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俺のロボ  作者: 温泉卵
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煉獄の黙示録

 筐体に入り込み、シートの定位置に尻を落ち着ける。大袈裟なパイロットスーツも慣れれば快適なもんだ。温度調整機能のおかげで暑くもなく寒くもない、一日中でも着ていたいくらいだ。さすがに人前をこの格好でうろつく勇気は俺にはないがな。


 持ち込んだ弁当と水筒をグローブボックスに放り込む。今回の共同特別ミッションではゆっくり飯を食う時間なんてなさそうだが、せっかく爺さんが作ってくれたしな。鶏五目おにぎりなんで移動中でも片手でパクつけるだろう。

 

 いつもと違うミッションをリストから選ぶ。スペシャルミッションのリザードマン討伐……たしかこれだな。俺の任務は護衛だが、ミッション自体はタケバヤシ達と同じでいいらしい。ゲーム内のスコアポイントと別枠でリアルの口座に金が振り込まれるみたいだ。


 億単位の金を動かすとシャレにならないほど税金でごっそり持っていかれるんだが、新しく来たサイボーグの娘達がいい感じに処理してくれている。もちろん合法的にだ。法律というのは結構抜け道が用意されているらしい。

 その手の節税テクニックは、AIには処理できないようなシステムになっているんだそうだ。一般のサラリーマンまで真似しだしたら国の税収がなくなるもんな。特殊な訓練を受けた経理のプロフェッショナルだけがやり方を知っているというから、秘伝みたいなものなんだろう。

 あの二人は戦闘力を抜きにしてもとんでもなく有能な人材だったよ。見た目でハニートラップ要員だと疑って悪かったな。


 タケバヤシ達の護衛と言っても、特別なことをするつもりはない。チェックされるのはあいつらが目的地に到着するかしないかだけだからな。一人につき百億、三人とも無事ならボーナス込で五百億の契約だ。

 敵が出なきゃ何もしなくても丸儲け。敵が出たとしても片っ端から倒すだけの簡単なお仕事だ。二時間の稼ぎとしちゃ悪くないんじゃないの? あ、ドルなのか円なのか確認してなかったよ、まあどっちでも悪くない時給だ。


 そう、作戦時間はたった二時間。こりゃあ下手するとおにぎりの出番はないかもしれない。途中リタイアもペナルティなしで可能だし、ノーリスクハイリターンだ。話がウマすぎて何か裏があるんじゃないかと疑うレベルだ。

 

 いつもと同じようにミッション開始、だがスタート地点がいつもと全然違うんで驚いた。スクリーンにはうっそうとした針葉樹の森が広がっている。わざわざ特別ミッションのために新しいマップを作ったのか、開発スタッフは気合が入りまくりだな。

 なんか北の方って感じがするぞ、雪とか積もってていかにも寒そうだ。筐体の中はエアコンでいつも適温だけどな。パイロットスーツと二重の温度調整で、やり過ぎなくらい至れり尽くせりだよ。あ、ホテルの空調もあるから三重なのか……リアルの宇宙船より頑張ってるんじゃないかな。

 

 俺のリンクスは制空グレー迷彩っぽく仕上げてあるので、こういうフィールドだと寒冷地仕様に見えなくもない。吹雪に隠れて敵に忍び寄るとかカッコいいよな。生憎快晴のスキー日和だけれど、悪天候にならないものだろうか? 吹けよブリザード、呼べよ雪嵐、ってなもんだな。

 

 新フィールドをいろいろ見物しているうちに、近場に三人の機体も出現する。なんかいろいろとごっついのを装備してるな、マテリアルを運営にちゃんと借りたみたいだ。

 

 俺を完全に無視かよ。まあ、連携なんてハナから考えていない。近づく敵を全部やっつければいいだけの話だ。

 タケバヤシ機を先頭に、ぴょんぴょんジャンプしながら行軍を開始する。高い木が密集しているからなあ。坊主は木をなぎ倒して進もうとしていたが、すぐに諦めたようだ。でかい盾のせいでバランスが悪いのか、スキュータムってジャンプが下手みたいだな。

 

 俺はフライトユニットを装備すると、低空飛行でスーッとついて行く。どうせ俺のことをズルいとか言ってそうだが、緊急通信以外は切ったからわからない。

 奴らの馬鹿な会話を聞くのは気分が悪いというのもあるが、集中して周囲の気配を探るためでもある。気が散ってると殺気に気づかないことがあるからな。

 

