 

 判定勝ちでアイテムゲットってレアケースなんだが、これは装備を投げ捨てる方が悪い。どっちかといえばグラビティなんちゃらの方が欲しかったんだが……欲しいもの全部オークションで手に入れようか。

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