 うーん、クモ脚達はいないのかな? いても隠れているようだ。あいつら地面に潜るとスキャナーにも反応しなくなるしな。

 地中をスキャンするとなんか古代遺跡みたいな地下通路が埋まっている。今回の作戦には関係ないけれど、そのうちストーリーが進めば解放される新規ミッションに関わってくるんだろうな。


 このゲームにグランドクエストってあったっけ? ストーリー上は俺達は傭兵ポジションなんだけれど、金を稼ぐのが最終目的ってのも味気ない気はするな。魔王的な存在がいれば分かりやすいエンディングになるんだろうけれど、あいにく舞台設定はスペースオペラ仕立てみたいだしなあ。ラスボスは悪の帝国とかか?


 最近のゲームの傾向として、未完成の状態でサービスを開始して、エンディングが実装される前にサービス終了なんてのがザラにある。スポンサーがビリー氏だから、資金難で打ち切られることはないだろうが、ビリー氏が飽きたりしたら即終わりだ……最後まで頑張って欲しいな。

 

 そういえば今回のタケバヤシ達の作戦目的はマテリアルの収集じゃないんだよ。ガトIIじゃ初となる戦闘ミッションだ。狩りと戦闘の違いって何なんだろうな? 敵がクモ脚メカかリザードマンかの違いか?

 

 リザードマンを討伐せよってか? リザードマンねえ……ファンタジーRPGのモンスターかよ?

 最近またファンタジー系のゲームが人気を戻してきているから、ビリー氏も影響されたんだと推測してみる。世界観が適当過ぎて笑ってしまうが、実はアメリカ市場を意識しているのかもしれない。


 アメリカでは凶悪犯罪を減らすために、ゲームの敵は人間以外が推奨されている。あっちのゲームで倒すべき敵は、主に昆虫系とか爬虫系に設定されている。流す血も赤いと駄目みたいだな。

 そこまでしていても日本より治安が悪いらしいけどな。最近はテロや銃撃事件も頻発するようになったけれど、海外に比べればまだまだこの国は天国といえる。


 

 ぴょんぴょんジャンプして必死で進んでいく三人組の頭上を、悠々とハゲタカのように旋回している俺。なんか楽しいぞ。

 ハゲタカってあまりいいイメージはなかったんだが、自由な生きざまはそう悪くないかもな? あー、でも釣り上げた小魚を執拗に狙ってくるトンビやカモメを見る限り、鳥ってそう自由でもないよな。あいつらいつも腹を減らしていて結構必死だよ。

 飛ぶことの代償が、半端ないエネルギー消費だ。なんだかんだで人間が一番気楽な稼業かもしれないな。

 

 それでも空を飛べれば、餌が見つけやすくなる等のメリットは大きいだろう。リンクスの高度を少し上げるだけで、遠くまで視界が広がっていく。目的地までのルートも一望のもとに見渡せる。道なんてなさそうだけどな、ずっと森なのか。

 目的地というか破壊目標はリザードマンの集落だと聞いていたが、想像していたよりずっと立派だぞ。ちょっとした地方都市のレベルだ。

 中心部にはビルっぽい高層建築まである。小学生が粘土をコネあげて作ったような見た目で、いかにも野蛮で凶悪な連中が住んでそうな感じだ。


 ゲームとはいえ、露骨に敵を貶めるようなデザインはあまり好きになれない。クモ脚やカニメカは海水中のプランクトンを連想させる生物的デザインで、グロイといえばグロイが、綺麗といえば綺麗だ。


 まあ、ゲームなんだし敵が悪ですよという記号は必要なんだろうが、分かり易すぎても興ざめなんだよなああ。悪そうに見えてもいいから、せめてそこにカッコよさは盛り込んで欲しかった。


 町ごと殲滅しないといけないってことは邪悪な種族なんだろうが、奴らがどんな悪事を働いたか知らないからフーンって感じだしな。

 ゲームだから結局は敵がどんな見た目でも容赦なく倒すんだけどな。



 依然として周囲に敵影はない。カニメカ達を実装し忘れたんじゃないかと疑うレベルだ。俺としては何もせずに大金が貰えるなら文句はない。

 ゲームとしてさすがにそれはないな。油断させておいて最後の最後で何か仕掛けてくるとか、どうせそのあたりのありがちなパターンだろうな。


 今のうちにおにぎり食っとくかな。それほど腹は減っていないが、最近は全身に筋肉がついてきたからカロリー消費が半端ない。三つくらいはぺろりだ。

 

 わざわざ竹の皮で包んであるし。結んである紐まで竹皮を細く裂いたものだ。まるで時代劇なんだな。いや、こういうこだわりは嫌いじゃないよ。

 最近は竹皮なんてものまで売られているようで、しかもかなり高価なものらしい。俺の田舎の方じゃ竹林なんてジャングル化して猛威を振るってるんだが、やっぱり採集が面倒なんだろうか? そういえば竹炭もお高いものだよな。


 おにぎりは片手で食えるのはいいが、コクピットにボロボロこぼさないように食べるのが難しい。ただ飛ぶだけならフットバーだけでも操縦できるな。包みを膝の上で開いて両手でいただこう。

 ベティちゃんのサポートもあるので、足だけの操作でも案外安定している。これならビームを回避するくらい片足でできてしまうな。

 社畜生活から抜け出したせいか、最近は体のキレがいい。器用な真似もすんなりできてしまう。十代の頃に戻ったみたいだ。

 これからは無理せずまったりゲームをしたり、美味いものを食ったりしてせいぜい自分の人生を楽しもう。再び青春を取り戻すのだ。


 

 鶏五目おにぎりを口に入れた瞬間、すがすがしい竹の香りが広がる。やられたな! タケノコが主人公だったか。タケノコご飯おにぎりと言うべきだろう、嬉しいサプライズだな。

 使っている鶏肉もナントカ地鶏とかそういう上等な奴なんだろうが、その他の具材と共にあくまでタケノコの引き立て役に徹している。

 つやつやもちもちとした米が、ほろほろと喉を通り抜けて行き、春の後味だけが残る。 

 やっぱりあの爺さんはバケモノだな。いい歳をした男が、たかがおにぎりで不覚にも泣きそうになってしまう。

 

 オマケのワラビの漬物を冷たいお茶で流し込む。ほうじ茶をわざわざ冷やして飲むのには最初抵抗があったが、ちゃんと計算して煮出してるんだろう、これがやたらとおにぎりと相性がいい。

 

 ヤバいよな、最近は清涼飲料が甘過ぎて飲めなくなった。渋いお茶がとにかく美味いし……俺も歳なのか?

 

 飯を食ったら眠くなってきた。食休みというか、昼寝がしたいな。なんだか今日はもう働きたくなくなってしまったが、せめてあいつらが無事に到着するまでは頑張らないといけない。


 戦う男にはハングリー精神ってのが大事なんだよな。弁当を食べてしまったのは自己管理能力に問題があったか? いや、腹が減っては戦はできぬとも言うし、別に俺は悪くないと思う。

 

 カニメカは出てきそうもないし、居眠り運転で頑張ってみるか。

 

 いや……なんか妙な殺気を感じるぞ。なんだこれ?

 

 タケバヤシ達からの澱んだ敵意とは違う、もっと野性的なギラギラしたのだ。これはひょっとすると面白くなるかもしれん。一気に眠気が吹き飛んだ。

 

 気配の源は……目的地手前、ちょっと右に逸れた森の中か。あの辺りに何かいるみたいだな。

 

 リザードマンの伏兵か? ちょっとコースから外れているから、タケバヤシ達に危険はなさそうだが、まあそれはこの際気にしない。念のために叩いておくことにする。

 そういえば最近強い奴と戦ってなかったな、胸の奥がちょっとうずうずしてきた。俺はバトルジャンキーじゃない、弱い者いじめが退屈なだけだ。

 

 低空飛行で一気に気配のするあたりにアプローチ、適当に着陸する。敵なんて影も形も見当たらないが、そもそもマーカーが表示されなければ地上の十メートル程度の目標なんてゴマ粒のようなものだ。探しても無駄というか、のんびり探していたら相手に先に見つけられてしまう。

 

「敵に発見されただろうか?」

 

『パッシブスキャナーに反応なし。本当に敵がいるんですか?』


 いや、ちゃんといるし。どうも殺気を向けているのは俺じゃなくてタケバヤシ達みたいだけどな。


 ここからだとパッシブスキャナーでもジェミニが丸見えだ。あれは隠れる気がないとしか思えんよな。目立つ巨体もそうだが、派手なブースト移動でエネルギーを周囲にまき散らしまくっている。


 隠密行動にはとことん向いていない機種なのに何故連れて来た? まあ、火力だけはあるからな。奇襲ではなく強襲でリザードマン達のコロニーを殲滅するつもりのようだ。

  

『熱源反応があります』

 

 お、小さなマーカーが地上に表示された。ズームして見るとファンタジーRPGに出て来るような鎧を着たトカゲ人間だ。剣や槍ではなく、銃みたいのを背負っている。


 リザードマンって体温あったのか。

 

 どうやらそいつはリンクスには気がついていない。落ち着いた足取りで森の中に遠ざかっていく。うーむ、どうやら殺気の主がいる場所に向かっているな。


 リザードマンは二メートル近い長身だが、それでも十メートルのリンクスからしてみればお人形さんサイズだ。剣で斬るというより、ゴルフのスイングみたいになるだろうな。


 さすがにパワーもスピードも違い過ぎて勝負にならないだろう。


 人間サイズの目標が相手なら、頭バルカン系の装備で十分だ。リンクスの場合は頭レーザーだな。インベントリから取り出して装備しておく。


 だが、俺の想像が当たっていれば、殺気の主は生身じゃない筈だ。シチュエーション的に、例のスキュータムIIしかあり得ないよなあ。


 リザードマンの向かった方向を中心に、ベティちゃんにスキャナーの精度を上げて走査してもらう。


 ピッとスキュータムIIのマーカーが表示される。ほらみろ、やっぱりいたじゃないか。

  

 軽くジャンプし、木々のてっぺんを掠めるようにブーストダッシュで突撃する。狙い撃ちされても困るので、稲妻のようにジグザグに切り返しながら距離を詰める。

 

 お! 見えたぞ。あれがスキュータムIIか。なんか整備用の櫓みたいのに固定されている。

 

 ブリーフィングの資料画像はボカシが入っていてよくわからなかったが、確かにおおまかなシルエットはスキュータムに似ているといえば似ている。 

 でもなんかカッコ悪くなってないか? 新型なのにな。

 

 全体的に簡略化されているというか、貧弱になったというか、安っぽく見える。簡易量産型ってやつか? いかにもザコメカって外見だ。ヤラレ役のNPC専用機なのかもしれん。

 

 一番の違いは武器が肘から先に固定されてしまっているところだな。いわゆる武器腕だ。右腕がそのままビームガン、左腕が大型シールドになっている。

 汎用性はなくなるが、まあ、スキュータム使いの大半が専用盾とヨンヨンビームガンの鉄板装備なんだから、これはこれで正当進化なのか?

 

 いくら弱そうに見えても初見の武器だし、威力はわからんから警戒はしておこう。このゲームの開発スタッフは、たまに思いっきりお約束をハズしてくるから油断できない。

 

 正面に着地、バスターソードを下段に構えて見得を切って見せる。いざ尋常に勝負って感じだな。

 モニタしてる筈のビリー氏がププッと笑ってくれていれば俺の勝ちだ。

 

 周囲にたむろしていたリザードマンの一人が、慌てて胸部のコクピットハッチに乗り込んで行くのが見える。あいつがギラギラした殺気をまき散らしていた奴だな。


 いつもながら本当にどうでもいい演出に関してはやたら芸が細かい。発進シーンはロボットもののお約束だし、動き出すまで待ってやるけどな。

 

 コックピットハッチが閉まると、スキュータムIIから櫓がゆっくり外されていく。のんびりしてるなあ。いつまで待たせるんだ? これだけ時間があればもう百回以上余裕で撃破してるぜ。

 

 ようやく動き出したスキュータムIIだが、なんかさっきまでの殺気がなくなってしまっている。というか戸惑っている?

 

「あれ? こいつ敵の筈だよな?」


『エネミー表示が出ていますね。スコアポイントも設定されています』


 なら倒して問題ないな。ゲームによっては中立勢力等の撃破してはいけない連中が、ミッション中に紛れ込んできたりするんだよ。俺は基本的にブリーフィングとかスキップするタイプだから、その手のパターンだとクリアできないことが往々にしてある。ベティちゃんがいてくれて本当に助かる。


 やる気のない相手と戦うのは面白みに欠けるので、ゲームデザイナーが狙ってやっているとも思えない。とするとバグなのか? AI系のバグはデバッグが大変らしくて、製品版にも普通に残ってたりするからなあ。メーカー側が仕様だと言い切ってしまえば、そういうものだと納得するしかないし。


 対戦プレイではわざと手を抜くのが相手への最大級の嫌がらせになるくらいだ。手加減と手抜きはまた違うんだよ。

 ガトIIは対CPU戦がメインなんだから、その辺はしっかり頑張って欲しい。クモ脚やカニメカは結構いい感じだったのになあ。


 ようやくスキュータムIIがファイティングポーズをとり始める。


 盾を構えて銃口をこちらへ向けて来る。遅いな、隙だらけだよ。

 初見の武器の性能も確認しておきたいし、先手は譲ってやろう。

 

 銃口がぴたりと向けられた瞬間に、少しだけ脇に軸線をズラして刀で切り上げる。

 

 チッ、一瞬撃つのをためらいやがったな。切り払いはタイミングがシビアなんだから、変に迷われると困るんだよ。

 より人間らしい思考のAIをデザインしたんだろうが、果たしてそれでゲームが面白くなるだろうか?


 ああ、愚問だったな。ビリー氏はとにかくなんでも限りなくリアルにしたいんだ。敵のAIに人間並みの感情を与えて、恐怖や迷いによる判断ミスまで再現させたのか。

 このゲームは別に売れなくてもいいんだし、プレイヤーを楽しませる必要はない。見物人であるビリー氏が楽しめればそれでいいんだった。

 

 バスターソードを振り切らずに途中で強引に止めてしまう。なんとかビームのコースに当てることができた。


 線香花火のように火花が飛び散る。ビームの粒子が拡散するエフェクトは新しいパターンだけれど、普通に切り払いは成立するみたいだな。


 手ごたえとしては、多分ヨンヨンビームガンより威力は劣っている。射程や連射性能とかも気になるが……その辺は今はいいか。期待していた程の相手じゃなかったかな。機体性能は見た目通りスキュータムの劣化版だ。

 

 そのままズカズカと早歩きで距離をつめていく。スリ足に比べれば隙はあるが、間合いに入るのに時間をかけても仕方ないしな。

 ある程度腕のたつ相手なら隙を狙ってきてくれるから、こちらとしてもその方がタイミングを合わせやすい。結局は読み合いに勝った方の勝ちなんだよ。

 

 センセイといろいろ手合わせしたのも無駄じゃなかった。対戦も試合も、つまるところ普通にしてればいいということがわかった。特別なことは何も必要ない、息をしたり飯を食ったりするのと同じだ。平常心?

 

 三連射して来たのをそのまま歩いてズラす。避けるまでもない、少し歩幅を変えただけだ。ひょっとしたらガトIIになってビームの当たり判定がかなり小さくなってるかもしれない。射撃の難易度は上がってるかもな。


「怯えていやがるな、このAIは」

 

 ビームガンのクールタイムに焦ったのか、スキュータムIIがリンクスの接近に怯んでいるような仕草を見せる。

 俺的にはゲームやアニメで戦闘ロボが人間臭い芝居をする演出はあまり好きではなかったんだけれど、上手くハマっていればそんなに不自然でもないのか。うーん、これはこれでありかもしれない。

 

 てっきり怯えて逃げ出すかと思ったんだが、右腕のビームガンの銃口からビームブレードを生やして切りかかって来た。逆切れか? そうこなくっちゃ。

 

 バスターソードで切り払おうとすると、斥力が働いて止められる。ビームソードの中にはこの手のチャンバラ機能がついてるタイプもあるんだよ。モードの切り替えはビームの輝きを見ればわかる。チャンバラモードの時はビームがなんかシュッとしてるんだよ。


 俺は極力チャンバラはやらない主義なんだけどな、シノギを削って戦ったりしたら刀が痛むじゃないか。双方実剣の立ち合いにおいても、剣を合わせることなく一撃で決めるのが理想だ。

 まあ、相手が強ければそう上手くはいかないわけだが、この程度の相手なら気づかれないうちに一本打ち込めるな。

 

 スキュータムIIの右腕は、ビームガンと2モードのビームソードとして使えるみたいだ。トリプルチェンジャーといえばカッコいいが、要するに三色ボールペンみたいなもんだな。

 それなりに便利だとは思う。固定武装だからそれくらいいろいろできないと困るだろうと、それもわかる話だ。

 でもあまり自分が使いたいとは思わないな。汎用性はなくても単機能に絞り込んだ武器の方が、手になじんでくると楽しいし。ガトIIだとインベントリが使えるんだからなおさらだ。いろいろ使えるアスパラソードなんて、中途半端過ぎて二度と出番がなさそうだしな。


 調子に乗って剣で防ごうとしてくるので、ビームの刃に沿うように一気にバスターソードを滑らせる。相手の剣を使って鞘走りをさせるわけだな。

 鍔があればつばぜり合いになるだろうが、さすがにそんな機能まではなかったようだ。


 そのまま踏み込んで相手の右肘を斬り飛ばす。

 

 素人め、片腕を失ったぐらいで隙だらけかよ。ついでにショルダータックルをぶちかまして相手の体勢を崩し、密着した体勢から寝技に持ち込む。


 相手のボディに内装式の固定武装とかついてたらヤバいんだけれども、下手に使えば自爆だしな。俺だって頭レーザーはバリアーの干渉でどうなるかわからないから使わない。案外敵のバリアーの内側から攻撃できて有効かもしれないけどな。


 スキュータムIIの左手の大盾が邪魔だな。やっぱり盾も腕に直付けになっているようだ。パージの機能くらいありそうなもんだが、盾を捨てる気はないのかこいつ?

 仕方がないから左腕を逆関節にねじってからぐるぐる回すと引きちぎることができた。邪魔なのでインベントリに放り込んだら本当に収納できてしまった。よっしゃ、盾ゲットだぜ。


 相手はすでに完全に戦意をなくしてしまっている。まだ両足が生きているというのに根性のない奴だ。

 

 ついでだし足もバラバラにして構造をチェックしておくか。スキュータムとそんなに変わっていないようにも見えるが、膝の稼働範囲が狭いな。無理に曲げようとすると簡単に破損してしまう。なんだよこの安物感は? カニメカと比べてもチープ過ぎるな。奴らはこんなに脆くない。

 

 簡易量産型スキュータムか……盾持ちだから数が揃えばそれなりに厄介そうではあるが、こんな機体を使いたがるプレイヤーはいないだろう。あくまでNPC用、敵キャラ専用のヤラレメカって感じだが、それだとクモ脚とキャラが被るよな。カニメカより数段弱いし。


 まあ、機体性能はアレでも、パイロットの技量次第では化けるかもしれない。


 殺気を飛ばしてきた時はそこそこ腕の立つ奴だと思ったんだが、まあ、筋はそう悪くないか。トーナメント参加者の下位レベルといい勝負ってところだな。


 こいつがタケバヤシと戦っていたら……タイマンでも十中八九はタケバヤシが勝つよなあ。


 素質は感じるんだが、AIの悲しさか戦闘経験が圧倒的に足りない。敵を前にして戸惑ったり怯えたりは論外だ。


 倒れたスキュータムIIのコクピットハッチが開き、リザードマンのパイロットが逃げ出した。生きていたか。次があるならもう少しマシに戦えるだろうな。


 リリースしたら、もっと強くなって再挑戦してくるんだろうか? それはちょっと面白そうだ。リザードマンを倒しても多少スコアポイントは入るようだが、見逃してやる。

 

 足元には他にも銃を抱えた大勢のリザードマンの兵士がうろついている。無駄だとわかっているんだろう、攻撃して来ない。ただリンクスを恐れて右往左往しているだけだ。

 あんな小さい銃の攻撃なら多分通常のバリアーだけで完全に防げるだろうな。なんだかなあ、せめてバズーカくらい持たせてやれよ。


 ただの歩兵があまり攻撃力の高い武器を持っていてもゲームバランスが崩れるか? でも、何の脅威にもならないなら、敵として存在する価値があるのか?


 スコアポイントをくれるだけのボーナス的な存在なんだろうか? それなら頭レーザーで焼き払うか? うーん、さっき逃げたパイロットが混じってしまってどれがどいつだかさっぱりわからん。

 あいつはリリースするって決めたからなあ。せめてカニメカよりは手ごたえのある敵に成長して欲しいもんだ。


 まあ、今更多少のスコアポイントなんていらんか。足元でチョロチョロしているトカゲ人間達の狼狽ぶりを見ていると、意外に表情が豊かで面白い。攻撃してこないんなら見逃してやろう。


 

 どうやらタケバヤシ達の方は無事に目的地に到着できたようだ。あっちでも戦闘が始まっている。


 三機ともマーカーが表示されている。これで俺の護衛任務はパーフェクトだな、時給にすると結構儲かった。

 

 このままログアウトしてもいいんだが、ちょっと様子を見に行ってみようか。

 

 ジャンプをして高度を上げる。おーおー、随分派手にやってるなあ。リザードマンの町のあちこちから黒煙がもうもうと上がっている。

 

 立ち並ぶ奇妙なデザインの建物が、次々にビームでなぎ払われていく。やはりジェミニの火力が圧倒的なようだ。硬そうに見える塔やら城壁やらが、一瞬でチリとなって吹き飛んでいく。

 

 こっちにもスキュータムIIが何機かいたみたいだが、タケバヤシ達が難なく倒したようだ。やっぱり普通にカニメカより弱いよな。ゲームバランス的にはカニが強すぎるのか?


 いや、フル装備のジェミニとサジタリウスの飽和攻撃が相手だとカニメカでも普通に雑魚扱いか? でもまあ、待ち伏せによる奇襲は防げないか。カニメカのハサミ攻撃は一撃くらえば致命傷だからなあ。

 つまりカニメカが強いのは地面に潜れるからか。確かにステルス性は大事なんだろうが……もっとまともに強い敵を実装してくれないものだろうか?


 

 燃え上がる街を逃げ惑うリザードマン達。そこにも容赦なくビームが降り注ぎ、一人残らず焼き払われていく。マメだねえ。

 チリも積もれば山となる作戦だな。少しでもスコアポイントを稼ぎたいんだろう。一番安い非武装のリザードマン一人殺して千ドル相当か、ゲームの報酬としては破格だがマテリアルの価値を知った今となってはなあ。

 

 横取りだとかなんとかうるさいだろうから、俺は手出ししないことにする。収入を考えればカニメカのコアをむしり取る方が遥かにオイシイしな。


 それにしても客観的に見ていると凄い絵面だよ、顔はトカゲでも一応人型だしな。最近の洋ゲーには残酷なシーンを売りにしているようなゲームもあるから、年齢制限ありならこれくらいは許されるのか?


 坊主なんて仮にも坊主なんだし、いくらゲームとはいえ殺生に対する忌避感はないのか? 頭レーザーで一人ずつ追い詰めて焼き払っている。鬼だな。

 

 高性能に進化したAIって、殺される時は苦しむんだろうか? リアル過ぎる断末魔の演出にそんなことまで考えてしまう。感情を完璧にシミュレートしているなら、それはもう人間と変わらないんじゃなかろうか?


 まあ、俺だってクモ脚達を乱獲したりしてるし、他人のことをどうこう言える義理じゃないか。

 

 ぷるりんちゃんは大勢いる場所に大口径ビームを撃ちこんで、一発当たりの大量殺戮を狙っている。タケバヤシは威嚇射撃で追い込みながら、計画的に殺している。坊主は行き当たりばったりというか、目についた相手を手当たり次第だな。こうして見ていると三人三様で性格が出るよな。


 プレイヤーは金で雇われた傭兵って設定だし、金のために行動するのは間違っちゃいないんだが、なんかこれじゃあ俺達が悪党みたいだ。


 傭兵だから正義も悪も関係ないんだけど、やっぱりゲームとして売り出すならプレイヤーは正義の味方で倒せ悪い奴って設定が必要な気がするなあ。

 ストーリーとかリアルにすればするほど、絶対的な正義というものは成立し得なくなるんだけれども。


 それとも何か? プレイヤー達が欲に駆られて行動しているところを、ビリー氏が神の視点から観察している? あるいは俺達の行動が試されている?


 俺達は知らないうちにピエロをやらされているのかもしれないな。金はちゃんと貰えてるからそれでもいいんだけれども。でもまあ、俺は自分がやりたいようにやらせてもらうけどな。

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